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暗躍する者

 気がついて目を開けると、サキチは畑に立っていた。辺り一面土が広がり、緑の葉っぱが規則正しく並んでいる。サキチのヘッドホンからオペレーションルームにいるみさ希の声が聞こえてきたが、頭の中まで届いていない。このミッション中に博文から脅迫めいて頼まれたことをオペレーションルームにいる人たちにバレないようにしなければならない。そのことばかりサキチは考えていた。

 サキチは、とりあえず鍵を探しながら博文の合図を待つことにした。

 畑の脇に山のような農具が置いてあったのを発見したサキチは、農具近辺を調べ始めた。その時、目の前にパズルのピースが闇から放たれるようなどす黒い光を湧かせて現れた。

 ――来たか……。

 サキチはすぐに博文から送られてきたプログラムだとわかった。前回のミッション同様、博文が送ってきたメッセージの書かれた紙は、オペレーションルーム側では確認することができない。並べられた農具を調べるふりをして、いかにも怪しくデザインされたピースを掴んだ。

「ここには鍵の手がかりになりそうなものはありませんね」

 その場を離れたサキチは、オペレーションルームに映しだされているモニターからフレームアウトするように意識した。スレートを使って博文から渡されたピースの形をしたプログラムを3Dシステムに流しこむため、怪しい素振りは見せたくなかった。モニターするアングルはすぐにサキチを追ってくることは緊迫した状況でない限り、すぐに追ってくることはない。

 ――ここなら。

 サキチは十分にカメラアングルから外れただろうと確信し、腰にケースに入っているスレートを取り出し、黒いピースをスレートの上に置いた。すぐに画面はインストール画面に変わり、進行達成バーが表示された。

《時田さん、サキチくんを映して》

 ヘッドホンからみさ希の声がした。サキチはモニターされてもいいように何とか平常心を保とうとしている。

 進行バーは、まだ100%に達しない。

《ん、畑の中でなにか光ったな!》

 そう言ったのは、時田だった。

《どこ? そっちにカメラを近づけて》

《はい》

 サキチも今のやり取りを聞いて、畑の方を見たが光っているものは見当たらず、光りそうなものすらない。

 ――時田さんが見たものは一体……。

 時田の一言でオペレーションルームとサキチは、その光のことに注意が集められた。まもなくして、進行バーが100%に達して博文のプログラムがインストールを完了した。

 サキチはオペレーションルームに悟られることなく、裏のミッションを終えることができ、ひとまずは安心することができた。

 ――それにしても、時田さんのあの発言はタイミングが良すぎる。もしかして、俺から注意をそらせるため? インストール完了までの時間稼ぎをするためか? いや、単なる偶然か。偶然ならともかく、博文の不正なインストールを時田さんが知っていて隠しているんだろうか。だったら、なぜ、みさ希さんたち調査室面々を煙に巻いてまで、こんなことをする必要がある。

 サキチは新たな疑問を持ちつつ、このミッションを続けた。


 ほぼ同じ時間に、ピナも潜入ミッションを行なっていた。

 晴れ渡る空の下、穏やかな海がどこまでも広がり、豪華客船が航行している。ヘッドホンの外から入り込んでくる海の音を聞きながら、ピナは目を開けた。

「わぁ、すごーい!」

 甲板にいるピナは、巨大な船、果てしなく広がる海と空に心を奪われていた。

《はい、ピナちゃん。クライアントの夢フィールドで浮かれない》

 ヘッドホンからオペレーションルームにいるマネージメントの堀の声がした。

「はーい。でも、夢は本人の現実の影響を受けるんですよね。だったら、このクライアントさんは船旅したことあるんですかね〜」

《なに呑気なこと言ってるの。クライアントは40代の女性作家。いくつか本を出しているみたいだけど、売れ行きはいまいちだったそうよ。それに2ヶ月前、自殺を試みて、結果、奇跡的に助けられたそうよ》

「えっ、自殺? どうして……」

 浮かれきった気分は一瞬にして吹っ飛んでしまったピナ。

《生活は苦しかったみたいよ》

「そうですか。じゃぁ、ここは女性の憧れの場所なんですかね……」

《それはどうかしらね。なんて言ったってクライアントの思い出したい記憶は、『私の生きる目的』だから》

 ピナはそう聞いて、大海原に浮く豪華客船のロマンある旅がとても悲しく思えるようになった。そして、そこにはピナしかいない、クライアントの夢の中。記憶を探すためだけに具現化された世界。

「……それは記憶なんですか」

《いつの日かまで、自分に言い聞かせて持ち続けてきた気持ちのようなものかもしれないわね》

 自殺を決心するほどだから、女性の求める『生きる目的』は必要のないものになり忘れられてしまったのね。なんとかこの人の力になってあげたい。直接は何もできないけど、このミッションは絶対成し遂げてみせる。

 ピナは、そう思うと同時にサキチの悩む顔を思い出していた。

《まずは、アトラクタの箱の場所を確認しておきましょう》

「あ、はい」

 ピナはスレートを腰のケースから取り出してマップモードに変更した。豪華客船の見取り図が表示され、その中央付近のとても広そうな部屋で赤い印が一つ点滅している。アトラクタの箱は一つだけのようだ。

 甲板にいるピナは、正面のガラスドアから中に入った。広いフロアーになっていて、ガラス窓に一面囲まれ、外の海が見えるようになっていた。

《鍵の手がかりになりそうなものも探しながら、進んでいきましょう》

「はい、そうですね。すごい広いですし、わぁ―――――」

 フロアーをまっすぐ進むと中央は吹き抜けになり、目の前の天井にはきらびやかに輝くシャンデリア。真下は乗船客が全員集まれそうなほどのホールになっていた。舞台もあり、船の中、とても海の上にいるとは思えなかった。

 その大広間のど真ん中、ちょうどシャンデリアの真下にアトラクタの箱があった。ピナはスレートを見て階段を探した。吹き抜けをぐるりと取り囲むように廊下が伸びて、その途中途中にいくつも階段が設置されていた。またところどころにエスカレーターやエレベーターもあったが、なぜか動作しなかった。ピナは仕方なく階段で降りて大広間にやってきた。

 上からみた時は気づかなかったが、その階、デッキ一面が色んなエリアに分かれていていろいろな模様しが行われていそうだった。

 上を見ると、シャンデリアが外から入ってくる陽の光できらきらと輝いていた。その輝きが吹き抜けを落ちてミラーボールとまでは言わないが、雪が舞うように大広間を幻想的にしていた。そして、広間のど真ん中に黒いアトラクタの箱が鎮座していた。ピナが確認すると、箱は開けられていなかった。

「ふぅー、よかった。開いてなかった」

《そうね、どう喜んでいいのか困るわね》

「ふふっ、そうですね。さて、鍵を探しますか。っといっても、こんなに広いところから鍵を探すのって90分じゃ見つけられないと思います」

 ピナは辺りを見回すと、本当に船の中とは思えないほど広くて愕然とした。

《はい、弱気にならない。なにかヒントが絶対あるはず。その辺りから探してみましょう》

「はーい」

 ピナは両拳を握り、ヨシと気合いをいれて歩き出した。

「まずは何かを隠しておけそうな場所は……」

 ピナは端にあるカウンターに向かった。グラスが綺麗に並べられ、棚には英語ラベルのお酒がずらりと並んでいた。カウンターの中に入り、カウンター下を探してみたが手がかりになりそうなものは何もかなった。

 カウンターからピナは辺りをぐるりと見回した。ふと、舞台上で光が固まって揺れていることに気づいた。ピナは足早に舞台に向かい、上がるとシャンデリアの光が壁に当たっているのだとわかった。

 シャンデリアに反射して光がここまではっきり届くのかしら。でも、夢のなかだからいいのかな、と少し疑問に思ったがゆっくり揺れるその光の塊をじっくり見ると、アルファベットが映っている。


 nxxx


 と、はっきりピナは確認することが出来た。

《何かの暗号かしら……》

「どういう意味でしょ……あっ、どっかでこの並びを見ました」

 ピナは舞台上から辺りを見回した。さっきまでカウンター、吹き抜けの階上、さらに上の階、そしてシャンデリア。

「船内の案内板だ」

 階段降りる際、壁にかけられた案内地図を思い出した。ピナは舞台を駆け下りフロアーを疾走して出て行き、廊下にある案内板を見つけた。横長に描かれたその階の見取り図を指を差して、アルファベットの並びを探した。

「あれ、ない? ここに来る時、ちらっと見るだけだったから間違いだったのかなぁ」

 何度も指を行き来させるが見つからなかった。

《ピナちゃん、その階に行ってみたら? この階じゃないのかも》

「はい、そうします……って、階段上るのかぁ」

 ピナは愚痴を言いながら階段を上がり、フロアーマップを見ていく。Deck6の階にもアルファベットの文字は見つからなかった。さらに上の階に上がった。

「あった! げっ?」

 Deck7と書かれたフロアーマップに『nxxx』の文字があったが、Deck7は客室のフロアーになっていてたくさんの部屋が並んでいた。その各部屋のルームナンバーが全て『nxxx』だった。

「全部探せってこと?」

 ピナはフロアーマップに手をついて、溜息をした。

《ん〜、それか全部共通ってことかもしれないわね。一番近い部屋に入ってみましょう》

「は〜い」

 ピナはとぼとぼ歩きはじめたが、すぐに最初の『nxxx』の部屋にたどり着いた。念のため隣の部屋のルームナンバーのプレートを確認したが、『nxxx』と同じだった。

「全部の部屋にアトラクタの箱の鍵があって、そこから開く鍵を探せってのはなしでお願いします! 失礼しまーす」

 ピナは、ドアをノックして中から何の反応がないことを確認して部屋に入った。

 部屋の中は窓から入る外の光で明るく、2つのベッドで部屋はほとんど占領されていた。しかし、ゆっくりするには十分高級なベッドだ。テレビや棚、小さいながら机も備えられ、メモ帳が置いてあっただけだった。

 私もいつかこんな船で世界を旅してみたいとな、と夢を思い描いた。

《なにか気になるものはありそう?》

 堀の声がピナを現実に戻した。

「えっと、そうですね……」

 ピナは慌てて部屋を隈なく探し始める。部屋の利用者がいないせいか物は少なく、何か隠されているようには思えなかった。ベッドの下も覗いてみたが埃一つ落ちていない。しかし、ピナはこの部屋を見回してから、何か足りていないと違和感を覚えていた。一緒にあるべき物がない気がしていた。もう一度部屋を見回し、机に近づいた。

「あっ!」

 ピナはメモ帳をじっくり見つめた。

「そうか」

《ピナちゃん、なにか気づいたの?》

「はい! このメモ帳なんですけど、ちょっと変なんですよ」

《どう変なの? いたって普通のメモ帳に見えるけど》

「おかしくないですか、メモ帳だけあるのって。普通、ペンと一緒にあると思いませんか? ペンだけ用意されていないのは不自然だし、豪華客船のサービスとしてはちょっと考えられないというか……」

《まぁ、そうかもしれないけど、夢の中だし、細かいところまで具現化していないだけかもね》

 堀の声をヘッドホンで聞きつつも、ピナは、メモ帳をじっくり見つめた。そこには何か書かれた跡が残っていた。強い筆圧で一枚上の紙に書かれた時にできる跡だった。

 すぐにピナは手のひらを前に出し、目をつぶって、頭のなかで鉛筆をイメージした。すると、手のひらに光の粒子が集まり始め、その光の中から一本の鉛筆が出現した。

《あれ、ピナちゃん? 今日の具現化アイテムリストに鉛筆は入ってなかったわね》

 オペレーションルームのモニターで、鉛筆を具現化したピナを見ていた堀が聞いた。

「はい。マジックペンはリストに入れておいたんですけど、鉛筆が必要になったのでイメージして具現化しちゃいました」

 ピナは何の難しいことはありませんと言うように簡単に言った。

《普通、あとから何かを具現化することはできないのに……。凄いわね》

 ――みさ希さんや時田さんが言っていたことはこのことか。ピナちゃんのダイバーとしてのセンスが抜群ということがこんなことに生かされてくるなんて。

 ピナは、そうなんですか~と、まるで人ごとのように返事をして、手にした鉛筆でメモ帳に色を塗るようにして黒くした。すると、そこには『xxxx1024』という文字が浮かび上がってきた。

「ん〜、暗号? また部屋の番号じゃないよね……」

 ピナは頭を抱えた。

《これも鍵の在り処を直接示すものではないみたいだけど……》

 堀も同じく頭を抱えているようだった。

「こんなのは見かけなかったし。他の部屋でも同じなんですかね。隣の部屋に行ってみます」

 ピナは文字の書かれたメモ帳を一枚切り取り、部屋を出て行った。隣の部屋も先と同じ作りだった。ピナはすぐに机の上にあるメモ帳を手にとった。

「あった」

 またさっきと同じように鉛筆でメモ帳をこすると、白く文字列が浮かび上がってきた。

「! 同じだ」

 前の部屋から切り取って来たメモ紙を横に置くと『xxxx1024』の文字列が二つ並んだ。

「『x』が4つ。『1024』って、何の数だろう。ちょっと、私にはお手上げな気がする」

《そうね。これは少し考える必要があるわね。解析班を呼びましょう。ピナちゃんはそのまま手がかりになりそうな物を引き続き探して》

「はーい!」

 ピナはその部屋のメモを念のため、切り取っておいた。そして、辺りを見回すが、やはり先の部屋と同じスタイルで他に手がかりになるものはなかった。

 ――同じ部屋を探しても一緒なのかな。別の場所に行けば新しい情報が手に入るかな。

 ピナはそう思って、2つ目の部屋を出た。廊下を進むと、『nxxx』のプレートが貼られた部屋の扉がずっと並んでいる。

 ――この中に1つだけ『xxxx』っていう部屋があったりして……。

 途中までプレートを見て歩いたが、調べていくのを断念したピナ。ふと、手に持っていたメモ帳二枚を目にした。

 ――部屋にメモ帳があるのにボールペンの類がなかったのは、クライアントが作家を諦めてしまったことが夢に反映されていたのかな。筆を置くみたいな……。私がしっかり記憶を見つけてあげないと。ヨシ!

 ピナは気持ちを入れなおして、角を曲がった。


「!!!!!!」


 目の前に自分と同じ姿をしたピナがもう一人立っていた。そこには鏡はない。しかし、鏡の中に映る自分と瓜二つのもう一人が実際に存在している。


 ――し、侵入者っ?


 と、瞬時に頭の中を言葉が駆け巡った。同時に胸の鼓動は早くなり、背中を冷たいもので舐められたように悪寒が走り、状況を考えれば考える程、ピナの頭の中は真っ白になっていった。自分しかいないはずの夢世界での異常事態に、ピナは理解の限度を超えてしまう。

 ついには、一言も声を発することなく、ピナは糸を来られた人形のように気を失い、その場に倒れてしまった。

《ピナちゃんっ? どうしたの? ピナちゃん? 返事をして! 何があったの? ピナちゃん!》

 ヘッドホンから漏れ出る焦った堀の声は、ピナの意識に届くことはなかった。

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