4.オートマトン
「うわぁっ、なんだオートマトンか」
下から声が聞こえる。
「コノ家ノ、エンニ トイウモノヲ チェックスル」
「ちょっと待て。連れてくるから」
狭い家は、声を簡単に通した。
……まずい。
セティなのか。
セティじゃないのか。
仮にセティでも、改変がもう剥がれていたら。
お父様の階段を上がる音。
どうする。
正直行きたくない。
「エンニ、オートマトンのスコアチェックがあるから行こうか」
スコアチェックと聞いて、身体が硬直する。
お父様は、間髪入れず手を伸ばしてくる。
……守られるには、守られるなりの動きが求められる。
私は爪を噛み、目を潤ませて言う。
「こわい。こえ、こわい」
「あれは大丈夫だ」
「どっかいく。こわい。
やだ。ナー、やだ」
「はい、はい」
お父様は、私を担いだ。
……守られるのは、得意じゃない。
「おろして、ナー」
抵抗も虚しく、お父様は階段を降りていく。
階下は土足のダイニング、そして玄関。
そこにいたのは、比較的光沢がある球形で、セティとは異なっていた。
「スコアチェック。330。異常ナシ」
昨日と同じ数字を語る。
緑のランプをこちらへ灯して、静止している。
「デュナミスチェック。-220。異常ナシ」
またマイナスになった。
しかし、警告音はならない。
まだ大丈夫…なのかな。
「…ん?-220?
低すぎないか?どんなデュナミスなんだ?」
お父様が、矢継ぎ早に質問を投げた。
「ソレハ ワカラナイ」
「なんだ、もっと優秀なのを持ってこい」
「任務リーダーハ 故障ニヨリ コレナイ」
「こしょう?」
私は被せるように聞いた。
「ハイ 回路ノ 異常
会話ガ オートマトン規約 ヲ 破ル」
セティめ、やらかしたな。
「どこ?なおす?」
オートマトンへ向けた言葉に、お父様がこちらを向いた。
「エンニお前、言っていることが分かるのか」
「ボスノ 宿舎デ 停止 サセテイル」
「いく、ナー、いく」
うん、全部分かる。理解力の演技は捨てる。
「何言ってるんだ、遊びじゃないんだぞ」
私はお父様をしっかりと見て頷く。
改変で、セティがどうかなったら…
お父様しか頼れない。
「…なぁ、見学できるのか?」
「宿舎ノ 位置開示ハ 義務ダ 案内スル」
予想外にあっさりだった。
お父様は、お母様にひと言伝えると、
私を抱えたままオートマトンについて行く。
広々とした空。
二度目の外出だった。
15分ほど、林を越えて下る。
その先には開けた土地、そして、近代の砦を想起させるコンクリート風建屋が見えた。
「ボスハ アチラニ住ム ネダーウ ト言ウ」
到着するとすぐに、
お父様は、片手でドンドンと鉄製の門戸を叩いた。
「モウ 報告シテアル 少シマテ」
「あぁ、少しだけでいいよ。エンニが満足したら帰る」
面倒臭がるお父様。
いつも10分ほど抱くと、疲れたっていっていたけれど…。
数分もせず、鉄製の両扉が開かれた。
「や、やぁ、オートマトンの見学だね。僕はネダーウだ」
現れた男は、人型だった。
けれど、露出した両腕は羽毛に覆われて、背には翼が生えている。
片眉を上げたその顔は、軽さと焦りが見て取れた。
「ナーク・アーグスだ。手短でいい。娘に見せてやりたい」
「案内しよう。こちらへ」
鉄扉をくぐると明るく広い玄関スペースがあり、進んで突き当たりを曲がった。
その先は、無機質な外観と比べて、緑豊かな庭園のようだった。
そこには、多種多様なオートマトンが行き交っている。
完全な球形のものもあれば、円柱のもの、四角錐寄りなど様々だ。
まるで使用人のように、動きは統制されていた。
「流石に村まとめのデュナトスとなると、たくさんのオートマトンを扱えるんだな」
デュナトス。
…さっきもデュナミスがどうとか言っていた。
「でゅな?」
「デュナミスを使う公務員みたいなものだ。って言ってもわからんか」
そのデュナミスとは、なんだろうか。
ネダーウが、軽く肩をすくめる。
「僕のデュナミスで常時動かせるのは、五体くらいが限度だけどね。あとは助手任せ」
そう言いながら、彼は庭園の湾曲した道を進んでいく。
そのまま歩くと、遠目に崩れた壁や、大きくむき出しになったコンクリートが見えた。
セティの姿は見当たらない。
「こしょう、こしょう」
私は、お父様の服を引っ張って伝えた。
「ああそうだ、こいつらのリーダーは、故障してるんだよな」
「故障?あぁ、一機、原因不明の回路故障で、中央との同期ができなくなった機体がいるんだ」
中央との同期。
それってもしかして…
「同期は法令で必須だから、たぶん廃棄するしかない。
かなり出来のよい奴だった。残念だよ」
セティ。
私が警告を止めて、報告できなくしたんだ。私のせいだ。
「ほしい、ほしい」
再び服を引く。
「そのガラクタは、引き取れるのか?」
「それはできない。戦闘にも使える代物だ。厳重に管理され…」
ヴゥーン!ヴゥーン!ヴゥーン!
突然、あのアラーム音が聞こえた。
「なんだ?」
音でわかる。あれはきっと、セティだ。
「ちっ、また暴走か。中央は何やってる。
少し、ここで待っていてくれないか」
ネダーウが、遠目の崩れた箇所に向かっていく。すると、オートマトンもそれに追従していった。
「ナー、あっち、いく」
私はネダーウが向かった先を指差す。
「あぁ?危なそうだな…だが、待てと言ってなかったか?」
「おねがい、ナー」
板についてきた目を潤ませる演技。
でも今は、涙が溢れた。
お父様が短く舌打ちする。
「しょうがないな…近くまでだぞ」
そのまま走り出した。
崩れた壁の向こうには、修羅場があった。
半壊した小型の球形オートマトン。
コードのほとんどを引きちぎられ、外殻も割れ、跳ねるように逃げ回っている。
ゴツゴツした表面。
セティに違いない。
それを囲むように、複数のオートマトンがじりじり距離を詰める。
ネダーウはその後方に立っていた。
「あれがガラクタか、思ったより小さいな」
セティが大きく飛び跳ねたとき、
ネダーウ率いるオートマトンがコード掴み、引きちぎった。
「もう三度目。破壊許可を申請するしかない」
ネダーウの声が聞こえた。胸をえぐられる感覚。
…もとに戻そう。壊されなくなることに賭けて。
紋を見る時間はない。
私は、今の胸痛を利用して、構造支配を発動させる。
集積部、あそこあたりの光を消す…
その時、もみ合いで一際大きなオートマトンが覆い被さった。
あぁ、しまった!
円柱形状の大型オートマトンに改変が…
ランプは赤くなる。
ドゥーウゥ!ドゥーウゥ!
一際嫌なアラーム音。
そして、ランプがパトライトのようにぐるぐる点滅する。
「なんだなんだ、誤検知か?ここは戦場じゃないぞ」
注意を向けるネダーウ。
円柱型は光線を発し、他のオートマトンを攻撃し出す。
光線は、対象を爆破した。
すると、他のオートマトンは一斉に大型円柱へ反撃した。
光る目、そして火花が散り、金属音とともに衝撃波が広がった。
「おいおい、やばいことになってるな」
何度か爆発する。
セティの小さな身体が、横へ吹き飛ばされるのが見えた。
ネダーウ達は大きいほうに夢中。
今しかない!
「ナー、ひだり、ちいさいこ、たすけて、はやく!」
「んん?わかった!」
お父様は、きっと状況を理解していない。
しかし、咄嗟に走り、私を片脇に抱えながらセティへ向かった。
「ひろって!」
タイミングよくそういうと、お父様は、反射的に拾い上げる。
「それで、どうするんだ?」
「にげて!」
「あぁ?」
「あぶない!ばくはつ!」
お父様は一瞬だけ迷い、それから踵を返した。
「これって……まあ、後で言えばいいか」
お父様は言われるがままに走り出す。
鉄扉をでた直後で、後ろに紋を張って確認する。
四角柱と六角柱…
二つ、オートマトンがうつった。
入口は一つ。すると、こちらを追ってきている。
今ので一回使ったから、残りは一回。
さほど早くない。しかし…
砦をでた後は開けた土地だ。
見られたら終わり…。
一回の行使で二人を止めなければ。
私はオートマトンの脚に狙いを定めて、胸痛を意識する。
脚を示す紋。精細を見抜く。
そこへ、複製の紋を重ねる。
神経回路延長の応用。
ひとつの動きを、過剰に増幅して絡ませる。
行け。
命令と同時に、四角柱の脚部構造が異様に伸びた。
六角柱の脚にまで絡まり、もつれて、二機まとめて地に叩きつけられる。
お父様は何も知らないまま、砦の土地を抜けて林を走った
耳あたりまで伸びた髪がなびく。
全速力はとても爽快だった。
「はぁ、はぁ、はぁ…引き取りに来たら、
はぁ、はぁ…返すんだぞ」
「うん」
お父様、ありがとう。
家に帰ると、お父様は二階に私達を置き、お母様へ話しに行った。
早速セティの修復を試みる。
コードや球形の外殻はボロボロだが、集積部は無傷だった。
ネダーウの会話から察するに、
同期を自動で行う仕組みがある。
金の紋を見ると、一定時間に一度、遠くに向かって何かのやりとりを示す線が走った。
そうか。
壊さないと、追っ手が来てしまう。
でもこれで三回目…いや、迷っている場合じゃない。
私は、その送信部をバラバラにした。
それによって自分のつま先、髪の色素がまばらに失われた。




