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18.デューナメース共通テスト

この世界においても、人の価値を決めるテストがある。

名前は、デューナメース共通テストだ。


メイラからそれを聞いた瞬間、前世の中間・期末考査を思い出した。

壁一面に並んだ名前と幸福値。

あれと同じ匂いだった。


高得点者だけが得られる支配層の道。

この世界ならば、各国の高官、大手企業幹部、デューナメース理事会がそれに当たるだろう。


さらに一つ、この世界は決定的な違いがある。

デュナミスという圧倒的な個の武力だ。

それすらもテストに含めて数字化し、序列化し、支配に組み込んでいる。


AIの考えた支配の仕組み。

スコアを作って、価値を付与して、競わせて、

そうして効率的に管理する仕組みにしか見えなかった。


そんな世界は、私が創り変えてやる。

滾る心が、私を前へ駆り立てる。


──あの山羊を『食った』感覚は、快感だった。

忌まわしい存在が自分といるという悪夢。

それでも、心があるから、歩みを止めずにいられた。


取り込んだ左手脚も、角も、違和感が消えなかった。

変化を解くと、筋量や質感がゼロ歳のそれではなかった。

だから私は右手脚の紋改変によりバランスを取り、さらに変化のデュナミスで覆い隠した。



「五週期に入った。いよいよ今週末だな」


山羊を食って三十日。もはや習慣となった朝の勉強部屋。

私は、金髪の猫型少年の姿で椅子に座った。

同じく猫型にしたおさげツインのセティも隣に座る。


すらっとした狐型赤目のメイラは、いつものように教壇に立っていた。

その鋭い目が見るのは、私の行動と結果だけ。


『3魚の星系・5週期の3 共通テスト』


つまり3月15日。そう記された張り紙をトンと指さす。


そしてその指は、隣のボードで何かを描きだした。


ボードはワイドテレビのようにして、壁にかけられている。

メイラはそれを、学校の黒板みたいに使っていた。


そこへ、無機質な線が描かれる。


「さて、お二人。毎週恒例の成績確認を始める」


メイラは、無機質な線を鮮やかに色付けていき、パラメーターグラフにした。


「アテラ。テスト科目のうち、この三つは太鼓判を押せる」


『数理学』、『語学』、『デュナミス』と書かれた3つ。

合格ラインをはみ出すほどだった。


「この二つは…年齢的なものもあるが、あと少しといったところだ」


手のひらでラインを下回った二つをなぞった。

それは、『生活規範』と『地理学』だった。


未だ一歳にも満たない私は、知識が足りなかった。


残る一つは『ポリティカル制度』という科目。

これも下回っていたが、メイラは特に言及しない。


「あと二日。詰め込みでなんとかなるだろう。計算の才能があってよかったな」


数理学については、前世の中学校レベルで通用した。

この世界にはデュナミスがあるせいで、理数系は重要視されない。

要求レベルも低いのだ。


「続いてセティはこうなった」


『数理学』、『生活規範』、『地理学』、『ポリティカル制度』が満点だった。

AIデバイスみたいに模範解答ばかりを返すところだけは、少し癪だった。


唯一苦手だった『語学』においても、これまでの勉強が功を奏して合格ラインを上回っていた。


「前にもまして素晴らしい成績だ。

 …だが、デュナミスは、どうしようもない」


当然だがセティ自身の『デュナミス』は、ない。

目から熱線を放つ時、スコアが少し伸びるだけ。

偽装するにも限度があった。


「アテラは実力で勝ち取れ。

 セティは推薦で加点しておくから、できる限り他を満点で行け」


「わかった」


「人のふりの練習も忘れるなよ」


メイラは、セティの肩に手をのせた。


セティのデュナミスについて、私には妙案がある。

『構造支配』だ。熱線の仕組みに手をかけられる。


その日の夜、セティと寝る前に私は切り出した。


「セティ、いい案があって」


「…なんだ?」


青い目が半分閉じていた。

驚くことに、セティはよく寝るやつだった。


「デュナミスをエネルギーにする仕組み、少しわかっちゃって」


「どんな?」


目をこするセティに、『構造支配』…あらゆる構造が見える金の紋を向けた。

微小な粒たちが波のようになって、私からセティへ流れ出ている。

これがデュナミスだ。


「ここからデュナミスが入っていって…」


セティの背中を、下から指でなぞる。


この背中が粒を吸い込むようにできている。

恐らく、そういう機構が後部にあるのだろう。


「この辺りで蓄積されて」


首の付け根あたりをくるっと指でつづった。


この中にバッテリーと思われる塊がある。

セティが離れても活動できるために違いない。


私は、セティの前に回り込む。


「この部位でエネルギーになるのと」


胸元をトンっと触れる。


中に動力炉のようなものがある。


「この部位でデュナミスになる」


お互いの髪をめくっておでこを見せた。


この額の中に、熱線のデュナミスに変換する機構が見えるのだった。


「つまり、この部位を真似たら別のデュナミスも実現できるんじゃないかって思って」


セティのおでこを爪先で撫でる。


実はこの勉強期間で、色々と試していた。

歯車を何個か重ねた紋の先に、三角を重ね合わせた幾何形状を描けば熱線がでる。

それが、セティのおでこにあった。

そして、三角のかわりに多重線を描けば、熱線の代わりに筋肉のような動きをするのだ。


「できるのか?」


「うん、簡単なものだけれど」


他に試したものは、不安定だったり、効果が分からないものが多い。

シンプルな形状ほど上手くいくのだった。


私はセティの右腕に記述しておいた歯車の紋に、多重線の模様を追記して繋げていく。

すると、改変箇所は輝き、歯車と連結した。


そして例のポリティカル・スコアを見るメガネをつける。


「さぁ、熱線の感覚を右腕に。机を軽く叩いてみて」


「いくぞ」


セティが握りこぶしを振り下ろす。


弱い。そんな肩たたきでもするような速度じゃ…



ドゴオォッ!!


「ひっ」


こわい…

つい、声が漏れてしまった。


石でできた机は、無残にも足を残して砕けた。

私自身で試した時は、せいぜい凹ませるくらいだったのに。


「ほう、これはいい」


トーンの上がったセティの声。

嬉しそうだった。


メガネ越しに見えたポリティカル・スコアは、内訳のデュナミスが、いつもは『100』と表示されるところ、『-32』になっていた。


デュナミスが強いほど、マイナスに振れる。

逆に、弱いほどプラスになり、配給上は保護対象として扱われる。

強者は支配層への道が開き、弱者は配給で管理される。

どちらに転んでも、ポリティカル・スコア制度下でしかない。


「熱線よりデュナミスっぽいじゃない?

 こっちをテストで使おうよ」


「ああ、そうだな。

 これなら総合でアテラといい勝負できるかもしれん」


セティの、無感情に見せて少しだけ負けず嫌いなところが出た。

作られた存在であるオートマトンだけれど、個性があるのだ。


「フフ…私は、デュナミス『−279』だよ。

 他の科目で大差をつけないとだね」


私だって負けず嫌い。

だから、現実を教えてあげる。


「いいねえ、その闘争心」


メイラが両手のひらを天井に向け、何やら人形のようなものを生成する。


「アテラとセティは、私の養子だ。

 その結果でどちらが兄貴分か決めたらいいじゃないか」


人形は男の子、女の子を形取り、互いに背比べをした。


……望むところだ。


「私がお姉さんだから」


「お兄さんな。間違えるなよ?」


メイラが男の子の人形を私に似せる。


そうだった。

……セティが妹だ。絶対に勝つ。


無表情のセティは、人形を眺めている。

その翠玉色の瞳が、奥の方で鈍く光った。



テストの日。


私達はノアテラに連れられ、

デューナメース第4支部と呼ばれる施設へ向かった。


デューナメース共通テストの会場は、

普段は催しにも使われていそうな巨大なドームだった。


コンクリートをむき出しにしたその外観は、古代ローマのコロッセウムをイメージさせた。

入口は360度どの方向にもついており、

入ると、アリーナ中央に簡素な机と椅子が大量に並べられている。


10mも進まないうちに黒い服、黒い帽子を着用したスタッフがやってきた。


「おはようございます。受験者は、こちらへ」


私達は、受験票を見せると白い大きな機器に案内された。


それは、各入口付近に設置されて、たくさんの列ができていた。


前の者から順番に、機器の中に通っていくのが見える。

高さ三メートル、胴回りは直径三メートルくらいのアーチ形状だった。


大きい…。

少し、怖くなった。


「あれ、大丈夫かな」


「私のときはなかった。わかる?セティ」


「最新の不正検知だ。本人確認と、スコア・チェックするだけだろう」


不正検知。

本当はゼロ歳の私も、猫族じゃなくオートマトンのセティも、

検知されてしまわないだろうか。


横から、ノアテラに顔を覗かれた。


「不安そうね。

 私のデュナミスは本当にわからないから大丈夫。メイラ先生が実証済みよ」


「設置の目的は、替え玉対策だ。問題ない」


二人とも意に介していない。

おかげで怖さは紛れた。


機器のアーチ前に立った。

正面にあるディスプレイに、数字と棒グラフが表示される。


『-29』

【種族 30】

【年齢 150】

【性別 40】

【デュナミス -279】


グラフのデュナミス値が、マイナス側に飛びぬけていた。

他者と比べて突出した数字なのだろう。


私は終わり、後ろでセティが入ったとき、遠目に覗き見する。

セティは抜かりなく、デュナミス値を『-32』にしてるようだった。


その次は、席番号を案内される。

セティと私の席は、遠くだった。


「それでは、あとでまた」


「ええ、入ってきた入口の側で待つわ」


別の席のセティやノアテラに向けて手を振る。

そして、自分の席番号へ向かった。


一人になると、周りを見渡したくなった。


…圧倒され、つい、息が止まる。


同じ空間に何千人と、鳥人間、魚族、ゴリラ、トカゲ人間、蝶人間など、

実にさまざまな人型の存在がいるのだ。


引きこもり同然だった私には、刺激的だった。

ズクマティの町でみたよりも、遥かに多様で数も多い。


私は、デュナミスの力で登録上、五歳にできた。

しかし、他の受験者は大人だらけ。視線も来やすかった。


開始時間になると、

アナウンスと同時に、机の上に文字が写されて説明が行われた。


六科目の順番と制限時間、注意事項。

内容は、中学生時代の定期テストを思い出させるものだった。


問題も机の上に写される。

そこに、家で勉強したときのような紙とペンはない。


指で細く書くと鉛筆、掌で広くこすると消しゴムの挙動。

それで直に机に書くのだ。


テスト開始の合図がされると、ドーム内には、指先が机を擦る音が一斉に広がった。


目の前の問題を右手で解いていく。

あっという間に一科目目の最後の問題を解き終えた。


時間が余ったため、前方の受験者たちを観察する。


……ところどころで、

カンニングと思しき行為が見られた。


太腿に文字が浮かび上がる仕掛けを使う者。

声は出さないが顎の動きで何かを喋っている者。

寝たふりをして薄目で隣を見る者。


そういう行為は嫌いだが、あまりにもわかりやすく放置されていた。

恐らく把握されているのだろう。


泳がせて、

カンニングをしたというステータス込みで評価する。

そんな意図すら感じた。


「おい!それはだめだろう!」


ひっ。

びっくりした…。


大声をあげたのは、左斜め前の派手髪鳥女か。

恐らく四席前方のカンニングを見つけたのだろう。


スタッフ達が寄ってくる。


「ちゃんと見てください!

 あの人、めちゃくちゃズルしてます!」


バンバンと机を叩く彼女に、周囲がざわつき始める。


ほどなく全体アナウンスが入った。


「受験者の皆様。

 思わず出る一言も含めた私語、不正行為は減点対象です。

 減点は映像証跡とともに保管され、

 後日通知されます。

 疑義申し立ての際には映像開示しますが、一般公開となります。

 ご注意ください」


……へえ。


カンニングも映像証跡が残るということか。

そこまでやれば抑止力は高い。


ただ、一般公開という点。

この世界の肖像権などが気になる。


監督官が鳥女をなだめている。


鳥女は落ち着くと、何度か頭を下げて着席した。



その後、二科目目、三科目目を終えて昼休憩となった。


入口へ出る。

そこで待つセティ、ノアテラと合流した。


私達は、喋りながら歩いた。


外は公園のように開けている。

他の受験者に倣うように、地べたに座り、弁当を広げる。


「『語学』『生活規範』は予習通り。問題は『地理学』ね。

 不毛の地がでたのは意外だったわ」


歩いている間、できなかったところをノアテラに伝えていた。


「不毛の地には、怪異がいる。

 解放する役回りは精鋭デュナトス。彼らだけが知っていればよかったはずだ」


「受験生に知ってもらいたいということは、何か変化でもあったのかしら」


セティとノアテラが話している。

オートマトンにとっては常識だったらしく、一問も外していないらしい。


「アテラは残念だったね。単元まるごと落としたとなると、午後がんばらないと」


「はい…」


あと『生活規範』も、日常の知識が中心だったため、私の苦手分野で、

かなり勘に頼らざるを得なかった。


セティは、私を横目で見ながら、左のおさげを指でくるくるさせている。


うう、悔しい。

メイラがこっぴどく、『人のふりを練習しろ』と言っていたが、

様になってきやがった。


私は、弁当箱の中のやわらか肉を串で刺して口に運んだ。

か弱い顎でも簡単に飲み込める。


ドンドンドン。


隣を、機嫌の悪そうな足音が通り過ぎる。


……あ。

さっきの派手髪の鳥女だ。


「こんにちは」


私は、興味と勢いで声をかけた。


「あ、こんにちは」


彼女は振り返り、

たぶん誰もいないと思って、

視線を下に落として挨拶を返してきた。


……ちょっと屈辱を感じる。


「さっきの、素敵でした」


「ん?」


「ズルを一刀両断したところです」


「……ありがとう。

 どうしても、ああいうの許せなくて」


率直に褒めると、

彼女は後ろ髪に触れて、少しだけ目を逸らした。


「どうも。

 こちら、孫のアテラです。

 私はノアテラといいます」


ノアテラが自己紹介を挟んだ。


「はじめまして。

 アタシはメイハーネ。

 まだ小さいのに、優秀なのですね」


メイハーネは、

赤と橙が混じる鮮やかな髪を結んでいる。

トサカのように持ち上がるハイポニーだった。


耳元に垂れる毛先だけが紫で、かなり派手と言える。


顔立ちは人寄りなので、

おそらく四半鳥。

鳥らしさは脚や羽毛、翼に表れている。


「では、午後の試験がありますので……勉強しないと」


見た目は完全にヤンキーだけれど、

中身は至って真面目そう。


……こういう人、前世にもいたな。


私はノアテラと一緒に、

メイハーネへ小さく手を振った。


「……アテラは、ああいう子がいいの?」


「大勢の前で正義感を振りかざす人を見ると、

 その魂がどこまで澄んでいるのか、覗きたくなる」


無意識に、お母さんみたいな人を探していたのかもしれない。

私のイカれた言い回しはともかく、それが本音だった。

どうせ、もう二度と会わない。


「アテラ。

 ここ最近、急に大人みたいに喋るようになったね」


う……。


痛いところをつかれる。

普通ならばありえない年齢だ。でももう、隠す必要もない。


人生経験的には、

中学三年生相当……いや、


この世界の一年は270日だから、1.35倍して…20歳。


あれ、大人じゃないか。


「おばあちゃん。

 大人って、何歳から?」


「16歳だよ。

 ほとんどの種族は、その頃に外見の変化が止まるの」


……つまり私は、

大人を十分に経験している年齢ということだ。


よし。

圧倒的な『大人の自覚』を持とう。


「アテラくん」


後ろから声がする。

振り向くと、メイハーネが戻ってきていた。


「なんでしょうか」


メイハーネは舌で内ほっぺを押して、目線は斜め上を向けている。

何か、言いにくそうに。


私、何かまずいこと言った?


「えと…あー…

 デュナミス-279って何?

 どんなデュナミスなのか気になって」


彼女の声に、周囲の何人かが振り向いた。


やば、その数字。

それよりもメイハーネ声でかいって…。


その後ろで、ノアテラが目を閉じてブンブン首を振っていた。

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