電気と氷
ロキは俺たちを、川沿いの開けた芝生へと案内した。
「今日は主に、それぞれの戦闘方法の相互理解と、作戦の方向性の決定をしよう。」
ロキは既に練習の内容を決めているようで、やはり頼もしいやつだと思った。
「さっそくそれぞれの能力を見せたいと思うんだが...やっぱり言い出しっぺからやるべきだよな!」
そう言うと、ロキは両手の拳を握り、それらを前でクロスさせた。
「俺の能力は簡単に言うと"電気"だ。基本的には2種類で...」
すると、クロスさせた拳から、バチバチと静電気のような黄色い光が全身へと伸びていった。
「これが帯電だ。触れたものを感電させたり、自分の筋肉に電気を流して動きを早くしたりできる。」
そう言うと、ロキは遠くの木へ向かって走り出した。
グッと地面を蹴る度に加速し、ものの数秒で遠く離れた場所へと高速で移動して見せた。
「次の能力を見せるから、そこから少し離れてくれ!」
言われた通りに、俺たちは川の方へと移動する。
俺たちが離れたのを確認すると、ロキは再び腕をクロスした。
そして、バッと勢いよく横に腕を広げ、手と手の間の一直線上に、電気の柱の様なものを作り上げた。
「これがもうひとつの能力...放電だ!!」
するとロキは、逆手でデコピンをするようにその電気の柱を弾いた。
その時だった。
電気の柱は、一瞬で俺たちを横切り、後ろにある木を貫通させたいた。
「な、なんだ今の!!」
ロキは素早く俺たちの元へと来て、すぐに説明を始めた。
「俺は善悪ふたつのエネルギーを使える。そしてそれらを使って帯電と放電を行っているんだ。」
ロキがそう説明すると、ミリスは不思議そうに質問をする。
「善悪の両方を...?つまり、帯電が善のエネルギー、放電が悪のエネルギーってことですか?」
すると、ロキは待ってましたという顔でそれに答えた。
「実はそんな簡単じゃないんだ。善のエネルギーはあくまで、手を起点に全身へ電気を蓄積させるだけなんだ。」
そう言いながらロキは再び手をクロスさせ、「帯電」をやってのける。
「これは善のエネルギーで溜めた電気を、悪のエネルギーで少しづつ放出している...つまり、帯電は善悪両方のエネルギーを要するんだ」
ロキは自信気な表情で説明を終えた。
しかし、なんとも難しい能力だ。
「じゃあ、放電はどうやってるんだ?ただ溜めた電気を放出してるって感じじゃなかったよな?」
俺がそう言うと、ロキはまた自信気に説明を始めた。
「放電は少しややこしいんだが...」
そう言って、ロキは再び電気の柱を作り上げた。
「これはモツの操作をかなり練習したから出来る事なんだが、実は悪のエネルギーで放出した電気に善のエネルギーの効果を付与してるんだ...って、難しいよな?」
善の効果...つまり、電気を蓄積させる効果の事だ。
そしてそれを、悪のエネルギーで放出した電気に付与して空間上に電気の柱を生成しているのか?
「善のエネルギーの効果を付与...!?そんな事が出来るんですか!?」
ミリスは目を丸くし、ロキを問い詰める。
確かに、ロキの言っていることは「自身に作用する」という善のエネルギーの性質とは明らかにズレている。
「言っただろ?これは少しややこしいんだよ。そもそも善悪のエネルギーには潜在効果っていう、能力とは関係ない根本的な性質があってだな...善悪の両方のエネルギーを使えれば、それを引き出して今みたいな事が...」
ダメだ、全然分からない。
ミリスはなんとなく理解してるような様子だったが、俺にはちんぷんかんぷんだ。
「まぁ、俺の話を続けたても仕方ないだろ!次はどっちが見せるんだ?」
ロキは焦ったように説明を切り上げた。
それにはミリスも少し不服そうだったが、時間も惜しいということで次のフェーズへと移ることにした。
「では、私から...」
2番手に名乗り出たのはミリスだった。
ミリスは右手を前に出し、能力の説明を始めた。
「まずは、凍結の能力を...」
そういうと、右手の掌の上に段々と氷の塊のような物ができ始めた。
「私は空気中の水分を凍結させて固めることが出来ます。何か物を凍結させる時にも、空気中の水分を借りて凍らせることができます。」
なるほど、水分を冷やして固めるのか、分かりやすくて良い。
これを応用して、水分を含まないものも表面を凍結させる事ができるようだ。
「なるほどな、でもそれだとせいぜいつららを作って飛ばす程度だろ?名家ならもっと高等な力が使えるはずだ」
ズバッとそう言い切るロキ。
ミリスもそれには「うっ」という顔をしていた。
別に、これでも十分強いとは思うが...
「私はまだ未熟なので、水分の無いところで大規模な凍結は出来ません...でも、吹雪ならそれが可能です。」
吹雪というのは、ミリス、及びロキが言っていたもう1つの能力の事だろう。
「吹雪の能力は簡単で、さっきは固めた空気中の水分を、今度は固めずに凍らせるだけで留めるんです。」
そう言うとミリスは、手のひらの上からフーッと息を吹きかけた。
すると、パキパキっという小さな音ともに、辺りが急に涼しくなり出した。
「おい、口塞いどけ」
ロキはそう言いながら、腕で自分の口を被った。
それに合わせ、俺も同じように口を被った。
「吹雪の能力は、空気を急激に冷やす力があります。また、凍った空気中の水分は息を吸った者の身体へ入り、内部から刺激・冷却をもたらします。」
なんと、とんでもなく恐ろしい能力だ。
要するにデバフの付与と内部からの攻撃をするということだ。
「...恐ろしいな。それで、奥の手は別にあるんだろ?」
吹雪が終わると、ロキは腕を下げて再びミリスに能力の開示を求めた。
するとミリスは、コクっと頷いて、川の方へとゆっくり歩いていった。
「これが私が今使える中で最高の規模を持つ力です。」
そう言うと、ミリスは川の水にそっと触れる。
その時だった。
再びパキパキという音がしたかと思えば、川はものすごい勢いで形を変え、轟音と共に草原に巨大な氷山が出来上がった。
「凍結の際、固めるのと同じ容量で少しだけ形を変えれるんです。そして、大量の水があれば段々と形を変えていき、これほど大きな作用を生み出せるんです。」
それは見事としか言いようの無いものだった。
彼女は水のあるところでしか大規模な力を生み出せない自分自身を、未熟と表現した。
それはつまり、これだけの規模を川や池の水がないところで生み出せるように成長するという事だ。
「...さすがだな」
どうやら、これにはロキも文句のつけ所が無いと言った様子であった。
「やはりステージはジャングルで決定だろう。川さえあればトップ3にも引けを取らない強さだ。」
トップ3であるロキがそう言うんだ。
こいつの性格上、過言という訳ではないだろう。
しかし、ミリスはロキの急なべた褒めに対して照れくさそうにしていた。
「さて次は...」
ロキはそう言って、ニヤニヤとしながら俺の方を見てきた。
そしてミリスも、目を輝かせながらこちらに期待の眼差しを向けてくる。
やめてくれ。
俺の力は不完全で、まだ安定して力を出せないんだ...。
「...じゃあ、俺の力を見せよう」




