父親
父親?
隊長がユノの父親だって?
耳を疑うその内容を理解する間もなく、イルが口を開いた。
「...いい加減にしろ。時間が押してるんだ」
イルは振り返り、歩みを進める。
戸惑う俺たちを見て、ミナトはその場を取り繕う。
「と、とりあえずは試験に集中しよう。これが原因で単位が取れないなんて、たまったもんじゃないからな」
ミナトはそう言い、俺たちの背中を押す。
ユノは相変わらず不貞腐れたような様子だったが、大人しく着いてきていた。
道中、ミナトは俺にユノ達の事情について話した。
「...父さんは婿入りしてから長い間、本部とは別の部署にいたんだ。そのせいで父親らしい事が出来ず、ユノは不満を募らせてた」
ミナトはユノを横目に、話を続ける。
「俺も思うところはあったけどさ、バラストは忙しいし、仕方ないだろ?」
優しく笑いかけるミナト。
話を聞くと、その笑顔には長男としての苦悩が垣間見えた気がした。
「父さんはバラストに誇りを持ってる...だからこそ、時に俺たちに強い当たり方をしちゃうんだよ」
ただの親子喧嘩ではない...バラストの幹部と、その息子という複雑な関係は、その家族関係に歪みを生み出していた。
しかし、"強い当たり方"と言われても俺はしっくり来ない。
イルは怒鳴りはするものの、手は上げないし、怒る理由だって筋が通ってる。
俺からしてみれば、羨ましいと思ってしまうほどだ
った。
そんなやり取りをしていると、やがてイルの足が止まった。
「ここだ」
イルは俺たちを戦闘訓練の施設のような所へ案内した。
広さは体育館より少し広いくらい...しかし、床や壁はかなり硬い素材で作られていた。
「ここはバラストの訓練施設だ。安全を考慮した結果、試験はここで行うことにした」
イルはそう言うと、運ばれてきた檻に手をかける。
「合図と共にこの檻を開ける。言っておくが、中にいる傑出魂は甘く見てはいけない...覚悟してかかるように」
すると、アポロはイルに問いかける。
「なぁ、そいつはどれくらい強いんだ?」
アポロの質問に対し、イルは小さな紙を取り出した。
それはどうやらバラストの書類のようで、中の傑出魂についての事が書かれてた。
「4行目...ここに赤文字で5と書いてあるだろう?」
赤く目立つように書かれた5という数字...一体これがなんだと言うのだ?
「えっと、その数字は...?」
ミリスの問いに、イルは黙ったまま檻を開く。
辺りを蒸気が漂い、中から形容し難い独特な存在感を放つ"ソレ"が姿を表す。
その異質な雰囲気に、俺たちは息を飲む。
やがて、イルは口を開いた。
「..."規格5"ということだ」
その瞬間だった。
「馬鹿が!!俺にチャンスを渡すなんてな!?」
その言葉と共に、中に居た"ソレ"は物凄い勢いで飛び出してきた。
「こいつは規格5の中でも上位...若い芽を試すには十分だろう」
その男は一直線に駆け出し、目の前にいた俺をどかそうと蹴りを打ち込む。
俺は反射的に防御の姿勢を取ったが、それをものともせず、ガードの上から強烈な威力の蹴りを当ててきた。
「うっ...!!」
腕が折れたかと思うほどの衝撃。
あまりにも早いテンポに、タジタジになるアポロとミリス。
いち早く行動を起こしたのはユノだった。
「さっさと終わらせて帰ってやるよ...!」
ユノは素早く刀を抜き、その男に飛びかかる。
しかし、男はユノを一切見ず、ただ一直線に走り続ける。
「お、おいアイツまさか...!!」
そう、奴は無我夢中で走っていたのではない。
ただ一直線に、出口の方へと足を運んでいたのだった。
これは実戦...逃げようとする傑出魂を捕らえるための戦いなんだ。
俺たちが男の思惑に気付いた時には、すでに奴は出口の扉に手をかけていた。
「...俺の勝ち」
ガチャッという音。
そして、ザクッという音。
一瞬だった。
奴がドアを開けた瞬間、瞬きをした後にはすでに奴の首に剣が刺さっていたのだ。
「何が期待の新星だ...判断力、対応力共に0点。やり直しだ」
その剣の主は、イルであった。
イルはそう言うと、男の首根っこを掴み檻の方へと投げつける。
「本番ではどんな初見殺しにも対応しなければいけない...お前たちは1度"死んだ"。その事実を忘れずにもう一度挑め」
全員が黙り込む。
あまりにも、呆気なかった。
その男の強さ、バラストの幹部・イルの強さ、そして俺達の弱さ。
それらが一瞬にして公になったのだ。
規格5に認定され、有頂天になっていた俺...しかしその規格はあの時、あの瞬間の上振れのみに当てはまる。
己を買いかぶるな...謙虚に、真剣に。
いまは目の前の目標に集中するんだ。
気づけば、ミリスやアポロも同じ目をしていた。
イルに魅せられたんだ。
2度目は失敗できない。
俺は鉄球を剣に変え、強く握る。
「良い目だ...今度こそ俺を失望させるなよ?」




