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時田 弟

 残暑のピークは過ぎたと言っても、日中の日差しはまだ強い。日なたに出れば、じわりとサキチのYシャツが汗で滲む。

 学校のプール裏は影になっていて、学校の敷地と道路を隔つための壁があり、学生はまず通らない。放課後、サキチは昨日のミッションでトキタヒロフミに言われた通り、プール裏にやってきた。すると、トキタヒロフミがすでに待っていた。

「やぁ、約束通り、来てくれたね。潜入ダイバーのサキチ君!」

「……」

 笑顔のトキタヒロフミとは対照的に、サキチは彼を睨みつけていた。

「昨日はちょっとした挨拶代わり。面と向かって話すのは初めてだね、改めまして僕は時田博文。これから、いろいろとよろしくね」

 博文は、メガネを指で軽く上げた。

「ほぼ初対面で、これからいろいろとよろしくなんてできるかよ。聞きたいことは山ほどあるけど、目的は何だ?」

 夢に潜入している以上、たまたま入り込んで遊ぶ場所じゃないことくらいコイツだってわかっているはず。時田博文の狙いが何だ。依頼者の記憶、ダイバーとしての俺か、はたまた3Dシステムなのか。夢乃調査室という組織自体そのものか。

 博文は、サキチを見透かしているかのようにニヤニヤしている。

「目的というよりは、サキチ君に頼みたいことがあってね」

「頼みたいこと? そんなこと、こっちから願い下げだね。どこの馬の骨とも検討もつかない奴の頼みなんて聞けるか」

「どうかな。サキチ君は必ずや僕の頼み事を聞いてくれるよ」

「勝手に言ってろ。頼み方にも順序や礼儀があるだろ」

 サキチはその場から去ろうと一歩足を踏み出した。

「依頼者や君以外のダイバーがなんらかの事故に巻き込まれてもいいのかな」

「事故?」

 サキチは去りたい気持ちをぐっと抑え込み、もう一度振り返った。そして、

「それとも俺を脅迫しているつもりか?」

「脅迫なんてとんでもない。これは忠告であり、助言のつもりさ」

 サキチよりも背が低い博文の堂々たる態度が、サキチのイライラを募らせる。

「助言を聞けば、その事故は起こさないってことか?」

「その言い方は嫌だな。まるで、僕が事故を引き起こすみたいじゃないか。僕は大きな事故にならないよう働きかけているだけだよ。まぁ、僕の頼みを引き受けてくれるサキチ君次第だけど」

 話を引っ張り続け、あざ笑うように話す博文が、サキチは焦れったかった。

「はっきり言ったらどうだ。何が望みだっ」

「ふふっ……。次のミッションで君のスレートからあるプログラムを流しこんでもらいたい」

「何だと。そうしたら、どうなる」

「3Dシステムへの外部侵入口が完全に広がるんだよ」

「どういうつもりだよ。俺もお前の悪行に付き合って言うのかよ」

 サキチは、勢い良く博文の襟首を掴みあげた。

「ぐっ! く、苦しいな。放してくれよ。兄さんに忠告されなかったかい? 夢乃調査室の中で詮索はするなと」

「!」

 サキチは、ハッとなって昨日、時田開発室長に言われたことを思い出した。そして、博文の首元から手を放すと、こめかみから一筋汗が流れる。

「兄弟で何を企んでいる。お前らは一体……」

 サキチが問うた。

「記憶の守り人、とでも言っておくよ」

 ――記憶の守り人だと。何を言っているんだ。

「僕はやることがあるので、これで失礼するよ。次のミッションでまた会おう。その時、プログラムは渡すから、よろしく頼むよ」

 博文は呆然と立ち尽くすサキチを残し、去って行った。

 サキチは博文の言っていること、これからやろうとしていることにつながりを見いだせず頭の中が整理できずにいた。

 夢乃調査室に、3Dシステム、外部からの侵入口、そして記憶の守り人。俺の見えないところで何が起きているんだ。くそっ!

 サキチは壁を叩いた。

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