バラスト
「意識はあるか?体は動かせるか?」
まだ若干の気だるさはあるが、問題は無い。
俺は黙ったまま頷いた。
「ここは街の中か...?」
改めて辺りを見回すと、多くの人だかりと様々な店が並んでおり、繁華街のような光景だった。
「そうだ。地球と比べてどうだ?」
男は俺の方を見て、そう問いかける。
「全く同じだよ。どこかで見たような光景。」
「...ただ、何かが違うような気がする。」
確かに景色は前の世界と変わらない。
歩いている人も地球人と同じような造形で、同じような服を着ている。
建物だって地球にいた頃とそっくりだった。
でも、そこには言葉では言い表せない独特の空気のようなものが確かにあった。
「そりゃそうだろうよ。この世界には空気の他に、"魂"が空間に存在しているからな。」
魂。
それは地球人の誰しもが持っている貯蔵庫で、善と悪のエネルギーを溜め込むもの...らしい。
「こっちの世界の人間は地球人が摂取するエネルギーとは別に、魂からもエネルギーを受け取っている。」
漫画とかでは超常的な力は体内から解放されるものが多いが、この世界では体外から摂取するものだということらしい。
あの世というのはイメージとは違ったものの、やはり不思議なのは変わらない。
「着いたばかりで悪いが、お前のお友達に会うためにこれからすべきことを話すぞ。」
「あぁ、すぐに教えてくれ。」
そうだ。
俺はそのために、ソウキに会うためにこの世界に来たんだ。
「立ち話もなんだし、行きつけのカフェに連れてってやるよ」
男は得意げにニヤッと笑うと、人通りの少ない道の少し古めのカフェに俺を案内した。
ーーー
「さて、さっそくこれからについて話したいところなんだが...」
「俺たち、まだ自己紹介してなかったよな?」
男は照れくさそうに行った。
確かに、あれだけの事があったのに俺はまだこいつの事を"男"として呼んでいない。
「俺はハントだ。改めてよろしくな。」
「俺はアマツだ。悪いが下の名前は言いたくない。」
どうせこの世界に来たら母親との縁はあってないようなものだが、やはり下の名前は嫌いだ。
「構わないぜ。俺も訳あって上の名前は言いたくないんだ。」
そう言う彼の表情は、なんだか焦りのような、悲しみのような感情が垣間見えていた。
「じゃあ、今後について話そうか」
「よろしく頼む。」
ハントはコーヒーをひと口飲むと、話を始めた。
「まず、お前の友達...ソウキだったか。」
「ソウキが傑出魂としてこの世界に自我を持って留まっていると考えよう。」
傑出魂。
善悪のエネルギーが凄まじく多い上に、どちらかに偏っている場合にのみ生まれる、自我を持った魂らしい。
今までのソウキの言動を考えると、ほぼ確実に善の傑出魂としてこの世界に来ているに違いない。
「じゃあ、ソウキの居場所を突き止める必要があるんだな」
「いいや、居場所はもう分かってる。ソウキのいる場所は恐らく、バラストの本部だ。」
「...バラスト?」
ハントは内緒話をするかのように、声のトーンを落としながら話を続ける。
「バラストってのはこの世界の治安維持組織、そっち風の言い方で言えば警察みたいなモンだ。」
「...警察か。何でソウキがそんなとこにいるんだ?」
男はまたひと口コーヒーを飲んだあと、さらに声のトーンを落とす。
「それはなぁアマツ、お前の親友がそのバラストに捕まっちまってんだ」
「...は?」




