決勝戦③
「言っとくが、手加減はしないからな」
「あぁ、分かってるよ」
ハヤテはそう言いながら、ゆっくりと刀を抜く。
それに応えるように、ロキは戦闘態勢に入った。
「神よ、道を示せ...!風車!!」
ハヤテの鋭い刃が、ロキを捉える。
しかし、そんな単調な攻撃ではロキを出し抜くことは不可能でった。
一度下がり、攻撃を回避。
そしてカウンターを狙う。
洗練されたロキの動きは、まるでルーティンかのように滑らかであった。
(なんも変わってねぇな...結局ルシエル頼りだったのか...?)
ロキはハヤテの攻撃を交わしながら、あの日の決闘を思い出す。
この武闘会までの間、ロキはハヤテのことを気にかけていた。
それはハヤテを哀れに思ったからなのか、はたまた自身と通ずる物を感じていたからなのだろうか。
決闘の時のように真正面から突っ込んでいくハヤテ。
涙を流しあった相手の成長と覚悟に対し、ロキは疑問を抱く。
「...右ががら空きだ」
攻撃の隙を見抜き、カウンターを入れようとロキは拳を握る。
「まだだよ...!!」
大技、風車の後隙。
そこにカウンターを見込むロキの判断は間違っていなかった。
ただ一点、相手がシソウ家の息子であるという点を除けば。
シソウ家の強みは相伝のモツと、継承される剣技...及び、完成された肉体である。
基本の型である風車は、それを習得するのに一般人では数年の時間を費やす必要がある。
なぜならば、その空中での回転を可能にする跳躍力と柔軟性、さらにそれを阻害しない程度の筋力及び骨強度が必須条件であるからだ。
さらに言えば、モツの能力による誤魔化しの身体能力では武器へのエネルギー供給が不可能になる。
つまり、シソウ家を除き誰1人としてその技術を会得することはできないという事になる。
シソウ・ハヤテの才能は、兄ミヤビと比べてしまえば取るに足らないもの。
シソウ・ハヤテの才能は、ミアス家と比べてしまえば取るに足らないもの。
シソウ・ハヤテの才能は、それらを除く一般人と比べれば、目に余るものである。
彼の才能は、既存の型・風車を1段階進化させる事を可能にした。
前代未聞。
今宵、2度目の風が吹く。
「俺の風車はもう一度回る...予備動作を省略しても尚、その威力を落とすことなく斬撃を浴びせる!」
ハヤテは深くしゃがみ込んだまま、慣性に身を任せ再び旋回する。
脅威の柔軟と身体のバランスにより、即座に戦闘態勢に入る。
「次旋・風車」
一回目の風車に対し、カウンターを打ち込もうと体を乗り出したロキ。
戦闘に特化したその姿勢には、回避及び防御を行う余裕は無かった。
「...ちっ」
自身の置かれた絶望的状況を理解したロキ。
唯一の対抗策、奥の手を使うためにロキは咄嗟に自身の腕を爪で引っ掻く。
少量の血が、その腕を伝う。
「神威!!」
全身が強く発光し、衝撃波を生み出す。
ハヤテは咄嗟に受身をとったが、その圧倒的な勢いに全身が包まれてしまっていた。
やがてハヤテの身体は宙を舞い、強く地面に激突する。
そして、ロキの全身は黒い稲妻に覆われていた。
「使うべきじゃ無かった...だが、お前にも神痕が付いているんだし、別にいいだろ?」
ロキはそう言うと、倒れ込むハヤテへとゆっくりと近づく。
そして、ハヤテのモツのある場所へと手を伸ばしていった。
「これはお詫びだと思ってくれ。いつかきっと役に立つ」
ロキはハヤテのモツに触れ、何かをゆっくりと込めていく。
それに合わせ、ロキの体を纏っていた黒い稲妻は消えていった。
ハヤテの戦闘不能が確認されると同時にアナウンスが響き渡る。
「シソウ・ハヤテ、脱落!!」
その速報は、第20班に一矢報いたロキへの賞賛を誘発した。
「...さすがにNo.2はキツかったか」
サルバ・マーガネットは、仲間の脱落に顔をひきつらせる。
しかし、そんなことに気を取られている暇はない。
目の前には同じB組の生徒である、ミリス・リグメシアが立っているからだ。
「ちょこまかと逃げて...本当にそのままでいいんですか?」
ミリスの挑発に対し、サルバは大きなため息をつく。
「確かに、仲間もやられちまったしな...そろそろ終わらせねぇーと後が怖えわ」
サルバはしゃがみこみ、地面にそっと触れる。
すると、サルバの身体は宙を漂い始めた。
「ルシエルを怒らせるのだけは勘弁だからな」




