帰り道2
サキチとピナは帰宅客でそれなりに賑わっている駅を出て、昨日と同じように一緒に帰っていた。サキチは気分が落ち着くまでダイバー班の席にいると、ミッションを終えたピナと再会した。みさ希がサキチの体調を気遣って一緒に帰るように指示していた。
「先輩……サキチ先輩っ!」
ピナの声にサキチは顔を上げた。
「前、見て歩かないと車に引かれちゃいますよ」
「あぁ、悪いな。もう大丈夫だ」
「本当ですか? 今日のミッション、大変だったみたいですね」
――そんな不甲斐ない顔をするな。次の潜入計画は我々に任せて、今日は帰っていい。少し休め。
夢から覚めて言われたみさ希の言葉がサキチの脳裏に蘇って来た。あれだけ期待されていたにもかかわらず、初めて何の手がかりも得ず、ミッションが終了した。その悔しさと依頼者への申し訳ない気持ちでいっぱいになった。依頼者への対応はマネージメントのみさ希さんを通して運営室が行っている。どう対応説明するのだろうか。
「サキチ先輩の行った通り、ヘッドホンをして音楽が流れて来たらすぐに緊張のことなんて忘れて夢の世界にいました。ダイブする時、悪魔に意識を引き抜かれて、暗闇に突き落とされるのかもって想像したりしてたんですけど、まったくそんなことなかったですね」
ピナはちらっとサキチの表情を伺ったが心ここにあらずな状態だった。
「実は私、今日、ミッションを二つもやったんですよ。一年以内の近い記憶だったので、特に問題もなくクリアできたんですよ。でも、すっごい疲れました。寝てるのに、夢の中で鍵を探すのに頭を使うし、ずっと頭の中を見られているようで。私も少しお休みをもらったんですよ。先輩もお休み、もらんたんですよね」
――同じ人に連続ダイブするには二日から三日は間を空けなければならない。
その間に時田さんたちは、新たな手だてを考えるだろう。俺は休んでしまっていいのか。俺も一緒に……。
「先輩、スト―――ップ!」
ピナのかけ声で、サキチは思考をやめ、足を止めた。
「これ以上、先に行ってはダメです。先輩のうちはここから入らないと」
もうマンションの前まで来ていた。
「あら、サー君じゃない。サー君、今帰り? バイト早く終わったの?」
サキチはその声で振り返ると、そこには買い物帰りの女性がいた。
「げっ、母さん!」
「あら、サー君のお友達? でも、サー君の学校の制服ではないのね」
「こんばんは。バイト先でサキチ先輩にはお世話になっております。初めまして、ピナと言います」
ピナは満面の笑みを見せた。
「あら、バイト先の。良くできた子じゃない。ピナちゃんっていうの。可愛い名前ねぇ」
母さんも名前に疑問を持たないんだ。
「いいえ、とんでもございません。今日は先輩がバイト中に体調が少し崩してしまって。それで帰る方向が一緒でしたので」
「そういうことは言わなくていいんだよ」
ピナの言葉にかぶせて、サキチは言った。
「わざわざありがとうね。サー君、大丈夫なの?」
「もう大丈夫だよ。ちょっと立ち眩みしただけで、大げさなんだよ。みんな」
「もう、こんな可愛い子が心配してくれてるのに、まったく。あ、遅くなるといけないわ」
「いえ、大丈夫です。うち、こっちのマンションなんで」
ピナは道路向こうの大きなマンションを指差した。
「それこそ、言わなくていいんだよ。ピナ!」
サキチはすぐにピナの手を下ろさせた。
「あらぁー、ご近所なの。これからもサー君をよろしくね。せっかくピナちゃんとお近づきになれたことだし、うちでお夕飯食べて行く?」
――どうしてそういう流れにするのかな、母さん!
「えぇ、いいんですか?」
ピナは目を見開いた。
――遠慮という言葉を知らぬのか?
「いいわよ。一人や二人増えても変わらないから。人数が一人でも多い方が楽しいじゃない」
「では、お言葉に甘えて」
「いいわよ。さぁ、行きましょう」
サキチは無言で二人の後を追った。




