↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/54

52.地獄の先

「おはようございます。昨日は申し訳ございません」


「お、おはよう。寝たら少しだけ元気出たか?

 …まー立ち直れんよね」


ムイが、頭を小さくポンッと触ってきた。

実を言うとセティはオートマトンだよ、だから今も中枢は無事だよ…なんて、口が裂けても言えない。


無用な心配をかけてしまっていることに、ただ申し訳ない気持ちになる。

せめて昨日の消沈した態度だけでもと、メンバーに謝って回った。


そうして最終結果を聞きに、みんなは第4棟に再び集まる。

背の低い私は、ムイにおぶってもらっていた。


「ただ今より、デュナメイオンの閉会式を始めます。

 閉会にあたってお言葉を、デュナトスTier1のヒース・ファイリア氏、お願いします」


名を呼ばれて壇上に上がったのは、暗緑色の短髪をした男だった。

すらっと伸びた身長、銀のマント、そして首元から鱗が覗く。

恐らくハヴィの一人、そしてあの首元の鱗は、竜族の特徴だと習った。


「みな、よくぞ生き残った。

 目の前にいる者達へ、今この時をもって道は開かれた。

 …全員がデュナトスとして認められる予定である」


広間内にいるのは、恐らく1,500人を少し超える程度。開会した時は1,755名だった。

それは、寄生する者達さえいなかったら、ほぼ全員がデュナトスになれたということだ。


「デュナトスとしての待遇を決める通知表、及び配属希望書類は後日送られる。

 なお、帰りに本人確認システムを通ることを忘れぬように。

 それによって本デュナメイオンの修了の判定となっている」


(本人確認システムって、試験の時のアーチ状のあれかな?)


(うん、不正防止だね)


「また、開会の際に理事長から、新たな秩序と語られたと思う。

 それについて誤解しないように言っておく。

 現体制は盤石だ。その上で新たな世界を拓くため、不毛の地を治める才能が重要視されているのだ」


不毛の地に対しての言葉……?あれが?

怪異が住まう地、怪異と人の境界地を、人々は不毛の地と言っている。

その地を治めるのならば、人が居住する秩序の横展開で十分なはずだ。


ヒースは一通り喋り終わると、一礼して舞台を降りていった。



「……それでは、最高栄誉を発表する。

 本デュナメイオンにおいて、最も優れた功績をもたらしたのは」


「ハクレイ・シラハ」


既に前方にいたハクレイは、名前を呼ばれると壇上に案内された。

運営に促されて前に立つと、頭を下げる。


予想通りだ。それで、何が手に入る?どんな権利が…


「最高栄誉を得た者は、この場で思想や願いを宣誓することを求められます。

 その言葉は、デューナメース理事会によって現実となるでしょう」


言ったことを現実に……。

この場でもし、守られるべきものが守られるように世界を創り変えると宣言したならば、

それをデューナメースが協力してくれるとでも言うの…


いや、何か、尖った思想を言わせて制御するガス抜きの仕組みがあるのかもしれない。


ハクレイは強いまなざしで上を見ていた。誰も見ることのない遥か未来を見るかのように。

もしかしてここで言うのか。ハクレイの目的……不毛の地の解放を。


「……このデュナメイオンで、一際目立って暴れた者がいる。

 彼はその力で、参加した有力者をことごとく破り、文字通り、思想を大胆な戦闘行動で示した。

 その名はアッティラ・ラシュターナ。

 俺は、彼こそが最高栄誉であって欲しいと願う」


周囲がざわめきだした。


「おいおいまじかよ…」


ムイが下を向いてそう呟いた。

周囲の赤誠の人達、チターナ、メイも驚いた表情でこちらを見てくる。


私の名を指されたことよりも、ハクレイに何の利があってそれを言ったのかが気になる。

プログラムのルールによって選ばれた最高栄誉を、その場で否定したに等しいのではないか。


「それが現実にしたい願いですか」


「ああ」


「しかと、記録いたしました」


ざわめきの中、ハクレイは舞台を降りていった。


誠実なハクレイ…。

きっと、共闘の約束を果たしてくれたんだ。


「では、最後になります。

 理事長から、お言葉を預かっております」


「今回も、多くの者が未来を閉ざされた。

 だがそれは異常じゃない。いつ何時も起きてしかるべき平常なのだ。

 故に、いつも犠牲を受け入れる準備をしろ。

 お前達の見ている道は、祖先が業を重ねて辛うじて作られたに過ぎないのだから」


その仰々しいセリフは、まるで世界の理を見ているかのような傲慢さがあった。


『……しかし、スピリエ様は本当にすごいわ。いつもこんな逸材を用意してくれる』


リーネの言ったことが脳裏をよぎる。


スピリエ、他でもないお前が未来を閉ざしたのだろう。

犠牲になるのは、お前だって例外じゃない。




「何だかんだ楽しかったよなー。最後セティさえ無事だったら」


棟への帰り道、ムイが無神経ともとれる発言をした。

何事も起きていない現実を知る身としては、これくらい鈍感でいてくれた方が気持ちは楽だ。


「運営がちゃんと動いてくれるとよいのですが」


「…いいえ。運営に任せず何としてでも見つけます」


ヌーの心配に、私は心配を残さないような言葉を探して喋った。


「アタシも手伝うよ。こちらの用が終わったら連絡するから」


「そうだね。私も就職したら情報集めてみる。

 あとさ……リーネが顔を見せないのは、ちょっと悲しいね」


みんな頷く。

ずっと仲間として行動してきた事実が、最後の裏切りでなくなったわけじゃない。

セティを失わなかった今、私はそんな気持ちだった。


荷物をまとめる時、みんなで紙を回し合った。

そこには連絡先となる住所をメモして、デュナメイオンの後も情報交換しようという話だった。

私は、メイラから言いつけられていた偽住所を書き、交換してもらった紙を手紙と一緒のポケットに入れる。

そして結局、リーネはこなかった。


ルレウはまだ繭のままらしく、明日を迎えたら棄権扱いだそうだ。

運営を通して、ルレウに偽住所を渡してもらえるようしておいた。


別れを済ませた後、私は本人確認システムの前に来た。

このアーチの中に入ると、そのまま来たところへ転送される仕組みらしい。


予定より一ヶ星早い修了になった。ノアテラ達は驚くかな。

私は迷わずシステムに入った。



日差しが少し増した気がした。

そこは広大な平原。赤茶色の土に僅かな草木が生えるだけで、見渡す限り何もない。

メイラの家の前に来ると思ったが、見知らぬ景色だった。


(アテラ、まずいぞ)


セティからだった。


(まずいって何が)


(何者かに狙われている)

(ハメられたね)


セティに被せてお姉ちゃんからも言葉が来る。


ピシィ


その時、身体が痺れる感覚がした。


落雷のようだったが、麻痺は殆どない。

斜め上方を見ると、ところどころ乳白色の肌に、黒髪サイドテールの女……

リーネだった。


「あなたの記憶は消さないとね」


「リーネ、どうしてこんなことを」


「私は、ここに遣わされたの。

 アテラみたいな悪い才能を摘みに」


悪いって何が…


周囲が薄暗く、リーネは、暗雲を起こし始めていた。

これはセシザから奪った能力に違いない。


「アテラ、あなたが包含属なのはもう分かっているの」


(アテラ。あいつデュナミススコア-401だよ。普通に戦ったらだめ)


戦う?リーネと…?


雲に厚みが増し、闇は深まっていく。

陰に隠れるリーネの表情は、苦しそうに見えた。


ズドォン!


身体中を痛みが駆け巡った。

膝が折れ、その場に崩れる。

セシザに匹敵する一撃。それは、リーネの覚悟を示しているようだった。


「ごめんねアテラ。ここで終わらせなきゃだから」


……戦いたくない。

記憶の中でのリーネはいつだって……

率先して料理をしてくれたり、

怪我の治癒をしてくれたり、

チームを優しい雰囲気にしてくれた。なのに。


「終わりたくないです」


「いいえ終わるの。あなたの数字は必ず世界を陥れる」


「じゃあ、ぼくみたいな人がいない世界なら、リーネはいつも通りでいられましたか?」


数字が悪いの?私が悪いの?リーネ、教えてよ…


(アテラ、会話している場合じゃない)

(アテラ、紋を使う相手だよ)


ズドォン!


「うあ…」

大きな稲光とともに、視界は白くぼやける。

セシザの本気なら私を気絶させられる。だから、私に差し向ける牙はまだそこまで鋭くない。


何とか立ち上がり、よろめきながら回避を試みる。


「選べる道は、デューナメースへの忠誠だけ。それが私なの。

 …もう、こうするしかない」


ズドッ、ドドドド…!

雷撃が辺りに落ちる。

しかし、その全てが空振りした。


「本当にそれは、リーネが選んだと言えるのですか…」


(アテラ!!)


「逆らえば怪異になるしかない。だから選んだの」


「怪異になりたくないから、させられているのでは…ぐ」


バチイィィ

大量の閃光を受けて全身が痺れだす。

前が、見えない。


そして、身体を背中から、何かが包んだ。

私は咄嗟に紋を発動した。


「考えることもできず、人を襲う怪異になるなんて地獄でしかない」


耳元でリーネがそう言った。

下を向くと、自分の身体ごしの背後にリーネが接しているのが見える。

リーネは私の背に腹部を吸着させると、そこにあった花弁が開いていく。


(はやく撃って!相手の包含は、きっとアテラのじゃ対抗できないんだよ!)


「ぼ、ぼくが…リーネが怪異になっても戻せます」

「黙って……。あーもう、無理無理無理無理、無理だから…」


リーネがそういってすぐだった。

花弁からでた針のようなものが私の右肩を貫いた。


力が抜ける。

継続的に電撃が流し込まれ、痺れも止まなかった。


(おい!聞いてる??)


体内に異物が入ったのに私の包含は動かなかった。

もはや、デュナミスを奪われる前に花弁を壊すしか方法はない。でももう後少し…


「ぼく達のデュナミスは奪わなかった、仲間だから。違いますか?」


「うるさい…うるさいよ…」


リーネは涙声になり、抱擁する腕に少し力が入った。

思い留まるかもしれないって、そう思いずっと紋で見続けていた。

体内のデュナミスの流れがリーネに行こうとするまで。


流れがリーネへ動いた瞬間。……私は、花弁を破壊した。


「……奪わなければ生きられないなんて本当の地獄です。

 だからリーネには、ぼくを奪ってほしくなかった」


「……」


(アテラ……)


電撃は止み、リーネの手が震えている。

するとすぐに、私の身体から、灰色のデュナミスを纏った触手が逆流していく。


「電撃を解かないでください。こちらの包含が動き出しています」


「リンの包含を壊したのは、アテラだったんだ。

 となると、スピリエ様は全て知っていて…」


壊れた花弁を貪るように触手が広がった。…やはりコントロールは効かない。

それに紋の反動がある今、私に抱擁をほどく力もない。

リーネが何とかしてくれないと。


「リーネ、手を解いてください」


「本当に危険な力…」


リーネから解く様子もない。

なぜだ。


(アテラ、リーネのデュナミスを破壊しろ。干渉が飛ぶぞ)


セティの言葉を頼りに横目で見ると、脊椎あたりの模様にデュナミス粒子が集まるのが分かった。

私はすぐにそれを破壊した。

激痛が駆け巡る。


「ごめんね、知らせるのが責務……え?」


「すみませんこうするしか…あの、はやく逃げて、ください」


「…」


少しの沈黙の後、リーネはため息をついた。


「あのね。離したところで、逃げるなんて無理」


紋は否応なく語る。

私の体内からリーネへ向けて数多の触手が入り込み、それらを奪うのを。


「無理なんて言わないで」


「あぁ、逃げるなら………ふふっ。アテラかぁ」


やめて。リーネを襲わないで。


「お願い逃げて、ください…」


絞り出す声にも全く動じない。

それどころかリーネの捕縛する手は、より力が込められてくる。

…なんで。


「いいよ。最後までやって」


「リーネ…だめだよリーネ…」


「痛た…」


ゴッ、ヌチャ、バリ。


複雑で気色の悪い音が響く。

紋を閉じて、ただ願った。

どうか僅かだけでも生き残って、そうして後でお互い謝り合って……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。