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46.デュナミス喰らい

ハクレイの周辺は、口の悪い者が多い。

交渉時に揉め事が起きないため、同行者は選ぶ。


暴言や煽り文句が飛んできても、じっと耐えられるかが焦点。

それで、セティ、リーネ、ヌーを連れたいという内容で行こう。


メイに話すと、「いい分担だね」といって譲ってくれた。

その勢いでムイにも同じことを伝えると、「男だけの編成がよかった」などと言いつつ了承する。


今度は、チターナにもそれを話した。


「気遣いしなくてもよかったのに。

 あいつ、面倒見はいいんだよね。アテラのいない間に何度も様子を見に来たり。

 …私は嫌いじゃないよ」


「で、でも、明日からセンシアさん達と動く作戦を伝える役があるので…」


ハクレイがこちらに何度も来ていたのは、予想外だった。

代わりに、明日の朝7:00前にセンシアのいる青月棟に行く旨を、連絡してもらうことにした。


(チターナ、あの顔はハクレイのことまんざらじゃないな)


姉セティが、呟いた。

チターナの何が分かるのかと思ったが、そういうのは私も疎くて何も言えなかった。



その後、リーネ、ヌーは了承し、すぐにハクレイのもとへ向かうことができた。



「ガキが来たぞおー!」


初齢黒風棟が見えたあたりで、見張りらしき者が失礼な発言をしてくる。


「熱い歓迎ですね。堂々と向かったのは間違いでしたか」


ヌーがそう言うとすぐに、ぞろぞろと黒風の者達がでてくる。

動じずに前に進んだが、その少しの間に黒風は何十人も現れた。


不意に、クスっと横から声がした。


「あの人達、何か嬉しそう」


リーネがそう言った通り、こちらを指さして笑う者や、軽快なステップで仲間を呼びに戻る者など、

悪い雰囲気を感じなかった。


「あれは…死に戻った恐怖のアテラ&セティを、全身全霊で迎え撃とうとしていますね」


私も少し嬉しくなって、つい、冗談を飛ばした。

すると、私の周りは静まり返った。


「…アテラ、相手に戦う意志はないぞ」


(うん、アテラ面白くない)



黒風の群れは、近づくほどに、ざわめきを増す。

挨拶を交わすとその中から、一人が出てきた。


「中に来れるか?ハクレイが呼んでいる」


硬質の手脚を備えた虫族だった。

多分、前にハクレイに耳打ちしてデュナミス値を伝えていた奴だ。


私は頷いて、様子を見ながら先頭を進む。


「おっと、三人は外で待ってもらう」


虫族の前を通過した後、セティ、リーネ、ヌーは黒風数人に制止された。


急に空気が変わった。

だがこの人数差は、従うべきか…。


「セティ、いや、リーネだけでも一緒に…」


「安心しろ。人質にしたりはしない」


象のような巨漢がそう答える。

巨漢の奥で、セティが何度も頷くのが見えた。


何かのメッセージか。


(セティ、あれ何だと思う?)


(こう言っていると思う。

 いざという時は、ワシが全員連れて逃げられる。強気で行ってこい)


言いそう。

真実かどうかはさて置き、勇気づけられた。



黒風棟の中に入ると、一つの部屋に案内される。


「入れ」


ノックをすると、ハクレイの声が聞こえて来た。


「失礼します」


私は中に入り、簡単にお辞儀をした。


そこは、武力解決型の黒風らしくない、応接室のような部屋だった。

テーブルには皿と花瓶、壁には太陽のような絵まで飾られている。

大皿には、ナッツが山盛りによそわれており、隣にある小皿に数個、殻が入っていた。


ハクレイは私の頭あたりを凝視しながら、座るように促してくる。


「ありがとうございます」


見られているところは、前髪を束ねる紫の玉か。

私が着席すると、合わせるようにハクレイも椅子に腰かけた。

両肘をつき手を組み、口を開く。


「用件は読める。先に一つ、いいか」


「はい」


「我々が力を合わせたとして、セシザに勝てると思うか?」


ハクレイは、デュナミスでナッツを二つ、宙に浮かせると、

それを連星のように回転させた。


「いくつかの手は考えてあります。ただ…」


「勝てる確証はない。だろう?」


ハクレイは、私の言葉に被せてくる。

同時に、連星のナッツは、回転を速めていった。


「…私は、先日敗北しています。

 センシアも、ルールを盾に生き延びているだけだって」


(えー、敗北って言っちゃうのはネガティブだよー。追い払ったのに)


(これでいいの)


単純に敗北と伝えたのは、姉セティの存在を気取られないためだ。


「そうか…」


小さな声だった。

私は、宙で高速回転するナッツを無意識に目で追いかけていたが、

やがてそれが左に寄っていったため、右の方に目をやった。


「あいつは、ここに来るようなレベルじゃない」


右方には、大きな塊が浮いている。

山盛りだった皿は空。それは、全てのナッツをくっつけたものであり、左方二つを矮小に見せた。


「全く、歯が立たなかった。

 そして、終齢のリンヌァグジアスですら、退けられていると聞いた」


リンヌア…

教官の言っていた、統合戦上位のリンと推測できる。

そして彼女が…


「リンが女帝と呼ばれる者でしょうか」


「女帝?」


「セシザ達が、終齢にいる包含属のことをそう呼んでいました」


女帝という呼び名は、デュナメイオンで広く認知されている訳ではないらしい。


「包含属…恐らく間違いないだろう。

 それよりも、セシザと会話できる余裕があったのか」


一瞬、ハクレイは目を見開いた。

それに対して私は頷く。

すると、ハクレイは穏やかな目で左方を指さした。


「この二つの木の実。デュナミス値 -50程度ならばできる速さだ」


二つのナッツだったものは、高速すぎて今やドーナッツのように見えていた。


「では、こちらの集合体。この塊を一つの物体として、同じ速さで回転させたら?」


高速回転がどれだけ殺傷能力を高めるかは、これまでの経験でわかる。

このサイズであの速度が可能なら、一人で軍団レベルの戦力になる。


「引斥デュナミスの値は、同じ条件で動かせる質量を比べることで推し量れる。

 木の実の数から計算して-1000。リンのデュナミス値だ」


「あ…」


「さらに仲間からの報告によると、奴は包含属で自身のデュナミスを上下させている」


アーズと呼ばれた者が、デュナミス値が上下する私を女帝と同じタイプだと言ったことも一致する。

女帝がリンであり、恐らくデュナミス喰らいなのだ。


「その二勢力を戦わせる必要がある。そうして勝つために、俺と組め」


(ハクレイって現実主義者だねー、見かけによらず)


潰し合わせれば、勝てる見込みは高まる。


「共闘には賛成です。けれど、待つわけにはいかない。

 セシザが勝てば、デュナミス喰らいに、運営が関与している手掛かりが失われるかもしれない。

 あるいは、女帝が勝つ方が最悪です。包含によって手を付けられなくなる」


何より、故意に人の未来を奪うようなデュナミス喰らいは、どうしても許せない。


「なに…?」


「白刃棟の事件は、女帝が関与していると思っています」


「だから何だ。正面から挑むよりましだろう」


ハクレイは、ナッツを床一面にぶちまけた。


「お前はもっと狡猾なはずだ。勝利のために手段を選ばないような」


(いえてる。いえてる)


う。

姉セティはともかく、ハクレイにすら、私はそう見えていたのか。


「…納得のいく選択こそが、ぼくの現実、ぼくの勝利です」


そう返すと、ハクレイは再び両肘をついた。

少し間が空き、大きくため息をつく。


「…そうか。ならば、あの二勢力をどう制するつもりだ?」


「奇襲で、女帝を先に狙う。

 たとえ倒せていなくとも、セシザが立ちはだかった時には、初齢同盟を機能させていただけますか」


ハクレイは一つ、ナッツを割り、口に含む。


ボリ、ボリ。

大きな咀嚼音とともに、立ち上がった。


「都合が良すぎる。勝手にやっていろ」


まずい。話が終わってしまう。


私もハクレイに合わせて席を立つ。

身長は、二倍近くの差だった。


「ぼくは勝つ。

 もし、最高栄誉を得たあかつきには、勝者の権利は共有しましょう。

 スピリエと怪異の関係を調べ、明らかにしたい」


見上げるようにして、ハクレイの目をじっと見た。

ハクレイは無言だった。


「スピリエは、怪異に襲われない。必ずそこに、謎を解く鍵があります」


「なに…?」


僅かに見開いたその目。

絶対に知りたいはずだ。私だって喉から手が出るほどに。


ハクレイは、天井を仰いだ。


「勝者が真実を暴く。例え命を危険にさらしても」


どこか遠くに向かって宣言するようだった。

けれど私の胸に、あの焼かれるような痛みが来る。


ハクレイは一呼吸すると、再びこちらに目を向ける。


「…いいだろう。

 だが、奇襲をしくじったら、俺に従え。

 セシザを疲弊させなければ、勝ちはない」


「ええ。こちらの勢力が合意できる範囲ではありますが…」


それを聞いたハクレイは、鋭くこちらを睨む。


「ならば、今日中に合意しておけ」


「全力で試みます…。

 あと一つ、お願いがあります」


「なんだ」


「レーテ、シュゼ、ミュミテに手を貸していただきたいです」


レーテは青月のリーダーだから分かる。

しかし、シュゼ、ミュミテは名前だけしか知らされていなかった。


「…王の種族か」


ハクレイは、律儀に床に落ちたナッツを集めだした。


「三人全員、今日連れて行けばいい」


「えっ」


そんな。

王の種族は、主戦力じゃないのか。


「奇襲に参戦させろ。型にはめなくていい分、こちらは助かる」


その言葉に少し、悪寒を感じた。


パン、パン


ハクレイが手を叩く。


「えっと、その人たちはどんな感じの…」


すぐに扉は開き、先程の虫族が覗く。

ハクレイは、レーテ、シュゼ、ミュミテの三人の名を出すと、

虫族の者は一礼して扉を開けたまま消える。

そして、扉の向こう側で走る音が聞こえた。


「レーテは青月棟にいる。合流は遅くになるだろう」


そう言ってハクレイは、部屋から出る。

私もそれについていった。



黒風棟の入口に戻ると、人は殆どいなくなっていた。

セティが最近身に着けた高速ステップをして、ヌー、リーネがそれを観察している。


「あ、ハクレイさんこんにちは」


リーネがほおを緩ませて挨拶した。

そんな間柄だった…?


「しばらくだったな。初齢同盟は対セシザでのみ復活させることになった」


ハクレイの口からそう話すと、リーネは頷く。


「十分です。センシアさんと決裂した頃に比べたら」


ヌーも続いて頷く。

この二人、ずっとハクレイと繋がっていたのかもしれない。


「セシザにデュナミスを温存されたら負けだ。気取られるなよ」


ハクレイは、セシザのデュナミス切れに活路を見出している。

それは私達がセシザを退けた方法と同じかもしれない。



ダッダッダッ


後ろから足音が聞こえて、振り向く。


「やっほー」


ウェーブがかった桃色髪がこちらに声をかけてくる。


「ミュミテだ。後ろにいるのがシュゼ」


ハクレイの言葉を確認するように桃髪の後ろを見る。

そこには、見覚えのある白髪の男がいた。

目つきは悪く、それを裏切らない口の悪さを兼ね備えた奴。


「は、はじめまして」


嫌な記憶は捨て置き、私はすぐにお辞儀をした。

揉め事が起きないよう冷静に。お二人は貴重な王の種族なのだから。


「はじめましてじゃねーよ」


「ぷぷ。おちびちゃん、忘れてやんの」


…想像の斜め上をいった。

シュゼの方は、もう会っているから仕方ない。

まさか桃髪の方すらも、口が悪いだなんて。


「初日の黄昏棟で、あたしの分身を容赦なくちぎってくれたの忘れてないから」


よく見れば、桃髪もあまりに人間寄り。動物の外観がない奴は、口が悪い法則の通りだ。

違いと言えば、顔に蛮族のようなペイントがあるくらい。


「その節は、申し訳ございませんでした」


私はまず謝罪をした。

あの判断に非があったといえば、その通りだからだ。


「じゃあ今から償えば。期待してあげる」


「宗主なんだろ?しっかり頼むぜ」


不本意だが、ハクレイの気持ちが分かってきた。

子供のような二人は、いとも簡単に部隊に加わってしまった。



夜、レーテが道に迷って中齢青月に合流したという連絡が来た。


作戦会議は、20:30頃で切り上げられる。

会議をしながら、セティに重ねがけをして、私がうたた寝をしてしまったためだ。


奇襲に失敗したら撤退、上手くいっても追撃は禁止。それだけはみんなと念押しを入れた。

そして、撤退後にハクレイに従うことは、安全と判断できる方ならばという条件付きで合意された。




次の日。

赤誠棟のメンバーは定刻通り6:00には揃い、中齢青月へ向かう。


「セシザ、リンの軍勢はまだ動いていない。

 作戦通り、中齢黒風付近で待機だ」


主力は、正面待機。

分隊は二つ。私とセティ含む小部隊で女帝に奇襲をかける。

裏をかかれないために、センシアの部隊がセシザの勢力を監視する。


私達は、中齢を大回りして、女帝のいる終齢青月棟まで向かった。

棟が見えてきたその時だった。


ヌーが何か呟く。


「-876、-562、-742。なんだあの化け物達は…」


呪文のように吐いた言葉、その顔は、血の気を失っていた。


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