勝ちたい理由
背後から聞こえる、聞き馴染みのある声。
その声の主がディゴノであると理解した瞬間には、もう手遅れだった。
「僕はね、他人のエネルギーを吸収し、自分のエネルギーに変換出来るんだ」
ディゴノがそう言うと、俺の中の何かがザワつく感覚がした。
恐らくその何かは、俺の魂に付与されたエネルギーなんだろう。
「俺のエネルギーを...利用する気か?」
「あぁ。君の溢れるようなエネルギー...使わせてもらう」
俺は、目をつぶりながら手探りでディゴノに触れようとする。
しかし、フラッグを握りながらもう片方の手でディゴノに抗うのは至難の業であった。
「まだ諦めねぇのか。そこまでしてどうして勝ちたいんだ?」
目の前のその生徒は、呆れたように俺に問いかける。
「どうして勝ちたいのか」と聞かれたら、確かに勝ちたい理由なんて無いはずなんだ。
だって、この試合の勝ち負けが、直接俺の目的に影響する訳では無いから。
でも、それでも勝ちたいんだ。
だってロキに、「絶対負けるな」って言われたから。
「...俺は、負けちゃいけないんだよ」
自分でも、ソウキ以外の誰かにこんな気持ちになるなんて、驚いている。
それほどまでに、ここでの日々は俺に強く影響しているということなのだろう。
俺はがむしゃらにディゴノの腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待つんだ!離せ!」
ディゴノはそう言いながら、もう片方の手で俺の手を振り払おうとする。
しかし、俺は自分の意思と同じように、固く手を握りしめる。
それに応えるように、鉄球が俺の手にまとわりつくのを感じた。
「くそ!何してるんだディゴノ、さっさとエネルギー吸っちまえ!」
「う、うん!分かってる...でも!!」
ディゴノは焦ったように手を強く押し込む。
そして、なんだかさっきよりも、エネルギーのざわめきが強くなっているような気がした。
「...おかしい。もうありえないくらいエネルギーを吸い尽くしてる...僕の方がキャパオーバーになりそうだよ!」
ディゴノの手が震え、段々と力が弱くなっているのが背中越しに伝わってきた。
俺はゆっくりと口を開く。
「俺のエネルギーを...吸い尽くせるとでも思ってんのか?」
普通にエネルギーを使うだけじゃ、ここまでザワつくなんて事は無かった。
それこそ、エネルギーの完全浸透のような状況でも無ければ、こんな事にはならない。
つまり、ディゴノはそれ程までにたくさんのエネルギーを吸収しているということだ。
「くそ!俺も限界だ!」
その言葉と共に、辺りを満たしていた光が消える。
「ディゴノ!一旦立て直すぞ!」
目の前の生徒はそう言い、1歩後退りをする。
俺はその隙を見逃さなかった。
俺は、ハヤテとルシエルの決闘を思い出す。
そして直ぐにディゴノとフラッグから手を離し、素早く彼の懐に潜り込む。
「ちょ、まっ...!」
その言葉を聞き終える前に、俺の右手は相手のみぞおちを正確に捉えていた。
鉄球に身を包んだ俺の拳は、彼を介して建物の壁を半壊させていた。
「...やりすぎた」
気を失った彼を尻目に、俺は後ろを振り返る。
そこには、両手を上げて苦笑を浮かべるディゴノの姿があった。
「完敗だよ、アマツくん」
ディゴノはそう言い、地面にへたり込む。
作戦も水の泡で、完全に意気消沈と言った感じだ。
「諦めるにはまだ早いんじゃないか?時間は残ってる」
俺がそう言うと、やれやれという顔でディゴノは窓の外を指さした。
「お〜い!ちゃんと守れたよな!?」
そこには、こっちに向かって大きく手を振るロキと、フラッグを手に持ったミリスの姿があった。
「どうやら、僕たちがここで小競り合いをしている間に、彼らはいとも簡単にフラッグを手に入れたみたいだよ...」
ディゴノはゆっくりとため息をつき、俺に笑いかける。
「さすが、僕の友達だ」
その言葉に、俺は少し動揺する。
しかし、そんな事もつかの間、直ぐにロキとミリスが建物の中へと入ってきた。
「俺にステゴロ挑んできやがったから、ワンパンでのしてやったわ!」
そう言いながらドヤ顔を見せるロキ。
それにはディゴノも顔を歪ませていた。
「何はともあれ、勝てましたね!」
ミリスは俺にフラッグを見せつける。
そんなやり取りをしていると、再びアナウンスが流れ出した。
「第1試合、お疲れ様でした。選手の皆さんは控え室へ移動してください」
俺はディゴノと軽く言葉を交わし、ロキとミリスと共に控え室へと進んで行った。




