3Dシステム
サキチは今日のミッション情報を読み込んでいた。ダイバー班の席近くのドアが開くと、スレンダーな女性とよれよれのスーツ姿にメガネをかけた青年が出て来た。
「良かった、ピナさんも一緒にいてくれて」
「お疲れ様です。みさ希さん、時田さん」
サキチは背筋を正した。つられてピナもそうした。
「楽にして、二人とも。ピナさん、ようこそ夢乃調査室へ。改めまして、私は調査室マネージメント班班長の林原みさ希です。これからよろしくね」
「いいえ、こちらこそよろしくお願いします」
ピナは会釈した。
「そして、こちらが開発室兼調査室室長の時田」
「時田良彦です。面接の時以来だね、ピナさん。これから潜入ダイバーとして頑張ってね」
「はい!」
サキチは、ピナの名前がピナとして通用していることにビックリした。もうピナの名前に疑問を抱いても意味がない。
「時田さん。これから俺のミッションですよね」
と、サキチが立ち上がった。すると、みさ希が、
「今日、サキチ君のミッションをピナさんが見学します」
「えっ。見習いダイバーの研修は別プログラムでありましたよね?」
「今は悠長にそんなことやってられないのよ。少しでも多くダイバーを増やしておきたくて。ピナさんの場合、研修プログラムをやるよりオペレーションを見てもらった方がいいと思うの」
「はぁ、そうなんですか」
そうみさ希さんが言うならと、サキチは納得した。
先ほどみさ希と時田がやって来たドアを通り、オペレーションルームへ向かった。
「時田さん。どうしてピナをダイバーとして採用したんですか?」
みさ希とピナから少し離れて、サキチは時田に聞いた。
「不服かい?」
「不服とまでは言いませんけど」
「林原さんと僕で面接したんだけど、不採用にする理由がなくてね。それがどうしてか。近いうちにサキチ君もわかると思うよ」
時田はニヤついて見せた。
四人は三番目のオペレーションルームに入った。モニターやキーボードなどのコントローラーが設置されていて、いくつもの小さなLEDランプが頻繁に点滅を繰り返していた。サキチは何も言わずさらに奥のドアを通り、ベッドに横になった。そして、ヘッドホンをする。
その様子は手前の部屋から窓越しに見ることができた。
「うわー、本当に寝て夢に潜入するんですね」
ピナは興味津々だった。電車の先頭車両で運転席越しに向かい流れ行く景色に釘付けになっているようだ。
「サキチ君、聞こえるかな?」
時田が聞くと、スピーカーから〈聞こえています〉とサキチの声が返ってきた。クライアント用の電子モニターを時田が確認していると、
「クライアントが睡眠状態に入った。これからサキチ君をクライアントの夢にダイブさせるよ」
〈了解。お願いします〉と、スピーカーからサキチの声。サキチ用のモニターグラフがクライアントと同じように波形、数値などで表示されて刻一刻と変化している。そして、メインモニターに映像が乱れた状態で映し出される。だんだんと情景がはっきりしてくると、そこはどこかの写真スタジオだった。真っ白なスクリーンが天井から床へと伸び、大きな照明もたかれている。その照明の光を浴びてシャッターが切られるのを待っているかのごとく黒い箱がスタジオの中央に鎮座している。と、そこにサキチの姿が映った。
〈オペレーションルーム、見えてますか?〉
「ばっちり映ってるよ。サキチ君」
時田が答えた。
「これが夢の中ですか?」
ピナが画面に食いついた。
「そうよ。クライアントの夢の中にサキチ君がいるわ。そして、夢とダイバーを繋げるシステム[Diving Dream Device]通称3Dシステム。我が社自慢の夢のシステムよ。これは社長と時田さんが開発したものよ」
「3Dシステム。かっこいいですね! でも、サキチ先輩はもう寝ているんでよね。私、あんなに早く眠れないです」
「心配しなくても大丈夫よ。あなたも睡魔に抵抗する暇なく眠ってしまうから。サキチ君のしているヘッドホンから流れる音楽に仕掛けがあるの。その音楽を聞くとすぐに眠りにつく作用がある」
依頼者にも同じヘッドホンと音楽再生プレーヤーを送ってあり、予定の時間にその音楽を聞くように指示している。この辺りの流れは夢乃調査室がインターネットに公開しているウェブサイトのサービス案内に細かく書かれている。
クライアントの音楽再生プレーヤーには通信システムが組み込まれていて、クライアントが音楽を聴き始めるとクライアントの夢が3Dシステムにマウントされるようになっている。
ヘッドホンの左右から波長がわずかに異なる音楽を流し右脳と左脳の脳波が同調するというヘミシンク効果を応用した特殊な技術を用いて、音楽を作っている。それを聴くと脳波を読み取ることができ、制御することが可能になる。依頼者とダイバーの脳波をつなぎ、処理しているのが3Dシステムだ。これによって処理された夢世界に、失われた記憶の情報を断片的に集めることができるのである。その断片を集めてつなぎ合わせて記憶を復活させるのがダイバーの仕事である。
そのダイバーが十代の人間に限定されている理由は、夢の中を自由に動き回れる力「ハル・レゾナンツ」夢の調和共鳴力が非常に高いからである。この力を処理するのはもちろん3Dシステムだ。「ハル・レゾナンツ」は二十歳を過ぎると極端に力が落ちてしまい、夢の中へ入り込めなくなってしまう。そのため中学生から高校生くらいまでの人間をダイバーに選出している。性別は特に問わない。




