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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case5:ランドール-ざぁこざぁ~こ♡ざこ勇者♡
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#8

 この城塞都市の前面に魔王軍が展開していることを考えば、これは攻撃開始の合図かもしれない。戦いに巻き込まれるのは面倒だけど、リコが戦場に出れば彼女の隠し事は明らかになるはずだ。となれば……夜襲は僕にとっては歓迎すべき出来事か。

 そう思ったのだけど。


「あ~、また遠吠えでしてる♡よわよわ魔物のまけまけ遠吠え受ける~♡」

「勇者様、今夜は本当に攻めてくるかもしれませんにゃ」

「え~?だって昨日もおとといもそう言って攻めてこなかったし~?耳栓でもして寝たらいいじゃない♡」


 咆哮が続く中、ロロはリコを庇うような位置に立ち、声の聞こえる正門の方向を睨み付けている。周囲にいた兵士らしき武装した人々も不安そうな顔で魔王軍が布陣している方向へ視線を向けている。

 けど、ロロの背後に庇われたリコは緊張感のない口調で、この咆哮は毎夜のことだと宣った。


「……えっと、リコ?もし連中が勇者の存在を知ってるんだとしたら、これは君を呼んでる声なんじゃないかな?」

「ええ~!?こんな夜中に女の子を呼び出すとかありえないし、待たせておけばいいじゃない♡」

「勇者様は昨日も、一昨日も同じ事をおっしゃいましたにゃ」


 ロロが呆れたような表情でそう言うけど、おそらく僕も彼女と同じような表情を浮かべ散るに違いない。

 魔物達の一斉咆哮は鬨の声……つまり戦いへの誘いである事は確実だ。戦士や騎士、武人であれば魔物の挑発に対して正々堂々と……あるいは伏兵を持って応えるのが常道だ。長らく冒険者として戦っていた僕が指名されているのであれば、僕だって魔物に対して一撃を加えるぐらいの事はしただろうし。


 けどリコは……夜だからという実に小学生らしい理由で、魔物の挑発に応じないという。僕にとっては肩すかしの結果だけど、この対応は戦況にどんな影響を及ぼすのだろうか?

 少なくとも、今この周囲にいる兵士達はリコが平然としていたことで魔物の咆哮に対する恐怖が落ち着いたのか平静を取り戻している。

 リコが意図しているかどうかは定かではないが、魔王軍が企んだ夜間の咆哮による恫喝は少なくともリコの周囲では無効化されているようにも思えた。 


「ロロ~、リコはもう寝るから耳栓もってきて♡」

「は、はぁ……にゃん」


 未だ続いている魔物達の咆哮を余所にリコはそう言うとさっさと宿舎らしき所へ入っていった。


 ……この場合、僕はどうすべきだろうか?元冒険者として野営は慣れたものだけど、さすがに都市のなかで野営というのは様にならない。かといってこのランドールの貨幣価値をまだ調べていない以上、宿を探して……というのも難しい。

 どうしたものかと悩んでいると、リコの後ろ姿を見送ったロロが心底面倒そうな表情で僕の方を見ながら言った。


「あなた、泊まるところはあるにゃん?」

「いや、ないよ。今それをどうしようかと考えてたんだけど……」

「はぁ……。じゃあこっちにきて。適当に用意する……にゃん」

「ありがとう、助かるよ」


 どことなくなげやりなロロの口調はメッキが剥がれ掛かっている気もする。けどとりあえはそこに気付かなかったふりをして、僕はリコの宿舎の隣にある使用人のための官舎らしきところへと足を踏み入れた。



 あてがわれた一室はいかにも使用人が使っています、と言わんばかりの質素な部屋で、小ぶりなベッドと机が一つだけ置かれた実用一辺倒なところだった。

 もちろん、部屋が狭いと文句を言うつもりはこれっぽっちもない。街中で夜明かしするよりは何倍もマシだからね。


 魔物達の咆哮はあの後もしばらく続いたけど、今は落ち着いているようだ。オイルランプの灯りを消し、ベッドに横たわった僕はそんな魔物達の行動について思いを巡らせる。


 今回、王都ランドーリアに攻め寄せているのは単なる魔物の群れではないことは明白だ。

 もしこれが大暴走(スタンピード)大氾濫(オーバーフロー)のような現象であるのなら、魔物達は何も考えずにこの街へ突撃してきただろうし、一斉に咆哮を始め、ぴたりと咆哮を止めるなんでことをする筈がないだろうから。


 ……大氾濫(オーバーフロー)、という言葉を切っ掛けに、ナンサイバのことが……いやメリーアンのことが脳裏に浮かぶ。

 タイミング的に、今頃ナンサイバでは大氾濫(オーバーフロー)が発生している可能性が高い。メリーアンは僕の忠告に従って街を離れたのだろうか……。

 そんな考えても仕方の無いことをつい考えてしまう。


「……駄目だな。目先のことに集中しないと……」


 思わずそんな言葉が口を突いて出る。メリーアンへの中途半端な関わりを反省したからこそ、僕は麗奈と志織という大切な2人と婚約したんだ。彼女達の元へ戻るためにも、この案件を終わらせないといけない。


 頭を振ってから、僕は再び状況を分析する。

 王都の外に展開しているのが単なる魔物の群れではないことは、陣を敷いていることからも明らかだ。つまりあれは魔王「軍」であり、統率された威嚇を行っているということは、軍勢を率いる将がいるということの証左でもある。


 この世界に存在する魔王がどのような存在かはまだ判らないけど、少なくとも僕がグレイランスで討伐した魔王ザインやエセルニウムで勇者タカアキが討伐した……確かハムスターぽい名前のなんとかという魔王は、どちらも魔物の軍勢を率いていた。

 魔物、魔王と言っても組織構造的には人間側とそう大きく違うものではない。なにせ魔王という以上は程度の差はあれ王制を敷いている訳だし、魔王ザインに至ってはそもそも正体は人間だったし。


 つまり、魔王軍は規律のある布陣や一糸乱れぬ咆哮を行っている以上、人間の軍と同じように指揮官たる将がいて、その指示により行われている。となるとこの夜間の咆哮はおそらく城塞都市に立てこもった人類側に対する精神的な摩耗を狙った威圧と、勇者が実在しているか確認しようとしている可能性が高い。

 なにせ「普通の勇者」であれば夜間にあのような精神攻撃をされて、黙って見過ごすことはありえないだろうからね。


 けど生粋の武人でも戦いに慣れた戦士でもないリコは魔王軍のもくろみを3夜連続で無視してみせた。おそらく魔王軍の将は今頃人類側の対応に疑心暗鬼になっていることだろう。となれば……次に連中が打ってくるであろう手は――。



 そこまで考えた瞬間だった。

 部屋に入った直後から発動させていた「警戒(アラート)」の魔法に反応があった。どうやら魔王軍より先に、お客さんが来たようだ。

 そう言えば前回の世界も、前々回の世界も、こうやって夜間の訪問を受けたっけ。今回の相手は……前回の「英雄」ほどではないにせよ、かなりのステルス能力を持っているようだ。


 天井裏から忍び寄る気配に気付かないふりをして、僕はたぬき寝入りを決め込む。もちろん、相手を油断させるためだ。おそらく、今回の相手は暗殺者ではないはず。その証拠に――。


「おい、起きろ。ただし大きな声は出すな」


 僕の首元に、手甲鉤の様なものを突きつけ、押し殺した声で侵入者は告げる。

 うん、間違い内、彼女(・・)が暗殺者なら、わざわざ獲物を起こして話しかけてくる筈がないからね。


 けど、この状態で会話をすると相手にイニシアティブを取られてしまう。僕はまだこの世界の情報を把握しきっている訳ではないから、尋問されるのではなく、尋問する側に回りたい。

 となれば僕がすることは決まっている。


 僕はさも寝返りを打ちましたという風を装い、身体の向きを侵入者に向け……同時にストレージから「光明の指輪」を取り出し、LED懐中電灯のような鋭い光を侵入者の顔面に向けた。


「フギャ!?」


 まるで尻尾を踏まれた猫のような声を上げて、侵入者はのけぞる。そんな様子を視界に捉えながら、僕は続けてストレージから精霊銃(エレメンタルガン)を取り出すと……突然の光に幻惑され、一瞬の隙を見せたロロ(・・)に銃口を突きつけた。


「悪いね、ロロ。大きな声を出すのは止めてもらえると助かるんだけど」

「お前……どうして!」

「なに、君がただのお付きメイドじゃないことは一目見ただけで判ったからね。猫の獣人だとしても君はあまりにも鮮やかに気配を消しすぎていたし、それに……魔物の咆哮が聞こえた時の行動もメイドらしからぬものだった」

「……私が失態を……?」

「ああ。君はあの時リコを背後に庇っただろ?あれはメイドの仕草じゃない。普通のメイドなら魔物に怯えて勇者の影に隠れるものだ。でも君は魔物の咆哮からリコを守ろうと前に出た。それは君が戦闘力を持つ、リコの護衛だということの証明になる」


 まだ先ほどの閃光で目が痛むのか、ロロは少し目を細めた忌々しげな表情で僕を睨み付ける。

 そんな彼女の服装は身体にフィットした黒くスタイリッシュなもので、口許を長いマフラーで隠している。両手に装着した手甲鉤と合わせると……暗殺者(アサシン)というよりは忍び(ニンジャ)のような佇まいだ。


「……何者だ、お前」

「それに答える前に一つ教えて欲しいんだけど。あのわざとらしい『にゃ』っていう語尾は、演技だったのかい?」

「……当たり前だ。我ら猫人族(フェリニアン)は猫とは違う。あんな馬鹿馬鹿しい語尾は、人間を油断させるためのお遊びに過ぎない」

猫人族(フェリニアン)……それが君達の種族名なのか」

「……お前、本当に何者だ?猫人族(フェリニアン)は少数民族とは言えこの大陸の多くの国で普通に暮らしている。それを知らぬとは……」


 しまった、余計な一言でロロに警戒させてしまったかもしれない。

 僕がこの世界の住人ではなく、リコを追ってきた異世界人だと気付かれると……ほぼ確実に彼女と命のやり取りをすることになる。

 何せ僕の行いはリコを殺すにせよ、連れ帰るにせよ、どちらの結果になったとしてもランドール王国の滅亡を意味するものだから。


Case5:キャラクター「ロロティーナ・フェリス」

挿絵(By みてみん)

猫人族(フェリニアン)の女性、メイドにして隠密(クノイチ)

なおケモ度は2.5ぐらいです

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