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【第一部完】勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
108/207

#15

「……待て、少し先に灯りが見えるよ」


 先頭を走っていたサルマンが馬を止め、僕達に警戒を促した。

 彼の言葉に前方を注視すると、少し離れた場所に微かに光点がが見えた。彼我の距離は500m程度だろうか……?

 僕の目では微かな光点がいくつか揺れているようにしか見えないけど、野伏のサルマンにはあれが意味を持った灯りに見えているのだろう。


 日暮れ頃にランドーリアを出発して既に3時間程が経過している。道中、先行していた冒険者パーティや、彼等が倒したとおぼしき魔王軍残党の死体を何度か発見していたけど、この1時間ほどは冒険者達にも出くわしていない。

 つまり、馬で移動している僕達は徒歩の冒険者よりも随分と先行していることになる訳で、このルートが一度魔王軍が通ってきた街道であることを思えば、前方の灯りが人間のものである可能性は極めて低いだろう。


 僕達は夜間移動の照明としてミランダが生み出した魔法の灯火を使っている。これは炎のような全方位に光を放つものではなく、指向性の高い光をそれぞれの馬の前方に投射しているから、遠方からはこちらの光源を視認しづらい状況にある。

 ……要するに向こうはこちらに気付かず、こちらは相手を視認できる、奇襲のチャンスという訳だ。


「ではまず私が先行して相手を確かめてきます」


 野伏であるサルマンは当然斥候としてのスキルも持っているだろうから、偵察にはうってつけだろう。

 馬から下りたサルマンは素早く前方へと走って行き、僕達は馬を止めて一旦小休止だ。おそらく前方の光点は魔王軍だから、サルマンから報告があり次第、迂回するなり強襲するなりすることになるだろう。


「勇者殿、あれが敵ならどうされますか?」

「面倒くさいし、もう夜遅いからパス。ざこ相手ならおじさんに任せる」

「自分はこの鎧ですから、奇襲には向きませんが」

「正面から突っ込んだらいいじゃない」


 全身金属鎧(フルプレート)で隠密性が低いオースティンは言うまでもなく奇襲には向かないけど、敵が大軍でなければ――そして灯りの数から、そう大軍で無いことはほぼ確実だ――突撃して蹴散らすという手もあるだろう。ただリコは夜が遅いことを理由に攻撃に参加するつもりはないようだけど。

 そんな事を言っているうちにサルマンが戻ってきた。思ったよりも早いところを見ると、ある程度接近した時点で相手の正体がわかったのだろう。


「確認出来ました。あれは魔王軍の輜重隊(しちょうたい)ですね」

「しちょう……?えらい人?」

「まさか。兵科の中ではもっとも軽んじられている者達ですよ」


 僕もリコも、女神由来の言語能力を持っているから、サルマンの言葉を日本語として聞き取ることは出来る。けどその言葉があまりにも古風すぎると、日本語の意味がわからない場合もありえる。

 例えば先ほどの輜重隊(しちょうたい)がそれに該当する訳だ。


「リコ、輜重隊(しちょうたい)は補給品を運ぶ輸送部隊のことだよ」

「ふーん。じゃあさこ部隊ってことじゃん。ならリコが行かなくてもいいよね?」

「サルマンさん、相手の数は?」

「灯火を付けているのは馬車3台だね。もしかしたら灯りを付けていないのがもう1、2台はあるかもしれないが」

「敵が輜重隊なら恐るるに足らず」

「まぁ敵としては与しやすいけどね、でもこのタイミングとはねぇ」


 どうやら相手が輸送部隊であることから攻撃を加えることに決まったようだ。

 ちなみにミランダが言っているタイミングの悪さというのは、おそらく王都を出発してすぐに輸送部隊を発見した、ということだろう。


 本来なら敵軍の輸送部隊はこちら側から見れば食料や物資を奪える補給機会になるところだけど、僕達はまだ手持ちの物資を全く使用していない。つまりミランダは補給部隊を叩く意味が少ないことをぼやいている訳だ。

 もちろん相手の補給を断つという点においては十分な価値はあるし、それ以前に僕のストレージならいくらでも物資を収納できる訳だから、僕にとっては今後の任務に備えて物資を補給できる良い機会なのだけど。


 結局、オースティンとサルマン、そしてミランダの3人で魔王軍の輸送部隊を襲撃することになり、攻撃に参加ないリコと非戦闘員枠の僕は少し遅れてから3人の後を追うことになった。


「勇者ちゃんは我が儘だねぇ?」

「まぁ、良いじゃないですか。素敵なレディの手を煩わせるような相手でもありませんし」

「サルマン、それは私に対する当てつけかい?」

「2人とも、戯れ言は後にしろ。行くぞ」


 ミランダはそうたしなめたオースティンを不機嫌な表情で睨み付け、サルマンはそんな2人を見てキザな仕草で肩をすくめている。この3人、本当に連携して戦えるんだろうか?

 まぁこの奇襲攻撃で彼等の実力を見極めさせて貰うとしようか。


「お兄さん、そろそろリコ眠いんだけど」

「もうそれなりに遅い時間だからね。あの輸送部隊を倒したら、夕食と野営になるんじゃないかな」

「ふーん」


 リコは興味なさげな口調でそう言うが、ここまでの道中と違って心なしかリラックスしているようにも見える。

 今の彼女は頼りにしていたロロと引き離され、見知らぬ大人の中へ放り込まれた状態だから、周囲に対する警戒を強めていたのだろう。


 そんな状況だからこそ、リコの僕に対する依存が相対的に高まっている気がするけど、僕の方でリコに対する情が湧きすぎると「万が一」の時に逡巡してしまうかもしれない。

 現実世界へ帰還するようリコを説得するためには彼女と絆を深めておく方が好ましいけど、一方でチート能力に対する見極めが終わるまでは、安易に距離を詰めすぎる訳にもいかない。なんとももどかしい状況だけど、バランスを取るしかないだろう。

 そう考えた僕は、やや不機嫌そうなリコにストレージから取り出したキャンディを一つ差し出してみた。


「リコ、待ってる間にキャンディでも食べるかい?」

「うん。お兄さん、食べさせて♡」

「わかったよ、勇者様」

「あ~ん♡」


 相変わらず籠手をはめたままのリコは僕に包み紙を剥くように求めてきた。今夜はもう戦う気がないのならせめて籠手だけでも外しておけば良いのに。そんなことを思いながらも、僕は彼女のためにキャンディを採りだし、そして彼女の小さな口の中に丸くて甘い日本の名残(キャンディ)を放り込んだ。


 リコがキャンディを舐め終わるよりも早く、前方で動きがあった。もちろん離れているからサルマンの弓矢やオースティンの剣による攻撃の様子は判らない。けど、ミランダの魔法であれば……って、あの魔女!補給部隊を相手に火炎魔法を打ってるじゃないか!


「リコ、急いで現場へ行こう」

「え?なんで~?」

「あの魔女、補給物資を焼いてるんだよ!残しておけば回収できるのに……!」

「うわぁ、お兄さん、それって火事場泥棒じゃない。おまわりさ~ん、この人犯罪者です♡」


 こんな時も僕を煽ってくるリコを馬に乗せ、戦闘の現場へと急ぐ――。



 たどり着いた時には3台の馬車――いやあれは魔獣が引く荷車か?――が炎上していた。周囲にはゴブリンやコボルトといった小型の人型魔物の死体がいくつも転がっている。そして最後に残った逃走しようとしている荷車に向かって、ミランダが魔法を詠唱している!?


「ミランダ、よせ!あれば僕が止める!」

「……は?荷物運び風情が何言って……」


 僕の声かけで呪文の詠唱を中断したミランダをその場に置き去りにし、僕は馬に拍車を入れるとストレージから精霊銃(エレメンタルガン)を取り出した。

 狙うのは荷車を引く魔獣を必死に急かしている御者のゴブリンだ。


 正直な所、僕の射撃の腕は到底自慢できるレベルのものじゃない。かつて共に冒険したレンジャーの姉御なら、遠距離からでも動く標的を簡単に射貫いて見せただろう。けど僕の腕だと、併走して接近しないと御者を狙うことは難しい。


 馬を駆り、荷車を追い上げ……狙いを付け、引き金を引き絞る。


 乾いた音と共に撃ち出された緑色の魔力弾は狙い過たずゴブリンの頭部を吹き飛ばした。そして、御者を喪った魔獣は状況がわからないままに大人しくなり、やがて停車する。


「……お兄さん、実は凄い人?」

「どうしてだい?」

「だって今、走りながら撃って命中させてたよね?」

「僕は平凡なモブだよ。本職なら追いかけなくても遠くから倒していたさ」


 後ろに乗せたままだったリコの言葉に対しておざなりに応えながら、僕は荷車一台分とは言え物資を無事に確保できたことに安堵した。


 僕が御者を倒し、奪取した物資を確認していると後方で残敵を掃討していたオースティン達もこちらにやってきた。見たところ3人に負傷は無いようだ。

 それもそうか、精鋭冒険者(・・・・・)である彼等がゴブリンやコボルト程度に後れを取ることなんて考えられないし、この程度の相手に苦戦していたら魔王討伐なんて夢のまた夢だからね。


「……お兄さん、確かユートっていったっけ?」

「ええ、そうですが」

「どうして止めたんだい?」

「いや、それはこちらの台詞ですよ。折角の物資を燃やしてどうするんですか」

「はぁ?魔王軍の物資だよ?このまま持ち去られたりしたら、ただでも強勢な魔王軍がさらに勢いづくじゃないか。何せ魔王軍は人間じゃ対抗できないぐらい強力なんだからね」


 胡乱げな眼差しで僕を睨み付けるように見つめながらミランダが言った言葉には、確かに一理あるようにも思える。

 もし僕達が輸送隊を討ち漏らし、この物資が後方に控えている別働隊の元へ戻れば、魔王軍の継戦能力が僅かなりとは言え高まることになるのは事実だから。


 けど、僕は彼女の物言いに微妙な引っかかりを感じてもいた。どこか魔王軍の事を称賛しているような……。そう、有り体に言えば、彼女が内通者であるかのような空気を感じたんだ。


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