60.転生王子、お茶会に行く
「温室でお茶会」っていうのは、上の兄様……もっと言うなら温室によくいらっしゃるフィレデルス兄様がアカデミーでいない間、エアハルト兄様が温室に出入りするようになって、そこでお喋りしようって誘ってくださったものだ。
エアハルト兄様は前から温室の建物に興味があったけど、フィレデルス兄様がいるから遠慮していたんだって。
ボクは普通に植物のお勉強に入ってたんだけどね。フィレデルス兄様は騒がしいのがお嫌いだから、静かにしていたら別に大丈夫だと思うんだけどな。エアハルト兄様とフィレデルス兄様は陣営が違うので、同じ主塔の王子でも色々あるみたい。
そんな訳でアカデミーが始まるとエアハルト兄様からお誘いがあって、それにディートハルト兄様もお連れして二人は結構仲良くなってたっぽいんだけど、最近それにノエル兄様も加わって、王宮組が全員揃うこととなった。
とは言え、みんなお忙しいから毎日とはいかないので、それならと日にちを決めてお茶会が開催されることになった。
ボクは植物観察にほとんど毎日行くし、行ける人だけ行けばいいと思うんだけど、それじゃダメだって兄様たちがみんなして言うんだ。
主塔の王子はエアハルト兄様だけだから主催はエアハルト兄様になったんだけど、これが結構なことらしい。
王族が別陣営の王族をおもてなしをするのだ。
その前から勝手に集まったからお茶でも飲む?てことは何度もあったけど、ちゃんと日にちを決めて誰が仕切るかって決めちゃったら今までみたいな適当な感じはまずいらしい。
エアハルト兄様はすでに王子として社交界にデビューを済ませているし、お友達も多いからこういうのは初めてではないみたい。ボクも大きくなったらスマートなお茶会主催をして、未来のお嫁さんを喜ばせたい。
そのために、今日はいっぱい勉強をさせてもらおう!
「あ、リエト」
護衛のベディと一緒に側室棟の下の階に向かっていると、頭上から聞き慣れた声がした。
見上げると、ディートハルト兄様と兄様の護衛であるアードリアン。それからもう一人、三十代くらいの背が高い、薄茶色の髪で隠れて片目が見えない。見たことがあるから、多分ディートハルト兄様の従者だと思う。
「ディートハルト兄様」
「お茶会に行くんだろう? 一緒に行こう」
早足で階段を降りてきた兄様に手を差し出されたので、素直にボクもその手を繋いだ。
「あれ、リエト。メイドの子は?」
「メリエルはいません。ベディだけです」
メリエルはボクのお世話から掃除洗濯とやることが山盛りなんだ。
「え、お茶会に護衛だけ?」
ディートハルト兄様は戸惑った顔をしているけれど、忙しいものは仕方ないよ。
「リエト、もう少し従者とか雇ったほうがいいよ?」
「そうですねー」
お金とコネがあれば雇いたいね。
なんせ軍部にしかコネがない田舎男爵家のもので、この状態で上に「もっと人を雇って」とお願いしても、各陣営の息のかかったスパイとか嫌がらせの派遣しか得られそうもない。ベディだって元は嫌がらせに推薦されたんだしね。まぁ結果オーライだったんだけど。
「ディートハルト殿下、それ以上はいけませんよ」
落ち着いた声で、兄様の従者が言った。兄様がそちらを振り向くと、微笑んでいるような、憐んでいるような微妙な表情でボクを見て「ねぇ」と言った。
うーん、これはどっちだろう。見下されているのか、気を遣われているのか難しいところ。と言うか、名前が何だったか。
ボクが考えていると、ディートハルト兄様が思い出した様にその従者を振り返って、ボクを再び見た。
「あ、リエトにゾーイを紹介していたかな? 僕の従者のゾーイ・カルツだよ」
兄様と話す様になったのも最近だから、多分されていなかったんだろう。名前を聞いてもピンとこなかった。
ゾーイの方はまた微妙な笑顔を浮かべ礼をした。
「ディートハルト殿下、各陣営にはそれぞれ事情があるのですから、あまり口出しをするものではありませんよ」
ボクに自己紹介をする気はないので、多分見下されているのだろうけれど、一応乗っかっておこう。
「そうそう兄様、早くお茶会に行かないと遅れちゃいますよ」
そう言って手を引っ張ると、兄様もハッとして頷いた。
何と言ってもボクら2人が王子内では一番立場が弱いのだ。遅刻などしたら大変なんだ。
そう思って急いだのに、温室に着くと、既にエアハルト兄様だけではなくノエル兄様もいらっしゃった。
一緒に来たディートハルト兄様とボクを見て、その整った顔を不機嫌にゆがめる。美形は歪めても味がある美形にしかならないんだな、と見ていると、ツカツカと早歩きでやってきて、ボクとディートハルト兄様の繋いでいた手をチョップで放させた。
「いた、何するんだ君は」
「何で一緒に来てるの」
キロッと全然怖くない顔でボクを睨むノエル兄様。
「たまたま会ったので、一緒に来ました」
正直に答えたのだが、不満げな顔は変わらない。
「同じ側室棟から来るんだから、偶然一緒になる事だってあるだろう。いちいち嚙みつかないでくれ」
以前はアルダの王族の血を引くノエル兄様に気後れしていたディートハルト兄様だが、最近はこんな風にノエル兄様の不機嫌も軽くいなせるようになってきた。と言うか、ノエル兄様が会うと大体不機嫌だから、もう慣れたっぽい。
「同じ建物なら……」
言いかけて、ノエル兄様はチラッとボクを見た後にその形のいい唇を真一文字に結んだ。
ノエル兄様も同じ側室棟の住人ではあるけど、会わなかったのはきっと違う階段を使ったんだと思う。
各側妃はワンフロアずつ与えられていると言っても王族だ。ワンフロアがめちゃくちゃ広い。階段だって一か所ではないのだ。
その上王城という性質上、単純な造りではないから階段の位置も違ったりする。
だから以前のお食事会の時に、皆同じ階段使って会っちゃったのは使用人たちの段取り不足だったねって話だったんだ。
「まあまあ、そう悔やまれなくてもよろしいじゃないですか、ノエル王子」
「ゲ」
不機嫌に黙ってしまったノエル兄様にどうしたものかという空気をぶち破ったのは、ノエル兄様の護衛騎士であるローレンツだった。
相変わらずの人好きしそうな笑顔で、膝を折ってノエル兄様に寄り添うそぶりを見て、ベディから嫌そうな声が漏れた。気持ちは分かるけど、減点なので夜のお勉強会の時に叱っておこう。
「次からは、ノエル王子がお迎えに行けばよいではないですか」
この男、ノエル兄様の護衛騎士であるが、昔おじいさまの師事を受けて母様の実家で住み込み弟子をしていたそうで、おじいさまの厄介信奉者なのだ。そしておじいさまの実孫であるボクに、どんな困難も跳ね除けるおじいさまの様になってほしいらしくて、こうして余計な事を言ったり持ち込んでくる。
アルダの王家の血を引くノエル兄様が、わざわざボクの所にお迎えになんて来たらナターリエ様ならびにノエル兄様を信奉している従者たちから何を言われるか……勘弁してほしい。
田舎男爵家から騎士団長までに上り詰めた破天荒おじいさまみたいになれなんて無茶を言わないで欲しい。
ボクは与えられる政略結婚先でお嫁さんと幸せな家庭を築くという、夢があるのだから。
「殿下方、お揃いでしたらそろそろお席に……」
入り口で溜まっちゃっていたので、エアハルト兄様の従者がボクらを呼びに来た。茶色と銀色の交じったアッシュカラーの髪のセレスタンだ。基本的に淡々としている印象。
「ノエル兄様、ディートハルト兄様、もう準備出来てるそうですよ」
ボクもこれに乗じて、お迎え云々をうやむやにしちゃおうと声を掛けたら、二人の兄様もここに来た目的を思い出したようで、テラスに向かった。
なんせ第三妃の次男であるエアハルト兄様主催のお茶会だからね。粗相があったら困ると言うか、弱みを見せてはいけないと各従者、護衛騎士も気を張ってるみたいで急いで定位置に付いた。
各従者は王子の傍に控えて、護衛騎士はさらに後ろに控える。
主催のエアハルト兄様の傍には、従者セレスタンと茶会用にメイドがいて、後ろにはあの目つきの悪い騎士のオルフィが全体を睨むように立っている。
ディートハルト兄様には従者ゾーイと、後ろにはアードリアン。
ノエル兄様の傍には、見たことがある様な無いような、青緑色の髪色をしたメガネの男が立っていて、多分クルトの後任の従者だと思う。それから後ろにはローレンツ。
ボクにはベディしか付いてきていないし、ベディに従者的なことは出来ないから、後ろに控えててもらってる。
さあ、お茶会の始まりだ。
また空いちゃってすみません。
新キャラが出ていますので、頑張って覚えてください!
ゾーイ(32歳) ディートハルトの従者。長身、薄茶色髪、メカクレ、何か嫌味な言い方




