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三つの拳と二つの刃 その1

 死の宣告の如くアティはつぶやくと共に彼女は体を大きく沈みこませ4本腕にそれぞれ持っている誇りと誉れの宝矛(キング・ハーツ)を弓を構えるように大きく引き絞る。一撃のもと、レイゼ達三人を切り飛ばすために。

 瞬時にナタクはレイゼとローアの前に出てガードの耐性を取る。がレイゼはアティの魔力の練り上がりを見て防御してもそのまま貫通され全員バラバラにされる可能性が高いことを一瞬で悟ってしまう。

 故にレイゼは、()()()()()()()()()()()()、仕切りなおすべく奥の手を繰り出す。


「……射出!!」


 レイゼの号令と共にアティが必殺の斬撃のための一歩目を踏み出した瞬間、


 ボッバァァンン!!!


「?!!!」


 アティの体に再び強烈な衝撃と爆音が炸裂。先ほどの一撃よりは威力は低いものの、半ば攻撃を覚えるために攻撃を受けた先ほどとは違い、完全に予想しえなかった攻撃であるためかふらつき隙ができてしまう。

 攻撃のチャンスではあるが、レイゼ達はここで深追いはできるほど敵が弱くないことを理解していた。故に、ここで打つべき一手は。


「アシッド・ディープフォッグ!!」


 ローアのヒュドラ達が口を大きく開くとそこから多量の酸製の濃霧を展開、視界を潰し見えなくなってしまう。アティの頂纏魔法の鎧は酸によって溶解されつつもそれを上回る速度で再生し続けつつ、アティは態勢を整えながら先ほどの謎の攻撃を考察する。


(先ほどの謎の衝撃と爆音。威力や規模は半減以下だがあの修道女が放った攻撃と同じ。打撃にマーキングを付け任意のタイミングで炸裂させる魔法?いやしかし私の体に奴の魔力が付着しているような感覚はなかった。

 ………そう言えば、愚かな子孫も死に体だったにもかかわらず一切魔力を使わずに高速飛行していた。

 この時代の人間は皆魔法以外の異能を使えるのか?)


 彼女が人間として生きていた頃にはまだ長距離の情報伝達ができる魔法がなく、加えてアティ自身情報を自由に仕入れられる状態ではなかったため、彼女は女神から与えられた祝福(異能)、スキルについての知識はない。情報アドバンテージは向こうの方が一歩上であることは内心アティも認めていた。

 しかし今の彼女の手にはそんなちっぽけな小細工をねじ伏せる力がある。


「………まぁいい、王道を歩く我が歩みを止めることなどできはしない!!

 セフィロト・サーチ!!」


 アティは下の両腕に持っていた誇りと誉れの宝矛(キング・ハーツ)を逆手持ちに持ち直し、切っ先が地面に向けられた誇りと誉れの宝矛(キング・ハーツ)をを地面へと突き刺す。瞬間地面に赤が混じった金色の魔力がドーム状に大きく広がっていきこの結界内にいるこちら側へと向かっている生命を探知し始める。

 霧の範囲外それぞれ三方向にいる先ほどの三名と魔力の特徴からしてあの蟲を召喚したと思われる男、計4名。残り十数名もこちらに向かってきているが戦闘に参加するまでは最低でもまだ5分以上はかかる距離であった。

 

(奴らは……逃げていない、霧の外側で私が出てくるの待っている、カウンター狙い。ふふふ、正々堂々としててあっぱれだが狙いさえわかればなんてことはない。

 悪いが挑戦者はお前達だ、お前達が値を上げるまで私から出てやらん)


 人間相手ならばともかく魔将でありリッチーであるアティにとってこの程度の酸性霧は少々不快なだけ、何十時間でも耐えることができる。

 ゆえにアティは待つ。

 相手が待ちきれずにこちらに攻撃を仕掛けてくるならばこちらからカウンターを仕掛け彼女達の首を刈り取るし、万が一逃げるようならば一足で追いつき背後から切り伏せることができる。


(それに敵が一堂に揃うなら好都合。………借りがある相手もいたからな。

 さぁどんな方法で私を倒す?)


 そんな時だった。アティ周辺の酸性霧がいきなり晴れドーナツ状の穴が開くと共に彼女の足元に巨大な魔方陣が出現するとそこからワームが飛び出し、下からアティを食らおうとするが、アティは一瞬で紙一重の回避をしていた。アティはほとんど軽蔑するかのような視線を刺しつつ回転切りの要領で4本の剣を振るい、飛び出してきたワームの体を切断する。


「………その攻撃は先ほど見た。加えて蟲のランクも先ほどよりもはるか下。……少し買いかぶり過ぎ……?!」


 だが、その時だった、無数の斬撃によって粉みじんにされていくワームであったが、破壊が自身の口部にまで到達する前に大きく口を上げた瞬間、おぞましい叫び声のような咆哮が発生する。その咆哮を聞いた瞬間わずかにアティは体を硬直させてしまう。

 

(相手の動きを一時的に止める咆哮……しかも私の魔法の無効範囲内ギリギリで使うとは……中々うまい

 だが、この程度1秒もかからず回復でき……?!)


 アティはやっと気が付く。先ほどまで発動していた探知魔法セフィロト・サーチが終了していること、再発動できないことに。

 そして、アティは気が付いていなかった。そのほんの刹那の彼女の混乱、その隙をついてガイウスが彼女の後ろにて拳を引き絞っていたことに。


「いいのくれたなぁ……お返しだぁ!!!」

「!!しまッッ、ぐぁぁぁ?!!!」


 拳を突き出す延長線上に5枚のバリアを展開しそれを砕きながらガイウスはアティの腹部後面に向かって鋭い拳を打ち出し、それと共に遅れて爆発が発生、アティは前方に向かって吹く飛ばされる。アティの吹き飛ばされた先には魔力でできた黒い壁が出現、彼女に当たった瞬間大量の棘が出現し彼女を串刺しの張り付け状態になってしまった。

 その間にガイウスのそばにレイゼ、ローア、ナタク、オルトラントも集合する。


「ガイウス、落ち着いた、と考えていいのよね?」

「ああ?落ち着いてねぇよ。まだまだ色んな感情でごちゃごちゃしてるわ!……だが、こいつは頭かっかさせて勝てる敵じゃねぇ

 誇りと誉れの宝矛(高下駄)で盛ってるとはいえコイツ、たぶん飛竜事件での魔将よりも強いぞ」


 ガイウスの視線の先では体に深々と突き刺さった棘を体から外しこちら側を向き直っているアティがおり魔法の鎧を身に着けているせいで表情は全く分からないが、その眼光には激しい怒りが宿っていた。アティはもう既に治った体を動かし宝矛を構えつつじりじりと近づいてくる。


「…………誇りと誉れの宝矛(キング・ハーツ)のせいで再生力が超強化しているようね。加えて遠距離殺しの魔法に斬られたら無限に発生する斬撃、極め付きに秤の化身魔法。………イレクトアなら詳しいことを知っているかもしれないけど、どうする?いなしつつミスト達が来るのを待つ?」

「……無理だろうな。相手は完全に格上、戦況をコントロールしながら戦うなんてことはできはしない」

「……だったら本気で戦うまでだ。こいつ相手にゃ、本気でぶち殺す気でやってやっと勝負の土俵に立てんだろ。

 ………ローアと、ナタク……だったか?テメェらに聞きたいこと言いたいこと色々あるが、この際テメェらも手ぇ貸せ。生きたくねぇなら話は別だがな」

「あたしはもちろんやるよ!だって私はオルトラント君のお嫁さん!!旦那様を守るのは当然だもん♥」

「僕は………生きがいって奴を見つけたいから、もう少し生きたいかな?」


 ローアとナタクの意志を聞いてガイウスは自分を奮起させるように好戦的な笑みを作ると両腕の拳を合わせて叩きよき音を鳴らす。


「そんじゃぁ、お前らぁ!!魔将退治、張り切っていこうじゃねぇか!!!」

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