新入生へ
1学年全員が揃うと、照明が消え、まるで映画館のように教壇だけが照らされた。
そして小さな足音と共に、1人の男が姿を表した。
「あいつは...!」
ハントとバラストの本部を見に行った日にいた、回収隊の隊長だった。
「諸君、おはよう。」
そう短く挨拶をすると、そいつは話を始めた。
「私は独立型非営利治安維持組織、通称"バラスト"の特殊回収部隊・隊長...イルだ。」
独立型非営利治安維持組織...なんとも面倒くさい名前だ。
「なぁ、なんで隊長は名字を名乗らないんだ?」
俺がハヤテにそう聞くと、ハヤテはキョトンとした顔で答えた。
「当たり前だろ。幹部が名字なんて出したら家族を人質に取られるぞ?」
家族を人質に...それを当たり前かのように話す様子を見て、改めてこの世界は異常であると理解ができた。
「バラストについての話は後に授業でされると思うから私からは別のことを話そう...」
そう言いながらイルは、自信の腰から赤黒い刀身の刀を取り出した。
「この刀はもともと雫鋼という、とても高価で澄んだ色をした鋼で作られていたんだ。」
イルはそう言うと、赤黒い刀身がよりよく見えるように少し高く刀を持ち上げながら話を続けた。
「しかし私が多くの任務をこなすうちに、刀は姿を変えてしまった...この意味が分かるか?」
真剣な表情でそう問いかけるイルは、すこし悲しそうな目をしていた。
「...アニキに言い聞かされたことがある。バラストに入った剣士の刀は、みんな変わり果ててしまうんだって。」
そう話すハヤテの顔は、少し辛そうに見えた。
「いいか、正義の卵達よ。モツの血というものはな、凄く濃いのだよ。」
その言葉に、場の空気が凍りつく。
そして、皆が絶句していた。
「バラストは正義の組織であり、たくさんの命を救う...そしてそれと同時にたくさんの命を奪うんだ。」
イルは刀をしまい、話を続ける。
「我々は民の代わりに剣を、拳を、正義を掲げる...民には正義の象徴としてキラキラしたものを見せるが、実情は残酷だ...!」
イルは鋭い目で全員を見渡し、ゆっくりと話す。
「3年後...バラストのメンバーとして再開する日に、その目が決意と意志に満ちている事を祈ろう」
そう言い終えると、イルは教壇を後にした。
親善試合では華やかに見えた戦いも、バラストでは酷く残酷で悲しいものなんだ。
イルは、それを俺たちに教えてくれた。
親善試合の余韻に浸っていた生徒達も、今は真剣な顔つきへと変わっていた。
そして俺も、自分自身の意志を改めて強く固めていた。
ーーー
「俺、少し気が緩んでたよ。アニキの姿を間近で見てたのにさ。」
苦笑を浮かべるハヤテに、ディゴノは同調する。
そして、俺自身も親善試合の余韻に浸っていた事を強く恥じている。
そうだ、俺はこの世界に遊びにきたんじゃないんだ。
全てはソウキに会うため、それ以外のことは考える必要はない。
決意を固め、明日から本格的に始まるバラスト養成学校での生活に集中しようと思った。




