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決意

 日没を過ぎた誰もいない公園のベンチにサキチは座っていた。時々、帰宅する人が公園の前を通る。

 誰にも使われていない、ただあるだけの遊具をボーっと眺めて、サキチは悩んでいた。

 今日のミッションは、表向き成功に終わっている。ミッション終了後、博文のプログラムをインストールしたことをみさ希や時田に指摘されることはなかった。

 ――オペレーションルームからだと確認できないようになっているんだ。時田博文、記憶の番人と言いながら、本当の目的はなんだ。

 サキチは、一人で考えることに限界を感じていた。考えていてもただ時間が過ぎて行くばかりで何も解決できていない。これを期に、みさ希に事の全てを伝えようかと思い始めていた。

 ――しかし、この判断を間違えれば、ピナだけでなく夢乃調査室にも大きな危害が加えられてしまう可能性もある。このまま、時田博文の好きなようにさせておいていいのか。

 と、そこに一匹の蟻がサキチの足元を通りすぎようとしているのが目に入った。まるで、夢の世界で博文に蟻のサキチを俯瞰してみているように思えた。

 ――夢の中じゃ何もできないけど、この世界だったら、俺だって行動できる。

 サキチはそう思ったが、何をいったいどうできるかまでは考えつかなかった。それに博文も馬鹿ではない。向こうの世界とこっちの世界の区別くらいつけて、計画しているはずだ。下手に行動を取れば、揚げ足をとられるだけだ。

 サキチは、唇を噛んだ。

「先輩!」

 地面を見ていたサキチに視界に、突然女性の足元が入り込んできた。顔を上げると、ピナが制服姿で立っていた。

「どうしたんですか、俯いちゃって。なにか嫌なことでもあったんですか?」

「いや、別に……。蟻がいたからずっとみていた」

「蟻ですか? 先輩って昆虫好き?」

「子供の頃以来、興味を持って見てなかったなぁって。ピナは、ミッション終わりか?」

「はい……。隣、座っていいですか?」

 サキチは、少し腰を上げてずれた。

 ピナが隣に座ると、ハァーと肩を落として溜息をついた。

「先輩。今日のミッション、私、失敗しちゃったんです」

「失敗? 時間内に鍵を見つけられなかったとか?」

「結果的には、そうなんですけど。私、夢の中で気を失ってしまって。ミッションを成功できなかったんです」

「気を失うって、夢の中で何をしたんだよ」

 自分の失敗を苦笑いしているピナに、サキチは冗談を聞くように笑顔で問うた。

「私が何かをしたわけじゃないんですけど、出会ってしまったんです。侵入者に」

「! それって、この前、言っていた?」

 ――博文。とうとうピナにも。

「たぶん。でも、その侵入者は私と同じ格好をしていて。もう一人の自分がいると思って。もうそこからは、パニックで、気づいたら夢の中ではなく、オペレーションルームで目を覚ましました」

「何かされたわけじゃないのか」

「はい」

 ピナはその時のことを思い出しているかのように、星が輝きはじめた空を見上げた。

 気を失っただけのピナに安心したサキチだったが、この時ばかりは怒りを覚えていた。たとえ、ピナの格好をしていたとしても、3Dシステムを操作できる博文なら自分の姿を変えるくらい問題ではないだろう。

 サキチは、グッと自分の手を握った。

 ――やっぱり、このままアイツの言いなりになっているのも癪だ。こんな状況になっても時田さんたちが行動をとらないなら、俺が直接博文を問い詰める。

 すると、サキチはベンチから立ち上がった。

「これから、うちに飯を食べに来るか? うちの親はピナがいると喜ぶからさ」

「ありがとうございます。でも、今日は大丈夫です。お母さん、早く帰ってくるから一緒に食べる約束してて」

「そうか。それならそっちの方がいい」

 ピナも立ち上がり、

「先輩、心配してくれてありがとうございます。問題については、みさ希さんたちに任せて、私は自分ができることをやるだけです」

「まぁ、無理はするなよ」

「はい!」

 サキチは、笑顔を見せた。

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