39.二つの異常値
全ての攻撃が捻じ曲げられた。
ただ軌道を返されたんじゃない。加速している。
あんなのをまともに受けたら、大勢に被害が…。
「まずは、お前たち自らで災いの責任を取れ」
空からの声。
そして、真っ先にセンシアたちへ向かったのは、セティの熱線だった。
「セティ、あれ相殺できる?」
「やってみよう」
セティは、熱線を放った。
狙いを合わせるまでの一瞬、熱線がセンシア軍の端を焼いた。
しかしすぐにセティが横から重ねると、はじけ合って消えた。
「次、木片は…」
(熱線で撃っても落としきれないし、火の雨が降るよ)
混じったセティか。確かにそうだ。
「木片は撃たないで」
(全力で封域させたらいい)
続いて、アドバイスが聞こえてくる。
センシアにそうさせろということだろう。
難しい注文がきた。みな上空の危機を見て、ざわめいている状況だった。
「センシア!封域を!」
(聞こえないって。干渉で伝えて。あの時使ってたでしょ)
干渉?私が?
使った記憶はない。
だが時間はない。ダメ元で、紋で見たセンシアの位置に向けて念じた。
念じた瞬間、身体の中の孔雀部分が僅かに動いた気がした。
すると、封域はすんでのところで多重に展開され、異常な速度で落ちる木片を次々と粉砕する。
(まだあるよ)
「アテラ、岩片が」
最後に、私が放った岩片が迫ってきた。
それは、確かに私が放った三つ。しかし三つは一塊に結合し、元より数倍の速度で迫っていた。
万が一、人に落ちたら…。
封域に任せるわけにはいかない。
やるしかない。
それを破壊の紋で砕いた。
「いっ」
激痛が身体を襲う。
しかし、孔雀の融合のせいか前ほど痛くはなかった。
「アテラ。次が来るかもしれん」
セティが私の肩を支えてくれる。
「よろしい。では雑言の責任を。これは重いぞ」
声がきた。
けれど、飛来物などはない…あれ。
「あれは…大きすぎる」
(見て、雷雲が)
両方のセティが同時に言った。
上方の雷雲は異常に発達していた。
それは渦のように動いており、その分厚さのあまり、空が大地を押し潰しているようだった。
火花がちらつく…
「ぁぁあ!」
焼けるような鋭い痛み。
閃光のなかで、身体が痙攣する。
だめだ、動かない。身体も、頭も…
…
巨大な雷撃をまともに受けたらしい。
朦朧と、それを思い出す。
焦げた臭い。
視界は暗かった。いや、目がひらけない。
ただ、声だけが聞こえる。
「おいセシザ。終わったのか」
カラス族の声だ。
「ああ。女帝と比べたら大したことなかったな」
そうだ。
私は、負けた。全く歯が立たなかった。
「しかし、またデュナミススコア四桁か。怪異でもないのに二人も現れるなんて、世も末だよ。
こっちは、まだガキでよかった」
「アーズ。異常値はこっちのガキだ」
「あ。まじかよ。
女じゃないのなら手加減なんてしなかったのに」
「女でも手加減はするな。」
デュナミススコア四桁。一人は私のこと、そしてガキじゃないもう一人がいるのか。
それが、女帝…?
だんだん、意識ははっきりしてきた。
しかし、殺されるような気配じゃない。
このまま話を聞き続ける。
「んで、運営に突き出すのか」
「いや…。今のデュナミスは-331だ。突出してはいるが異常値じゃない」
「女帝と同じタイプなんだろうな。一体何人食ったんだ」
「運営には伏せろ。まずは、理事長に生体データを回す」
…つまり、デュナメイオン運営と理事長であるスピリエが別の意思で動くということか。
薄目を開けると、カラス族とほぼ人間に見える者が立っていた。
カラス族がアーズ。ほぼ人間の方がセシザか。
セシザは左手に、竜巻で削がれた私の腕の破片を持っている。
(セティ、運営は私達があの場にいたことは知らされていないのかな)
頭に話しかける。
反応はない。
「あっちは?手当てするか?派手にやりすぎると女帝の時みたいになるぞ」
「…」
アーズは、恐らくセンシアたちの方向を指さしていた。
そうだ。あっちはどうなったんだ。顔の向きが変えられないため見えない。
「4kmほど遠方に援軍だ。このままでいいだろう」
「事前に呼びやがったのか。まぁ、身の程わかってんじゃん。
すぐに統合戦の決着だけやっておくか」
「ああ」
二人は歩き出した。
話しぶりからして、センシア達も全滅したのだ。
実力差は、あまりにも大きすぎた。私はスピリエの部下にすら傷一つつけられない。
何もわかっていなかった。
それでスピリエを殺そうだなんて、恥ずかしくて、悔しくて、目が潤む。
グシュ
「う…」
何かが刺さる音、そして、土を蹴る音が同時だった。
「油断したな」
咄嗟に、私も立ち上がる。
ガキィン!
そこには、セティの右腕から出た長く鋭い刃物と、剣が交わっている。
剣を持つセシザは、青みがかった銀髪。そして険しい顔をしている。
左手側には、アーズが背中を押さえていた。
前髪が、垂れる。
あれ。頭の紫の玉が、ない。
セティは右回転で三撃、切り返して左から一撃と、異常な速さで攻撃を繰り出す。
セシザはそれをいなすようにして、下がっていく。
…はやく助けなきゃ。
全身の痛みはまだ残る。紋を使えば身体が崩れる。
私は、岩片を周囲に巻き上げていく。
「くそガキが!」
セティの方向へアーズが向かった瞬間。
そして、後ろ姿のセティから赤く煌めきがチラついた。
「アーズ!」
回転するセティは、砕かれた右腕の破片を飛散させた。
そして、同時に熱線も放たれ、それらはセシザの封域による防御ではじかれた。
セティは身体を回しながら照射を続ける。
熱線の射線が水平に薙ぎ、私の頭上を越えてアーズを捉える。
「ぐっ」
胴を焼かれながらも、アーズはセティに直進する。
私はアーズに向けて岩片を放つ。
しかし、アーズは蛇行しそれをかわした。
そして、セティへの距離をつめる。
…あいつ、後ろに目でもついているのか。
セティは左手からも鋭い武器を発生させた。
熱線と左右の武器を振り回し、正面のセシザを両腕の刃で捌きながら、背後のアーズには旋回させた熱線を向ける。
私の射出する岩片は、全てセシザの封域で防がれた。
下がるセシザは無傷。しかし、攻めるアーズは左肩に剣先を受ける。
「なぜだ!なぜ読めない!」
「…同時に数パターン置いているな。
援軍まで来れば、デュナミスが足りん。今回は退くぞ」
「くそが。さっきとはまるで別人…」
そう言いながら、二人は後退する。
私は攻撃を決めてから撃つ。あのセティは、決めないまま複数を走らせている?
「待て!」
その言葉は虚しく、二人は凄まじい速さで距離を離す。
紋で追うも、ものの数秒で、黒風の軍勢に戻って行った。
背後やや遠くに殆どの者が横たわったセンシア軍がいた。
黒風の軍勢は、早くも退き始める。
セティは直立したままそれを眺めていた。
「セティ、どうやってあいつらに」
「ほらね。私の方が強いでしょ。
このボディは、複数の判断を同時に走らせるのに向いてるんだから」
げ、混じったセティだ。
笑顔でこちらに振り向いてきた。
あの強さの理由は複数判断…
それよりも、本物のセティはどこ。
「何その顔。ほら、もう一人は無事だよ」
セティが口を開けると、そこには紫の玉があった。
私は、それを受け取り傷がないか確認する。
「大丈夫だよ。私の片割れなんだから、大事にするにきまってるじゃん」
「…ありがとう」
「うんうん。だから私のことも大事にしてね」
「…はい」
罪悪感がわいた。
協力して前に進まなければならない中で、
戦闘においても、言動においても、私は混じった方のセティをあまり信用できなかった。
しかしこの結果は、私とセティの未来にとっては、光明と言うほかなかった。
「よしよし」
混じったセティが頭を撫でてくる。
その髪はおさげがほどけて、酷いくせ毛になっていた。
私は、自分の狭さが情けなくて、涙が落ちた。
「ねえ、早くあっちに行こ。倒れているうちに手柄をアピールしなきゃ」
「…」
混じったセティについていく。
紫の玉を綺麗にしながら、心の整理をしていた。
セティになんと言おう。混じったセティを除け者にした口ぶりなんて、もうできない。
前髪を玉で束ねる。
(セティ、だいじょうぶ?)
(ああ。アテラと触れていたらセティと会話ができた。交代したのはワシの意思でもある)
そっか。
セティは既に、気づいていたんだ。
(信用できないなどと言うべきではなかった。
セティはワシと同じ存在であったのだから)
全く同じ気持ちだった。
言いたいこと。言いにくいことを、先に言われた。
(あと、重いものばかり背負うな。今回の相手は戦うべきだったし、ワシもお前も、負けるべくして負けたのだ)
(だって、勝てない相手に戦いを挑むのは…)
(セティはやり合えた。目指すところに近づいたことを、まずは笑って喜べ)
心にしみる。
セティから笑えだなんて、よっぽどだよね。
だから、それだけ価値のある負けだったと思うことにしよう。
(うん。そうする)
涙をぬぐって前をみる。
すでに倒れたセンシア軍に差し掛かっていた。
私はそれを目にして、笑おうとした口元が止まった。




