マリオネットの悲劇②
そう言いながら、指揮を取るように棒を振る。
リル・マリオネットの能力は、無慈悲にも対抗し得る力の無いバラストの隊員を、容赦なく葬っていた。
「辞めろ...!!」
上級幹部や教員は、すぐにマリオネットを止めようと走る。
しかしどれだけ攻撃をしようとも、マリオネットは軽々とそれを受け流していた。
ある隊長が膝を着き、ポツリと一言漏らす。
「辞めてくれ...私の仲間がみんな...もう辞めてくれ」
その言葉に、皆が体を強ばらせる。
辺りを見回せば、白く清潔に保たれた壁は真っ赤に染まり、疲弊しながらも真剣に勤務していた隊員の体は冷たくなっていた。
「やめて欲しければ永遠の涙を渡せ。簡単な話であろう?」
隊長はついに崩れ落ち、絶望していた。
この悪夢から覚めるには永遠の涙を渡せばいいが、そうすれば今度はその悪夢がずっと続くと分かっていたからだ。
微動だにしない隊長の首を、マリオネットは速やかに落としていた。
「そこまでだ...!!」
マリオネットが振り返ると、そこには中年と、老人が2人立っていた。
「ミアス家だ」
場がザワつく。
異常事態に、不可侵協定を結んだはずのミアス家が駆けつけていたのだった。
「数百年間不可侵の玉座を維持し続けた最強の一族...その当主と前当主がバラストに味方してくれるのか!?」
起死回生の兆しに、皆が歓喜していた。
「リル・マリオネットといったか?言っておくが、これ以上の好き勝手は我々ミアス家が許さんぞ!!」
当主がそう言うと、前当主の心臓に風穴が空いた。
「モツを狙ったはず...さすがはミアス家だな」
一瞬だったのだ、ミアス家への期待が崩れるのは。
しかし、取り戻した士気が失われると思われた瞬間、前当主はすぐにマリオネットへ攻撃を仕掛けた。
「心臓の1つくらい、くれてやるわ!」
その言葉に当主や総督、学長が再び激昂し、マリオネットとの激しい戦闘が始まった。
戦いは長期戦になった。
3日3晩実力者達の相手をし、マリオネットは疲労が溜まっていた。
「鬱陶しいやつらめ...もう十分であろう」
そう言うとマリオネットは小さな小瓶を取り出し、それを丸ごと飲み込む。
「永遠の涙さえ手に入れば、多少のブランクなど屁でもない...」
みるみると体に黒い紋様が現れ、疲弊した体を癒していく。
誰もが呆気に取られていた。
近づかない、近づけなかった。
その異様な光景に、全身が危険信号を発していた。
「愚図どもが、もう飽きたぞ」
明らかにおかしい様子に、ミアス家当主はすぐに阻止しようと走る。
「神よ、慈悲の涙を」
詠唱とともに、当主の全身を黒いモヤが包む。
それはゆっくりと当主の体をしめあげていた。
「離せ!離せ!」
1秒、また1秒と当主の声だけが響き渡る。
「離せ...離してくれ」
全身の骨がバキバキと音をたて、当主の体が麺のように伸ばされていく。
その目には涙が浮かんでいた。
誰もが絶句した。
助けに入れなかった後悔など微塵も無い、もはや助けに入らなかったことに安堵さえしていた。
そしてそれは、バラストの敗北を意味している。
「さて、永遠の涙を取りに行こうか」
足がすくんで動けない。
動いては行けないと全身が叫んでいる。
堂々とそびえ立っていたバラストの本部は半壊し、辺りの街は倒壊した建物で満たされていた。
「...どうやったんだ」
フォルデムが口を開いた。
「なぜとは聞かん。どうやってそんな力を...!」
その言葉に、マリオネットは少し考え込んだあと、ゆっくりと話し始めた。
「此岸から...生きた人間を連れてきたんですよ。」
その場の全員が目を見開いた。
禁忌やご法度ではない、誰もそんなことを考えなかったんだ。
「生きた人間は、この世界にいるだけで悪なんです。だから、無限のエネルギーを所有することができる」
フォルデムは強い後悔に満ちた表情で口を開く。
「管の...能力か...」
マリオネットはフォルデムに歩み寄り、優しく微笑んだ。
「それと、あなたの研究のおかげです。システムへの深い理解が、この悲願を達成に導きました」
フォルデムはついに膝から崩れ落ち、子供のように泣き叫んだのだった。
ーーー
「これが15年前に起きた...マリオネットの悲劇だ。この歴史は、意図して隠されてきた」
辺りを見回す必要はなかった。
生徒は皆、その残酷な歴史に絶句していた。
そひて、ある生徒が1人、ゆっくりと手を挙げた。
「では...マリオネットは今、どうなっているんですか?」
そうだ。
その話が本当なら、リル・マリオネットは今も尚生きている...それどころか、永遠の命を手に入れているかもしれない。
「...死んだよ」
カイズは少し笑ってそう言ったあと、話を続けた。
「リル・マリオネットはその後、永遠の涙を奪う前に殺された...ミアス家によってな」
ミアス家によって殺された...しかし、ミアス家は手も足も出せない状態だったはずだ。
「先生、でもミアス家の当主も、前当主も...」
その言葉に、カイズはゆっくりと瞬きをし、答えた。
「リル・マリオネットを殺したのは当主でも前当主でもねぇ。」
全員が固唾を飲んでカイズの話を聞いていた。
「リル・マリオネットを殺したのは、ミアス家の一人息子...」
「生後間もない新生児、"ミアス・リンキハイゼン"だった」




