61.転生王子、情報漏洩をする
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いつものテラスに行くと、そこには丸いテーブルではなくて、角が丸い長方形のしっかりめのテーブルがどんと置かれていた。机の上には、お花と色んなお菓子とサンドイッチとかがキレイに並べられている。
そっか、丸テーブルだと4人、しかもこの量のお菓子やお料理を並べるのは難しいもんね。という事は、このしっかりとしたテーブルを、主塔から頑張って運んできたということだ。お茶会を開くって、人手がいるんだなぁ。
「ようこそ、リエトはこっちに座って」
主催席の横に立っていたエアハルト兄様が、一番近くの席を指すけど、ボクはこの中で一番年下だし、身分も低いのでそこは違うと思う。
「エアハルト様」
どうしようかなと辺りを見回したら、エアハルト兄様の従者のセレスタンがやんわりとエアハルト兄様を嗜めるように呼んだ。それから、ノエル兄様に声を掛けてその席の椅子を引いた。
エアハルト兄様は一瞬不満気な顔をしたけど、すぐに気を取り直したようで、今度はボクに向かいに座るように言ってきた。
ちらりとセレスタンの方を見たら、こちらに目も向けていなかったので、今度は問題ないみたい。
ボクの隣にはディートハルト兄様が案内された。
始まりこそ少しごたついちゃったけど、こうしてエアハルト兄様主催の第一回温室兄弟お茶会は開始された。
「うちのシェフたちが用意したお菓子と軽食だよ」
エアハルト兄様が、テーブルの上の豪華な食べ物たちを指して言った。
各陣営はそれぞれ違うシェフをお抱えしているので、これはマルガレータ妃陣営のシェフってわけだ。さすが、とっても豪華で、色とりどりのお菓子たちは目で見ても楽しい。
うちのシェフではこんなお菓子は作れないと思う。予算的な意味で。
「すごい……このサンドイッチ、シュヴルが入ってる」
「レェイン地方の物だから、旨味が強いんだよ」
得意げに言うエアハルト兄様の後ろで、給仕のメイドたちがスッと動いて、空いたカップに次々と慣れた手つきでお茶を注いでいく。シュヴェルって言うのは、魚卵の塩漬けの事で、高級食材だね。ボクは食べた事ないけど!
なるほど、主催者がこうやって料理の説明なんかもしなくちゃいけないんだ。
いっぱい覚える事があって大変そうだけど、ボクもいつかお茶会を開く事もあるだろうから心のメモをフル稼働しておく。
兄様たちの従者はその傍で、紅茶にお砂糖を入れたりと甲斐甲斐しくお世話を焼いている。
「リエトは従者を連れてこなかったの?」
「ボクには従者はいないんです」
エアハルト兄様が純粋に不思議そうに訊くので、ボクも何でもないみたいに答えてみる。
「え?」
エアハルト兄様が今までお茶会に招待した人でそんな人はいなかったんだろう。本当に知らなかったみたいで、すごく驚いている。
「ゾーイ、僕だけじゃなくてリエトのお世話もしてあげて」
「それには及びません」
ディートハルト兄様が助け舟を出すみたいに、ゾーイに指示を出したけど、その前にセレスタンが止めて給仕のメイドの一人がボクの横にぴったり付いた。
「お砂糖やミルクはいかがなさいますか?」と聞かれて、「どっちも入れてほしいな」と答える。
なるほど、こういう時は主催がフォローをしなきゃいけないんだね。セレスタンの視線にエアハルト兄様がハッとした様子を見せた後、むうと口を尖らせた。
「リエトも早く従者を付けてもらいなよ」
「そうですね~」
どうもちゃんとしたお茶会に招待されたら、従者を連れてくるのが当然みたい。
メリエルは忙しいから、母様の従者を一人貸してもらえばよかったのかも。
でもな~、このお茶会ちょくちょくやるみたいに言ってたから、その都度従者を借りる訳にはいかないんだ。何せボクもだけど、母様も従者は少ないのだ。うちって貧乏陣営だから!
アカデミーにはメイドさんも連れて行けるけど、メリエルはあくまでもメイドで、平民だからこういった貴族や王族の集まりとかでは入れない場合が多いから、どうしても従者がいる。アカデミーに入る時までには、従者も付けれてもらえているといいな。
「エアハルト兄様が主催した事があるお茶会は、お友達を呼ぶんですか?」
話を変えようとボクが訊ねると、エアハルト兄様は一瞬ほっとしたような顔をした後、答えてくれた。
「そうだよ。王族は六才から式典に出られるだろう? そこで紹介された家柄が合う同世代の子達とアカデミーに入る前から親睦を深めるために開くんだ」
「へぇ~」
王室の方で選別した貴族の同世代の子を側近候補もしくは婚約者として、幼い頃から交流を持たせるみたいだ。
そう言えば以前、温室に行くのに中庭を通ろうとしたらボールをぶつけられかけた事があった。あの時の子たちが、エアハルト兄様の側近候補なのだろう。
「前に中庭で遊んでいた人たちとかです?」
「ああ、そんな事もあったな。そいつらもだけど、お茶会だともう少し人数を増やすんだよ」
なるほど、普段遊ぶよりもお茶会だともっと浅く広く付き合いを広げられるって訳か。そこで気に行ったら、お友達枠に入ることも出来ると。お茶会がお友達オーディションみたいだね。
よわい9才にして、もう将来を見据えた社交をしてるみたい。
大変だなぁ、と思うと同時に、うらやましい。
だってそれって、女の子との出会いも沢山あるって事だよね!
アカデミーに入るまではあんまり出会いが無いと思っていたけど、そうか、高位貴族や王族に近い家の者はアカデミー前から王族との社交を始めているのか。
「ディートハルト兄様やノエル兄様もお茶会を開かれるんですか?」
側室棟の二人の兄様に訊ねると、ディートハルト兄様は「うーん」とちょっと首を傾げた。
「僕は学者先生や外国の要人の方のお話を聞かせてもらう会に参加する事が多いかな。あとはお母様やおじいさまがよく会を開かれるから、それに参加しているよ」
なるほど、国一番の商家ともなれば人脈もピカイチで、そういう会が元々多いからディートハルト兄様は参加する側なのか。
逆に、エアハルト兄様はヴァルテの旧家である侯爵家の血筋でもあるから、国に根付いた社交性を養う様に幼い頃からお茶会を開いたりというのを教育されているっぽい。
「ノエル兄様は?」
ノエル兄様の方を向くと、兄様は飲んでいたお茶のカップを置いて一言。
「そんなのしない」
ノエル兄様は今年から式典に参加し始めたばかりだ。
だからまだ自分の会を開いたりはしないのか~と思っていたけど、エアハルト兄様の次の言葉で違う事が分かった。
「ノエルは招待が来ても全部断って引きこもっているって聞いたよ」
「あ~」
ノエル兄様ならびにナターリエ様は、最近までずっと「私たちはアルダの者です」をすごく出してて、ヴァルテに馴染む気なんてありませんって感じだったもんな。
ナターリエ様もノエル兄様もお顔がとってもお綺麗だし、アルダの王族の血筋とあってお近づきになりたい貴族はいっぱいいるけど、全部断ってたみたい。
「余計なお世話だ」
「あれ?」
プイッと顔をそむけたノエル兄様を見て、ディートハルト兄様が何かに気付いたみたいでこそっとノエル兄様に何かを聞いている。向かいの席のボクには聞こえなかったけど、ノエル兄様は声をひそめずに答えたから何の話かはすぐに分かった。
「別にどこも悪くない。ここにある菓子が口に合わないだけだ」
それを聞いたエアハルト兄様陣営の側近、メイドたちがザッと顔色を悪くしたのが分かった。お茶会でお客様に口に合わないと言われてしまっては、面目丸つぶれだ。
「何その言い方。ここにあるのは大国ヴァルテの最高級の物ばかりだよ。君ヴァルテに住んでてそれじゃ食べる物ないんじゃない」
(あれ?)
確かにノエル兄様のところは、アルダから連れて来たシェフがアルダの料理を作っているし、以前のノエル兄様なら「ヴァルテの料理は口に合わない」とか言いそうだったけど、兄様は自分を『ヴァルテの王子』であると言っていたはずだ。
(それこそ、好みの問題はあると思うけど……)
「あ」
思わず漏らした声が、結構大きかったみたいで、皆の視線がボクに集まる。
でもボク分かっちゃったもんね。
「甘いものばかりだから、ノエル兄様の好きなお味じゃなかったんですね」
「え?」
子供のお茶会だからか、お菓子類が全部甘いものなのだ。甘味が高級品だからってのもあると思う。
でもノエル兄様は、以前お部屋に招待という名の拉致をして、アルダのお菓子をくれた時に言っていた。
「ノエル兄様はジューヌがお好きだから、甘い物より甘酸っぱい系がお好きなんですよね」
普通子供なら甘い物が好きだろうが、アルダの料理は自然の味を活かした物が多いって、ノエル兄様からもらった本に書いてあった。それによって味覚が鍛えられているノエル兄様は、甘い物よりも複雑な味を好まれるんだと思う。
「ね?」とノエル兄様を見ると、兄様は「よく覚えていたな」って興味なさそうに言ったけど、ほっぺたがばら色になっていた。
「何でそんな事をリエトが知ってるの?」
「え、前にノエル兄様に……」
エアハルト兄様の質問に答えようとしたら、兄様の従者のセレスタンとディートハルト兄様の従者のゾーイがずいっとボクに迫ってきた。え、なになに?
「ナターリエ様の所は、ヴァルテ人の従者達も口が固く、あまり話してくれないんですよね」
「他に何かご存じの事はありませんか?」
「例えばノエル様のお好きな色とか、興味を持たれている事とか」
「せっかくですし、教えていただけると……」
まるで示し合わせたみたいに、二人して次々と質問を投げかけてくる。陣営も所属棟も違う二人が生きピッタリだ。
「え、えと……」
目をぱちぱちしながらたじろくボクを助けてくれる従者はボクにはいない。唯一の味方であるベディは壁際でおたおた見ている。
そうだね、何も危害を加えられている訳ではないし、基本王子の従者は皆貴族の家系だからベディに出来る事は無いんだよね。うーん、こんな時の為にも従者がいるのか~。
「えーと……ボクもそんなに知らないけど……」
「お二人とも、その辺りになさっては?」
ここは適当に何か答えて引いてもらうか、と口を開きかけたところで、ノエル兄様の傍に控えていた青緑色の髪の男が静かに割って入ってきた。
「幼子相手に情報を聞き出そうとするのは行儀の良いものではありませんよ。リエト殿下も、本人の許可なく他者に情報を漏らすのはいかがでしょう」
はっきりとした声でたしなめられ、セレスタンとゾーイは気まずそうに下がっていった。でもまだボクの方を見ていたから、これ多分諦めてないね。
好きな食べ物の話くらいしてもいいと思うけど、王宮内の情報戦においてナターリエ様陣営の情報は大分貴重らしい。
それはそうと……。
「ノエル兄様、この人誰です?」
ボクはノエル兄様を見て、青緑髪の男を指さした。
だって一向に自己紹介しないんだもの。
知らない人に注意されるのも、反応に困るんだよね。
「ああ、そうだ。紹介していなかったな。新しく僕の筆頭従者になったヨヘムだ」
兄様の言葉に、ヨヘムがその場で礼をした。
「以前よりノエル様の従者をしておりました、ヨヘム・フレンツェンと申します」
落ち着いた声で、年齢は前任のクルトと同じくらいだろうか?
クルトがクビになったから、筆頭従者に出世したみたい。でも意外。クルトがあれだったから、てっきり次はアルダの人間にするのかと思ったけど、名前の響き的にヴァルテ人っぽい。なんて考えていたら、ヨヘムが顔を上げて赤っぽい瞳と目が合った。
「お察しの通り、例の人の空いた穴埋めの臨時筆頭従者でございます」
「え?」
何を言われたか分からず聞き返すと、ヨヘムは続けて言葉を発する。
「年齢的にもここにいる誰よりも上ですしね、もう出世は無いと思っていたんですけど突然の指名で私も戸惑っているんですよ。いえ、従者として他の人に劣っているとかそういう事ではないんですが。でもまぁ穴埋めですから、どうせすぐに変更になるとは思うんですけどね」
やけにはきはきした声でべらべらと後ろ向きな個人事情を話すヨヘムに目をぱちぱちしていると、ローレンツがやって来て、口をふさいで引きずっていた。あ、なんか部屋の隅で怒られてる。ノエル兄様は顔を真っ赤にしている。
(何か……マチェイ先生と気が合いそうな人だな……)
と思ったけど、あのタイプは同族嫌悪があるかもしれない。それでなくとも、マチェイ先生は天性のコミュ障だから無理か。
とりあえず、裏表がない、裏切りそうにはない人を選んだんだな、と分かった。
一通りヨヘムを注意したらしいローレンツが、少し疲れた顔をして戻ってきた。
今回の同僚は、ローレンツを疲れさせるらしい。ボクはこの時点で、ヨヘムへの好感度が上がった。
「エアハルト様、ジューヌのジャムがご用意出来ました」
そしてこっちもいつの間にかノエル兄様も好きな物を用意したみたいで、ノエル兄様のそばにジャムが置かれた。
「次からはジューヌのお菓子も用意するから、今日はこれで我慢してよ」
「……フン」
エアハルト兄様に言われ、ノエル兄様はそれだけ答えたけど、さっき説教を受けていたヨヘムがジャムを塗ったスコーンは口にした。
「ええと、どうしようか……」
さすがのエアハルト兄様もこんなお茶会は初めてみたいで、戸惑い気味だ。
それなら今アカデミーの兄様たちからの手紙を渡そうかな、とベディの方を振り向いたら、さっき同僚を説教していたローレンツがひときわ明るい声で入ってきた。
「王子方は、王宮の八不思議をご存じですか?」
これが、ボクらの紫月を大きく変える事になる。
大分アクが強い従者、ヨヘムは34歳です。
(セレスタン29歳、オルフィエル24歳、アードリアン20歳、ゾーイ32歳、ローレンツ29歳、ベディ18歳)
ゾーイ「そんなに変わらないじゃないですか」




