その男
あの世?切符?何がなんだか分からない。
「だ、誰だ...?」
ただでさえ感情がぐちゃぐちゃなのに、見知らぬ男が目の前に現れる。
俺の頭はパンク寸前だった。
「俺が誰かなのかは、お前次第だ。」
やはり意味の分からないことを言っている。
それに、なぜだか目の前のソウキの死体にも触れない。
明らかに異質だ。
「まさかお前が...」
俺の言いたいことに気づいたのか、男はすかさず話す。
「おっと、それは誤解だ。そいつを殺したのは俺じゃない。」
ソウキの死について考えるより前に、こいつをなんとかしないといけない。
素性の分からないおっさんが友人の死体と一緒に...なんて、どう考えてもおかしい。
「おいおい、そんな身構えるなよ。俺の持ち物なんて、ヤニの箱と...ちょっと変わった鍵だけだからさ。」
「...悪いが信用ならない。俺は友人の死体を目の当たりにして気持ちの整理が付いていないんだ。危害を加える気がないなら、今すぐどこかへ行ってくれないか?」
友人が目の前で死んでいるなんて状況は初めてだが、俺は至って冷静だった。
恐らく感情が壊れてしまっているんだろう、俺の頭には理性だけが残っていた。
「それは無理だな。まだ答えを聞いちゃいねぇ。」
「答え?」
「言ったはずだ、お前が望むなら、あの世につれてってやるって」
この男は正気なのだろうか...?
関わってはいけないような気がするのに、なぜか耳を傾けてしまう。
「まぁ、確かにまずは状況の整理が必要だな」
そう言いながら、男はソウキの死体を指指す。
「こいつは死んだ。もう戻らねぇ。警察呼んで、検死してもらって、自殺でしたってなったらそのままお葬式だな。」
淡々と当たり前のことを話す男に、おれは少しイラッとしながら言う。
「そんなことは分かってるんだよ。俺が整理したいのは状況じゃなく気持ちだって言っただろ。」
なぜ返答してしまうのだろう
もっと優先すべき事があるのに、こいつとの会話なんてしてる暇なんてないのに。
男はまたニヤリと笑う。
そして嘲笑うかのように俺に話しかける。
「気持ちの整理も何もねぇだろ。死にました、悲しいです。これで終わり。違うか?」
その言葉を聞いた途端、俺の腹の奥から強い敵意が飛び出した。
「ふざけるな!分かったかのような事言いやがって、悲しいなんて言葉で済ませられる訳ないだろ!!」
俺とソウキの2人だけの世界、そこに土足で入ってきたこの男はただ俺のペースを乱し、理性を奪い、壊れかけた感情を呼び起こしてくる。
「悲しい、苦しい、怖い、辛い、なんで急に俺を置いて行ったんだ!何も分からない、なにも話してくれなかった!俺が、俺だけが救われてた!こんな感情、整理なんて出来ない!」
男は待っていましたとばかりに口を開く。
「その通りだ。死人に口なし、それじゃ虚しすぎるよな?」
「何が言いたい!また俺たちを子馬鹿にするのか!?」
「再三にわたって話したはずだ。お前を、あの世につれてってやるって。」
あの世なんて存在しない。
耳を傾ける価値なんて無い。
なのに、こいつの言葉には妙な自信が垣間見える。
「良いか?死人に口なし、普通はそうだ。だがこのガキは狂ってた、だから"普通"が通じねぇ!」
男は真剣な面持ちになり、話を続ける。
「普通じゃねぇのが重要なんだ。このガキも、お前も、俺という泥舟のオールを任せるに値する!」
「け、結局なにが言いたいんだよ...!あの世がどうとか、ずっと意味が分かんねぇんだよ!」
「俺の言うことを信じろ。」
男は俺に1歩近づき、鋭い視線を向ける。
「そうすればまた、こいつと話す機会が手に入る。」
目の前に死体があるというのに、そんな夢物語を話す。
実現出来るわけないことを話す。
「...出来るわけない」
でも、ソウキだって出来るわけの無いことを目を輝かせて話していた。
俺はそんなソウキが好きだった。
「詳しい話を聞いてからだ...まだお前を信用した訳じゃない。」
ソウキの死で判断が鈍ってるのだろうか、頭ではおかしいと分かっていながら、こいつの言うことを信じようとしているだなんて。
「じゃあ、とことん話させてもらうぜ。魂の循環装置であるあの世と、その行き方についてな...!」




