23.チーム結成
とりあえず、挨拶をする。
「どうも。アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」
「どうも。ウィグヌー・アンズナイア。ヌーといいます」
銀髪の男ヌーは、こちらを見ず答えた。
発声は淡々と、抑揚がない。
スコアを言い当てた。
けれど、メガネを使っている様子はない。
それなら思い当たるのは一つ。
「その、目を閉じているのは観測属のデュナミスですか?」
「そう。ポリティカル・チェックが禁止されていたから、強硬手段」
「もしかして、デュナミススコアの低い人を集めているのですか?」
「そ。…あ、-127、いた」
……相性とか、感性とか、考慮しないのだろうか。
会話する気もなさそうだし、不安だ。
ヌーと名乗った者をよく見ると、手首や足首の所々が、
樹木の幹のように茶色くヒビ割れている。
何の種族だろう。
「ちょ、ちょっと、そんな引っ張らないでー!」
それは、女性の声だった。
瑠璃色の髪を片側で結った女性が、半ば引きずられるように来る。
「こんにちは」
「え、あ……こんにちは」
目が合ったので、まず挨拶をしておいた。
女性は、私とセティを見て少し驚いた様子だ。
よく見ると顎骨より外側の肌に、うっすら鱗のような模様がある。
魚族の……恐らく四半魚あたりかな。
「アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」
「えっと。チターナ・ドルフォナです」
「えっと、ウィグヌー・アンズナイアです」
「俺はムイ・マダラオ。無理に連れてきてごめん。ちょっと待ってて」
そう言って、ムイは横向きの手招きをする。
視線の先は、ヌーだった。
「-127の方がいらっしゃいます。黒髪、褐色、軟属、サイドテール。あちらですね」
「よし、行ってくる」
茶髪のムイは牙を見せ、ピンと立った大きな耳を片方だけ動かす。
犬族…いや、狼っぽい?
そして、また走り去っていった。
見えない尻尾を振ってるようだった。
茶髪で、狼のような耳をしたムイ。
銀髪で、木の幹のような手首をした観測役のヌー。
二人は、どうやら最初から組んでいるらしい。
「ねえねえ、何やってるの?」
チターナがこちらを見て尋ねる。
ヌーは喋らないどころか、全く反応する気配もない。
……私が説明する役目じゃないんだけれど。
「ぼく達も連れてこられた側ですが、チームメンバーを集めているんだと思います。
基準はデュナミス数値が低い方。ですね」
「ふむふむ。ところでアテラくん達、お歳は?」
チターナはしゃがんでくる。
髪をかき上げながら、屈むようにして目線を合わせて来た。
「五歳です。二人とも」
「えっ。そんな若くても試験受けられるんだ。筆記、大変だったでしょ?」
「はい。毎日勉強漬けでした」
「すごく頭いいんだねぇ」
「いえ、そんな……」
チターナが、口元をほころばせ、おもむろに頭を撫でようとする。
私は一歩引いた。
「……あれ?」
首を傾げるチターナにセティを差し出した。
「セティの方がずっと賢いですから」
「ふふ、恥ずかしがり屋さんだね」
そう言って、チターナはセティの頭を撫でる。
「こんな弟だが、仲良くしてやってくれ」
セティはそう言って、不器用にはにかんだ。
…。
お姉さん風吹かせてきたな。
チターナの背後に、狼耳のムイと、人型が見えた。
ヌーに言われた通り、黒髪、褐色肌の女性だった。
「あの……やめて……いたたた……」
困った顔で手を引かれている。
その腕は虹がかった乳白色の肌。軟族の特徴なのだろうか。
ちゃんとサイドテールまで合っており、チターナと比べれば幼い感じがする。
「連れてきたよー、ごめんねー」
「こんにちは。ぼくはアッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」
セティの分も紹介して、お姉さん風を防ぐ。
「い、いたた……ええと……?」
その軟族の女性は、さらに状況を理解できていない様子だった。
「私はチターナ・ドルフォナ。あなたは?」
「リ、リーネ・ハグーバークです」
「ウ、ウィグヌー・アンズナイアです」
「俺はムイ・マダラオ。ほんと、ごめん」
ふと、気づいた。
銀髪無表情のヌーは、毎回オウム返し。
癖なのか遊んでいるのか。
それと、狼耳のムイが言う「ごめん」は毎度形式的すぎる。
悪いと思っていないんだろうなあ。
「-100以下で独りは、もういなさそうですね。
層違いや色違いを除けば、十分厳選できました」
「ヌーおつかれ。
さてみんな。集めた理由はチーム結成だ。
プログラムを好成績で抜けるなら、まずスコアを見るのが一番合理的だろ?」
……ふざけてる。
あまりにも短絡的で、強引すぎる。
こんなの、受け入れられるはずがない。
「いいよ。この子と一緒なら」
チターナが、後ろから私に腕を回した。
……短絡的なやつがいた。
「助かる。じゃあ細かな紹介は後で。まず棟に行こう。ここは、誰に聞かれてるかわからない」
確かにそうだ。
ちゃんと紹介しないことには、判断もできない。
だから、一旦ついていくか。
「リーネさん、こっち握ってもらえる?」
チターナがセティの左手を取って、リーネの右手に握らせる。
私の右手は、チターナが握った。
……保護者ですか。
「大丈夫です。手なんて繋がなくても」
「アテラくんとセティちゃんは繋いでたじゃない。
だからこうしないと、連れ去られちゃうよ」
意味がわからない。
ここにいる人達は、生存権をも侵される覚悟できたはずだ。
私だってそうあるはずなのに。
もやもやしながら歩き出す。
前にヌーとムイ、後ろにリーネ、セティ、私、チターナ。
四棟が遠ざかり、前方には公園や生垣が点在している。
のどかだが、整然しない無作為な配置だった。
「アッティラさん、何歳なんですか?」
リーネが聞いてくる。
「アテラと呼んでください。『さん』もなしがいいです。
歳は五歳です」
「なんだか……かっこいいですね」
かっこいい?
初めて言われた。
「リーネさん、アテラは『かわいい』だよ」
「でも、五歳でこの試験を……」
「ぼくは『かっこいい』がいいです」
舐められないイメージは大事だ。
断然、かっこいいを推していく。
「ワシも『かっこいい』でいいぞ」
チターナがセティに顔を寄せ、じっと見る。
「かわいい」
そう言って、微笑みかけていた。
……この人は、外見でイメージが固まっているに違いない。
無駄なあがきはしないでおこう。
「五歳で筆記突破って。すごいよな」
前列のムイも話に入ってくる。
「だよね。この中で一番優秀だったりして」
チターナも持ち上げてくれた。
でも、悲しいことに、私は、既に敗北していた。
「実は、セティのほうが高得点なんです」
「皆さん、何点だったんですか?」
銀髪のヌーも話に入ってきた。
我こそはと言わんばかりに、チターナが手を上げる。
「私は、713点」
「俺は696点。ヌーは749点」
ヌーは無感情だが勉強ができる。と。
「ぼくは728点です。セティは、743」
「やっぱり優秀じゃん。リーネさんは?」
「……700点後半です」
「そこぼかす意味ある?」
チターナが即座に突っ込む。意外と容赦がない。
高得点で言いづらいに違いない。
「……775点です」
「おお……」
800点中の775点。正答率95%以上。
各科目の難問をほぼ完答した点数。
あの生活規範もできたならば、生活力が相当高いということか。
同じく頭脳派の銀髪ヌーは、寡黙だが観測属持ち。
茶髪のムイは強引だが、行動力が高い。
チターナは物事をはっきり言い、裏表のない会話をさせる。
……悪くないチームじゃないか。
私たち六人は会話を続けながら、
赤い盾マークの掲げられた第八棟へと入っていった。
第八棟の入口には、40人ほどが固まっていた。
スーツ風の服を着た教官らしき二人が、奥へ入ろうとする者を制止している。
「そろそろ説明を始めますね」
拡声器越しのような声が響く。
「タイミングよかったな」
前を歩いていたムイが、ヌーに小声でそう言った。
ざわめきが、すっと静まっていく。
「ここは、初齢・赤誠の方々の棟です」
「ご存じの方も多いと思いますが、この棟にはデュナミスによる自動化機構があります。洗濯・乾燥・炊事・清掃は、グレード2仕様で自動化されています」
「ただし物資は最低限です。食材について、第2週期からは各自で調達してください」
自動化。
なんと文明的だろう。
メイラ先生の家では、勉強漬けで気づかなかった。
やはり、デュナミスの家電は、あるんだ。当たり前のように。
「生活部屋は共同生活を前提としたルームシェアです。
これは、デュナトスの遠征・討伐など、夜襲対策環境を想定しています」
「すでにチームを組んでいる方は申し出てください」
「本日中にチームが組めなかった場合、大広間での雑魚寝になります。
その後、監督官の指名でチーム編成を行います。
現時点でチームがない方、または募集している方も、いったん大広間に集合してください」
「以上です。よろしくお願いします」
説明が終わると、人だかりは監督官の一人に先導され、ぞろぞろと大広間へ流れていった。
その中に、見覚えのある派手髪がいる。
大広間に行くなら、まだチームが決まっていない可能性が高い。
声をかけよう。
「メイハーネさん!」
派手髪が振り向く。やっぱりメイハーネだ。
だが一瞬こちらを見ただけで、すぐ前へ向き直り、きょろきょろと周囲を探し始める。
「知り合い?」
ムイが聞いてくる。
「はい。あの、赤いポニーテールで毛先が紫の方です」
私は、人ごみの中を指さす。
命がけのデュナメイオンでは、腹の探り合いだって起きる。
直感だけれど、メイハーネは信じられる。
「なるほど。ヌー、お願い」
「派手髪……あの方ですね。-105。悪くありません」
「呼んでくる」
ムイは、指さした方向へ駆けていった。
「あの子、鳥族だね。どういう関係?」
チターナが聞いてくる。
「試験のとき目立っていたので声をかけました。顔見知り程度です」
「アテラは、気が強そうなのが好きなんだねえ」
……ノアテラといい、どうしてすぐ『好み』の話になるのか。
「おい、なにすんだって!」
メイハーネが、大きな声を上げていた。
…ムイの強引なやり方は、合わなかったか。
「メイハーネさーん」
私がもう一度手を振って呼ぶと、彼女はやっとこちらに気づいた。
メイハーネはムイの手を振りほどき、こちらへ来る。
「アテラくん、来てたんだね」
「はい。しかも、同じ色ですね。
さっき引っ張ろうとしたのがムイさん。ここまで一緒に来たんです」
「あ、そうなんだ……失礼しました」
「ムイでいいよ。こちらこそ強引でごめん。
今、この六人でチームになる予定なんだ」
「メイハーネさん。私はチターナ・ドルフォナ。その髪、綺麗だね」
「チターナ。素敵でいい名前。アタシはメイハーネ・トトーだよ」
急に褒め合いが始まった。
これが、大人同士のマウント……。
「自己紹介はあとでゆっくり。先にチーム登録しよう」
ムイがそう言うと、監督官を呼びに走る。
「でも、よくこんな短時間で集まったね」
メイハーネの頬が緩む。
チーム入りが嫌ではなさそうで、ひとまず安心した。
「それね。アテラとセティのおかげだよ。
いなかったら怪しすぎて、私抜けてたと思う」
チターナの言葉に、リーネとメイハーネが頷く。
子供の外見は、そんなに有利なのか。
「ええと、ムイさんの行動力がやっぱりすごくて。
ぼく達、きっと一番最初にできたチームですよ。」
私がそう言った瞬間だった。
頭に、感触がした。
「よしよし」
チターナが撫でていた。
前言撤回。子どもの外見は不利である。
他がまだチームの誘い合いをしている中、
私達は、スタッフの前まで直行していく。
「チーム登録は一度行うとキャンセルできません。
それでもよろしいですか。よろしければ、こちらの認証板に手を当ててください」
スタッフは、光沢のある石板のようなものをこちらに向ける。
「待って。登録はいいけど、ひとつ条件」
メイハーネが手を上げた。
「仮のリーダーは、アテラかセティにすること。
正式なリーダーが決まるまで、誰もが命令権を持つ形にはしない。
それでいいなら、アタシは入る」
「それならば、ワシはアテラを推す。責任感が強いからな」
責任感。
セティは私をそんなふうに見てくれていたんだ。
「へぇ、いいじゃん。賛成」
「うんうん」
怒涛の賛成機運だった。
でもリーダーは、重くて個人行動などの自由が利きにくい。
セティは分かっているのかな。
それでも、チーム結成の速さは、初動の速さ。うまく活用するしかない。
「仮ということならば、やらせていただきます」
「そのままリーダーになっちゃえば」
リーネは、ボソッと言った。
リーネを見ると、目が合う。
真面目な顔で、目をぱちぱちさせていた。
正気か……私、五歳だよ……。
前を向くと、既にムイが手を当て登録を始めていた。
私達は順番に続き、チーム結成が完了する。
「チーム名きめようぜ」
「子供みたい。んじゃ仮名、チームアテラで。以上」
高ぶるムイをあしらうように、チターナが命名した。
その後、みんな興味なさそうだったせいで、私のもらい事故が確定した。
そんなこんなしながら、チームの部屋へ案内される。
LDKのような広さの共通部屋。そして、寝室が二部屋あった。
男女で一部屋ずつに分かれるためだろうか。
女性三人は自然に同じ部屋へ入っていく。
ムイがそれを見て言った。
「男3、女4。部屋割りは文句なしだな」
セティと寝床が別れてしまった。
これは、仕方のない流れ。
「アテラ、ちょいちょい」
女部屋からチターナが手招きしている。
私は、セティの背中を押した。
セティは、女部屋に入っていった。
なのにチターナはまた、顔を出して手招きをしてくる。
私は男。私は男……。
「やだ」
「恥ずかしがらずに。こっちこっち」
チターナ以外の二人も、こちらを覗いてくる。
何か、勘づかれた?
呼ばれるままに女部屋へ入る。
入った直後、扉はしめられた。
チターナが、私の隣でしゃがむ。
もう片脇にはメイがしゃがむ。
なんか、怖い。
「……アテラ。本当は女の子でしょ?」
なぜ、分かった。
「前にポリティカル・チェックで性別40だったって、メイハーネが言ってた。男なら違うでしょ?」
…ああ、メイハーネは見ていたんだった。
身体上の性別と精神傾向のズレは、ポリティカル・スコアに出る。
つまり、数字で見えてしまう。
「ぼくのこと、わかっていたんですね」
「うん。心はそんな簡単に変わるものじゃない。
男部屋が嫌なんじゃないかって」
男部屋でいい。
でも、この二人を煙に巻くのは難しい。
嘘を見破るデュナミスの存在も想定する。下手な言い訳は危険だ。
ならば、正面から言い切る。
「ぼくは、与えられた姿に忠実に生きます。
心が女だとしても、それで生じる支障は自分で処理します」
これからの任務のことを考えたら、男の姿はむしろ都合がいい。
これは、強さを試すための環境でもある。
「アテラ、よしよし」
またチターナに頭を撫でられる。
「アテラくんの考え、尊重するよ」
メイハーネは、そう言ってくれた。
「……メイハーネさん、ぼくのことはアテラでいいです」
「じゃあアタシのことはメイでいいよ」
メイの接し方は、いつも対等な印象を与えてくれる。
それがちょっぴり嬉しかった。
「えと、セティのほうはどうなの?」
セティには心の性別がない。
ないというのは、わからないものと判断を下される。
それはポリティカル・スコアとして、男性の枠に押し込められると習った。
「うん、セティは女だけれど、心は男じゃなくどちらかわからないみたい」
「ワシはワシだ」
セティらしい、分かりやすい答えだった。
みんなそれに頷いていた。
ポリティカル・スコアには、両方の性別持ちというパターンもあると聞いた。
その者への配慮となると、簡単にはいかないだろう。
「それでは。
セティ、あとでね」
「おばけ怖かったら、一緒に寝てあげる」
「おばけは怖くありません」
チターナはにこにこしている。
私はそのまま女部屋を出た。チターナはノアテラに似た感じがする。注意が必要だ。
男部屋に入ると、ムイとヌーが笑顔で話し合っていた。仲いいなぁこの二人。
「そんでさ……やあ、アテラ。やっぱ俺たち男の側だよな」
「性別のバランスは権利のバランスに繋がりますからね」
男部屋に入っただけで、急に小学生みたいな陣取り感が出る。
これが男というものなのか、ムイがそういうだけなのか。
「ところで、連れが黄昏棟にいるんだけどさ」
ムイがこちらを向く。
連れ。
そういえば、ルレウも黄色い太陽マークで、黄昏だったことを思い出す。
「黒風棟から属国要請がきたそうだ」
ん?
……属国?
「黒風の勢力下にはいれ。さもなければ、明日に総攻撃をかける。と言われたそうです」
初日の戦闘行為は禁止。
戦闘じゃないにしても、滅茶苦茶な発言だ。
デュナミス使いの総攻撃なんて、そんなの戦争になる……。
黒風は、初日から国を興す気か。
そして黄昏を、最初の属国に選んだ。
『心を許せそうだったのに』
そう言ったルレウの顔が、頭に浮かんでいた。




