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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#5

「榊サン!その須藤って人、異世界でも半グレしてるんですか?」

「それはさすがに判らないわ」

「ええー、でもこの手の人間って1回死んだぐらいじゃ悔い改めなさそうですけど」


 唐突な志織の言葉にさすがの榊会長も苦笑を隠せないけど、それはそうだろう。実際、かつて僕が見た「死者復活(レイズデッド)」の術で蘇った人間は生前と同じ人格だったし、死によって人格や魂が変質するとは思えない。

 けど、榊会長は頭を振って答えた。


「過去の事例を見る限りでは、なんとも言えないわ。転生者は転生前の記憶や人格を維持していることもあるし、全くの別人……そう、性別すら異なる存在に生まれ変わっていたケースもあるから」

「確かに、フィクションだと過労死した中年サラリーマンが貴族令嬢に生まれ変わる、なんていう話を見たことがありますけど……まさか?」

「ええ、3件ほど総合学部(うち)の記録にもあるわよ、その手の事例報告」

「うわぁ、異世界転生悪役おじさん令嬢って実在するんですか!?」

「いや、それを言うなら悪役令嬢おじさんだろう……」


 相変わらず志織は頓狂なことを言うけど、もしそういう事例が実際に残っているなら、転生の際に魂が「漂白」されるということでもある。

 この世界から存在を引き剥がすだけでなく、存在の意味を消すことまでするとは……転移の女神はいったいどこまで人類を弄べば気が済むんだ。


「そう言った事情だから、今回は……99%の確率で須藤の転生体を処分する展開になると思うわ。辛い役どころだけど、お願いできるかしら」


 榊会長の言葉が意味しているのは、おそらく転生によって魂が漂白され全くの別人になった場合……現実世界へ「帰還」する理由が一切存在しなくなるということ。

 そして須藤としての記憶がある場合、生前に犯罪を重ねた人物がチート能力を得たとなれば、現実世界でそれを抑止できる可能性は皆無であることを意味していた。

 つまり須藤が記憶を持とうが持たなかろうが、僕は転生したこの人物を殺すことになるのだろう。

 けど、1%の確率というのはなんだろう……?


「会長、その1%の確率というのは?」

「記憶がどの程度残留するかには濃淡があると報告されているの。もし須藤の魂から犯罪傾向が抜け落ちる程度に漂白され、かつ現実世界に対する未練や憧憬が残るような事があれば……」

「その場合は説得に応じる可能性がある、ということですね」

「ええ。ですがそのような都合の良いことを期待してあたるのはあまり得策ではないわ」


 確かに、それは1%……いや、須藤という人物の来歴を考えれば1%にも満たない奇跡的な状況だろう。

 けど、それでも問答無用で彼を殺すわけにはいかないと、僕は思った。



「問題は現地でどうやって転生者を見つけるか。顔も名前も、性別も違うかもしれない」

「そうか、異世界召喚された場合は外見も本人そのままだけど、転生者は外見どころか性別も変わってる可能性があるのか……」


 麗奈の指摘に、僕はこの「狩り」の難易度が想像以上に高いことを改めて理解した。

 現在ディスプレイに表示されている情報は全て生前の「須藤礼治」のものだ。転生先でこの外見、この名前である確率はほぼ皆無だろう。

 となれば……どうやって彼を探せば良いのだろう。考えられる手がかりは転生者に与えられるチートスキルだけど、その種類が判らない以上特定は難しい。


「時流係数は1.4。転生直後に産まれたなら、おそらく28歳になってる」

「なるほど、手がかりが皆無な訳ではない、か。不思議な力を使う28歳の人間を片っ端から当たっていくしかないか」

「そんな事もあろうかと……ですよ、ユートさん!」

「……志織?」

「ほら、さっき渡したじゃないですか、私達の愛の結晶」


 胸を張ってそういう志織の言葉に一瞬なんの事か考えた僕は、先ほど彼女から受け取った「探知の水晶(ディテクトクリスタル)」の事を思い出す。


「愛の結晶は受け取ってないけど、探知用の水晶は受け取ったね。……そうか、これを使えばリソースの流入位置かある程度判るわけか」

「どうです?私、役に立ったでしょ?そろそろ私を第一夫人にしたくなったりしませんか?」

「シオリ、それは約束が違う。私が第一夫人なのは譲らない」

「もう、冗談ですってば!」


 唇を尖らせた麗奈が文句を言い、志織は笑ってそれをいなしている。身長差があるから、どちらが年上かわからないけど……まぁ、2人が仲良くしているのは良いことだ。

 しかしタイミング良くこの錬金アイテムを作ったということは、もしかすると志織は今回の案件の事を知っていたのだろうか。


「ええ、榊サンから少し話を聞いてましたから。別の狩人さんが向かう予定だったそうですけど、念のためトートに手伝ってもらって急造で作った甲斐がありました」

「シオリがそれを作ったから、悠斗がこの案件に関わることになった」

「……そういう見方もありますね。……ごめんなさい、ユートさん」

「いや、いいよ別に。いつかは必要になるだろうからね」

「ええ。『彼女』に任せることも出来ますが、そうすると……おそらく無関係の人々も殺害されるだろうから」


 どこか沈鬱な表情で榊会長がそう呟いた。おそらく「彼女」とは噂に聞く快楽殺人者の狩人の事だろう。

 異世界で無関係な人間を多数殺すという話は聞いたけど……そうか、転生者の特定が出来ない場合に、疑わしい相手を全て殺しているということか。


 現実世界でそんな事をすればとんでもない大量殺人だけど、この世界の法律が及ばない異世界、そして「勇者狩り」の任務を全うすることを最優先に考えるのならば……倫理的なものは別として、有効な手段であることは否定できない。

 ……自分がそんな方法を採用する羽目には陥りたくはないけど。



 その後、麗奈にマナを補給して貰って出立の準備を……と思ったのだけど、麗奈に「マナ補充(キス)」を拒絶されてしまった。

 ブリーフィング中に志織とばかり話していたから拗ねてしまったのだろうか?

 ……昨日はあんなに愛し合ったのに。そんな事を内心ふと思う。


「悠斗、出立は明日の午後以降」

「そういえばそんな話をしてたっけ。何か理由があるのかい?」

「ある。けどまだ話せない」

「……わかったよ麗奈がそう言うなら信じる」

「うん」

「ユートさん!私も理由があって話せないんですけど!」

「志織の言葉は疑わしいかな」

「なんですか、その扱い!第二夫人だからって差別的じゃないですか!?」

「シオリに勝った。やっぱり私が第一夫人」

「……いや、まだどっちも夫人じゃないよね?」


 絡んでくる志織を適当にいなし、僕は明日の出立に想いを馳せる。理由はわからないけど、麗奈がああ言うならなにかあるのだろうと思いながら。


 説明を終えた榊会長は別件があるからと作戦室を出て行った。本当に忙しい人だ……。彼女は僕達帰還者のような異世界転移の経験を持たない。それはつまりリソースを流出させた罪を負ってはいないという事でもある。

 それなのに、どうしてここまで献身的に総合学部の活動を行えるのだろう。ふと、そんな事が気になった。


 けど……私生活のことは滅多に口にしない榊会長から世界への献身を続ける理由を聞き出すことは、たぶん無理なのだろう。何故かそう思えた。



 その日は麗奈も志織も総合学部に泊まり込みで作業をするというので、僕は独り自宅に帰ろうとした。本部棟をはなれキャンパス内を歩きながら、時間を見ようとふとスマホを取り出すと……DMが届いている。送信者は、太郎?

 インターンに誘えとか、飯を奢れとか、そういう話かと思いながら画面をタップする。


『おいユート、教授が小テスト配ってるぞ』

『早く来い、ユート!』

『……もう回収されちまった』


 時間を確認すると既に4限目の講義が終わる直前だった。……これはやらかしてしまったかもしれない。昨日も麗奈との情事に溺れて講義をさぼってしまったし、今日は今日で案件の話を聞いていたせいで小テストに参加できなかったようだ。

 明日は土曜日で講義がない。出立が明日なら、明日話を聞けば良かったと思ったけど、全ては後の祭りだった……。


 自己嫌悪に陥りながら、独り帰った自宅ですることもなかった僕はテレビの電源を入れた。放送されているのは夕方のニュース番組で、闇バイト組織の幹部が一斉摘発された件の続報が流れていた。

 起訴されることになった数名の名前と顔写真が報じられているけど、おそらくあの中の誰かが須藤礼治の過去の仲間なのだろうか。すでに50歳近い犯罪者達の顔写真を見るとはなしに見やりながら、もし須藤が生きていればこのニュースに名を連ねていたのだろうかと考える。


 結局、志織が言っていたように、人というのはいくつになっても本質は大きく変わらないのだろう。なら……異世界転生した須藤も、もしかすると転生先で犯罪組織を立ち上げているのかもしれない。


「……いや、まさかね」


 そうやって否定すること自体がフラグだという事に気付かず、僕は思わずそう独りごちた。


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