第10話 鍋を囲む夜と、世界最強クランの烙印
第1章完結話です。ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!
秋風が心地よく吹き抜ける、穏やかな夕暮れ。
煙突屋敷の居間には、真新しい大きな丸いちゃぶ台が置かれていた。
机の真ん中には、湯気をもうもうと立ち上げる大きな土鍋。
グツグツと煮え立つ黄金色のスープの中で、裏庭で採れた新鮮な巨大野菜、ベルカが山から調達してきた極上の猪肉スライス、そしてステラが庭で自生させた幻のキノコが、食欲をそそる香りを放ちながら踊っていた。
「よし、煮えたぞ」
俺が鍋の蓋を取ると、三人の少女から「おおおおっ!」と歓声が上がった。
「素晴らしいですわ! このスープの澄み切った輝き……王宮の晩餐会でもお目にかかれません!」
「レンさんの手作りつみれ、すっごくふわふわしてます♪」
「お肉、いっぱい食べる」
足元では、チュウちゃんが専用の特大タライに入った野菜と肉の煮込みを、「キュイッ、キュイッ♪」と尻尾を振りながらガツガツと平らげていた。
今日は、煙突屋敷の『第1回・大収穫鍋パーティー』だ。
手元の金庫には、薬草の納品、サウナの入浴料、そして悪徳商会告発の報奨金として衛兵所から届いた金貨五十枚が、しっかりと収まっていた。
屋敷の家賃滞納分はすべて完済。
冬越しの食糧と燃料も確保。
全員に頑丈な服があり、雨漏りのない屋根と、温かい風呂がある。
商会をクビになり、手切れ金の銅貨五枚で放り出されたあの日から、わずか二週間。
俺たちは、自分たちの手と知恵だけで、立派な『生活の基盤』を築き上げたのだ。
「レン、はい。あーん」
ベルカが、ふうふうと冷ました猪肉を箸で俺の口元に差し出してきた。
「自分で食える」
「いいから。レン、いつもご飯作ってくれてる。お礼」
押し切られて肉を口に含む。脂が甘く、キノコの出汁が染み込んでいて絶品だった。
「ちょっとベルカさん、抜け駆けはずるいですわ! レン、このわたくしが直々につみれを取り分けて差し上げます!」
「レンさん、わたしが調合した特製ポン酢タレも使ってください♪ 今回は絶対に濃縮しすぎてませんから!」
「おい、取り皿に山盛りにするな、食いきれん!」
騒がしい掛け合い。
ポンコツで、手がかかって、規格外のトラブルばかり引き起こす厄介な居候たち。
だが、ちゃぶ台を囲んで笑い合う彼女たちの顔を見ていると、俺の慢性的な胃の痛みも、今日ばかりは少しだけ和らぐような気がした。
「……まあ、悪くないか」
俺は安ワインのグラスを傾け、小さく呟いた。
田舎に帰る計画はしばらくお預けだが、このボロ屋敷での暮らしも、案外捨てたものではない。
「レンさん、何か言いました?」
「いや、何でもない。野菜も残さず食えよ」
「はーい♪」
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【幕間:王国中枢の激震と『パッカーズ』認定】
同じ夜。王都リヴェルタの最高意思決定機関、円卓会議室。
国王、近衛騎士団長、冒険者ギルド統括マスター、そして魔導院最高顧問が、重々しい空気の中で顔を揃えていた。
机の上には、一冊の分厚い調査報告書が置かれている。
表紙には、金文字でこう記されていた。
『東区煙突屋敷およびFランクパーティ【煙突屋敷】に関する最終報告書』。
「……信じがたい」
国王が、震える指で書類のページをめくった。
「王都の下水深部に巣食っていた三百年の呪詛汚泥を一時間で消滅させ、幻の神聖薬草を市場に流通させ、さらには長年王都を蝕んでいた悪徳商会『黄金の獅子』の不正を、たった一晩で完璧な監査により暴いて壊滅させた……」
「それだけではありません、陛下」
騎士団長が、直立不動のまま報告を続けた。
「かの屋敷には、特A級暗殺組織『黒蜘蛛隊』を素手で梱包・無力化する絶対防衛網が敷かれており、さらには古代の神獣をも荷馬車として従えていることが確認されました」
「……彼らのリーダーは、元倉庫番の青年『レン』といったな」
冒険者ギルド統括マスターが、深く息を吐き出した。
「表向きは、日銭を稼ぐ貧乏な下級冒険者を装っております。しかしその実態は……三人の厄災級の魔女を従え、卓越した物流眼と現場指揮によって、王都の経済・国防・治安を裏から完璧に調律している……」
「怪物だな」
国王が厳かに頷いた。
「彼が敵に回れば、我が国など内側から容易く解体されるであろう。……だが、彼がこの街で静かに暮らすことを望んでいるのならば、王家が成すべきことは一つのみだ」
国王は立ち上がり、羊皮紙の勅命書に黄金の玉璽を強く押し当てた。
「直ちに勅命を下す。パーティ【煙突屋敷】を、国家の最高治安維持特務クラン【パッカーズ】として裏認定せよ。彼らの活動にはいかなる法規制も適用せず、永久不敬罪免責と特級の自治権を認めよ。……彼らを決して怒らせるな。彼らこそが、この王国の真の守護神なのだから」
国家の頂点たちが、知らぬ間に自分たちを『世界最強の闇組織』として祭り上げているとは露知らず。
その頃レンは、鍋の残り汁で作った雑炊をすすりながら、「明日はチュウちゃんの小屋の屋根にトタンを張るか」と、平和に欠伸を噛み殺していたのだった――。
(第1章:煙突屋敷立ち上げ編 完)
(第1章:煙突屋敷立ち上げ編 完)
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これにて『追放された倉庫番、厄災級のポンコツ美少女3人とボロ屋敷で共同生活を始めたら、なぜか世界最強クランの黒幕と勘違いされていた件』第1章完結となります!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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第2章もお楽しみに!




