サキチの部屋
夕飯ができるまでの間、ピナはサキチの部屋で待たせることにした。
まさか初めてこの部屋に入る女子がピナだとは思わなかったな。サキチはイスに座っているが落ち着かないでいる。ピナが部屋を物色しているからだ。特段、ひっくり返されて見られてはいけないやましい類いの物は隠し持ってはいないけれど。
「フロイト! ちゃんと夢を勉強しているんですね。私も少しは夢について勉強しなきゃって思ってたんですよ。脳についても知ってた方がいいのかぁ」
ピナは本棚にあった本を引っぱり出した。
「それは目を通しただけ。理解できたかと言えばそうでもないし。読みたければ貸すよ」
「いいんですか? じゃぁ、お借りします!」
「勝手に夕飯、食べに来ていいのかよ。親とか大丈夫なのか?」
「その辺は心配しなくても大丈夫です。お母さん、帰って来るの遅いので」
「何している人?」
「デザイナーです」
「忙しいんだな」
「悩んでいる時間の方が多いみたいだけど。だから、私、こう見えても料理はできる方ですよ」
ピナはサキチにピースをした。えっと、これは女子アピールをしているのかと、サキチは内心思った。
「で、お父さんは?」
「お父さんはカメラマン。でも世界中を飛び回ってるみたいでほとんど家にはいない。何を撮っているのかもよく知らない」
「実は、すごい有名だったりして?」
「お父さんはどうかわからないけど、お母さんは……」
ピナの声が急に小さくなった。そして、すぐ、
「ねぇ、これ! 可愛いと思いますか?」
ピナはいつもの調子で、鞄につけていたドクロのファンシーなキャラクター人形を見せてきた。他にもじゃらじゃらとたくさんのドクロキャラが鞄につながれていた。
「まぁ、かわいいのかな、それ……。ドクロが好きなのか?」
「そうですね。スカルデザインが好きです。昔は怖くてグロイ系のスカルも好きだったんですけど、今はゆるいデザインにこってます」
ピナはそう言いながら、鞄の中から色々取り出し始めた。授業で使っているノート、筆箱、ポーチ、財布、携帯電話とそれ自体がドクログッズであったり、一部にシールが張ってあったりととにかくドクロだらけだ。そういえば、昨日、調査室に持って行ったペンとノートもドクロがあったなとサキチは思い返した。
「このボールペンの頭を見て下さい。頭蓋骨が少し裂けているのわかりますか?」
ピナが無理矢理ペンを手渡す。
「たぶん、斧で一発やられたというデザインなんですよ」
「あぁ、そう……」
――個人解釈なんだろ、それ。
「これは髪を結わく時のヘアゴムで、ワンポイントとしてハートマークのドクロで可愛いんですよ!」
「なんで、そんなにドクロが好きなわけ?」
「……」
ピナはしゃべりをピタリとやめてしまった。
「いや、話したくなければいいんだけど」
「いいえ、大丈夫です。今回は特別に、教えて上げます。実はお母さんが有名なキャラクターデザイナーで、私が子供の頃からデザイン案を見せられて、いつも反応を伺われていて……。私がいい反応をしないと、お母さんはまた悩んじゃって、子供ながらにそういうお母さんを見たくなくて……。いつからか、お母さんが好まないキャラクターを好きになろうと思って、行きついたのがドクロだったんです。結局、こういうふうにデフォルメされた可愛いデザインが好きなんですけど」
なるほど。サキチはそれを聞いて合点した。するとピナは立ち上がり辺りを見渡した。そして、ノートパソコンと教科書の類いが置いてある勉強机に近づいた。子供たちがたくさん並んで撮った写真を見つけた。
「んーと。あっ! 先輩はこれですね。あまり変わらないですね」
「成長してないって言いたいのか?」
「そういうつもりじゃ……でも、なんかこの写真、変ですよね? 男子と女子混ざって、小さい子から中学生くらいまで人まで。町内会か何かの集まりですか?」
「違うよ。俺、施設の出だから。それは子供の頃、施設の仲間たちと撮った写真」
「えっ、じゃぁ、今のお母さんは」
「血のつながりはない。里親。……と、いっても本当の親としか思えなくなってるけどな」
サキチは一切嫌な顔をせず、笑顔で答えた。
「ごめんなさい。変なことを聞いてしまって」
「謝る必要はない。本当のことだし。今の仲のいい友達は知ってるし、問題ない。変に気を使われると困るからやめてくれ。それに生みの親のことは覚えてないし、物心ついた時には施設にいて、それが俺の日常だった」
と、その時、母親から夕食の準備ができたと呼ばれた。




