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【第一部完】勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
111/207

#18

「……それで?なんで君が僕のテントで寝てるんだい?」

「なんだ、驚かないのか?」

「接近してくる物音は聞こえたからね。まさかテントに潜り込んで寝てるとは想わなかったけど。で、何か用があるのかい、ロロ?」


 そう、僕のテントに潜り込んでいたのはランドーリアで別れたはずのロロだった。今の彼女はメイド姿ではなく、昨夜と同じ隠密(クノイチ)姿だ。と言ってもフードの下から覗く髪にはリボンが付いているし、寝転がった足下にはメイド服のスカートが覗いている。つまり、隠密装束の下にメイド服を着込んだままなのだろう。


「離れて監視すると聞いた気がするんだけど」

「むろん、道中は離れて監視していたさ。けど夜間は不測の事態に備えて勇者の近くにいる方がいい。幸い、お前のテントは勇者の隣だからな」

「で、身を隠すために潜り込んだ、と。まるで布団に潜り込んでくる猫みたいだな……」


 僕の嫌味を気にした様子を見せず、ロロは寝転がった毛布の上で体勢を少し変えて空きスペースを作る。確かに独り用テントであっても、小柄な彼女の隣であれば横になることは出来るけど……。


「立ったままだと声が大きくなる。遠慮しなくて良いぞ」

「わかったよ、ロロ。それで?」

「あの魔女がお前に何か言っていただろう?野伏がいるから声が聞こえるところまで近づけなかった。何を言われた?」

「ああ。3人がそれぞれ列強の間諜だとカミングアウトされたよ」

「……そうか。それで?協力を打診されたか?」


 ロロが驚いたり真偽の確認を行ったりしなかったということは、彼女は――そしてこの「勇者パーティ」を編成した騎士は――3人の正体を知っていたということだろう。

 ただ、ロロの反応を見ている限りでは、列強各国が何を目論んで間諜を送り込んでいるのかまでは把握出来ていないようにも思える。


「特に具体的な話はなかったけど、互いの『目的』を達成するまでは一蓮托生だと言っていたかな」

「ふん……あの腹黒魔女の言いそうなことだな」

「ロロはミリアルドやリンウッド、マーテウスの狙いは判ってるのかい?」

「判っていればさっさと排除している。まぁ連中の考えそうなことは想像が付くが……問題はどいつが、なにを考えているのかが判らないということだ」


 そう言うとロロは列強の思惑について、彼等が勇者に接近している理由と思われるものを語ってくれた。


 まず一番判りやすいものは勇者を自国の戦力として取り込みたいという考えだ。

 勇者召喚はランドール王国にのみ可能な秘技であらしく、他国が規格外の戦力である勇者を手中に収めるには召喚された勇者を懐柔して味方に付ける必要があるのだそうだ。


 そして次に考えられるものは件の内通者を要する国家の考えること……つまりは魔王軍への寝返りのために、勇者を無力化し供物として譲り渡すというものだ。

 魔王軍が世界の滅亡を目論む存在ではないとすれば、人間側の列強国が魔王と手を組み自国だけ生存を図ったり、場合によっては他の人類国家を魔王軍と共に侵略することも考え得る。

 そんな倫理にもとる同盟の証として勇者を差し出そうとすることは……十分に考えられる。


 そして最後の考え方は、リコが示した強大な力を懸念し、監視しているというものだ。

 小国とは言え一国の軍を壊滅に追いやりかねない四天王を一撃で撃破する力は人類側の最大戦力であると同時に、戦中戦後を通じて暴走や暴発を常に警戒する必要のあるリスクでもある。

 特に移り気なリコの手綱を召喚者であるランドール王国ですら握れていない状況では、列強がリコを魔王軍同様の不確定要素、あるいは脅威を見なし、最悪の場合は暗殺を企てることは十分に考え得るシナリオだろう。


「それで、どの国がどう動くか予想はついてるのかい?」

「それをユートに聞きに来たんだ。お前、連中と行動して何か気付いたことがないか?」

「そうだなぁ……オースティンはリコの事をやけに気にしていた気はするけど、彼が騎士なら幼いリコを守護しようとするのはある意味当然のようにも思える」

「ミリアルドは騎士王が率いる軍事国家だぞ。列強のバランスを取ると公言しているが、連中の本質は戦士だ。バランスを崩しかねない勇者の力を監視しようとしているか、それとも取り込もうとしている可能性は高そうだな」


 ロロの言うミリアルド王国の状況を聞いて、僕は現実世界に存在する「世界の警察」を名乗る大国のことをイメージした。

 彼等は交渉による問題解決を掲げ自分達は理知的な存在だと喧伝しているけど、実際は世界最強の軍事力を背景にした戦争による問題解決を辞さない国だ。

 ミリアルド王国が彼の国と似たスタンスなら、監視もしくは取り込みというロロの見立ては正しいのだろう。


「ミランダは……少しリコに険があるような気がするね。あと、どことなく魔王軍にシンパシーのようなものを感じているようにも思えた。ただ、魔王軍の物資は躊躇無く燃やしていたけどね」

「ふん……マーテウスは人間と妖精族が共存する他民族国家だからな。もし魔王軍に寝返る国があるとしたら連中だと私は考えている」

「魔法国の統治はどうなってるんだい?」

評議会(カウンシル)とかいう魔術士の集まりが仕切っているそうだ。もっとも連中の興味は政治よりも魔法の研究だそうだがな」

「なら、立場的にはマーテウス魔法国が一番裏切りの可能性が高いってことか……」


 僕の言葉にロロは無言で頷く。確かに僕もミランダの言動を見ていて裏切りの可能性は考えたけど、魔王軍の補給物資を躊躇無く全破壊しようとしてた姿は演技には見えなかった。

 となれば、まだ何か見落としていることがあるのかもしれない……。


「それで、リンウッドはどうだった?あの連中は一番腹の中が読めないんだが」

「サルマンかい?リコに対して紳士的というか、距離を詰めようとしている感じはあったね」

「連中はミリアルドの軍国主義を嫌って独立した商業連合の貴族達を中心とした集まりだからな。人当たりはいいが何を考えているのかは正直わからん」

「統治者のスタンスはどうなんだい?」

「リンウッドは貴族議会による統治だ。その時々の情勢によって判断がコロコロと変わるから、正直今回の侵攻をどう叶えているのかは私にもわからん」


 表面上はリコを取り込もうとしているようには見えるし、国の成り立ちがミリアルドからの独立であるなら、リコという戦力を手元に置いてミリアルドの影響力を完全に排除しようと考える可能性は高そうだけど……。

 いや、それ以前に気にすべき事があった。


「ロロ、最悪の可能性として3国全てが魔王軍に内通しているってことは考えられないのかい?」

「それはないと断言できるぞ」

「理由を聞いても?」

「考えてもみろ、もし列強全てが魔王軍に肩入れしていたら、我々ランドールは背後を突かれて一瞬で全滅している」

「なら2国ならどうだい?」

「もし2国で魔王軍と手を組んでいるなら、それは同盟関係を結んだということになる。ならパワーバランスが崩れて残る1国が真っ先に攻め滅ぼされるだろうな」


 僕はロロの言葉を吟味する。確かに複数国が魔王軍と内通しているのなら、互いが呼応して行動を起こす可能性は高い。まぁ、可能性としては個別に魔王軍と接触している可能性も考えられなくはないけど……。


「ともかく、あの3人はそれぞれの理由で信用しちゃいけないって事は判ったよ」

「そうか、それは良かった」

「で、僕は隣で寝ている猫のことも疑った方がいいのかな?」

猫人族(フェリニアン)を猫扱いするとは失礼なヤツだな、お前」


 そう言いながらもロロは僕に身体をこすりつけてきた。

 ロロの着ているクノイチ装束はゴツゴツしていたけど、剥き出しになった毛皮の部分はとても手触りが良かった。……けど、これってマーキング行動だよね?つまりロロは僕が自分のものだと主張し、裏切るなと言っている……のだろうか。



 翌朝、僕が目覚めた時にはすでにロロは姿を消していた。さすが隠密(クノイチ)だけあって『警戒(アラート)』を使っていなかった僕には彼女がいつ出て行ったのか察知することが出来なかった。

 彼女が横になっていた毛布に手を当てるとまだ仄かに暖かさが残っている。どうやらテントを出て行ってまだそう時間は経っていないのだろう。


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