Detecting Dream Diver
サキチはオペレーションルームのベッドの脇に置かれたペンキ缶をじっくり見つめていた。昨日、みさ希に頼んで用意してもらったものだ。赤・緑・青。順に何度も見て目に焼きつるように。目をつぶってすぐに頭の中でイメージする。そして、ヘッドホンをした。
――ミッションスタート!
サキチが次に目を開けた時には、輪郭線で描かれた白い世界に立っていた。
「さっそく、ペンキをぶちまけます」
サキチは赤色のペンキ缶を具現化した。夢に潜入する前にそれを見ていたのは、現実世界の物を夢世界で確実に具現化させるためだった。
たっぷり入った赤ペンキを躊躇なくぶちまけた。輪郭線を無視してべったりと赤くなる。一部ペンキが滴るところや泪が頬をつたい落ちるように壁を流れて行く。すぐにその赤ペンキは白い壁に吸収されてしまい、赤いペンキは消えてしまった。
「やっぱり、思った通りだ!」
この夢世界は、依頼者春香さんの想像した実験室だ。姉は大学在学期間、卒業後も研究職に就いていた。春香さんの考える姉の存在が、この想像された世界だったんだろう。姉の部屋のドアと実験室がつながっていた理由も納得できる。しかし、どんな研究をしていたかまでは春香さんは知らなかった。だから、研究という言葉で想像して、実験室が不完全な状態で現れた。もともと春香さんが思い起こす研究という言葉は、実験と紐付けられていたのかもしれない。
真っ白で、色がない。
色をどんなに塗り重ねても白になる。
何もない。
無だ――。
まさか依頼者は姉のことを……。
《サキッチ! いいよ。どんどんペンキを撒こうぜ。ペンキが塗られた部分はもれなく解析できちゃったよ。このフィールドにおいては、鍵の在り処もはっきり見えちゃうよ。さぁ、パーッと行こう!》
「山寺さん。おじさんですね……」
《ノリノリです》
「じゃぁ、遠慮なくパーッといきます!」
サキチはどんどんペンキを具現化して辺り一面にぶちまけていった。色が重なろうがおかまいなしに、天井から机の上、実験道具、部屋の隅、床全面に。もし、これが現実だったらどんなにひどい状態だろうか。いや、美術館に飾られてしまうほどの芸術作品ができてしまうかもしれない。
赤と青が混ざれば紫、緑と青が混ざれば水色に、赤と緑が混ざれば黄色に。全部混ざると……。
《サキッチ! もういいよ。最後のピースを手に入れてみようか。鍵はなんとアトラクタの箱のすぐ横でした。色が吸収される前に手にして。鍵だけは輪郭線がないみたいだし……なんでだかな……》
サキチはアトラクタの箱の横で、みるみる色を失って消えて行く鍵を見つけた。鍵をすぐ鍵穴に差し込んで、まわした。
ガチャリと、ようやく聞きたかった音を聞くことができた。そして、最後のピースを手にしたサキチ。
ここにたどり着けたのもピナのおかげかもしれないな。俺にはない発想力に助けられたな。ありがとう、ピナ。
スレートの上に置くと光り輝く円盤・リコールへと変化した。それを手に取ったサキチ。
「あぁ、そんなところに……」
どうしてそうしてしまったのかはわからなかったが、大事にしてあったんだ。お姉さんのペンダント。
サキチはそう思いながらリコールをアトラクタの箱の上に置いた。すると、リコールは天へ光を打ち放ち、花火のようにはじけた。まるでこの白い世界に色をつけるように。
特別潜入調査室時田組のメンバーは社長ルームに集まっていた。
「みんな、今回は本当にお疲れ様でした。無事、ミッションクリアだ」
社長の志磨がそういうと自然と拍手がわき起こった。メンバーは笑顔になった。
「先ほど依頼者の春香さんから連絡を受け、ロケットペンダントの場所を思い出すことができた。そして、そのロケットペンダントも見つかった」
それで見つからなかったら、俺が見たリコールはなんだったのだろうかと、サキチは心の中で突っ込んだ。
「使わなくなった古いテニスバッグの中から、テーピングでぐるぐる巻きにしたリストバンドに挟んであったそうだ。綾香さんの形見が見つかって喜んでいた。私からもみんなにお礼を言いたい。ありがとう」
これで夢野調査室始まって以来のミッションが終了した。
「サキチ君!」
みさ希が呼んだ。サキチが振り向くとみさ希は手を差し出していた。時田や山寺、メンバー全員がサキチを見ていた。
「いろいろと負担をかけてしまったけど、このミッションを引き受けてくれて本当にありがとう。いいダイバーになったわね」
「そんな……俺は……みさ希さんやみなさんがいてくれたから、ミッションを終えられたんだと思います」
サキチはみさ希と握手を交わした。
第1章 終わり




