摩天楼
「おいおい、拍子抜けじゃねぇか!!」
メインアリーナの控え室に戻ると、ロキは呆れたように言い放った。
なんと俺たちは、特に苦労することも無く決勝までの4回戦を終えてしまったのだった。
「まぁ、No.2のお前がいる時点で上澄みだし、まともな相手になるチームは限られてるんだろう」
俺がそう言うと、間髪を入れずにミリスが割って入る。
「アマツくんはNo.1より強いですしね!」
...たまたま勝てただけだ。
俺達がそう言うと、ロキは退屈そうな顔で頬杖をついた。
「ユノのチームは別ブロックだし、結局決勝までぬるい試合ばっかでつまんねーの...」
たしかに、俺たちAブロックはBブロックと違い、明確な強者が集められたチームはいなかった。
それどころか、1回戦以外はどれも直ぐに終わってしまうものばかりであった。
「Bブロックの準決勝はまだ始まらないのか?」
俺がそう言った途端、ロキは控え室に備え付けてあるテレビをつけた。
「それでは...準決勝第2試合、開始です!」
どうやら、メインアリーナの控え室には試合の様子が見れるテレビがあるらしい。
ロキはソファに寝そべっていた体を起こし、テレビに注目する。
「じゃあ、敵情視察でもしておくか」
ーーー
「4班、前線へ繰り出すのはユノ&アポロ!引き続き最高峰の突破力でフラッグを勝ち取るのか...!?」
ユノ率いる第4班は、合同練習と同様にアポロとユノを前線に配置している。
対する第20班は...誰1人としてフラッグの周りから動いていなかった。
「3人で守るなんてな。そんなに俺達が怖いのか?」
ユノは相手の陣地に着くと、挑発するように20班のメンバーへ問いかける。
「いや、君達にはこれまでの雑魚と同様の扱いをするつもりだよ」
ルシエルがそういうと、ユノの表情が強ばる。
「悪いが、これまでの奴らと俺たちを一緒にしてもらっては困るな」
ユノはそう言いながら刀を抜き、ルシエルの首を目掛けて飛びかかる。
カンッという高い音と共に、ユノの刀を受け止めるもうひとつの刀...その持ち主は、シソウ・ハヤテであった。
「...そんなクズの味方をするのか?」
ユノはハヤテを揺さぶるように、あの決闘の時のことに触れる。
「俺も正直気に食わねぇよ...でも、約束したんだ。兄貴みたいになって見返すってさ」
そう答えるハヤテの眼差しからは、ルシエルへのやるせない思い、友との約束、そして何よりも自分自身に固く誓った決意が垣間見える。
「シソウ・ミヤビの弟だなんて、気の毒な奴だ」
「...お互い様だろ」
シソウ・ミヤビ、クサナギ・ミナト。
優秀な兄を持つという点で共通する2人の刃は、観客席の熱狂に包まれる中、静かに高い金属音を鳴らしていた。
「もう十分だよ、ミヤビ弟」
ルシエルは皮肉たっぷりの名称で呼びながら、ハヤテに合図を送る。
「...くそが」
すると、ハヤテは攻撃の手を止め、すぐにルシエルの元へと戻って行った。
「ユノ!今がチャンスだろ!」
アポロは拳を口にあてがい、深く息を吸い込む。
「やめろ!!」
ユノは、アポロへ中断を促す。
これ以上の深追いは返って痛手になると理解したからだ。
しかし、ルシエルの不敵な笑みはそれを嘲笑うかのようにユノへと向けられていた。
「僕がエネルギーを溜める間にミヤビ弟を倒せなかった、弱い君への罰だ...冥土の土産に良く見といた方がいい」
そう言うとルシエルはゆっくりとしゃがみこみ、地面へ両手をつく。
「...ここは既に冥土だけどな」
顔を引き攣らせながら返答をし、苦笑を浮かべるユノ。
「C組の奴に決闘で虐められた癖に、随分と偉そうだな、仮初のNo.1」
「...君は知っているだろう?僕の相伝の能力をさ」
ユノの挑発を無視し、話を続けるルシエル。
その手からは眩い光が放たれ、その光は大地へと流れていく。
「アポロ!"アレ"が来るぞ!!」
全試合において最も早く決着が着いていたのは、第20班であった。
その平均試合継続時間は、僅かたったの1分17秒。
その驚異的な早期決着を可能にしていたのは、ルシエルの持つミアス家相伝の能力であった。
能力は臓器を依代とするため、一族で共通する能力が度々見られる。
ミアス家相伝能力【逆鱗の地殻】も、その一つである。
「俺の方へ来い!」
ユノは刀を地面に突き刺し、詠唱を唱える。
しかし、既に溜めが完了していたルシエルの手はそれを上回っていた。
「天遣う大いなる御者の下に、弱き者へ救いの祝詞を...権限せし神の権能により、母なる大地に慈悲を与えん」
「固有詠唱だなんて、気合いが入ってるじゃねぇか...!」
ユノは刀を軸にした半径数メートルに結界を生み出す。
これは、剣士の名家に伝わるエネルギー制御の技の一種であった。
「神の力の前に、そんなおままごとが通じるとでも思ってるのかい?」
ルシエルの手から放たれた光は、既にフィールド全体を覆っていた。
すると、地面の奥深くから強い振動がユノ率いる第4班を強く揺さぶり出した。
その振動は回を重ねる事に強まり、やがて大地を大きく揺るがすものになった。
ルシエルはゆっくりと口を開く。
「摩天楼」




