↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/54

23.チーム結成

とりあえず、挨拶をする。


「どうも。アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」


「どうも。ウィグヌー・アンズナイア。ヌーといいます」


銀髪の男ヌーは、こちらを見ず答えた。

発声は淡々と、抑揚がない。


スコアを言い当てた。

けれど、メガネを使っている様子はない。

それなら思い当たるのは一つ。


「その、目を閉じているのは観測属のデュナミスですか?」


「そう。ポリティカル・チェックが禁止されていたから、強硬手段」


「もしかして、デュナミススコアの低い人を集めているのですか?」


「そ。…あ、-127、いた」


……相性とか、感性とか、考慮しないのだろうか。

会話する気もなさそうだし、不安だ。


ヌーと名乗った者をよく見ると、手首や足首の所々が、

樹木の幹のように茶色くヒビ割れている。

何の種族だろう。


「ちょ、ちょっと、そんな引っ張らないでー!」


それは、女性の声だった。

瑠璃色の髪を片側で結った女性が、半ば引きずられるように来る。


「こんにちは」


「え、あ……こんにちは」


目が合ったので、まず挨拶をしておいた。

女性は、私とセティを見て少し驚いた様子だ。


よく見ると顎骨より外側の肌に、うっすら鱗のような模様がある。

魚族の……恐らく四半魚あたりかな。


「アッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」


「えっと。チターナ・ドルフォナです」


「えっと、ウィグヌー・アンズナイアです」


「俺はムイ・マダラオ。無理に連れてきてごめん。ちょっと待ってて」


そう言って、ムイは横向きの手招きをする。

視線の先は、ヌーだった。


「-127の方がいらっしゃいます。黒髪、褐色、軟属、サイドテール。あちらですね」


「よし、行ってくる」


茶髪のムイは牙を見せ、ピンと立った大きな耳を片方だけ動かす。

犬族…いや、狼っぽい?


そして、また走り去っていった。

見えない尻尾を振ってるようだった。


茶髪で、狼のような耳をしたムイ。

銀髪で、木の幹のような手首をした観測役のヌー。

二人は、どうやら最初から組んでいるらしい。


「ねえねえ、何やってるの?」


チターナがこちらを見て尋ねる。

ヌーは喋らないどころか、全く反応する気配もない。

……私が説明する役目じゃないんだけれど。


「ぼく達も連れてこられた側ですが、チームメンバーを集めているんだと思います。

 基準はデュナミス数値が低い方。ですね」


「ふむふむ。ところでアテラくん達、お歳は?」


チターナはしゃがんでくる。

髪をかき上げながら、屈むようにして目線を合わせて来た。


「五歳です。二人とも」


「えっ。そんな若くても試験受けられるんだ。筆記、大変だったでしょ?」


「はい。毎日勉強漬けでした」


「すごく頭いいんだねぇ」


「いえ、そんな……」


チターナが、口元をほころばせ、おもむろに頭を撫でようとする。

私は一歩引いた。


「……あれ?」


首を傾げるチターナにセティを差し出した。


「セティの方がずっと賢いですから」


「ふふ、恥ずかしがり屋さんだね」


そう言って、チターナはセティの頭を撫でる。


「こんな弟だが、仲良くしてやってくれ」


セティはそう言って、不器用にはにかんだ。


…。

お姉さん風吹かせてきたな。


チターナの背後に、狼耳のムイと、人型が見えた。

ヌーに言われた通り、黒髪、褐色肌の女性だった。


「あの……やめて……いたたた……」


困った顔で手を引かれている。

その腕は虹がかった乳白色の肌。軟族の特徴なのだろうか。

ちゃんとサイドテールまで合っており、チターナと比べれば幼い感じがする。


「連れてきたよー、ごめんねー」


「こんにちは。ぼくはアッティラ・ラシュターナ、アテラといいます。こちらはセティ・メラユエです」


セティの分も紹介して、お姉さん風を防ぐ。


「い、いたた……ええと……?」


その軟族の女性は、さらに状況を理解できていない様子だった。


「私はチターナ・ドルフォナ。あなたは?」


「リ、リーネ・ハグーバークです」


「ウ、ウィグヌー・アンズナイアです」


「俺はムイ・マダラオ。ほんと、ごめん」


ふと、気づいた。

銀髪無表情のヌーは、毎回オウム返し。

癖なのか遊んでいるのか。


それと、狼耳のムイが言う「ごめん」は毎度形式的すぎる。

悪いと思っていないんだろうなあ。


「-100以下で独りは、もういなさそうですね。

 層違いや色違いを除けば、十分厳選できました」


「ヌーおつかれ。

 さてみんな。集めた理由はチーム結成だ。

 プログラムを好成績で抜けるなら、まずスコアを見るのが一番合理的だろ?」


……ふざけてる。

あまりにも短絡的で、強引すぎる。

こんなの、受け入れられるはずがない。


「いいよ。この子と一緒なら」


チターナが、後ろから私に腕を回した。


……短絡的なやつがいた。


「助かる。じゃあ細かな紹介は後で。まず棟に行こう。ここは、誰に聞かれてるかわからない」


確かにそうだ。

ちゃんと紹介しないことには、判断もできない。

だから、一旦ついていくか。


「リーネさん、こっち握ってもらえる?」


チターナがセティの左手を取って、リーネの右手に握らせる。

私の右手は、チターナが握った。


……保護者ですか。


「大丈夫です。手なんて繋がなくても」


「アテラくんとセティちゃんは繋いでたじゃない。

 だからこうしないと、連れ去られちゃうよ」


意味がわからない。

ここにいる人達は、生存権をも侵される覚悟できたはずだ。

私だってそうあるはずなのに。

もやもやしながら歩き出す。


前にヌーとムイ、後ろにリーネ、セティ、私、チターナ。

四棟が遠ざかり、前方には公園や生垣が点在している。

のどかだが、整然しない無作為な配置だった。


「アッティラさん、何歳なんですか?」


リーネが聞いてくる。


「アテラと呼んでください。『さん』もなしがいいです。

 歳は五歳です」


「なんだか……かっこいいですね」


かっこいい?

初めて言われた。


「リーネさん、アテラは『かわいい』だよ」


「でも、五歳でこの試験を……」


「ぼくは『かっこいい』がいいです」


舐められないイメージは大事だ。

断然、かっこいいを推していく。


「ワシも『かっこいい』でいいぞ」


チターナがセティに顔を寄せ、じっと見る。


「かわいい」


そう言って、微笑みかけていた。


……この人は、外見でイメージが固まっているに違いない。

無駄なあがきはしないでおこう。


「五歳で筆記突破って。すごいよな」


前列のムイも話に入ってくる。


「だよね。この中で一番優秀だったりして」


チターナも持ち上げてくれた。


でも、悲しいことに、私は、既に敗北していた。


「実は、セティのほうが高得点なんです」


「皆さん、何点だったんですか?」


銀髪のヌーも話に入ってきた。


我こそはと言わんばかりに、チターナが手を上げる。


「私は、713点」


「俺は696点。ヌーは749点」


ヌーは無感情だが勉強ができる。と。


「ぼくは728点です。セティは、743」


「やっぱり優秀じゃん。リーネさんは?」


「……700点後半です」


「そこぼかす意味ある?」


チターナが即座に突っ込む。意外と容赦がない。

高得点で言いづらいに違いない。


「……775点です」


「おお……」


800点中の775点。正答率95%以上。

各科目の難問をほぼ完答した点数。

あの生活規範もできたならば、生活力が相当高いということか。


同じく頭脳派の銀髪ヌーは、寡黙だが観測属持ち。

茶髪のムイは強引だが、行動力が高い。

チターナは物事をはっきり言い、裏表のない会話をさせる。


……悪くないチームじゃないか。


私たち六人は会話を続けながら、

赤い盾マークの掲げられた第八棟へと入っていった。



第八棟の入口には、40人ほどが固まっていた。

スーツ風の服を着た教官らしき二人が、奥へ入ろうとする者を制止している。


「そろそろ説明を始めますね」


拡声器越しのような声が響く。


「タイミングよかったな」


前を歩いていたムイが、ヌーに小声でそう言った。

ざわめきが、すっと静まっていく。


「ここは、初齢・赤誠の方々の棟です」


「ご存じの方も多いと思いますが、この棟にはデュナミスによる自動化機構があります。洗濯・乾燥・炊事・清掃は、グレード2仕様で自動化されています」


「ただし物資は最低限です。食材について、第2週期からは各自で調達してください」


自動化。

なんと文明的だろう。

メイラ先生の家では、勉強漬けで気づかなかった。

やはり、デュナミスの家電は、あるんだ。当たり前のように。


「生活部屋は共同生活を前提としたルームシェアです。

これは、デュナトスの遠征・討伐など、夜襲対策環境を想定しています」


「すでにチームを組んでいる方は申し出てください」


「本日中にチームが組めなかった場合、大広間での雑魚寝になります。

その後、監督官の指名でチーム編成を行います。

現時点でチームがない方、または募集している方も、いったん大広間に集合してください」


「以上です。よろしくお願いします」


説明が終わると、人だかりは監督官の一人に先導され、ぞろぞろと大広間へ流れていった。


その中に、見覚えのある派手髪がいる。

大広間に行くなら、まだチームが決まっていない可能性が高い。

声をかけよう。


「メイハーネさん!」


派手髪が振り向く。やっぱりメイハーネだ。

だが一瞬こちらを見ただけで、すぐ前へ向き直り、きょろきょろと周囲を探し始める。


「知り合い?」


ムイが聞いてくる。


「はい。あの、赤いポニーテールで毛先が紫の方です」


私は、人ごみの中を指さす。

命がけのデュナメイオンでは、腹の探り合いだって起きる。

直感だけれど、メイハーネは信じられる。


「なるほど。ヌー、お願い」


「派手髪……あの方ですね。-105。悪くありません」


「呼んでくる」


ムイは、指さした方向へ駆けていった。


「あの子、鳥族だね。どういう関係?」


チターナが聞いてくる。


「試験のとき目立っていたので声をかけました。顔見知り程度です」


「アテラは、気が強そうなのが好きなんだねえ」


……ノアテラといい、どうしてすぐ『好み』の話になるのか。


「おい、なにすんだって!」


メイハーネが、大きな声を上げていた。


…ムイの強引なやり方は、合わなかったか。


「メイハーネさーん」


私がもう一度手を振って呼ぶと、彼女はやっとこちらに気づいた。

メイハーネはムイの手を振りほどき、こちらへ来る。


「アテラくん、来てたんだね」


「はい。しかも、同じ色ですね。

 さっき引っ張ろうとしたのがムイさん。ここまで一緒に来たんです」


「あ、そうなんだ……失礼しました」


「ムイでいいよ。こちらこそ強引でごめん。

 今、この六人でチームになる予定なんだ」


「メイハーネさん。私はチターナ・ドルフォナ。その髪、綺麗だね」


「チターナ。素敵でいい名前。アタシはメイハーネ・トトーだよ」


急に褒め合いが始まった。

これが、大人同士のマウント……。


「自己紹介はあとでゆっくり。先にチーム登録しよう」


ムイがそう言うと、監督官を呼びに走る。


「でも、よくこんな短時間で集まったね」


メイハーネの頬が緩む。

チーム入りが嫌ではなさそうで、ひとまず安心した。


「それね。アテラとセティのおかげだよ。

 いなかったら怪しすぎて、私抜けてたと思う」


チターナの言葉に、リーネとメイハーネが頷く。

子供の外見は、そんなに有利なのか。


「ええと、ムイさんの行動力がやっぱりすごくて。

 ぼく達、きっと一番最初にできたチームですよ。」


私がそう言った瞬間だった。

頭に、感触がした。


「よしよし」


チターナが撫でていた。

前言撤回。子どもの外見は不利である。


他がまだチームの誘い合いをしている中、

私達は、スタッフの前まで直行していく。


「チーム登録は一度行うとキャンセルできません。

それでもよろしいですか。よろしければ、こちらの認証板に手を当ててください」


スタッフは、光沢のある石板のようなものをこちらに向ける。


「待って。登録はいいけど、ひとつ条件」


メイハーネが手を上げた。


「仮のリーダーは、アテラかセティにすること。

 正式なリーダーが決まるまで、誰もが命令権を持つ形にはしない。

 それでいいなら、アタシは入る」


「それならば、ワシはアテラを推す。責任感が強いからな」


責任感。

セティは私をそんなふうに見てくれていたんだ。


「へぇ、いいじゃん。賛成」


「うんうん」


怒涛の賛成機運だった。

でもリーダーは、重くて個人行動などの自由が利きにくい。

セティは分かっているのかな。


それでも、チーム結成の速さは、初動の速さ。うまく活用するしかない。


「仮ということならば、やらせていただきます」


「そのままリーダーになっちゃえば」


リーネは、ボソッと言った。


リーネを見ると、目が合う。

真面目な顔で、目をぱちぱちさせていた。

正気か……私、五歳だよ……。


前を向くと、既にムイが手を当て登録を始めていた。

私達は順番に続き、チーム結成が完了する。


「チーム名きめようぜ」


「子供みたい。んじゃ仮名、チームアテラで。以上」


高ぶるムイをあしらうように、チターナが命名した。

その後、みんな興味なさそうだったせいで、私のもらい事故が確定した。


そんなこんなしながら、チームの部屋へ案内される。


LDKのような広さの共通部屋。そして、寝室が二部屋あった。

男女で一部屋ずつに分かれるためだろうか。


女性三人は自然に同じ部屋へ入っていく。

ムイがそれを見て言った。


「男3、女4。部屋割りは文句なしだな」


セティと寝床が別れてしまった。

これは、仕方のない流れ。


「アテラ、ちょいちょい」


女部屋からチターナが手招きしている。


私は、セティの背中を押した。


セティは、女部屋に入っていった。

なのにチターナはまた、顔を出して手招きをしてくる。


私は男。私は男……。


「やだ」


「恥ずかしがらずに。こっちこっち」


チターナ以外の二人も、こちらを覗いてくる。


何か、勘づかれた?


呼ばれるままに女部屋へ入る。

入った直後、扉はしめられた。


チターナが、私の隣でしゃがむ。

もう片脇にはメイがしゃがむ。


なんか、怖い。



「……アテラ。本当は女の子でしょ?」


なぜ、分かった。


「前にポリティカル・チェックで性別40だったって、メイハーネが言ってた。男なら違うでしょ?」


…ああ、メイハーネは見ていたんだった。


身体上の性別と精神傾向のズレは、ポリティカル・スコアに出る。

つまり、数字で見えてしまう。


「ぼくのこと、わかっていたんですね」


「うん。心はそんな簡単に変わるものじゃない。

男部屋が嫌なんじゃないかって」


男部屋でいい。

でも、この二人を煙に巻くのは難しい。

嘘を見破るデュナミスの存在も想定する。下手な言い訳は危険だ。


ならば、正面から言い切る。


「ぼくは、与えられた姿に忠実に生きます。

 心が女だとしても、それで生じる支障は自分で処理します」


これからの任務のことを考えたら、男の姿はむしろ都合がいい。

これは、強さを試すための環境でもある。


「アテラ、よしよし」


またチターナに頭を撫でられる。


「アテラくんの考え、尊重するよ」


メイハーネは、そう言ってくれた。


「……メイハーネさん、ぼくのことはアテラでいいです」


「じゃあアタシのことはメイでいいよ」


メイの接し方は、いつも対等な印象を与えてくれる。

それがちょっぴり嬉しかった。


「えと、セティのほうはどうなの?」


セティには心の性別がない。

ないというのは、わからないものと判断を下される。

それはポリティカル・スコアとして、男性の枠に押し込められると習った。


「うん、セティは女だけれど、心は男じゃなくどちらかわからないみたい」


「ワシはワシだ」


セティらしい、分かりやすい答えだった。

みんなそれに頷いていた。


ポリティカル・スコアには、両方の性別持ちというパターンもあると聞いた。

その者への配慮となると、簡単にはいかないだろう。


「それでは。

 セティ、あとでね」


「おばけ怖かったら、一緒に寝てあげる」


「おばけは怖くありません」


チターナはにこにこしている。

私はそのまま女部屋を出た。チターナはノアテラに似た感じがする。注意が必要だ。


男部屋に入ると、ムイとヌーが笑顔で話し合っていた。仲いいなぁこの二人。


「そんでさ……やあ、アテラ。やっぱ俺たち男の側だよな」


「性別のバランスは権利のバランスに繋がりますからね」


男部屋に入っただけで、急に小学生みたいな陣取り感が出る。

これが男というものなのか、ムイがそういうだけなのか。


「ところで、連れが黄昏棟にいるんだけどさ」


ムイがこちらを向く。

連れ。

そういえば、ルレウも黄色い太陽マークで、黄昏だったことを思い出す。


「黒風棟から属国要請がきたそうだ」


ん?

……属国?


「黒風の勢力下にはいれ。さもなければ、明日に総攻撃をかける。と言われたそうです」


初日の戦闘行為は禁止。

戦闘じゃないにしても、滅茶苦茶な発言だ。


デュナミス使いの総攻撃なんて、そんなの戦争になる……。

黒風は、初日から国を興す気か。

そして黄昏を、最初の属国に選んだ。


『心を許せそうだったのに』

そう言ったルレウの顔が、頭に浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。