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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
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#13

 ストレージから取り出した「アイス」が棒アイスだったことにリコは少し不満げだった。どうやらリコ的にはカップに入った高級アイスが出てくると思っていたらしい。


「お兄さん、こんなざこアイスじゃなくてもっと美味しいのは?ほら、『幸せだけでできている』やつとか!」


 リコが言っているのはおそらくコンビニで売っているアイスの中では高級品に分類される、海外製の某ブランドのことだろう。たしかマーケティングの講義でリコが言っている言葉が商品プロモーションのためのキャッチフレーズとして使われていると事例紹介された記憶があるし。

 しかし小学生があのアイスを食べ付けているというのは少々贅沢じゃないだろうかとも思う。事前情報通り、二階堂企画官はネグレクトをしながらも子供に与える食事やおやつは――体面上だろうけど――高級なモノを選んでいたということなのだろうか。


 僕がそんな事を考えている間にも、リコは文句を言いつつも美味しそうにアイスを食べた。背後に広がる光景が、多数の死者が横たわり負傷者達のうめき声が響く凄惨な戦場跡であることを思えばシュールな様子ではあるけど。

 と、ロロが僕に近寄ると声を掛けてきた。


「ユ、ユートさん?あの、勇者様が食べているものはなんだ……ですにゃ?」

「アレは僕の国ではよく食べられている氷菓子だよ」

「にゃ!?……ユート!さん、私は勇者様のお付きメイドですにゃ!怪しい食べ物は毒味する義務がある!にゃ!」


 ……どうやらリコが美味しそうにアイスを食べている姿を見てロロも食べたくなったらしい。ところどころ「にゃ」の演技にほころびが生じている気もするけど、それほど興味があるのだろうか。

 ロロは情報源として有効だから、僕的に彼女とある程度距離を縮めておくことはやぶさかではない。けどアイスはリコを釣るための道具に使える以上、無駄にはできないけど……。


「リコ、残り2本なんだけど、1本をロロに上げてもいいかい?」

「ん~、いいよ♡お兄さんの分はなくなるけど、ざこだから仕方ないよね~♡」


 僕は特にアイスに興味はないから気にしないし、リコがいいというのならロロに分け与えてもいいだろう。


 ストレージから取り出したアイスに瞳を輝かせながらロロがかぶりついている間に、騎士団や冒険者達を中心とした主力部隊は城壁内へ撤収を終えたようだ。

 戦場となった王都周辺には既に魔王軍の残党の姿はないけど、民兵や王国軍の一部は引き続き陣を形成して警戒にあたっているようだ。


 そんな光景を見るとはなしに見ていると、戦闘前に演説をしていた騎士が再び拡声魔法を使っているのが目に入った。

 彼が語ったのはランドール王国の勝利と、勇敢に戦った人々を褒め称える言葉。そして、勇者がランドール王国を守護したという話だった。……肝心のリコは興味なさげに城壁の外を眺めていたけど。


『――つまり、我らは再度の侵攻に備えるため、この地を離れることはできぬ!しかし敗走した魔王軍を討伐することは我が国の、いや人類にとっての急務である!よってランドール王国騎士団は、諸君ら冒険者に魔王軍残党討伐の依頼を行うこととした!』


 王国軍の軍人や徴兵された民兵達と違い、雇われているだけの冒険者達は当面の戦闘が終わったことでランドーリア市内へ戻ってきている。その冒険者達に対して、騎士団は魔王軍の追撃を依頼する、ということらしい。


 物見台から見ていた状況的に、魔王軍1万のうち実際に戦闘で倒された数は1000を超える程度だったはず。対する王国側はリコが姿を現す前に民兵を中心にかなりの損害を被っていたようだし、おそらくは魔王軍側よりも損耗率は高いはずだ。


 魔王軍側は四天王を失った事で一時的に敗走したとはいえ、四天王を名乗っている以上は他にまだ3人の将が残っているとみて間違いないだろう。

 実際、大地の名を冠していた四天王の指揮下にいたのは歩兵や騎兵、いわゆる陸軍だけだった。この世界の四天王がどのような構成かは判らないけど、定番の元素別四天王だとすれば風に属する将は空軍戦力、火や水に属する将は魔法戦力を持っていてもおかしくない。


「……なら、敗走した陸軍が合流すると、厄介な相手になる、か」


 おそらく騎士団は自国の兵力を温存しつつ、残党狩りを行うことで後続の部隊に合流する戦力を少しでも削ぐつもりなのだろう。

 ワーグ騎兵は既に逃げ去っているにしても、負傷した魔物や逃げ遅れた徒歩の魔物を追撃して個別撃破できる可能性はそれなりに高いだろうし。


『冒険者諸君に対しては通常の討伐報酬の2倍の金貨を支払う!是非魔王軍を討ち滅ぼす人類の剣となってもらいたい!』


 騎士の演説は続いている。なるほど、単に追撃せよと言うだけでは冒険者達もはいそうですかと言う事を聞くとは限らない。たから討伐報酬を高額設定の出来高払いにすることで、各パーティがそれぞれの実力で狩れる範囲内で狩ってこい……という引き受けやすい条件にした訳か。


 僕は騎士団側が状況を理解していることを納得し、そして……この世界が冒険者を「冒険者」と呼んでいるいるという、どうでも良いことにささやかな安堵を覚えた。いや、なにせこれまで「冒険者」と呼んでいる世界は他になかったからね。

 そんなことを僕が考えていると、突如騎士が僕達の方を指さした。一瞬何事かと思ったけど、彼が続けた言葉は……ある意味納得の行くものだった。


『皆、見るが良い!あそこにおられる勇者リコ様を中心とした精鋭冒険者パーティが魔王を討伐に向かわれる!我らが国を守り、その間に勇者様が魔王を討つ!それでこの戦争は終わり、魔王領は人類のものとなる!』


 突然注目を浴びたことで、リコはきょとんとしているが、その横でロロは少し悪い笑みを浮かべている。……そうか、彼女が「勇者様」がここにいることを騎士に教えたのか。


 これまでの言動から、ロロが王家から受けている任務はリコの監視や護衛だけでなく、やる気を見せない勇者が魔王と戦うよう仕向けることも含まれていることはほぼ確実だ。

 なら、公衆の面前で勇者の存在と魔王討伐へ向かうことを発表すれば……リコとしては断りづらいだろうし、少なくともランドーリアに滞在し続けることは出来なくなる。


「え~、よわよわ王国なのに、リコがいなくてもいいの?」

「大丈夫ですにゃ、勇者様が不在の間は騎士達が奮戦しますにゃ!」

「ん~。お兄さん、付いてきてくれるの?」

「僕はリコの荷物持ちだからね。旅に出る時に付いていかない荷物持ちなんていないだろ?」

「そっか……じゃあ、よわよわなお兄さんはリコが守ってあげる♡」


 そう言うとリコは手に持っていたアイスクリームの棒をぽいと投げすてると、城門前の広場に集まっていた人々に向かい、手を振った。


「ざこのおじさ~ん、よわよわなおばさ~ん!リコが魔王をやっつけてくるよ~!」

「うぉぉぉぉ!勇者様万歳!」

「ランドール王国に勝利を!人類に勝利を!」

「勇者!勇者!勇者!」


 ランドーリアの市民達や冒険者達はリコの煽りを気にせず、熱狂的に声援を上げる。あまりの熱狂ぶりに、僕はこれがリコのチート能力なのではないかと探知の水晶(ディテクトクリスタル)を確認したけど、やはりリコがチートを使っている形跡は無かった。

 ならこれは四天王を一撃のもとに下した「勇者リコ」という立場が持つ力なのだろうか……。


 今朝方までのリコの行動はむしろランドール王国の士気を引き下げるものでしかなかったことを踏まえれば、リコを魔王討伐へ向かわせるというのは対外的に攻めの姿勢を見せる意味でも、またランドーリアの士気を高める意味でも正解だ。


 さらに言えば列強の中に魔王側へ内通している国が含まれている可能性が高いこと――先ほどの扇動者を思えば、それは可能性と言うよりもほぼ確定した事実だ――を思えば。

 勇者が魔王領へ向かったと言う情報は、結果として魔王軍の注意をリコへと惹き付け、ランドーリアが守りを固める時間稼ぎにもなるだろう。


 つまりランドール王国側としては勇者リコを魔王討伐に向かわせる以外の選択肢を持ち得ない、ということだ。


 一方、これは僕にとっても有利な状況だ。リコと行動を共にすることが出来れば彼女が本当にチートを使っていないのかを確認できるし、チートを使っていない事が確認できれば魔王討伐を中断してリコを連れて現実世界へ戻ることも可能になる。

 そして……もしリコが嘘をついていたとしたら。魔王領への侵攻中というシチュエーションは、僕がリコを殺すという選択を選ばざるをえなくなった場合にも有利に働くだろうから。


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