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45.決戦攻略

「アテラ?ごめん大丈夫!?」


メイは髪をかき上げてそう言った。

倒れた背中に、ひんやりと床の冷たさを感じる。


(あー気づいてないかもだけれど、アテラの背中、結構やばいよ)


「あ、少し無事でした」


返す言葉が変になった。

姉セティの言うやばいに、メイの形相を重ねて動揺が抑えられない。

メイは、私を抱き上げるように起こしてくる。


「ほんと、全然反応がないから焦ったん…うわっ!

 …え、血?」


メイの手は、私の削がれた背中に触れて赤くなっていた。

起き上がると、背中が接していた床にも、べっとりと血が残っている。


鼓動が速くなる。


「えとこれは、自分でやってしまいました」


「はぁ…?」


言葉足らずの私へ向けるメイの顔は、これまでにないほど険しくなる。


正義感の強い彼女らしい反応だが、このような場面だと圧迫感が凄い。

…メイになら、隠す理由なんてない。


私は、ルレウに融合されかけた一部始終を話した。

ただ、紫の玉と紋改変は伏せて、包含により私が奪う側になったことを強調した。



「ルレウを、運営に突き出そう。

 アテラの身体を奪う、殺しの未遂。そして、チャームは同色への裏切り。

 …やってることが、めちゃくちゃすぎる」


デュナメイオンのルールは、

一、殺害。二、教官への背信。三、同層かつ同色への裏切りだ。

メイは、それになぞらえて言い放った。


「ルレウの融合に殺す意図はなく、弟を取り返したいだけ。私への狙い撃ちでした。

 他の人に手を出すとは思えません。


 あと、チャームには反動がある。

 運営に任せたら、それが切れて過剰に悪い証言を集めてしまうかもしれません。

 まずは、庇護すべきです。そして、ルレウを変えた何かをよく調べる。

 やるのは私達でないと…」


メイの眉がピクリと動く。


「アテラ、気づいてる?

 それって、自分がルレウを裁くと言っているようなものだよ」


「だから、これはぼくが被ったことだから、どうするかはぼくが決め…」


あ…。

メイに言われ、口に出して理解した。

許すかどうかは、やられた私が決める。仕掛けたルレウの背景を全て聞いて判断したい。

それは、心情として当たり前だと思っていた。

けれどそうやって、私が主体になることでルールを歪めてしまうのか。


かといって、ルールだから当事者の心情を二の次にするというのもおかしい。

頭にモヤがかかる。


「メイ。今すぐ答えはでません。

 ただ、みんなで考えて見つけたい。だめでしょうか」


そう伝えると、メイは眉間にしわを寄せて目を瞑る。


「んー…」


そして頭を掻いた。


「そうだなぁ。

 …世の中は、突然理解できないことが起きるもんだよ。

 そんな時は、ルールを捻じ曲げない方がいいよ」


メイはまっすぐに視線を合わせてくる。

その目は、鋭く光っていた。


何も言い返せない。

少し沈黙の後、メイはため息をついた。


「けど…理解できる者は、正当にルールを変えればいいと思うよ」


正当に、か。

それが間に合うのなら、困ることはない。

仕組まれた存在という異変への対応か、ルールを守ることか、どちらを優先するかなのだ。


(要はルールを守る人は、ルールに守られたいんでしょ。

 その前提を壊された人にしか、ルールの外は見えないのかな~)


姉セティが呟く。


そう。問題の本質は別だ。

異変は、デュナミス喰らい。もし古からあるとしたら、デュナメイオン三つのルールが守っている…


(セティ、珍しく意見が合うね。

 何かを守るルールは、同時に守らなくていい人を定義している。

 場合によって、支配と排除だってできる)


──幸福値カンストだってそうだった。


(なにそれ)


姉セティに話すだけでも、少しモヤが消えた気がした。


「デュナミス喰らいの件が、もし運営にまで絡んでいたら、話が変わります。

 それを見越してみんなで判断しましょう」


ルレウのことは、創り変えるべきルールを見越して判断する。そうあるべきだ。


「それって、アテラの理解できること?

 そういうんなら、今は何も言わない。早く手当てをしよう」


理解の道筋はある。

私はメイの言葉に頷いて返した。


「それじゃあ、ルレウはアテラ以外が迎えに行く。

 それで判断材料は全部、本人の口からも話させようか。

 みんなで考えるんだもんね。正当にいこう」


「う…」


(珍しく言い負かされてる。…私は好きだな。メイちゃん) 



メイに背負われて、中齢棟に帰る。

背中の傷は、リーネによって治ったが、代わりにふわっとした薄い産毛が生えたと言われた。

それは見る人によると、ルレウのふわっとした触覚を彷彿とさせたようだ。


宗主である私達のチームは、各棟への伝達で忙しかった。

明日の行動、そして、構成部隊となる各々チームへ作戦上の扱いを明らかにしなければならなかった。

具体的には、中齢青月が常備軍で、初齢赤誠と黄昏が臨時の増援という位置づけとなっており、

ナズナに荒らされた初齢の白刃が、専ら伝令役とされていた。


このセンシアが決めた扱いはできる限り変えず、中枢のみを我々チームに組み替えた。

一通りの伝達をすますと、既に日は沈みかけていた。


各々疲れを癒すため、自由時間になる。


ようやく手紙を確認できる。

私は手始めにノアテラの手紙を開いた。

そこには、ルレウの言ったとおりの事が書いてあった。



デュナメイオンには、デュナミス喰らいが必ず現われる。

そうして、多くの才能が刈り取られるが、そのことは何故かみんな忘れた。と。


スピリエがいて安全だったのは、彼がデュナミス喰らいと繋がっていたから。

とまで言及されていた。


そして、ノアテラがデュナメイオン期間中の庇護を通じて、

スピリエに特別な気持ちを抱き、罪悪感を感じたことまで赤裸々に綴られていた。


全て読んだが、どうしても引っかかる。

スピリエがデュナミス喰らいと繋がっていたならば、スピリエから渡された紫の房で、なぜナズナは無力化された…?

私に対する無力化を狙った。けれど誤った使われ方をした。そう仮定しても房から感謝されたことは説明がつかない。

スピリエは、デュナミス喰らいの邪魔をしている側と見た方が自然に感じる。


…そして、みんな忘れたのに何故、ノアテラは忘れない?


アトリとの戦闘後、スピリエが私を匿った理由もわからない。セティを助けたことも。

考えれば考えるほど、謎は深まる。


この手紙を、初日に見れていたら。

いや、見ていたら、怒りに正義感が乗っかりスピリエに紋を使ってしまったかもしれない…



最後の手紙を取り出す。


ノアテラがデュナメイオンの隠れた危険を伝える要旨ならば、

さらに古い時代から関わっているメイラの手紙はどうなる…

勝手に、背筋は伸びていた。


メイラの手紙を、一気に広げる。



以下に記すことを守り、十分な成果を挙げてデュナメイオンを終えることを期待する。


一、夜更かしを控えて、朝晩、防壁を重ねよ。

 1,000以上を維持しておけ。


二、部屋はシェアできる。中齢にも根を貼れ。

 教官から棟の利用権を奪う必要はない。


三、アテラは、デュナミス喰らいとの接触を避けろ。

 見つけたらセティが奇襲で潰せ。


四、不毛の地出身者がいたら、王の種族について聞いておけ。

 猫族は目が金色になる『紫の目』があるが、アテラは若すぎて発動できない。


五、だから、武力ならば竜族の剛竜族か、無族の天族が必要になる。

 死ぬ気で勧誘しろ。


六、闘争を避けて外交で味方を作れ。

 弱くても数の勝利がデュナメイオンの勝利に繋がる。


七、我々の目的を最短で叶えるなら、最高栄誉を狙え。その権利で禁書調査に志願するのだ。


八、スピリエに会うことができても、殺意をむき出しにせず、禁書へ近づくことに最善を尽くせ。


……要点ややるべきことだけ、書かれていた。

メイラの口調に近く、あの狐顔が思い浮かぶ。


手紙に書かれていること大半は、既に守られることなく終わっていた。

なのに、何度も「デュナミス喰らいとの接触を避けろ」のあたりに視点が戻ってしまう。


二人とも、軽く手紙を渡した割に、情報が貴重すぎるよ…。


重要そうなもので、まだ間に合うもの…。

王の種族というのが、あのユスティアが見せた身体能力のからくりに違いない。

だとすると、相手にいたら脅威だ。

四から五への流れからして、王の種族である竜族の剛竜族か、無族の天族に活躍してもらうことが、武力で優位に立つ肝ということだろうか。


伝令に頼めば、探すのは容易。後は敵方にいないことを願うしかない。



次の日。

朝一番に伝令にお願いして剛竜族と天族の情報集めを依頼した。

そして正午になる前に、情報は集まった。


・初齢青月のレーテ

・初齢黒風のシュゼ、ミュミテ

と、他五人。


他五人については、デュナミス値が極端に低かったり、初齢白刃棟の被害者であったため除外とする。


レーテ、ジュゼ、ミュミテの三人は、偶然か必然かハクレイの勢力下だった。


次プログラムの説明が行われる正午が近い。

私は、彼女らと待ち合わせできるよう依頼しておいた。


中齢赤誠棟の広間にて、次のプログラムの説明を受けに向かう。

そこには、我らが初齢赤誠が、殆ど集まっていた。


時間になると、帽章付きの教官が語りだした。


「前回プログラムの結果から伝える。

 統合戦は、宗主アテラ、リン、セシザ、ハクレイの四陣営に収束した。

 人数は、アテラの陣営がトップだ」


昨日計算した結果、私達の勢力は初齢赤誠の殆ど、白刃全員、黄昏の殆ど、

さらに中齢青月全員、白刃の一部を合わせたもので600名を超えていた。


デュナメイオンは、総勢1755名、アトリ、ヤパの件による失踪者220名。


そこからの推測もでた。

セシザは中齢黒風全員、白刃半数、そして、終齢の赤誠あたりまでで300名ほど。

恐らく女帝とされるリンが、終齢の残り全てで400名ほど。

ハクレイが150名ほどで、残りは在野だ。


「次は最終プログラム、総力戦である。

 統合戦で構築された陣営は同色として扱い、本デュナメイオン参加者の過半数が降伏するまで対話か戦争を行う。

 降伏した者は、例外なく最高栄誉の対象から外れる。

 開始は明日の午前7:00からとする」


それは、あまりに短い説明だった。

四陣営の最低二つ相当が降伏するまで終わらない総力戦と、受け取れる。

これまで、その色分けをしていたに過ぎないということになる。


「母数となるデュナメイオン参加者というのは、失踪者や退場者も含めた当初参加者という意味でしょうか」


何者かが教官に質問を投げる。

帽章付きの教官は、帽章なしの教官の方を向いた。

すると、帽章なしの教官は、声の方向に直って手を挙げた。


「そうよ。つまり、降伏しない参加者ということになる。

 デュナメイオン本区域は、デュナミスを用いてあらかじめシステム構築しており、柔軟なルール変更はできないのよ。


 降伏した者は赤い光が照射されるから、棟へ戻ること。勿論、戦ってはならないからね。


 降伏判定だけど、『強い敗北感』をあらゆる外観情報から読み取って勝手に行われる。宗主、チームリーダー、個人の何れにおいてもそれは機能し、配下は全て降伏と見なされるわ。

 …説明は以上よ」


強い敗北感で、終わる。


背筋に冷たいものが走った。

圧倒的な実力を持つセシザに対峙しただけで、何十人もが戦わずして降伏判定となり、雪崩のように戦線が崩壊することだってありえる。

…いわゆる士気というやつか。


運営は、戦争の本質でさえシステムに組み込んだ。

こんな構造で対話で降伏という選択肢は、果たして機能するのか。



最後が本質的な戦争だとわかった以上、ハクレイに協力を仰ぐことが最優先だ。

ハクレイは何を欲しがるか。私は何を与えられるか。


思い出せ。

ハクレイの目的は、故郷襲撃の真実を明らかにして、怪異を解放することだと思う。

そして、スピリエを倒すと私が言ったら、面白いと返してきた。

さらに、共闘で得られる最大の成果は、最高栄誉。それは、スピリエに近づく最速の手段になる。


最高栄誉は複数選ばれるかもしれないし、一人かもしれない。

ならば、それをどう使うかで契約、または合意する。

どちらかしか取れなくても納得できるように。


……スピリエと怪異の関係を、明かさせる。

そういう合意が結べたら。私だって知りたくてたまらない。


それを思いつくと、脚は勝手に動いていた。

プログラム開始まで、今日の午後しかない。何としてでも味方につけなければ。

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