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ヘムロック

 放課後、サキチはホームルームが終わるやいなや、教室を飛び出した。他のクラスもちょうどホームルームが終わり、部活に行く生徒や帰る生徒が廊下に出てきていた。サキチは博文の教室に飛び込んだ。

 すぐに博文は見つかった。まだ机で、携帯電話を見ていた。

「話がある。ちょっと、付き合え」

 携帯画面からサキチに視線を合わせると、ニヤリと笑みを浮かべた博文。

「君から誘ってくれるとは、珍しいこともあるんだね。いいよ」

 そう言って博文は立ち上がった。

 教室を出て行く二人を、周りの生徒達は不思議そうに見ていた。よそのクラスのサキチをというよりは、ほとんど人と関わりを持とうとしない博文が、自分のクラスメイトではなく別のクラスの生徒と会話をして一緒に歩いている光景が奇異に見えていたのだ。しかも、楽しそうに。


 日陰のない屋上に出たサキチと博文。サキチが先行して口を開こうとした時、博文が先に話し始めた。

「昨日のミッション、上手く行ったよ。ちゃんと立ちまわってくれて助かったよ。これでまた一段、計画が進んだ」

「時田博文。俺を夢の中で駒として扱うのは、100歩譲っていいとしても、別の夢にダイブしてミッション中のダイバーを脅かすのだけは、もうやめろ」

 サキチより二回りも小さい博文の前に、サキチが立っても博文は物怖じしなかった。

「僕が夢にダイブ? どういう意味かな?」

「とぼけるのもいい加減にしろよ。記憶の守り人と名乗っておいて、勝手に鍵を見つけてアトラクタの箱を開けたり、ダイバーに扮して夢に潜入したり……」

 サキチの強い発言に驚いた顔をする博文だったが、すぐに呆れたように肩から息を抜くように深い溜息を吐いた。

「はぁー……。サキチくん、君は馬鹿なのか?」

「あぁ? 今、なんて言ったっ?」

「君は馬鹿なのか、って言ったんだ。聞き取れなければ、何度でも言ってやる。馬鹿なのか? 馬鹿なのか? 馬鹿なのか?」

「――っ」

 サキチは博文を見下ろしているはずなのに、地から押し上げてくる圧力を感じて一歩足を引いてしまった。

「ユメミン。名前くらい聞いたことがあるだろ?」

 博文は、メガネを指で軽く上げ、フェンスに向き直った。グラウンドで部活を始める生徒やその間を通って下校する生徒たちが見えた。

「あぁ、夢を解析するための……」

 サキチは以前のミッションで一緒にチームを組んだ、解析班に所属するジャージ姿の山寺がユメミンの説明をしていたことを思い出した。

 ――突然、俺を馬鹿呼ばわりして、俺にはわからないプログラムの話でやりくるめようとしているのか、コイツ。

「あのプログラムの元は、僕が作ったんだ」

「えっ?」

 ――コイツが? まぁ、今まで俺の扱われ方を考えれば、否定しない。

「それをアニキが上手いこと自分たちで作り替えて利用しているんだ。なにがユメミンだ。子どもじゃあるまいし、あんな可愛らしい名前をつけやがって。僕だったら、もっと聡明な名前にしたのに」

「それじゃ、自分のプログラムを盗まれたから、嫌がらせを?」

 すると、博文はキッとサキチを睨みつけて、

「君は馬鹿なのか? 馬鹿なのか? 馬鹿だろ!」

「はぁ? お前、言い切ったな」

「話の読めないやつだな」

「読めなくしているのはどっちだ」

「では、言い方を変えよう。状況を理解していないのは、そっちだ」

「状況? どの状況を言ってるだ?」

 はぁー、と博文はまた溜息をした。

「僕が君のミッション中にメッセージを送ったり、昨日のようにプログラムを夢の中で手渡せる状況だよ」

「それは、お前が故意に俺たちを困らせよう……として……」

 サキチはそこまで言って、口を止めた。今の考えはそこで止め、頭のなかでは別の思考が生まれていた。サキチの口は開いたままだ。

「やっと理解できたようだな。つまり、僕が君のミッションにつながることができるということは、他の誰かもそういう可能性があるということだ」

 ――じゃぁ、ピナが見たもう一人に自分は博文ではなく……。

 屋上は風が吹いているとはいえ、残暑のせいでまだ風は熱く、サキチの額から汗を流すが冷たさを感じた。

「その顔を見ると、思い当たる節があると……。さっき、アトラクタの箱の鍵が開けられたとか、ダイバーを脅かしたとか、それらは僕がやったことじゃない」

「じゃぁ、一体誰が……」

「さぁ、誰だろう。ただ、アニキたちが使っているユメミンには一つ大きな欠陥があって、未だに直せていない。それが今の状況を生んだ」

「欠陥? 博文。君が作ったなら直せるんじゃないのか?」

「直せるけど、開発室の人たちが手を加えてしまっているし、アニキたちにもプライドがあるから僕の介入は容認されないだろう」

「おいおい、そんなこと言っている場合じゃないだろう」

 サキチは頭を抱えた。

「……ヘムロック」

「ヘムロック?」

 サキチは首を傾げて復唱した。

「ユメミンはもう直す必要はない。僕が新しく開発した解析プログラム『ヘムロック』を導入すれば、今回のような状況は二度と生れない」

「だったら、それをすぐに使えば」

「それが現実的だが……どうかな」

「どうかなって、侵入者をいつまで自由にダイブさせておけないだろ」

 サキチは強く言った。

「もちろん、僕もその意見には同意だ」

 博文はニヤリと笑みを浮かべて、指でメガネをくいっと上げた。

「だったら……」

 サキチは焦れたかった。

「ここで一つ、手を組んでみるつもりはないか」

 すると、博文が手を差し出し、握手を求めてきた。

「俺を利用しようといるのか?」

 サキチは博文の細い指のある手を握ろうとはしない。

「利用なんて言葉が悪いな。でも、これを聞いたら君も興味を持ってくれると思うんだ?」

 博文はまた微笑んだ。

「なんだ?」

「ユメミンでは実現できない潜入機能があるんだが、サキチくん。自分自身でそれを体感してみるつもりはないかい?」

 ――結局、俺を利用して自分の作ったヘムロックというシステムを実際に試してみたいだけじゃねーか。でも……ピナを守れるなら。

「そっちから手の内を明かしてくれるとはな。いいだろう、手を組もう」

 サキチは博文の手を握り返した。

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