幹部
「それと、試験とは別に幹部についての理解を深めるため...生徒会の2人にも来てもらった」
カイズがそう言うと、2人の生徒が教室に入ってくる。
クサナギ・ミナトとミスト・リケイドであった。
「彼らは首席及び特待の卒業生として、バラスト幹部との対談を命じられている」
すると、ミナトは俺に目配せをする。
思えば、あの時決闘を後押ししてくれたのはミナトだった。
俺はこっそりミナトに話しかける。
「なぁ、どうしてあの時俺を決闘に誘導したんだ?」
するとミナトはかすかに笑いながら答える。
「簡単な話だ。お前の俺はお前の入学試験を見ていたんだよ、生徒会の特権でね」
なるほど、それで俺の実力を再び見るために......。
だが、少し感謝している気持ちもある。
あの時の行き場のない感情を解消する方法を教えてくれたのだから。
「兄さん」
すると、ユノがミナトに話しかける。
「本当に...本当にあの人と対談を?」
あの人...というのは、回収隊の隊長の事だろうか?
ユノの質問に、ミナトは少し間を開けたあとユノの頭を撫でる。
「大丈夫、お前は気にするな」
一体どうしたと言うんだろう。
彼らは隊長と面識があるのか?
「それじゃあ全員揃ったことだし、これからバラストの本部へ向かうぞ」
カイズが教室の扉を開く。
それに合わせ、俺たちは歩みを進めていく。
「き、緊張しますね...」
朝と同様、ミリスは今回の試験にかなり臆しているようだ。
それもそう、この試験はただの試験ではないのだから。
「俺は楽しみで仕方ないけどな!」
......アポロの戦闘狂っぷりを見てると、緊張も解けてくる。
今回ばかりはありがたい。
ーーー
「いつ見ても物凄い迫力だな......」
俺はバラストの本部を見上げる。
白くそびえ立つ本棟には、言葉にできないほどの貫禄がある。
「たしかここに来るはずなんだが......」
俺たちが門の前で待っていると、やがて中から隊員を引き連れた見覚えのある男が姿を表した。
門を行き来するバラストの面々。
それら全員が足を止め、深く頭を下げる光景は圧巻だった。
「業務に当たっていたら遅れてしまった。非礼を詫びよう」
そう言い頭を下げた男は、バラスト特別回収部隊長・イルであった。
「あ、頭をあげてくださいよ!」
カイズは慌ててイルを宥める。
「そういう訳には行かない。バラストの一員として、あるまじき行いだった」
バラストの幹部が、養成学校の生徒に頭を下げる......その異様な光景に、俺たちは戸惑っていた。
すると、イルの横に立っている男が耳打ちをする。
「隊長、そろそろ試験を......」
その言葉を聞き、イルはやっと頭をあげた。
「失礼、それでは試験についての話をしよう」
イルはそう言うと、側近と思しき男に指示を出す。
するとその男は、少し小走りで中へと入っていった。
「今回の試験は実戦に極めて近い。内容は至ってシンプル、我々が対処している"傑出魂"の回収作業だ」
すると、カイズはおもむろに口を開く。
「......本物か?」
「本物だ」
本物の傑出魂......つまり、元々俺がいた世界の人間ということだ。
イルがカイズの質問に答えると、アポロは不思議そうな顔をする。
「でもよ、傑出魂なんてそんな都合よく現れるのか?」
「た、タメ口......」
カイズは呆れたような顔をする。
「アポロ・ナイトマイルか...君は私の推薦で特班に選ばせてもらった。武闘会にて、君の底力を知りたいと感じたんだ」
イルがそう言うと、アポロはニヤッと笑う。
「分かってんじゃねぇか!!」
「またタメ口......」
イルはコホンと咳払いをし、話を続ける。
「さてと、傑出魂についてだが......もちろん運良く本物が現れるなんてことはない。しかし、かと言って偽物を使うなんてのも華がない」
すると、建物の中から何かを引きずる音が聞こえてきた。
「そこで、我々で回収・管理している本物の傑出魂を試験に使うことにした」
やがて姿を表したのは、全面が金属で出来た金庫のような檻だった。
「あらゆる外力による変形の無い、特殊な鋼鉄で出来た檻だ」
そう言いながらイルは檻を指さす。
そこには、なんとも言えない異様な雰囲気が漂い、俺たちは思わず息を飲んでいた。
「今回の試験で集めさせてもらったのは、武闘会で実力を正確に測れなかった生徒が中心だ。精一杯励むように」
イルの説明はつまり、この特別講習には実力の再精査が含まれているということだ。
「それでは、さっそく試験会場へ案内しよう」
イルはそう言い、歩き出す。
その時、黙っていたユノが口を開いた。
「...くそが」
全員が振り返る。
「なんで俺がこんな目に......!いまは規格4で十分だってのに!」
その言葉に、イルの目つきが変わる。
「ま、まぁ良いだろ...?特別講習を受けれるってのも悪くないさ」
ミナトは慌てたようにユノを宥める。
しかし、イルの機嫌は明らかに悪くなっていた。
ゆっくりと歩みを進めるイル。
やがてユノの前に立ち、ゆっくりと口を開く。
「......規格4なんかで満足しているのか?」
イルのその声に、ユノの顔は歪む。
黙っているのに、物凄い迫力だった。
隊長クサナギ・イルのその圧に、俺たちは完全に動けなくなっていた。
「そんな甘ったれた考えでは、幹部は愚か隊員にもなれやしない...!」
俺たちは全身が震え上がり、微動だにすることが出来なかった。
そこに割って入ったのはカイズだった。
「ま、まぁ実際イルは類を見ない才能の持ち主...この歳で規格4なんて、世界中見ても極わずかですよ」
カイズがそう言うと、イルは険しい顔で話し出す。
「......あの日、18歳にして規格6に到達した青年が、一瞬にして命を失った」
イルは涙を堪えるように、話を続ける。
「歳の割に強いからなんだ?例え若くして力を得ようと、その上の実力を持つ年寄りに殺されてしまっては何の意味もないだろう......!」
あの日、それはきっとリル・マリオネットが現れた日のことだ。
カイズはあの事件の話をする際、彼の名前を出していた。
イルが怒りを表す理由......それは、バラストという組織の実情を誰よりも深く理解しているからだ。
すると、ユノが口を開く。
「分かったような事言いやがって......ずっと過去に囚われてるだけだろ!?」
その言葉に、イルは完全に痺れを切らしたようだった。
慌ててミナトはイルを取り押さえる。
「お前、落ち着けよ!」
「落ち着けるかよ!!」
ユノは再び口を開く。
「何がバラストだ、何が幹部だ!こんな時に父親面しやがって......母さんと兄さんと3人だった頃の方がマシだったじゃないか!!」




