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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
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#26

「悠斗!よかった、中々帰ってこないから……心配……した……よ?」


 御門をくぐり、総合学部の地下へ帰還した僕を麗奈が迎えてくれた。僕の主観時間だと麗奈に会うのは一月ぶりで、ピンクゴールドの髪と蒼い瞳に懐かしさと安堵、そして一抹の罪悪感を感じる。

 そう、罪悪感だ。なにせ恋人に出迎えられているというのに、僕の左手には志織が抱きついているのだから。


「ユートさん、ここ……どこですか?どうなってます?」

「……そう言えば眼鏡、持ち越せなかったんだね」

「うう、割と馴染んできてたんですけど……。ユートさん、責任取ってこっちでも私の目になって下さいね?」


 それは予想通りの結果だった。異世界転移で持ち運べるものは長年愛用して自らの体の一部だと思えるようになった装備だけ。

 志織が使っていた「目が良く見える眼鏡」は確かに志織にとって必要不可欠なものではあったけど、それでも彼女があれを使っていたのはほんの数日に過ぎない。さすがに世界を越えるほどの「使い込み」ではなかったのだろう。

 僕がそんなことを考えているのは、ジト目を通り越して殺意の混じった目で僕と、僕に抱きついた志織を睨んでいる麗奈の視線から逃れるための現実逃避だ。


「……悠斗?」

「えっと……麗奈、こちらは高坂志織さん。志織、今僕達の目の前にいるのが弓月麗奈……僕の恋人」

「ユートさん、酷いです!一生私の面倒を見てくれると言った舌の根も乾かないうちに浮気だなんて!」

「悠斗は私の恋人。浮気相手は貴女」

「うわぁ、独占宣言ですよ!?この泥棒猫的な感じですよね!?」

「……えっと、2人とも少し落ち着いて欲しいんだけど」


 傍目から見れば2人の美少女が僕を取り合っているリア充シチュエーションに見えるかもしれないけど、麗奈からかなり物騒なオーラが放たれているような気がして僕はとてもモテ期を喜ぶ気分にはなれなかった。

 僕が2人の間の険悪な空気をどう解消しようかと悩んでいると、「御門の間」の扉が開いて榊会長が入ってきた。


「御門が稼働したみたいだけど……。あら如月君?随分と時間が掛かったみたいだけど、無事で良かったわ」

「榊会長、良い所に……助けてください」

「……高坂志織さん、で間違いないかしら」

「はい。あの……どなたですか?すみません、私目が見えないもので」

「志織、今来たのは僕達狩人の作戦指揮を執っている榊夢那さん」

「……ずいぶんと親しい様子なのね?弓月さん、ずっとここで如月君の帰りを待ってたのだけど」

「えっと、これには色々と訳がありまして……。志織、とりあえず離れてくれないかな?」

「目の見えない女の子を初めての場所に連れてきて、離れろとか酷くないですか?」


 ……まぁ、志織の言う事ももっともだ。なら、予定よりは少し早いけど……もうここで例の魔導具を使ってしまうのが良いだろう。


「じゃあ志織、こっちを向いて力を抜いてくれる?少し目に違和感があるかもしれないけど……きっと大丈夫だから」

「……はい。ユートさんにお任せします」

「如月君?」

「すみません、会長。それに麗奈も。話をしやすくするために少し志織に処置を行います」

「……処置?」


 もちろん僕には医学の心得なんて無い。けど、それでも僕だからこそ出来ることもある。

 僕はまず志織の左目に装着された義眼に触れ、ストレージを使って眼窩から義眼を摘出した。摘出といってもストレージに収納するだけだけどね。

 そして次にストレージから王立工房謹製の魔導具を取り出すと同時に、先ほどと逆の要領で志織の眼窩の中に魔導具を出現させる。


 ガラス製で生気の無い義眼だった志織の瞳が、少し赤みを帯びた魔導具に置換されたことを確認し、同様のプロセスで右目の義眼も日本製のものからアケトアテン製の魔導具へと交換する。


「ユートさん……?これ、なんですか?」

「もう少しだけ待って。……確か起動キーワードは……『アーヤ(奇跡)』」


 僕の発した言葉に反応し、志織の瞳にエーテルの朱い輝きが宿る。と、同時に志織は2、3度瞬きをしてから……少し呆けたような表情で辺りを見回すと、言った。


「あれ?……私、また見えるようになってる……?」

「如月君?それは……」

「はい。異世界で作って貰った義眼です。あちらの世界の動力源であるエーテルを使うもので、100年は余裕で稼働するそうです」

「エーテル……魔力のようなものかしら?」

「おそらくは。そして僕の推測ですけど……エーテルは奪われたリソースが変換されたものだと思います」

「なるほど、じゃあ少しは取り返してきてくれたということね?」


 僕が榊会長に志織の新しい義眼……「目が良く見える義眼」とでも言うべきものを説明している間にも志織はあちこちを見てへーとかほーとかおかしな声を上げている。


「志織、違和感は無い?」

「はい、全然ありません。あの眼鏡よりもずっと自然でクリアに見えます!」

「悠斗?」

「彼女は異世界でチート能力に頼って視力を維持していたんだ。けど僕がそれを奪ったから……補償の代わりに、異世界の魔導具で視力を『返却』したんだ」

「そう。……シオリが帰ってきたのは歓迎する。けど悠斗の恋人は私だから」

「あはは……。よろしくお願いします、レーナ・ユーリウスさん」


 麗奈の言葉に対して志織が答えた際に呼んだ名は麗奈の「真名(マナ)」だ。こちらの世界に来てから麗奈は自らの名前を弓月麗奈と偽っているけど、何故か志織はそれを見抜いた……?


「!?どうして、その名前を?悠斗に聞いたの?」

「いや、僕は話してないけど……」

「えっと、この人誰だろう……って思ったら視界に情報が映し出されてるんですけど。魔眼と似たような感じです」

「それ、もしかして『鑑識眼(アイデンティファイ)』?」

「……そう言えばミスリルは魔導回路を高密度で書き込めるって言ってたから……おまけでそんな機能を付けてくれたのかな」


 もしそうだとしたら、マフームドさんに感謝だ。だけど僕達は彼……そしてアケトアテン国に対して少し後味の悪事をしてきている。おそらくだけど、彼等の文明を支えていた「賢者の石」は今頃破壊されているに違いないからだ。

 なにせ志織が転移する際、彼女のアイテムボックスに入っていた2ダース近いフラグ(グレネード)が異世界に取り残された結果……おそらく賢者の石の直下で炸裂しているだろうから。

 僕的には自動召喚装置である賢者の石を破壊することは望ましいことではあるけど、この事は志織には伏せておいた方が良さそうだ。


「……これ、チートじゃないですよね?私、また命を狙われたりしないですよね?」

「会長、先ほどお話ししたように異世界由来の動力源で稼働するアイテムですので……」

「ええ、問題無いと思うわ。では改めて高坂さん。お帰りなさい。そして総合学部にようこそ」

「はい、ありがとうございます。榊真奈(まな)さん」

「まな……?私の名前は夢那(ゆな)だけど」

「……あれ?でも……いえ、ごめんなさい、榊夢那さん。私は高坂志織、如月悠斗さんのお嫁さんです!」

「悠斗!」

「ちょ、まて麗奈!僕は浮気はしてないぞ!」

「ユートさん、酷いです!目の見えない私を人気の無い野外へ連れ出して、服を脱がせて裸を見たあげくに胸まで触って、私の初めてを奪ったのに……!」

「いや、言い方!事実だけど、言い方ってものが……だいたい、初めてってキスの事だよね!?」

「ゆ・う・と!?シオリとキスしたの!?」


 榊会長を「鑑定(アイデンティファイ)」した志織が口にした名前には少し引っかかるものがあったけど、志織が頓狂なことを言い出したせいでそれどころでは無くなってしまった。

 視力を取り戻した志織は明るく笑っている。その笑顔は今度こそ不自然なところのない、年相応のもので……僕は初めて彼女の笑顔がとても綺麗だと思えた。


「悠斗!浮気は駄目って言ってるのに!」

「だからしてないって!」

「……如月君?痴話喧嘩も良いけど、そろそろ報告をお願いできるかしら?」

「あ、はい。如月悠斗、『勇者狩り』の任務を無事に完遂しました!」


 そう、勇者狩りの任務とは異世界へ転移した者を殺すことだけじゃない。

 最善な結果は異世界転移者を連れ帰り、女神への反逆を行う「共犯者」とすることだ。


 志織には過酷な道を歩ませることになるけど……。それでも、僕は彼女が現実世界に帰ってきてくれたことを、心の底から歓迎した――。

これにて第2章アケトアテン編終了です。

次回からは極寒の軍事帝国ゾル=カタンでの勇者狩りが始まります。

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