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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#7

 ……倒れていたのは第一印象通り、女性だった。年齢は20代半ばといったところだろうか?セミロングの髪はくすんだアッシュグレイで軽くウェーブが掛かっている。顔立ちは白人系のそれだ。……少しやつれた様子だけど、身なりを整えればそれなりに綺麗な部類に入る顔立ちだ。

 ただ、額に大きな傷があり、頭部と髪、それに床が血にまみれている。どうやら何者かに殴打されたのだろう。そこまで見て取った僕は、女性の手にそっと触れると呪文を詠唱する。


《汝が紡ぐ言葉を我が言葉に、我が言葉は汝らの言葉に。「言語習得(ローカライズ)」》


 もはやおなじみとなった軽い頭痛が、僕がこの世界の言語を覚えたことを教えてくれる。さて、これで僕の用は済んだけど……この状況を放置しておく訳にもいかないか。僕は内心で志織に感謝しながら、彼女が持たせてくれたポーションをストレージから取り出した。

 異世界に到着して早々にアイテムを消費するのは得策ではないけど、この女性からは言葉を学ばせて貰った。お礼として傷の治療をしてもバチはあたらないだろう。そう考えた僕は女性の上半身を抱き抱え、薄く開いた口にポーションをゆっくりと流し込む。

 先ほどうめき声を上げていたところから考えれば、完全に意識を失っているというよりも半覚醒状態に近いのだろう。口内に流し込まれたポーションを反射的に飲んでいることが見て取れた。


 志織のポーションは僕も一度飲ませて貰ったことがあるけど、エリクサーのような劇的な回復をもたらすものではない。けどそれでも時間をおけば傷の治癒は進むし、なにより失われた体力が回復する。そう間を置かずにこの女性も意識を取り戻すだろう。

 彼女が意識を取り戻したら状況を確認してみよう。僕の目的はあくまでも須藤の転生体を探すことだけど、何をするにしても足場を固めておく必要がある。もしこの街が差し迫った危険やトラブルに巻き込まれているなら一旦ここを離れるという選択肢も視野に入れる必要があるだろうから。


「……うう……」


 そんな事を考えている間に女性が再びうめき声を上げた。どうやらポーションによって傷は塞がったようだ。さすが志織特製のポーションだ。そう考えた瞬間、僕の脳内に志織が胸を張っている姿が浮かぶ。

 ……そうだ、志織と言えば彼女から貰った探知の水晶(ディテクトクリスタル)をまだ試してなかったっけ。さすがにいきなり反応があるとは思えないけど……。そう思いながらも僕はストレージから水晶を採りだした。


「……あれ?」


 掌中にある水晶柱を見た僕は、思わずそんな間の抜けた声を漏らしてしまう。なぜなら……探知の水晶(ディテクトクリスタル)が、仄かに輝いていたからだ。


 確かこれは僕達の世界から異世界へのリソース流出を探知すると光る、と志織は言っていたはず。と言うことは今まさにリソースがここへ流入している?そう考えた僕の視線は自然と目の前で横たわっている女性へと向かう。

 見たところこの女性は20代半ばで、麗奈が言っていた須藤の転生体の想定年齢に近いと言えなくもない。須藤は男だけど、転生したあとの性別が男女どちらになるかは不定だと言っていたし……もしかしてこの女性が転生した須藤で、今まさに何かチート能力を使っている?


 異世界に到着して最初に遭遇した人物が目当てのターゲット?そんな都合の良いことが有り得るんだろうか?

 僕が思案している間に、水晶の輝きは薄れ……そして消えた。つまり僕が見ている間にチート能力の効果がなくなったということだろう。けど、倒れた女性に目に見える変化は無い。


 ……さて、どうしたものだろうか。もしこの人物が須藤だとしたら。そして合理性を最優先にするなら、この場で殺害するのがベストだということは僕にも判る。なにせ99%の確率で僕は須藤を殺さないといけないのだから。

 けど、もしこの女性が帰還を選ぶ1%に該当すれば……?そう考えると、意識を失ったままの人物を殺すことは躊躇われた。


 そして僕が悩んでいる間にも、時間がその問題を解決した。そう、女性が目を覚ましたんだ。


「……ここは……。アンタは……?」

『君は須藤礼治、かい?』


 上体を起こした彼女はまだ意識がはっきりしていないのか、すこし焦点の合っていない目でこちらを見てそう呟いた。僕はそんな彼女に日本語で語りかける。

 斎藤君の時も、志織の時も、これで相手が日本人だと識別できたけど……今回は微妙だ。なにせ相手は「日本人、須藤礼治」だった記憶をどこまで保持しているかが判らないのだから。

 けど、僕の言葉に女性は目を大きく見開くと、慌てて僕から距離を置こうとする。


「アンタ、ハインリヒの仲間かい!?」

「ハインリヒ……?」

「だってアンタ、いまレイジって!ドラゴンレイジの一味なんだろ!?」


 ハインリヒと言う名は全く聞き覚えが無いけど、彼女が口にした「ドラゴンレイジ」と言う言葉は妙に耳馴染みがある。それもそうか。須藤礼治(レイジ)が生前所属していた組織の名前が新宿怒羅魂(ドラゴン)だ。つまり彼女が口にした名は二重の意味で須藤に関係するということになる。


 けど同時に不可解なこともある。探知の水晶(ディテクトクリスタル)の反応はこの女性が須藤である可能性を示していたけど、先ほどの口ぶりだとこの女性は「ドラゴンレイジ」なる存在とは無関係……むしろハインリヒという人物とドラゴンレイジに嫌悪や恐怖を抱いているようにも思える。

 須藤の転生体が自身に関連のある存在を忌避するというのは、どういう状況なんだろう……?


「落ち着いてくれないか。僕は……そう、異国から来た人間でこの国のことは良く知らないんだ。そのドラゴンなんとかって言うのも初耳だ」

「……じゃあなんでレイジって言ったんだよ」

「君が故郷の知人に似ていてね……ついその名を呼んでしまったんだ」


 場を取り繕うためにそう口にはしたけど、これは少々微妙な気がする。レイジという名前の響きがこの国で女性に適用できるかどうかは未知数だし、少なくとも彼女はレイジという言葉に過剰反応をしている訳だから。

 案の定、彼女は僕を厳しい目で見ていたけど……やがて白い息を吐くと言った。


「一つ聞かせおくれ。怪我が治ってるみたいだけど、これはアンタが?」

「ああ。寒さから逃れるためにここへ入ったら、君が倒れていたからね。放っておけなくて、治療をさせて貰った」

「……なら、アンタはハインリヒの仲間じゃない、か」


 どうやら僕の言葉そのものというよりも、傷の治療をしたことで彼女から最低限の信頼を勝ち取れたようだ。これは帰ったら志織に感謝しないと。そんな事を思いながら、僕は会話を続ける。


「僕の名前はユートだ。どうして君はこんなところで倒れていたんだい?」

「アタシはフリーダだよ。けどユート、この状況を見て何もわかってないってことは……やっぱりアンタ、異国の人なんだね」

「まぁ、状況的に不自然なのは判るよ。倉庫の中に檻がある訳だし」

「そうか、やっぱりドラゴンレイジの事を知らないんだね、アンタは」


 この檻とドラゴンレイジが関係している?半グレ組織と似た名称から、何かの後ろ暗い組織のように思えるけど……竜の名を冠するところを見れば、魔物を扱うブローカーか何かなのだろうか?

 少なくともフリーダかドラゴンと口にするところを見れば、この世界にはドラゴンが実在するか、もしくはその存在は知られているのだとは思うけど。


「もしかして、この檻の中にドラゴンを飼ってたりするのかい?」

「はぁ?アンタなに言って……。いや、異国の人なら知らなくても仕方ないか。これはね、ドラゴンレイジの連中が人狩りして捕まえた人間を入れておく檻なのさ」

「人狩り……もしかして、奴隷売買か何か?」

「アンタの国でも奴隷がいるのかい?どこかは知らないけど、ロクでもない国から来たんだね。でも残念だけど……このゾル=カタン帝国もアンタの故郷と同じか、それ以上にクソったれな国さ」


 ゾル=カタン帝国、それがこの国の名前か。しかし奴隷売買をしている国よりもさらにくそったれな国ときたか……。どうやらこの世界も一筋縄ではいかなそうだと、僕は嘆息した。

 けど次にフリーダが発した言葉によって、僕の緩み掛けた警戒感が一瞬のうちに危険水域へと引き戻された。


「なぁユート。もしかしてアンタが噂の『勇者』なのかい?」

「……どうしてそう思うんだい?」

「この国へわざわざ自分で乗り込んでくる物好きなんているもんか。もしそんな奴がいるとしたら……隣国が召喚したって噂の『勇者』ぐらいのもんだ」


 フリーダの言葉はまさかのもので、異世界から召喚された「勇者」の存在を示すものだった。まさかその単語がここで出てくるとは……!

 僕は一瞬、須藤が勇者としてこの世界へ招かれたのかと考えた。だがそれは状況に合致しない。なぜなら須藤は「召喚」されたのではなく「転生」したことが確認されているし、僕が須藤を追ってたどり着いたのはこのゾル=カタンなる帝国だ。勇者が招かれたのは隣国だという言葉との間に矛盾が生じる。

 なら、その勇者は僕の狩りとは無関係な、他の世界から招かれた女神の犠牲者(勇者)なのだろうか?


「残念だけど、僕はその勇者じゃないよ」

「なんだい、てっきり勇者が魔王を……皇帝の首を取りに来てくれたのかと期待したのにさ」

「……もしかして、ここの皇帝は魔王なの?」

「少なくとも隣国の連中はそう言ってるよ。皇帝は隣国こそが魔族だって言ってるけどね」

「それって、隣国と戦争してるってことなのかい?」

「ああ、そうさ。我らが偉大なるゾル=カタン帝国は邪悪なるベイステア王国と20年戦争の真っ最中……って訳さ。そのせいでドラゴンレイジが暴れてるってのに、帝国の銃士達は民の被害なんて見向きもしやしない」


 そう吐き捨てたフリーダの表情を見るに、どうやらこの帝国は長期間にわたって隣国と戦争を続けているだけなく、ドラゴンレイジなる人身売買組織が公然と活動しているという、かなり終末的な状況のようだ。

 ……とは言えフリーダには悪いけど、帝国の状況は僕には無関係だ。僕は彼女が言うような勇者じゃないし、僕がすべきことは須藤の転生体と接触し、狩ることだけなのだから。


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