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救え無き者 ノーブゥル・ラックリバー

「アティ……ラックリバー………?!どこかで……!!いや待て確か……6代目国王の母親……、5代目国王ゲイルの妹か?!」

「その思い出され方は不快だが、その通りだ遠き未来の我が子孫よ。………こんな惰弱な卑怯者だと知っていれば、会いたくなどなかったがな」


 謎の存在、アティは心底見下したようにノーブゥルを見下ろす。もはや彼は死に体であり放って置けば死ぬのは目に見えているが、彼女に彼を見逃すという選択肢はない。それに加えノーブゥルも黙っておけばいいものを身勝手な場違いな怒りを吐く。


「卑怯者、だとぉ?!ふざけるなよ!!貴族の血を残す以外価値のない孕み袋が調子に乗るなぁ!!女に王権を継ぐ資格などない!!強き男のみが世界を統べる資格があるのだ!!分かったのなら戻ってこい誇りと誉れの宝矛(キングハート)!!

 俺こそが、32代目国王、ノーブゥル・ラックリバー!!!お前の真の継承者だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ノーブゥルが血反吐を吐きながら必死に叫ぶが、一切の効果がなくアティによって握られている誇りと誉れの宝矛(キングハート)は一切微動だにしない。

 彼は気がついていない。誇りと誉れの宝矛(キングハート)の所有権はとっくにアティに移っていることに。もし感情が誇りと誉れの宝矛(キングハート)にあるとしたらとうの昔に愛想を尽かしていたことに。

 ただそれでも自分の手に宝矛が戻ってこないという事実にノーブゥルがやっと焦燥に包まれる中、

 とどめの言刃がアティから振るわれる。


「女に王権を継ぐ資格はない………か。国民や下級貴族ならともかく王族にまで情報統制が入っているとはな。いいだろう、手向け代わりに教えてやる。……この魔法剣、誇りと誉れの宝矛(キングハート)の本来の持ち主にして魔法国家ダアト、貴様らが今統一国と呼ぶ国の初代国王、セレン・ラックリバー様。

 あのお方は女性だよ。肉体も精神もな」

「…………へ?」

「一応言っておくが嘘ではない。そもそも死にかけの貴様を前に嘘をつく意味もない。………よかったな、地獄へと行く前に真実を知れて。

 頂纏裁典魔法、テミス!!!」


 ノーブゥルが呆ける中、アティが両手のひらを合わせて魔力を込めると魔力は物質化しか初め彼女の周りにまとわりついていく数秒もかからずに彼女の体は一回り大きい獣骨と金属が組み合わさったような魔法の鎧に包まれていく。

 結果4本腕と肌色以外は美女と言ってもいい姿をしていたアティであったが、肉食獣の頭蓋骨をもした甲冑を被り腕と同じ長さの尻尾をした、完全なる四本腕の魔将の姿へと変貌するのであった。

 四本腕の魔将、アティはいつの間にか4本に増えていた誇りと誉れの宝矛(キングハート)を構える。 


「さぁ愚かな子孫よ。己が罪の報いを受けよ」

「あ、あああ、あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ?!!!」


 自分が散々受けてきたダメージや痛み、いきなり話されたラックリバー王家の真実、頂纏魔法を使う敵。それらによりついにノーブゥルのキャパシティと心は限界を迎え、彼は完全に発狂。狂った叫び声を上げながらも飛行スキルを発動させ浮遊、その場から急速に離れていく。

 目的も意思もない、ただただこの場を離れたいという感情のみで出力された逃避であった。


 (逃げなければ、逃げなければ逃げなければぁぁぁ!!!俺はこの国の唯一の王権継承者!!けだけがその国の希望そのものなんだぁぁ!!死んでたぁまるかぁっっっ!!!)

「ああああああああああああああああああああああっっっっーーーーーーー!!!」


「無駄だ、貴様の汚らわしい魔力は既にマーキングしてある。

 テミス・リンカーネイション・リブラ」


 みっともなく逃げるノーブゥルを追うことはせず、アティは魔法を発動させると彼女の後ろに支点部分が頭蓋骨を模している巨大な天秤が出現する。巨大な天秤の右の皿には今にも消えそうな黄色の人魂のような炎があった。


「これより裁判を始める。かの罪人は、傲慢嫉妬憤怒強欲怠惰暴食色欲、死に至る七つの罪を犯したか否か。

 判決を下せ」


 アティの詠唱とともに彼女の周りに7つの青白い人魂が形成されるとそれら全ては迷いなく左の皿に行きその上に乗る。当然の結果として天秤は結果左側に大きく傾くと天秤の骸骨は目を赤く光らせ口を動かし、判決を下す。


『判決、被告は全ての大罪を犯していることが分かった。情状酌量なし万死に値する。ゆえに、死罪。刑罰は即座に執行されるものとする』


 天秤が話し終えた瞬間、アティの全ての手が握っている誇りと誉れの宝矛(キングハート)に黄みがかった青白い魔力がまとわりつくと、アティは姿勢を落とし、4本の剣を同時に素早く大きく振るった。当然もう既に200m以上離れていたノーブゥルには届きはしない、はずだった。しかし、


ザアッッン!!!ザアッッン!!!ザアッッン!!!ザアッッン!!!


「………!!!ああ……な、に………?!!」


 ノーブゥルの首に一本、両袈裟方向に一本づつ、下半身に一本鋭く重い斬撃が発生、彼の体を両断する。しかもそれだけでは終わらない。発生した斬撃から派生するように先ほどと同じ威力の斬撃が無数に発生。さらにその斬撃からもさらに同じ出力の斬撃……と言った様子で無限に斬撃がノーブゥルを襲い続ける。

 しかも不幸なことに半端に生命魔法の効果がに残っていたことと斬撃があまりに鋭すぎることが原因でノーブゥルは体が粉みじんの塵になっていくにもかかわらず即座意識を闇に落とすことができなかった。

 

(なぜ、俺ばかりがこんな目に遭う?!俺は王族なのに、俺は誰よりもえらく尊いはずなのに!!!アイツらのせいだ、無能な家族、愚かな婚約者、役に立たない部下、俺がいるから生きる権利があったにも関わらず俺に逆らう愚民、息を吸う価値すらない非国民!!!

 アイツらがアイツらがアイツらがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

「ゆるざん、ゆるざんぞぉ!!!ずべでのぐみんもじねぇ、おれをどううどばないぐにも、ぼろんでじまえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!」


 彼的には心の中に秘めていた全ての悪感情をまき散らしながらノーブゥルは落下する。その間はわずか5秒程度、しかし彼的には何百年にも匹敵する地獄のような斬撃地獄を受け続ける。そして、

 結果として無限の斬撃によってノーブゥルの体は細胞レベルで破壊、衣服や肉体はもちろん、血しぶきから排泄物に至るまで粉みじんの塵に変化し空気に解け消え果ててしまうのであった。


 まるで初めから、ノーブゥル・ラックリバーという存在など、いなかったように。


 テミス・リンカーネイション・リブラ。それは()()()()()()()によって遠距離攻撃魔法をすることができないアティが唯一限定的に使える全距離対応の化身魔法。

 その効果は罪の裁定。対象の名前を把握し魔力を記録することで発動、対象の過去の行い全てを確認させその対象が古代の法則で定められた七つの大罪のうち該当した罪の数だけ自身の斬撃の出力を上げていく。

 この裁定により4つ以上の大罪を犯している場合、死刑が確定し対象がたとえ世界の果てにいようとも絶対必中の斬撃を与えられるようになる。

 この魔法を食らい、今まで生きて残ったものはいなかった。


(………いや、食らったわけではないが、正確には一人いた。あの女は我がリブラのわずかな溜めを潰し、発動自体をさせない立ち回りをしていた。我が部下にしてやりたいと思うほど優秀な騎士だった。………封印などという卑怯な真似さえしなければな)

「………まぁいい。それでお前達は、」


 アティが急に宝矛を自分の頭部横に構えた次の瞬間、

 突如横から灰色の魔力を拳に纏い、額に青筋を浮かべ怒りの形相をしていたガイウスが出現しアティの顔面目掛けて右ストレートを繰り出すのであった。しかしその一撃は宝矛によって止められてしまい、攻撃を受け止めたアティは刀身の後ろから顔を出し赤い瞳でガイウスを睨む。


「一体、どんな罪を犯しているのかな……?!」

「弟に渡すはずだった引導、奪ってんじゃねぇよ四つ腕クソ野郎!!!」

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