↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/54

31.技術差

「そ、それはだめだろ。さすがに」


「なぜだ?」


ハクレイは、ムイの焦りに表情一つ変えず疑問を返した。


そこへチターナが、顎に手を添え一歩前にでる。


「それってさ。

 もし貴方が勝ったなら、私達を傘下として扱うんでしょ。

 けれど、こちらが勝ったところで黒風は従わない」


「従わせるさ。

 黒風で俺に逆らう者は極少数だ」


手を上げたまま淡々と話す。

リーネが飄々なんて言っていたが、まさにその態度だった。


「他色への説得は?

 お前を信じろと?あれだけ横暴を振りまいたのにか」


メイが、片手を腰にあてて言った。

語気は少し荒い。


「説得など、力が通った後に添えるものだ。

 そもそも、我々は黄昏に暴力を振るったことはないだろう?

 お前達に行ったことでさえ、正当防衛でしかない」


ハクレイは、自信に満ちているようだ。

もしかして、先日ユスティアがやった件を知らないのか。


「ユスティアのチームが白刃棟の者を捕縛、さらに両脚を切断していました。

 解放を求めたら、即戦闘に」


ハクレイの表情が険しくなる。


「それで不本意ながら倒したところ、ユスティアは非を認めましたよ。

 『無抵抗の者を痛めつけた』と。

 これは、どう申し開くのですか」


「ユスティア……脚まで切ったとは聞いていない。ばかめ。

 ということで、あいつが極少数の一人なのだ」


こんな分かりやすい事件で、しらを切れる訳がない。

きっと、あの件についてハクレイは知らず、言っていることは全て事実なのだ。

暴力で言えば、こちらの方が悪に近い。


暴力……一騎打ちについては、どうなるの。

もっと対話寄りの、いい手はないのかな。


「一騎打ちをしようと言ったな。事を有利に運びたいだけじゃないか。

 ハクレイは個として、この中でデュナミスが最も強い」


メイ。それは…


「いいや、そこにいるじゃないか。俺を遥かに凌ぐ化け物が」


案の定だった。

私に目線が来る。


「冗談でしょ。五歳の子に本気の喧嘩吹っ掛ける気?」


「お前は外観にとらわれ過ぎて本質を見ようとしていない」


「本質って。本質だってアテラはか弱い男の子なんだから」


…それは違うよ。

私はか弱くなんかない。


「ほう。見掛け倒しの『異常値』で、仲間を小間使いのように使い自分の思い通りにしようと。

 そうやって、こいつは生きているのか」


ふざけるな。

顔が熱く、熱が吹き上がるようだった。


私には、私のやり方が…


(アテラ、落ち着け)


セティが肩に手をかけたが、払いのけた。

そうだ。守られるべきは、私じゃない。セティ…そしてみんなだ。


「さあどうする。『か弱い』子供というなら、腕力じゃなくてもいいぞ。

 お前が望む戦い方で、ハリボテの価値を証明してみろ」


「わかりました」


上等だ。やってやる。

戦いでも、考え方でも、必ずお前を下す。


「アテラちょっと…」

「おい、乗せられてるぞ」


周囲の制止する声は、聞きたくなかった。仮のリーダーは私だ。

そう言いたいくらい熱くなっていた。


でも……


『納得を腑に落とせ。どんなことでも』

お母さんの、独特な口癖を思い出す。


……。

一騎打ちなら、集団戦より被害が少ない。黒風を従わせることもできる。

何より、拒否すれば大同盟への道は、大きく後退する。

ハクレイに対話なんて道は、多分ない。


「では、応じる前に聞きたい。

 デュナメイオン制覇の先は、何を描く?」


そう伝えた。

眼前のこいつを倒す、作戦を練らなければ。


まず、スピリエに監視されている破壊の紋と改変の紋は、使わずに勝ちたい。


私のカードは、偽証の変化、引斥の加速。

そして山羊の手と、包含。

話しながら戦術の構築を…


「俺は、不毛の地を解放する。全てだ」


え。

不毛の地を、全て解放?


「そ、それは、怪異を殲滅するということ…」


「いいや、怪異も人の一種だろう」


真っ白になった。

この、利己的で荒くれ者の集う黒風のボスが、そんなことをいうなんて。


それに──怪異50億だぞ。

そんなこと、世界がめちゃくちゃになるじゃないか。


「解放ってもしかして…」


「俺は不毛の地で生きてきた。

 そこには、人型の怪異がいた。彼らは対話ができる」


デューナメースにとっても、メイラ達レジスタンスにとっても、怪異は討伐対象。

対話…そして解放って、ハクレイは分かって言っているのか。



「なぜだ。禁忌を犯して人以外が混入した存在、それが怪異ではないのか」


セティが疑問を差し込んだ。


ざわめきが起きる。


「え。私達の伝説では、魂を吸い込むデュナミスが生んだって」


チターナがセティの方を向いた。

それに驚いた様子のメイが、チターナに寄って行く。


ムイが両手を開き、肩をすくめた。


……わからない。怪異とは何なのだろう。


コホンと咳払いが聞こえる。

ヌーだった。


「…地域によって違うって有名ですよね」


リーネは、頷いていた。


そういうことか。

これは情報統制ではなく、情報をたくさん流すことで曖昧にしているのだ。

デューナメース……いや、スピリエかもしれない。

あいつはきっと、何かを知っている。


ハクレイは頷き、再び口を開く。


「人型の怪異とは、長年にわたり協力関係を築いていた。

 だが、ある時だ」


一瞬だった。

ハクレイの眉間にしわが寄った。


「故郷が怪異の襲撃で滅ぼされた」


表情はもどったが、

握りこぶしは震えたままだった。


「そしてデュナトスによって怪異も殲滅されたのだ」


人型がいたことを除けば、よく聞く話かもしれない。

デュナトスは、僻地の安全を守るために怪異を討伐している。


「果たして怪異は悪なのか…?

 俺は真実を知り、悪を葬る」


怪異が悪じゃないならば、デュナトスが悪。

ハクレイが、まるでそう言っているように聞こえた。


「故郷への復讐。ですか」


「そうだ。

 黒風はなぜか、不毛の地出身者が集められている。

 誰もが怪異の被害を経験しているだろう。


 …これほどに恵まれた機会はない」


復讐。私も…

いや、それを包含する存在を見ると…黒い枝が、いる。

復讐は目先の敵を照らすだけだ。

世界を照らさなければ、復讐は利用される。


改めさせないと。この人を。


私は『構造支配』と念じ、ハクレイの紋を見た。


「お話しいただき、ありがとうございました。


 これは、どちらが倒れるかの戦いです。

 ぼくが負けたなら、盟主はあなただ」


怪異にすら対話を模索するハクレイが、

私達に対話の選択肢を消す理由。力なき善意を信用しないということだ。


「おいアテラ本当に…」


「信じてください。必ずぼくは勝ちます」


ムイの言葉を割って、みんなに頷いた。

そして、大地の壁を間に作る。


壁は高く盛り上がり、みんなの視界を遮った。

遮られるその直前、皆の険しい顔が並んでいた。


「潔いな。

 では、いくぞ」


ハクレイは、周囲に岩石を浮遊させ、公転させた。


あれは。

……恐らく、メイラと同じ技だ。


「いきます」


横に動き、様子を見た。

ハクレイを描く紋から、筋肉の動き、視線、デュナミスが見える。

ユスティアを観察したときに掴んだコツだった。


次に、岩の塊を地から持ち上げていく。

そうして、矢継ぎ早にそれを放り投げた。できるだけ上に。


すると、ハクレイの額から目が生えた。

……早速本気モードか。


私は、落ちている石ころを手で拾いハクレイに投げると、

ハクレイは反撃するように周囲に纏った岩石を飛ばしてきた。


…三つ。

デュナミスの作用が見えて軌道が読めても、一つ二つかわすのが精一杯。

残りは痛みのない左手で受ける。


接近してこない。

ユスティアに勝った相手への警戒かもしれない。


岩塊を空に投げ続ける。八つほど数えた。

しかし、呼応するようにハクレイに公転する岩も増える。


公転軌道から、次の岩石が放たれる。


…五つ。

自分にデュナミスかけて一瞬小型化。もとに戻してかわした。

ユスティアで使った手だ。


「ほう、奇妙な動きをする」


その言葉と同時だった。

後ろから、ハクレイが最初に投げた一個が戻ってくる。

それを左手で受けた。


…警戒していてよかった。

会話しながら死角を撃ってくるなんて、油断できない。


ハクレイは眉を僅かだけ上げた。

そして口を開く。


「お前は、最高栄誉の先に何を望む?」


急に私の左手が、ビクビクっと自立した動きを始める。

岩を3度受けて血だらけになっていた。


「ぼくが勝ったら、教えます」


「フッ…」


ハクレイは不敵な表情で公転速度を速める。

そのあまりの速さに、つむじ風が巻き起こった。

さらに土煙で、その姿は見えなくなった。


次の攻撃は、きっとまずい。


岩の壁を作っていく。

そして同時に自分の足元を掘った。


「はぁはぁはぁ…」


息を整えろ。もう少し…


その時だった。

ハクレイの高速の岩石が岩の壁を貫通した。

それは私の右足をかすめた。


痛っ。


マシンガンのように放たれる岩石。

私は、変化で可能な限り身体を小さく、岩壁の一部分だけを分厚く補強した。


厚みのない岩壁は、いとも簡単に崩れていく。

デュナミスを纏う岩が紋で見える。一発だけ直撃を受けたら、やられる。


あ。

……気づいた。


ハクレイの構造が二つある。

一つはその場で岩の機関銃を放ち、もう一つは、左回りにこちらに来ている。


あの回り込もうとしているのがハクレイだろう。

ならば、先手を決める。この左手で。


私は、何もない地面を左手で殴った。

山羊の左手は、やはり私の感覚外で動き出す。


次に、足元後方の岩に対して引っ張る加速をかけた。

もう、デュナミスが……

意識が飛びそうになる。


こらえろ。

『動く足場』となった岩塊を強く踏み台にして、回り込むハクレイに突撃する。


ハクレイは鉄パイプのようなものを持ち接近していた。

そこへ、こちらから高速で距離を詰める。

あれを振り下ろすより先に…


「はぁはぁ…るあぁぁぁ!!」


ハクレイの顔面に、山羊の手をぶつけた。


「があっ」


山羊の手はハクレイの顔を鷲掴みにした。

私は残った右手で、鉄パイプを何とか掴む。


さらに、上空に飛ばしておいた岩塊達は、先程紋で見ながら落下地点を調整した結果、岩を操るハクレイへ振り注いだ。


「あが、ぐぐ」


山羊の手に掴まれたハクレイの顔は、徐々に潰されていった。

この手、予想外に強い。やり過ぎる前に、止めなければ…


突然、顔の形が液体のように溶けた。

そして、煙のように霧散する。


…あの時見た-131のよう。分裂体だったのだ。

本体と見せかけ切り札を一つ、使わされた。



あ…れ。


私の脇腹に、岩石がささっている。

バランスを崩し、そのまま倒れ転げた。


「ぁぁあああ!」


痛い。

脇腹が鋭く刻まれたようだ。


…足音が、聞こえてくる。


「中々だ。惜しかったぞ小僧」


つむじ風を弱めながら、あいつが近寄ってくる。

まだだ…


パァン


時間差で残した空の岩塊をハクレイに落とした。

しかしそれは、ハクレイに当たる直前で粉砕された。


ばかな。上空数十メートル近くは持ち上げた。

自然落下だけでもかなりの威力なのに。


あと最後の、二発…


パァン

パァン


それも、弾かれる。


「終わりだな」


そう言ってハクレイは公転する岩石で私の左手を切断した。


切断された山羊の手。

それを浮かせると、手のひらに私の顔をあてがう。


山羊の手は、顔をぐっと握ってきた。

しかし、なぜか痛くない程度だった。


ハクレイは、ただじっとそれに注視しているようだった。


「その手は一体…。

 そういえば、先ほど驚いた顔をしていたな。

 俺の封域のことか、それとも観測のことかな」


「封域…?」


「そうだ。

 お前の仲間も使えるそうじゃないか。ユスティアが語っていた」


そうか。ヌーのように、バリアで岩塊を防いだのか。


「確かに驚きました。使えるデュナミスが多すぎです」


「俺のデュナミスは薄っぺらい。例えば、お前のような質量攻撃はできん。封域も、局所一瞬のみ。

 だから、多く使えるのだ」


だが、薄っぺらいなんて微塵も感じない。

技術の差なのか。


「もう一つ聞こう。その手は何だ?怪異か?」


「この手は…」


ハクレイは、この手にやたらこだわる。

そして包含属のことを、まだ知らない。


「私に勝てたら、教えましょう」


そう言って山羊の手をはがし、ハクレイに放り投げた。

脇腹が痛み、血が滴る。


ハクレイはそれを簡単に、岩石で防ぐ。

しかし、山羊の手はより強い意志でハクレイに向かっていく。


岩石で叩かれては起き上がる手。痛ましいやり取りだった。

破壊されたって良いが、ハクレイは壊さない。

あの手に執着している。予想通りだ。


最後の賭け。

私はハクレイに突進した。

公転する岩石で服はズタズタ、身体の各所も裂かれる。


……怯まず進め。


命からがらだった。

手加減を突いて、私はハクレイの赤みがかった腕に噛み付いた。


包含でこいつを…


さあ。奪え。

喰らってやれ。


「ぐ…」


ハクレイは私に拳を繰り出す。


同時だった。私の口は真っ黒い食指を生み出し、ハクレイの左腕を巻き込む。

そしてひじから下を、ちぎり取った。


ズザアアアア


飛ばされた私は、ちぎり取ったハクレイの腕を右手で持ち、脅しをかける。


「お前、その身体…」


「降参してください。これを喰らい尽くすと、あなたはデュナミスを失います。」


ハクレイの左腕は一部私と結合を始めている。


「怪異を解放するのでしょう。ここで力を失ってはいけない。はやく!」


「…」


声を出すだけで脇腹が痛む。

ハクレイは、右手を開き閉じして何かを確かめている。


「…そうか。お前は包含属か」


そう言って、手を上げて近づいてくる。

血を垂らしながら。表情は飄々と。


私も迷わなかった。刺さった腹部の岩を抜く。

そして、その刃先を顎元に当て、結合し始めたハクレイの腕を切り離した。


「降参してください。そうすれば腕を返します」


「そうだな。降参しよう」


腕を、差し出した。

ハクレイは、それを確認するように優しく受け取る。

何一つ表情を変えずに。


「おーい、今降参って言った?」


壁の向こうからムイの声が聞こえた。


「はい、約束は果たしました」


はっきりと、そう返した。

でも、最後の手加減がなかったら…


ドガッ!


直後に岩壁は蹴り破られ、メイが走ってくる。


「わっ!その腕!


 ハクレイお前……お前も!?どっち?」


メイが状況を掴めず、慌てている。

それで少し、顔がほころんでしまった。


キョロキョロして、ハクレイの持つ腕が大きいことに気づくと、

放られていた私の左腕を拾いに行った。


「これアテラの左腕…。損傷が…」


腕をもらう。

不意に、背中をちょんちょんとされる。


「リーダー。何とかしましょう」


リーネがそう言って、縫合をはじめる。

身体の縫合を見るのも、慣れてしまった。


「その側腹もひどい怪我」


岩が刺さっていた脇腹にも、回帰による再生を施される。

リーネのデュナミスは芸術のようだった。


そして、すごいものを見てしまった。

後ろで手を組んだようにするハクレイ。

紋で見える。

私が食いちぎった手を、ハクレイは、自身で縫合していた。


しかし、つなぎ目は粗く、止血しているだけのような状態。

薄っぺらいとは、弱いが複数を扱えるということか。


「ねえ。どう見てもアテラが負けたような状態だったけど。本当に勝ち?

 …変な取り交わしとかしてないよね?」


「はい。負けでしたが、勝ちです」


チターナが首を傾げる。


だって、実力なら、完全に負けだったから。


「その手に気を取られた。詰めを誤ったな。

 明確に、お前たちの勝ちだ」


ハクレイはそう言って頷いた。


「外じゃ、負けたらどう励ますか話し合ってたんだぜ?

 まさか、勝っちまうなんてなあ」


「セティだけは、勝つの一点張りだったね。

 意味わかんないほど青い目になって、やばかった」


青い…それはデュナミスが少ない時のセティの目だった。

私のために節約してくれてたんだ。

セティ、ありがとう。


「さて、これから黒風に弁解に行く」


ハクレイは、恐ろしいほど切替が速かった。

負けることを想定していたかのように。


「が、その前にだ。

 アテラ、少し来い」


下がりながら、手招きをしている。


「おいハクレイ。勝負は決まったんだろ。

 安全なんだろうな?」


「ハクレイ。もし、変な事したら殺すから」


ムイとチターナが、前に立った。

私は二人の間から前へ出た。


「あの人は、勝負の結果を覆す人じゃないと思います」


下がるハクレイに、ふらつきつつも何とか近づく。


「さっきの話だが」


少しかがんで、小声で話し始めた。


「アテラの最高栄誉の先について、聞こう」


ちゃっかりしている。

私は、少しだけ間を空けて、本意を打ち明けた。


「ぼくは、スピリエを倒します。本気です」


「…」


ハクレイの眉がピクッとして、黙る。

それから少しして、歯をのぞかせた。


「…面白い」


そして身体を翻し、歩を進める


「綺麗事を並べるガキが、こんな野心に満ちた小娘だったとはな」


え。

うそ。

今、小娘って…。


ハクレイは、そのまま黒風棟へ歩いていった。

振り返る瞬間に少しだけ見えた。口元は笑っているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。