#14
騎士の演説から2時間ほど後、僕達……いや正確にはリコは、騎士団の詰め所へ呼び出された。面倒くさそうな表情をしながらも呼び出しに応じるリコに苦笑しながら入室した室内には、数名の騎士と、騎士には見えない3名の男女が待っていた。
1人は装備している鎧をランドール王国のものに替えれば周囲の騎士に溶け込みそうな、30代とおぼし男性戦士。生真面目そうな表情と壁際に逆三角形型の盾が置かれているところを見るとタンクを務められる重戦士なのだろう。
ただ、単なる戦士というより、堂々とした佇まいからはまるで元騎士か、他国の騎士のようにも見える。
もう1人の男性は僕と同年代ぐらいに見える背の高い若いイケメンで、見るからに身分が高そうだ。彼は魔王軍の侵攻という状況下だというのに、余裕のある笑みを浮かべている。
装備しているものは革の胸当てで、弓を持っている所を見れば狩人か野伏なのだろう。
最後の1人は20代半ばの女性だ。編み上げた群青色の髪が人目を惹く美人だけど、どこか険のある表情に皮肉げな笑みを浮かべている。
背後に立てかけた杖を見るまでも無く同業者だということは判った。
「おお勇者よ、よく参られた!……して、そちらの男性は?」
「気にしなくていいです。これ、リコの荷物持ちだから」
「すみません、勇者様に雇われた荷物持ちのユートと申します」
上座に座っていた騎士――広場で演説していた人物だ――は僕を誰何するが、僕の返事を聞きながらも視線は僕の隣に立っていたロロに向かっている。そしてロロが微かに頷いたことを確認すると、初めて僕に視線を向けて口を開いた。
「……ふむ。まぁ長距離行軍になりますからな。それで、名はなんと言われたかな?」
「ユートです」
「そうか。では……ユート殿を含めた、この5名で魔王討伐に向かって戴くことになる」
騎士の言葉に、リコが怪訝そうな表情を浮かべる。おそらく彼女もここにいるのが先ほど広場で告知されていた「精鋭冒険者パーティ」であることは理解しているはずだ。しかし5名という事は……。
「どういうこと?5人って誰?」
「紹介が後になって申し訳ない。戦士オースティン殿、野伏のサルマン殿、そして魔女ミランダ殿。いずれも高位ランクの冒険者で、魔王討伐への随行を志願してくださった方々です」
騎士の言葉に、オースティン、サルマン、ミランダと呼ばれた3面はそれぞれ軽く会釈して見せる。オースティンはやはり生真面目そうな表情で。サルマンはリコに興味を惹かれた様子で。そしてミランダは皮肉げな笑みを浮かべたままで。
どうやらこの3名、ただの冒険者ではなさそうだが……。
「この3人と、お兄さんと、リコだけ?ロロは?」
「勇者様、申し訳ありませんにゃ。ロロは馬に乗れませんので、お供できないのですにゃ」
「馬?リコだって馬なんか乗ったことないよ」
ロロの言葉にリコは戸惑った様子でそう言う。おそらく馬のことも気になるのだろうが、それ以上にロロが同行しないということに不安を感じているのだろう。
リコがランドールへ召喚されてから1ヶ月近く経つ。その間、側仕えとしてずっと近くにいたロロがいないとなれば心細く感じるのは当然だ。
僕がそんな事を考えていると、オースティンと呼ばれていた戦士が手を上げた。
「勇者殿、よければ自分の馬に同乗してはいかがですか。自分は馬術に自信がありますゆえ」
「……イヤ。ロロが行かないならリコも行かない」
「勇者殿!?」
リコの言葉はロロがどうというよりも、むしろ見知らぬ大人であるオースティンに対する不信感であるようにも思えた。だがこんな事でリコが臍を曲げてしまったら、僕も、ランドール王国も困ってしまう。なので僕はこの場に介入を行う事にした。
「勇者さま、でば僕の馬に乗るのはどうですか?僕は軽装ですから戦士様よりも馬の負担は少ないでしょうし」
「お兄さん、馬乗れるの?」
「ええ、もちろんです。これでも経験者ですから」
「……じゃあ、お兄さんの馬に乗る」
「むぅ……。仕方ありませんな」
僕の提案にリコは同意し、何故かオースティンはリコの選択に不満げな様子だ。幼女を後ろに乗せたかったのだろうか……?
その後、簡単な自己紹介を交わした後、進軍ルートを説明する作戦会議が行われることになった。
魔王軍がランドーリアへ侵攻してきたと思われるルート上には街と呼ぶには小さいが、村よりは規模の大きい拠点「パルマ」が存在しており、さらにその先には陥落したとされる大要塞が位置している。
なので勇者パーティはまずパルマへ向かい、ここが魔王軍に占拠されている場合は解放。その後、大要塞を経由して魔王領へと侵攻する……という形を騎士団は想定しているようだ。
「進軍には足の速い馬を用意させております。パルマまでは2日、そこから大要塞まではさらに2日といったところでしょうか」
「魔王領内についての情報はないのかしら?」
「残念ながら殆ど情報がありませぬ。ですが大軍が進軍しているとなれば街道のようなものは存在しているはず。奥地へ向かって進んで戴ければ、いずれ魔王の居城に行き当たるかと」
「……随分と適当な侵攻作戦なのね?」
「まぁまぁ、ミランダ殿。魔王領内は我ら人類の知るところではありませんから。仮に魔王城まで到達出来なかったとしても、情報を持ち帰ることが出来れば十分な戦果になりますよ」
騎士の説明にミランダが皮肉を言い、サルマンが彼女を宥めている。オースティンは黙ったリコの方を見つめているが……このパーティで大丈夫なのだろうか。
確かに戦力的に見れば勇者と共に戦う前衛職、後衛の射手に魔法使いという構成は潜入行動となる少数精鋭ならベストに近い。ただ、3名は互いに初対面のようだし、個々の力量はともかく連携面には不安がある……。
主役である筈のリコは机に頬杖をつき、興味なさげに窓の外に視線を送っている。そんなリコの様子を見やりながら、僕は傍らに立っていた――僕とロロには席が与えられていなかったんだ――ロロに小さな声で話しかける。
「で、同行しない本当の理由は?」
「同行はするさ、もちろん。だがあの連中は信用できない」
「なるほど、密かに追走する形で監視と護衛をしてくれるわけだね?でも、リコの事は僕に任せていいのかい?」
「少なくともお前は私より上手に勇者の手綱を握る。なら適材適所だ」
「プロである君に高く評価して貰えて光栄だよ」
「ふん……」
僕の礼にロロはそっぽを向く。彼女の実年齢は30歳以上だと言っていたけど、アイスを欲しがっていた様子や今の仕草を見ている限りでは、到底大人の女性であるようには思えない。
年齢を偽っているのか、それともこの態度すらが演技なのか……そんな事を考えている間に、会議とも言えない作戦会議は終わった。
「お兄さん、ホントに馬乗れたんだね♡」
「なんだい、疑ってたのかい?」
「だってお兄さん、ざこっぽかったし~」
「雑魚はいいけどちゃんと掴まってないと落ちるよ?」
「ざこのお兄さんが怒った~♡」
既に陽が落ちた街道を僕たち4騎が行く。
戦闘は街道に詳し区夜目も利くという野伏のサルマン。続いてリコを後ろに乗せた僕。その後ろからミランダとオースティンが続いている。
ほぼ空荷な僕の馬と違い、3人の馬は野営道具や食料を満載している。もっともミランダの馬は浮遊する透明な板を牽引しているらしく、サルマンやオースティンの馬と比べると少し楽そうだけど。
前を行くサルマンの馬が重そうな荷物を運んでいる姿を見つめていたことに気付いたのか、リコが声を掛けてきた。
「おっかしいよね。せっかくお兄さんが運んであげるって言ってるのに」
「初めて見るストレージに警戒してるんじゃないかな」
「えー、それじゃあお兄さんに荷物全部預けたリコが馬鹿みたいじゃない!」
「リコは僕の事を信じてくれたんだろ?」
「べつに~」
リコにはそう言ったけど、僕はオースティン達が僕に荷物を託さない理由におおよそ見当がついていた。なにせストレージは僕に固有の能力だ。
もし食料や野営道具を収納したまま、僕が死ぬようなことがあれば彼等は荷物を喪ってしまう。そんなリスクを避けるために、生き残れるかも定かではない僕に荷物を預ける気にはならないのだろう。
そして出がけにロロが言っていたことが事実なら――。




