表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/24

8.小さな決断

ノアテラは、私の呼吸が落ち着くのを待ってから、そっと頭をなでてきた。


「苦しくなっちゃうのよね。デュナミスを使うと」


なでられるのは好きじゃないけれど、そのままにさせておく。


「今はじめて、

 エンニちゃんは、デュナミスに覚醒したのよ」


「……かくせい?」


「ええ。今までで一番強いデュナミスを受ければ何度も覚えられるの。

 ただ、最初に思い描くイメージで、エンニちゃんのデュナミスが決まるのよ」


変な仕組み。

今までで一番強いデュナミス。

何度も……。

 

「この最初のイメージで生み出される、欲の質を由来にして色々なデュナミスがあって、

 それは力が欲しい。とか、仲間が欲しい。とか、認められたい。とか…」



ノアテラのおしゃべりをよそに、頭の中で整理する。


これがはじめてだから、

弱いものから順番に受けていったら、たくさん覚えることができる?


「おばあちゃんのでゅなみす、つよい?」


「そうねえ。強い方ではあるかしらね」


…誇らしげな顔だ。

あれ、やっぱそれって覚えられる数、減らない?


「もう、でゅなみす、ふえないの?」


ノアテラは、私の問いに目を丸くした。


「今の私より強いデュナミスを受けるまでは、そうねえ」


なにが『そうねえ』ですか。

これは、やってしまったかもしれない。


「その話は『デュナミス・コピー』っていってね。

 覚醒したのは『デュナミス・コア』。また別にあるの。

 それが本当の、エンニちゃんが持っている才能だよ」


「エンニ、よくわかんない」


首をかしげて演技をした。

ただ、本当によくわからなかった。


ノアテラは、小さく息を吐く。


「デュナミスの覚え方は、二つあるのよ。

 その一つ、デュナミスコピーは、私から受けたデュナミスが使えるようになるということ。

 エンニちゃんは、私の本気のデュナミスを受けたから、ほぼ完ぺきに使えたのよ」


ほぼ完ぺきに使えた。

その言葉で、違和感が生まれた。


なら、どうして私はノアテラを半分しか若返らせられなかった?

どうして完全な変身にならなかった?


「その代わり、こまごまと他のデュナミスを覚える方向は難しいわね。

 それでね、エンニちゃんのコア…『本当のデュナミス』は、ちゃんと別にある」


聞こえたことを反芻する。


…つまり、広く浅くコピーはできない。

一つ一つのコピーを極める方向。

そして、本当のデュナミスが別途使える。


と、こうなるのかな。


吟味できる状況も、立場もない。


これは、エンジニア探しをするに活用できそうな力。

ありがたく受け入れよう。


「そっかー。エンニ、つかえたね。ありがとう」


今、優先すべきは、ミアウォートへ行くこと。

そして、セティを救うことだ。


「エンニ、もどりたいなー」


「このデュナミスはね、相殺もできるけど、時間が経てばちゃんと戻るの。

 あと一時間くらいかしら。わかった?」


「わかったー」


相殺…

また、ゼロ歳児が理解しないはずの単語だ。

ノアテラは時々、そういう言葉を平然と使う。


多分この人は、子育てをしたことがない。

それか、すべてが演技で私を子供として扱っていない。

もしくは、その両方。


そうなると、この子供部屋は何なのだろう。

仮住まい? 賃貸? それとも、わざわざ作った?


「おばあちゃん、ひとり?」


思い切ってきいてみる。


「あら、エンニちゃんが家族になってくれるの?

 おばちゃん、大歓迎よ」


すれ違った答えが返ってくる。


あれ。

笑みが、ない。


家族という言葉が、一際重く感じる。

……私の出自を、どこまで知っている?

きっと、まともじゃない。


…この返しは、覚悟の誘いだ。


イエスといえば。

セティがなおるかもしれない。

そして、反中央に組み込まれる危険が待っている。


鼓動が早まる。


この考えている間に、ノアテラは笑顔を取り繕った。


この人はどこまで…


先は読めない。

小さな私にとって、大きな賭け。


「…なる。エンニ、おばあちゃん、すき」


好きなのも嘘じゃない。

こんな状況で、希望をくれた存在なのだから。


「よしよーし。エンニちゃんは、いい子ねえ」


また、頭をなでられた。

やっぱり慣れない。

それでも、甘んじて受けよう。


「ひとつ、アドバイス」


少し、低い声に聞こえた。


「うん?」


「その子に、同族の姿を与えたらどうかしら」


…その通りだ。

オートマトンの姿でなくなれば発見されにくい。


ただ、さっきのように半分だけだったら、余計目立つ。

ノアテラは直してくれるだろうか。


「イメージして。エンニちゃんなら、できるよ」


また、低い声。

…もしかして、見込まれた存在として、試されている?

そう考えると納得がいく。


「やってみる」


今は、用心したってどうしようもない。

力を認めてもらう立場だろう。


セティへ向き直る。


そして、私は俯き、考えはじめた。


どういう姿にするか。


せつな。

一瞬そう思ったけど、だめ。

すぐにイメージを消す。


目立たない方がいい。

地味で、紛れて、覚えられにくい方がいい。


そう、イメージを練る。


「とびきりゴツい竜族の大柄」


青緑ランプから声がした。

私は一瞬だけそちらを見たが、聞かなかったことにした。


集中する。


外へ。前へ。

押し出す。


ノアテラへやった時より、もっと鮮明に。

もっと繊細に。


呼吸は浅くなり、肺の奥が縮む感覚がした。


そして、白いもやがセティを包む。


…もやが晴れた。

黒いゴツゴツは、黒髪ぱっつんおさげツインテの少女になっていた。


「できた…」


息を呑んだ。


本当に…本当に、自分でできた!


両こぶしを握る。

そして、高まりを隠せずに小さく跳ねた。


呼吸は浅くなる。

でも、金紋のような副作用はなさそうなくらい軽い。



「うん、逸材。私の…」

「見た目なんてどうでもいい」


ノアテラの褒め言葉は、セティに遮られる。

少し大きな声は、珍しく感情があらわれていた。


「フフッ」


それがおかしくて、声がこぼれた。


……少しやりすぎたかもしれない。

でも、まいっか。



その後の時間では、デュナミスの練習をしていた。

私が、自身の力で少年になるために。


帰り道。

私はノアテラと手をつなぐ。

そしてもう片方の手を、今は少女の姿をしたセティと結んだ。


新たなつながりを感じながら、

家の近くまで一緒に歩く。


家の近くまで来たとき、ノアテラはセティをもとに戻した。

その目は、少し冷たい。


「セティちゃんを救いたかったら、早く、会いに来てね」


緊張が走る。

作られた笑顔に、低い声だった。


これが現実で、これが本当のノアテラなんだ。


「もう『あいつらが』迫っているのよ」


穏やかな口調から、打算がにじむ。


この人は、何かを見ている。

まだわからない。


それでも一つだけ、はっきりしている。

私の望みを正しく理解しているのは、ノアテラだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ