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30.金の目

ダダッ ダッ


土をける音。

ユスティアが加速しながら向かってくる。


「チターナ、下がりながら反射を張ってください」


「うん、任せ…」

「遅い」


ユスティアは大きく蛇行して焦点をずらしたかと思うと、急に直進してチターナを押し倒した。


「うあ」


倒れるチターナとほぼ同時に、セティが熱線を放つ。

しかし、既にユスティアはいない。


速すぎる…


「左です!」


ヌーのその言葉と同時だった。

セティが蹴り飛ばされ、後方にふき飛んでいく。


物凄い飛び方。

セティが何十メートルもの彼方へいった。

……強い。速さも威力も、想定外だった。


急いで、引斥で土を持ち上げて視界を遮る。

『構造支配』。そう胸に念じて紋を発動した。


ユスティア以外の敵は、引き下がっていた。

ユスティアは、正面を避け、回り込むように歩く。


「チターナ、反射の対応範囲を狭めました」


土を上げた結果、塹壕のように敵からの視界を遮った。

侵入も上からのみ。少し予測しやすいと思う。


「ありがとう。でもあの速さを受け切れるかな」


隘路に降りようとするユスティアが見えた。

チターナがそれを、反射で弾いた。


「クッ」


そう言って、一度下がっていく。


こんな子供だましは、きっとすぐに破られる。

攻撃の決定打がないと…


「セティきて!熱線を最大で!」


私はそう叫んだ。


すると、上空に熱線が走る。

その出元に紋を向けると、セティがこちらに向かっているのが分かる。

熱線を撃ち続けられたら、敵は警戒するはず。


後方にも地面を引っ張り上げていく。

同時に、引斥でセティをもってくる。

何とか隘路で戦いたい。


しかし、上からユスティアは狙っていた。

塹壕を利用して、熱線の死角から石ころを投げている。


そしてユスティアの紋は、反射の途切れ目を見つけると、塹壕に侵入してきた。


セティ。

全然、間に合わない。


肉眼でも見える黒い影…ユスティアが、くる。


「く!おまえ!」


それは、ユスティアの声。

彼女は目と鼻の先で止まり、悔しそうに下がった。


こちらの間が、隔絶されていた。


「八秒だけです」


ヌーの声。バリアのような何かを張っている。あれは確か…


「封域属で守りました。

 この間に反射を。立て直しましょう」


「バリアだね。

 いい隠し玉もってるね」


封域属デュナミス。チターナはそれをバリアと表現した。


(はぁ、はぁ、はぁ…)


私は呼吸を、整えていた。

セティの熱線と、自身の引斥の負荷が積み重なった疲労感。

僅かな時間でも、助かる。



…八秒、すぎた。


薄いガラス膜が割れるようにして消える。


ドゴゴッ!


他の黒風が岩などを放り、私の盛り上げた土を崩してきた。


崩れた隙間から光が漏れる。

そこから、ユスティアが浸入した。


「じゃあな、ちび!」


失礼な言葉が来る。


だが動きは全て、紋で見えていた。

私はユスティアの突撃を、準備した岩壁で受ける。


ユスティアの瞬足はすぐに切り返し、背後から蹴りを入れてくる。

私は変化を使い身長を縮ませた。


ユスティアの蹴りは、岩壁をバラバラに打ち砕く。


間一髪。危ない。

次の手は…


日を遮った。

セティが上方に…降りてきている。

その目から、真下へ熱線が走った。


ユスティアは身をよじってそれをかわす。

熱線はかわされたが、その動きをチターナが捉えた。


「ぐ、痛え」


速すぎるユスティアは、反射によって打撃をうけたようだった。


「…だが、浅い」


一瞬。

ユスティアが接近し、チターナは腹部に打撃をうけた。


「チターナ!」


チターナはうずくまるようにして、そのまま倒れた。


まずい。

このままだと、削りきられる。


ユスティアは目視困難な動きのまま飛び回り、次の攻撃準備をしているようだ。

小さくなった私はセティに寄って、紋を開いたままそれを追っていた。


こない。

……強い一撃の後には間がある。


「ヌー。あいつが来たら、また使えますか」


「いえ、一度やると数十分は…」


その顔には汗が滲み、息も荒い。

一回だけで相当な負荷があるのだろう。


しばらくは手を出してこなかったユスティアだが、

試すかのように、石ころを投げる頻度が増える。


そして、ユスティアはヌーの背後に回った。


「ヌー、後ろ…」


ドッ!


「ぐぁ」


いつも、気づいた時にはやられる。

ヌーは大きく蹴り飛ばされた。



勝つために……。

破壊の紋がよぎった。


でも、この状況。

ユスティアが速すぎて、狙いが逸れる。

下手をすると、殺してしまう。


何か、陽動とか。注意をそらして時間を…。


そうこう考えるうちに、セティは熱線を放つ。


「へたくそが」


横に回りこんでくるユスティア。

それに、セティは反応して受けとめた。


やはり重い一撃は、連続で出せない。

反応できる。きっと動きも遅くなる。


ユスティアが再度距離をとった。


……間を空けたら次は、私がセティがやられる。


「アテラ、ワシに任せろ」


セティの方をみると、ポンポンと腰辺りを手で叩いてみせた。


「ここにつかまれ。命がけで」


「命がけ…」


言われるがまま、私はセティの腰につかまる。

塹壕の上にいるユスティアに、動きが見えた。


「セティ、くるよ」


「ああ、いくぞ」


するとセティは、腕力で壁を叩き、自分を回転させた。


う…内臓が。

私も回転する。

必死でしがみつく。


眩いばかりの熱線が噴射された。


セティ、何をやって…


世界が高速で回る。

私は目を瞑って、ただ耐えた。


「あああぁぁあっ」


不意に声がした。

それはユスティアのものだった。


回転が遅くなる過程で、気づく。

熱線は、面を描いていた。


ユスティアがどれだけ速くとも、面で追う攻撃からは逃れられなかったのか。


ふらふらしながら、その声のもとへゆく。

少し先でユスティアが、半身を焦がして倒れていた。


金色の目か。恐ろしく強かった。



「おい、残党ども。ボスは負けたぞ」


気づくとセティが、奥の方で黒風に声をかけていた。

ユスティアは、動けない様子。

急いでセティの方へ向かう。


「この子供達、ただものじゃない…」


「あのユスティアを…まじでやったの…」


ひそひそ話し怯える者たちに、セティは熱線を放った。


「ひぃ」


熱線は彼らの足元を焦がす。

彼らは驚き、そして黙った。


「ひぃじゃない。喧嘩売って負けた時

 まず、言うことは?」


「…すみません」


セティが謝らせているなんて、斬新。

喧嘩売ったのは、こちらかもしれないけれど。


「うむ。その者にも謝るのだぞ。

 二度と手を出さないと誓え」


ユスティアのチーム四人は、震える触手の軟族に頭を下げる。


「まずは、手当してください。

 分かっていただければ何もしませんから」


切断された脚の出血は止められていた。

とは言え、そのままなんてヒヤヒヤする。

隠し道具など、念のため紋で確認してみたが、反撃する気配はなさそうだ。


黒風達はおろおろと動く。

一人が切断された脚を拾うと、断面を合わせた。

そして、別の一人がそこに向けて念じた。


すると、切断部が少しずつ、結合をはじめる。


よかった。ちゃんとした回帰属がいた。



触手の人は、声も出せずに震えていた。

治癒が進んでいっても、怯えている。



「アテラー終わったらこっちきてー」


あれは、チターナの声だ。


「はい!」


ユスティアも気になる。いかないと。


「治癒を続けてください。その方の許しがあれば私達は何も要求せず引きます。それでは。

 こちらには、近寄らないでください」


私達は、塹壕を上ると、

チターナが衣服の土を払い、髪を整えていた。


そのまま下って近づくと、

チターナは私達に気づき、ユスティアを指差す。


「この子、このままでも死にはしないけど、色々と話したいから手当していい?」


散々暴れ回った黒髪癖毛は、脇から膝にかけて服と肌が焼け焦げていた。


「はい。手当てしましょう」


ユスティアの皮膚が再生してゆく。

回帰属の基本的な作用というのは、生物を本来の形に回復させる感じか。

……ならば縫合はどうなるのだろう。


「ううぅ」


一通り火傷が消えたところでユスティアが目覚める。

言葉遣い、冷酷さ、強さまで一人前の敵に違いなかったのだ。

気絶している時なんて、リーネとあまり変わらないくらいの、幼さが残る顔つきだったのに。


「起きたか」


私達に気づくと、俊敏に体を捻り起こし膝で立った。

目つきが、鋭くなる。


「…なにがしたい?捉えて回してデューンゼロまで吸い続ける気か?」


…確かに。

説明では、戦闘一度で20デューンを奪えると言われただけ。

拘束して他のチームにも奪わせればゼロにできる。

だが、そんなこと思いついても普通はやらない。


「ユスティア。拘束、そして脚を切断までしたのはやりすぎです。あちらの方へ謝罪し、もう二度と無抵抗な者を痛めつけないと約束してください」


「…」


黙っている。

思考させたら、面倒な誤魔化しを始めるかもしれない。


「要求が簡単すぎましたか?それなら、もっと重いものを考えますか?」


「…はい。っていって、それを信じるの?」


「信じます。もし裏切ったら次は容赦しません」


先程はつい頭に血が上ってしまったが、一度は許す。それでいいと思う。

セティの方をみると、唇を一文字にして頷いてくれた。


「それだけ?アテラ甘すぎない?」


チターナが手のひらを上に向ける。

セティの方をみると、口角を上げて首を振った。

…どっち。


「チターナもヌーも十分戦ってもらえましたが、今回のMVPはセティです。

 セティが納得するならそうしたいです」


さぁ真意はどっち。

再びセティをみる。


「ワシはそれでいい」


よかった。信じる方で。

私はセティへ、頷いて答えた。


「だが、アテラに一つ頼みがある」


そう言って手を引く。

…内緒話かな。


「いいよ。なんでもいってお姉ちゃん」


「これをつけておけ」


う。

三粒の紫玉を、こちらに向けて掲げた。

正直いい気分はしなかったが、セティがいうなら…。


頭を近づけると、前髪を束ねて括り付けられた。

後方では、チターナがユスティアに説教をする声が聞こえてくる。


「大方これの意味がわかったぞ」


セティが、ささやいてくる。


「なんだったの」


「デュナミスを感知して、通信しているんだ。

 アテラの見る行動と併せて光っていた」


「え」


「構造を見るだけならば、マイナス1000だろうが『観察の範囲』なのだろう。

 だが改変をすると、恐らく来るぞ」


…なるほど。

けれどそれは、セティなりの脅しにも聞こえた。

私が暴走する時は、あらゆる手を尽くし止める。と。


夕焼けが沈みかけていた。



「ただいまー」


赤誠棟に戻ると、既に夕飯の大鍋が置いてあった。


「遅かったね。トラブル?」


メイが女性部屋から出てくる。


「散々だったよう。無事に帰れて本当に良かった」


チターナは共通部屋でへたりと座り込んだ。


その声を聞いてか、みんな共通部屋に入ってきた。


青月に行ったメイ、ムイ、リーネの三人も、同盟のサインをもらって来ていた。

ただし、あちらも一癖あったようで、二チーム分だけ。


話を聞くと、腕相撲や筋トレバトルで勝った相手だけがサインしてくれたらしい。


「青髪の屈強女レーテ。あの人は強すぎた」


そう語るメイの目は、少し憧憬じみた光を漏らす。

チターナが隣に座り、口を開く。


「へえ。フィジカル強そうなメイでもだめだったんだ」


「ああ。屈強と言ってもしなやか。なんというか理想的な筋肉だった」


「メイの方が筋肉量は上だったのに、本当なんだったんだあれ」


ムイが天井を仰いで話に入る。


「デュナミスだろうね。

 干渉の増強も最大。それで負けちゃった。ごめん」


「メイが負けるなら、誰も勝てないよ。

 それにしても、平和な感じでよかった。こっちなんてやばい人がいてさ…」


チターナは、白刃棟の一部始終を話し始めた。

続けて、ユスティアとの戦闘も。


みんなで食事しながら、明日の予定について意見を交わす。


三日以内といわれた大同盟だったが、ユスティアのような奴が暴れまわるかもしれない。

はやく黒風を止めるため、明日にでも向かうことで一致した。


「ところでさ。そろそろつっこんでいいかな」


ムイが片口角を上げた。


「アテラのその前髪、イメチェン?」


セティがつけた三粒の紫玉。

それは、私の前髪を後ろへ束ね上げて額をあらわにしていた。


「これは…」


「舐められないようにだ」


私の言葉を遮ってセティが応える。

そう、これは心理的な威圧。


「かわいい」


今日、帰り道にも幾度と聞いた言葉。

額を隠す方が子供っぽさの象徴なんだから、断じて違う。

チターナは本当にしつこかった。


「そ、そうだな」


ムイ、ここは空気を読まなくてもいい。

メイも無言だった。


リーネに視線を合わせる。

私の事をかっこいいと言ったリーネならば、わかってくれるはずだ。


リーネは微笑み、僅かに首を傾げる。

そして、こうズバっと…


「かわいい寄りにしか見えない」


私は、髪飾りを外して入浴に向かった。




朝になる。


『1244』


やばい。

内腿の数字が加速的に減っている。


変化を保てる残量が…

このままでは、終了まで男児の姿を維持できない。

デュナミスを上乗せしなければ。


ピンピロロー

ピンピロロー


謎の効果音がなった。


「ああ、朝か」


ムイがベッドから下りると、頭上に数字がでていた。


『320(+260)

 RANK --/--』


「ムイ、おはようございます」


「ん。おはよ。今日は早く起きれたね」


「そこに数字が…」


「ああ。昨日もあったよね。多分投資の数字じゃないかな。

 …ってめちゃくちゃ増えてんじゃん!」


昨日も。

つまり、昨日から今日にかけて受け取った投資が260…そうか。白刃を助けた分が入ったんだ。


そして、元からの得点と合わせて320なのだろう。

RANKはまだ、表示されないようだ。


「今日は黄昏に寄って同盟を完成させて、黒風だな」


「ヌーがまだ寝ています」


「ヌーはおいていく。しばらく起きない」


無族の中の精霊族と言われているヌーの睡眠時間は異常に長い。

ムイはそれに慣れた口ぶりだ。


朝食を済ませた。


「赤誠の人達へ定期共有があるから、私は残るよ。ヌーが起きたら追いかける。

 黄昏棟で待ち合わせだね」


チターナがそう言ってくれて、私達は先に向かうことにした。



黄昏棟では、先日の仲もあってか、同盟の話に前向きだった。


「アテラのチームだけならもっと紹介するけど、全色との同盟は少し急で。

 たったあれだけでごめんね」


「いいえ。四チームも紹介してくれたら十分です。

 助かりました」


ルレウも一つのチームリーダーをしていた。

同盟のサインは勿論、他チームへの橋渡しもしてくれた。


「今日、黒風に行くんだよね?」


「はい。今回は対話目的です」


とはいえ正直、戦闘も覚悟している。


「そっか…私も行きたいけど、これから食料係で。

 気をつけてね」


ルレウはそう言って背中をさすりながら、私を見送ってくれた。


黄昏棟は、早くも棟内で分業が始まっていた。

チーム同士の戦闘訓練や、棟周辺の防衛整備を進めている。


他チームとの交渉をしていると、チターナとヌーが合流した。

昼食は黄昏棟の配給所でとり、黒風棟へ出発する。



ヌーの索敵を駆使しながら、慎重に、慎重に。

ゆっくりと向かっていった。



「ついちゃったね」


途中、本体ではない黒風のチーム2つとすれ違ったが、

私達を避けるようにして去っていっただけだった。


「予想外だったね。色々と準備したのに」


「戦わないに越したことはないよ」


昨晩の話し合いは、黒風チームと出会った際のパターンばかりだった。

まだ無駄になったわけではないけれど、肩透かしだ。


「どうする?普通に行く?干渉で声かける?」


棟の前。

チターナがそう言った。


このまま正面から門を叩いて、そして、正々堂々と交渉を。


覚悟を決めている間に、遠くの門は、勝手に開いた。


「まって。あれ」


出てくる者がいた。

見覚えのある赤髪。あれは、ハクレイだ。


近づいてくる。たった一人だった。

じりじりと下がりながら構える。


「やるか。無力化作戦」


ムイが打ち合わせた作戦名を話す。

それは、相手を戦闘で打ちのめす選択肢。

…できない。たった一人に。


ハクレイは歩みを止めずに、両手をあげる。


「あれ、戦わないのかな」


「まだ油断は禁物です。増強はいれておきましょう」


わからない。

普通両手を上げたら、そういう意思表明か、だまし討ちかだ。


「…用心深い奴らだな」


ハクレイは口を開く。

対話ということか。警戒を続けつつ、信じる他ない。


「今日は、大同盟の報告に来ました」


「だろうと思ったぞ」


ハクレイは上げた両手そのままに、片手を指一本に握り替えた。


「そこで、提案だ」


そこで足を止めた。

私達も、後退を止める。


「な、なんだ」


ムイが聞き返す。

ハクレイは神妙な面持ちを崩さず、口を開く。


「盟主を作るべきだろう。

 ここで、一騎打ちで決めよう」


その視線は明らかに、私だけを刺していた。

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