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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case3:ゾル=カタン-撃っていいのは撃たれる覚悟のある勇者だけだ
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#2

 異世界に召喚された志織の扱いは公的には行方不明として処理されたままになっている事もあって、表だって活動することはできない。そういう意味では、志織が総合学部の外で生活拠点を構えるなら誰かとの同居は必須なんだけど。


 と、話がそれた。問題は志織の悪魔召喚についてだ。このチートアイテムは悪魔を召喚する際の代償として召喚者の魂ではなく、僕達の世界の活力であるリソースを対価に捧げるよう作られている。

 この特性が原因となり、異世界でロザリオを使うと悪魔の顕現と共に僕達の世界から異世界へとリソースが流出してしまう。それゆえに世界の破滅を防ごうとしている僕達総合学部にとってこのロザリオは禁忌の品にあたる訳なんだけど。


 けど、現実世界でロザリオ(これ)を使用し、悪魔を召喚すればどうなるか?純粋に悪魔の召喚に必要なリソースだけが消費され、放出されたリソースはこの世界の中だけで循環する。つまり、異世界で使用するよりも格段に燃費が良いアイテムになるのではないかと僕は考えたんだ。


 そしてそのリソース消費についての検証を総合学部の技術スタッフに頼んでいた結果、どうやらトートの召喚を許可するという結果……つまりこの世界に志織が留まっている限りはロザリオの使用は世界の破滅に繋がらないという判断が下された、ということらしい。

 もちろん悪魔はリソースを消費する。けど僕達が使っているスマホやPC、家電製品だって電力という形でリソースを消費している訳だから、トートの知識という得がたいものを得る対価として考えればリソースの消費は十分コストとベネフィットの釣り合いが取れるという判断になったのだろう。


 ……けど、そのトートの知識が制服エプロン作戦(くだらないこと)に使われていると知ったら、榊会長がどんな顔をすることやら……。


「あ、もちろん制服エプロン以外にもちゃんとした相談もしましたよ?」

「まさか裸エプロンとか言わないよね?」

「……まぁ、ユートさんがお望みなら。恥ずかしいですけど、やぶさかではありませんが……」

「悠斗。裸エプロンが必要なら私がする」

「いや、求めてないからね?それで、何を相談したのか聞いてもいいかい?」

「えっと、ユートさんの狩りを支援するためのアイテム開発についてです!」


 志織は異世界滞在中に独学で錬金術師としてのスキルを身につけている。技術的にはそう高レベルではないけど、彼女には「悪魔のレシピ」をトートから得るというチートが可能だだ。「勇者狩り」に役立つ錬金アイテムやポーションを作ってくれるのであれば助かるけど……。

 問題は現代日本に錬金アイテムの素材となるようなものが存在しているか、だろう。まぁ知識を司るトートなら、それでもなんとかしてしまいそうな気はするけど。


「そっか。どんなものが出来るか期待してるよ」

「はい、ご期待下さい!ついでに、今晩のご飯も期待してくれていいですよ?」

「ああ、それは嬉しいな。志織の作ってくれる食事は美味しいからね」

「悠斗、酷い。私の作ったご飯は美味しいって言わないのに」

「……麗奈、同居するなら志織に料理を習ってくれると嬉しい、かな」

「わかった。善処する」


 麗奈は元々異世界の王族で第三王女だったから、元の世界では料理なんて一度もしたことがなかったし、こちらの世界に渡ってきてからは料理を楽しむという感情そのものを封印してきたこともあって食事イコール命を繋ぐ燃料補給になっていたと聞く。

 それ故に元の世界にいた頃には想像も出来できないような悪食になっていた麗奈の作る料理は……いくら僕が彼女の事を愛しているとは言っても、素直に褒められないものばかりだった。

 その点志織は料理上手だから、麗奈が志織に料理を教わってくれれば僕的には万々歳なんだけど……。そんな事を考えながら、予期しなかった3人での同居生活がなし崩し的に始まった。



「じゃあ、いってきまーす!」

「ああ、気を付けて」

「なんですか、その淡泊な見送りは!もっとこう、情熱的なお見送りはないんですか?あと、私の眼鏡姿に対するコメントは?」

「はいはい。眼鏡も似合ってるよ、志織」

「うわー、超適当な扱いされました!レーナさん、酷くないですか?」

「いいからシオリは早く学校行くべき」

「うう……わかりましたよ。じゃあお邪魔虫は出て行きますから、2人でお楽しみになってくださいね!」


 朝から騒々しい志織はそう言うと独り学校へと出かけていった。

 もちろん授業を受ける訳ではなく、総合学部へ出向いて錬金術の研究を行うんだけど……。総合学部へ行くなら別に制服を着ていく必要はないように思うのは僕だけだろうか。


 ちなみに志織が言っていた眼鏡というのは、彼女の仄かに光を放つ義眼が人目を惹かないよう、レンズに薄いスモークと偏光加工を施した伊達メガネだ。

 現実世界で活動する総合学部のエージェントは案件の調査活動時にはもっと本格的な認識阻害の魔法を付与されたサングラスを使ってるそうだけど、志織はそこまでのものは要らないといってこの眼鏡を選んだと聞いている。

 黒いセルフレームで無骨な印象の眼鏡は知的な印象がある美人の志織にはミスマッチだけど、逆にそれがよく似合っているようにも思える。……まぁ、そんな事を口にすると志織は調子に乗るし、麗奈は拗ねるだろうから言わないけどね。


「……悠斗」


 僕がそんな事を考えている間に志織は外出し、それを見届けた麗奈は扉に鍵を掛けると丁寧にチェーンロックまで施した。そして、服の裾を引きながら潤んだ目で僕の名を呼ぶ。

 ……言われなくてもわかってるよ、麗奈。



 今日の講義は昼からということもあり、志織を送り出した僕達は……灯りを消した納戸の中で肌を重ね合った。

 僕のベッドは結局納戸に置くことになったけど、これが実は正解だった。納戸には窓が無く、昼間でも中は暗い。麗奈は肌を、いや背中を晒す事を嫌うため、明るいところではそういうこと(・・・・・・)をするのを嫌がるからだ。


 もちろんそれには理由がある。彼女の背中には人目を引くような魔方陣の入れ墨が施されていて、それは他人の目に触れさせる訳にはいかないものだから。

 魔方陣は麗奈の肉体的な変化を押しとどめるために麗奈自身が施したもので、この呪術を維持するために彼女は魔法を行使する能力を失った。そしてこの魔方陣を消すと、麗奈の体にはこれまで押しとどめていた刻の流れが一瞬で押し寄せ……忽ち崩壊してしまう。

 つまり背中の魔方陣は麗奈をこの世につなぎ止めるための楔でもあり、消すことができない呪いの烙印でもある訳だ。


「悠斗。背中ばかり触るのは駄目」

「いいじゃないか。僕のために君が背負ってくれた烙印なんだ。愛おしく思って当然だろ?」

「……馬鹿」


 麗奈がかつてのレーナとは違い、感情が薄くなっているのもこの魔方陣の影響だと聞いた。人間種族は数百年単位で生きることを想定した脳の造りになっていないから、過去の「記憶」を維持するためには新しく入ってくる記憶の情報量を抑える必要があるのだそうだ。

 出来事そのものを記憶することは避けられないにしても、そのときに浮かんだ感情が入力されなければ……つまり感情を切り離すことが出来れば、限られた脳の容量で長い歳月を生きることが出来る。そういう説明を受けた。


 世界の壁を越え、感情を失ってまでも僕に会いに来てくれた麗奈(レーナ)の事が愛おしくてたまらない。だからこそ……僕は志織の気持ちを受け入れることは出来ない。そう告げた僕に、麗奈は頭を振って言った。


「私、たぶん子供は産めないから。でも悠斗の子供は抱きたい」

「……それ、志織に代わりに産んで貰うってこと?」

「王家では良くあること。私の母様がそうだった」


 そう言えばレーナの父であるグレイランスの国王は正室との間に子供ができず、3人いる側室に何人もの子供を産ませていた。レーナは第二夫人の2番目だか3番目だかの子供だと言っていたし、そういう出自であるが故に「自分以外が産んだ子供」に対する感覚は僕のそれとは異なるのだろう。


「……でも、志織が納得するかい?」

「すでにシオリとは話した。シオリも、私も納得してる」

「ずいぶんと手回しが良いな……。さては志織がここへ押しかけてきたのも、麗奈の手回し?」

「……うん」


 まぁ、いくら志織が積極的だとは言っても、麗奈の許可なしに押しかけ女房してくるのはおかしいとは思っていた。おそらく僕の知らないところで、2人は何か取り決めでもしていたのだろう。

 こういうとき、男が口出しをすると碌な事にならないというのは「姉御」に何度も忠告されている。だから僕は黙って麗奈を抱き寄せた。


「悠斗。……もう一回、しよ?」

「ああ、そうだね。僕もそんな気分だ」


 一度付けた灯りを再度消し、僕達は再び互いの存在を感じ合う――。


 ……結局、その日は午後の講義を休むことになった。


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