正義の魔将 アティ・ティスーユ
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なぜ誰も俺を尊ばない?
俺は王家の中で誰よりも才能があった。
公衆の面前で公爵家の人間を殴り飛ばした長兄、ガイウス。
汚らしい亜人の血を持っていた長女、メイア。
そして同じ顔をしているだけの俺の完全下位互換の兄、コクケン。
浮浪者でさえ分かるはず、俺が、俺だけが王国の全てを手に入れる資格があると。
なのに誰の目にも、俺に対する心からの尊敬を感じたことはなかった。
自分の派閥の魔法連の会員も、配下達も、公爵家も、婚約者達も、・・・・・・・・・祖父や母さえも、奴らの目には自分に対する打算や侮蔑、嫌悪や諦念しか感じなかった。
だから俺も連中には嫌悪と怒りしか向けることができなくなってしまった。
全て奴らのせいだ。奴らがもっと俺を尊び、忠誠の限りを尽くせば、
俺はこんな目には遭っていなかったのに。
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「ばぁ、はぁ………!!!」
ガイウスによってラッシュを打ち込まれ右手と両足を欠損し内臓はいくつか破裂、顔は両目、鼻が潰れ、前歯はへし折れ、陥没。もはや生きていることすら不思議なほどの重傷でありながらノーブゥルは唯一動く左腕を動かし、地面を這うように移動していた。
目的地は当然無い。と言うよりも先ほどの攻撃により鼓膜も破れてしまっているためか聴力も失われているため激痛以外彼は何も把握することはできない。
しかしそれでもなお彼は芋虫の如く動き続ける。自分をこんな目に遭わせたガイウスへの復讐心を胸にうごめき続ける。
「ハァ……はあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”………!!!!」
(殺す、絶対に殺す!!あの下郎め、絶対に殺してやる!!!)
歯が折れ声帯も潰れたせいまともな人語が出てこないのかノーブゥルがうめき声を叫び右手を大きく挙げると飛んできた誇りと誉れの宝矛が彼の左手に収まった。継承思器のいくつかには持ち主が一定以上離れると手元に自動でへ戻ってくる魔法が組み込まれていることが多い。
ノーブゥルは誇りと誉れの宝矛の生命の回復魔法を発動、周りの命を吸い取り死に追いやることにより自身の傷を治癒、欠損した部位の再構築を行う。
こうして怪我を全て治したノーブゥルは立ち上がると乱暴な動作で宝矛を地面に叩きつけ死んだ大地に死体蹴りをつつける。
(絶対に、絶対に絶対に絶対に絶対にぃ!!!絶対に許さんぞガイウス!!!お前の全てを裁いてくれる!!! 貴様以外の存在に支払わせてやるっ!!!)
「セフィロト・サーチ!!!」
誇りと誉れの宝矛を地面に突き刺しノーブゥルは生命属性の索敵魔法を発動させる。
ガイウスによってここまで殴り吹く飛ばされたにもかかわらず一切の戦意を失っていないノーブゥル。しかし今から彼がやろうとしていることは、彼が言う下郎以下の行いであった。
ガイウスの超強化盾魔法の存在に加え、生命の化身魔法の発動によりノーブゥルの魔力は全開時の10分の1以下まで下がってしまっている。この状態では勝てないことはノーブゥル自身にも分かっていた。
だからこそ彼がやったことは索敵、現在の位置を確認するために、その中で襲いやすい存在を見つけ出し………人質にするために。
(ガイウス………!!!王がいれば国は成り立つ、故に民に必要以上の気をかけるな……!!王族教育を受ける物なら最初に習う心構えだ……!!だが俺は知っている……王族失格の、甘く惰弱な貴様は決して人質を無視できない!!!必ず怯む!!!
その隙に意識外からの攻撃で貴様を殺してやる!!!!!)
そんな王族失格どころの騒ぎではない考えをしていたノーブゥルであったが、その時気がつく。自分の索敵範囲内にてすさまじい魔力反応をした存在が猛スピードで動いているのを、その進行方向には自分がいること、そして。
ガァッッッッン!!グチャッッッ!!!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!」
自分が反応したときには既にその何かは到着し、自身に目掛けてタックルを噛ましていたこと。
謎の存在にタックルをされたノーブゥルは何度も勢いのままバウンドしせっかく治した体を再びあらぬ方向にねじ曲げながら吹き飛んでいく。この時既に宝矛を手から放してしまい地面に突き刺さっていた。
「ずいぶんと弱いな……いや既に戦い、満身創痍と言った方が正しいのか?だがそれは一切の情状酌量には値しない。戦場を汚す卑怯者は今ここで………?!」
砂煙に紛れた謎の存在はそのまま吹き飛んでいったノーブゥルにとどめを刺すためか彼の元へと行こうとしたが、その時視界に誇りと誉れの宝矛の姿を入れた時、謎の存在はその目を大きく見開かせ驚きのあまり声を上げる。
「これは………宝矛?!なぜ、このような下郎が宝矛を………?!いや、その髪色……まさか、貴様……王族か………?!」
「ごぼぉ……!!き、貴様ぁ………!!!宝矛……!!我が手に……戻れ!!俺の体を癒やして、奴を、殺せぇ……!!!」
謎の存在によって再び体中が折れ、動くことのできない肉塊のようになったノーブゥルであるがへし折れた腕を力の限り伸ばして誇りと誉れの宝矛をこちらに引き戻そうとする。しかし、
しぃーーーーーーーーーーーーん………。
誇りと誉れの宝矛は一切反応しなかった。まるでノーブゥルの声など一切聞こえていないかのように。
「………?!ど、どうした!!宝矛戻ってこい、戻れぇぇっ!!!」
「………神とやらがいるなら感謝しよう……!!私の生前、願うことすらできなかった願望、それをかなえてくれるとはな……!!」
ノーブゥルが地面を何度も叩き発狂したようにわめく中、謎の存在はゆっくりと歩を進め腕を伸ばし、誇りと誉れの宝矛の柄を掴む。瞬間、誇りと誉れの宝矛から白金色の魔力が噴出し謎の存在へとまとわりつき安定させていく。
この光景を見た時、ノーブゥルは絶句する。この現象を見たのは2回目であった。
先王が持っていた誇りと誉れの宝矛を手放し、コクケンへと継承する儀式の時に。つまり今目の前で行われている現象が意味することは一つ。
誇りと誉れの宝矛は今、目の前の謎の存在を新しい持ち主と認めたということである。しかしノーブゥルはそれを認めることはできなかった。
「ふざけ、ふざ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!宝矛は我らラックリバー王家の人間の人間にしか使うことができない宝具!!!貴様のようなどこの馬の骨ともしれない存在が手に持っていいものではない!!!! かえせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
全身から血しぶきを上げながら叫び散らかすノーブゥルであったが彼の言っていることは一部正しかった。
宝矛だけに限らず嘆願の声杖のようなその一族間でのみ継承されてきた継承思器は自然とその一族の遺伝子情報を持っていない存在では使うことができなくなってしまうことが多い。これ自体は現代の魔術加工を行えば対象家系以外の人間でも使うことができるようになるが、もちろん国宝である誇りと誉れの宝矛はそんなことはしていない。
要するに誇りと誉れの宝矛はラックリバー王家の遺伝子情報を持つ存在以外は扱うことは絶対にできないのである。
ただしかし、それに関しては問題なかった。
「………いいや、私にだって持つ資格はあった物だ」
謎の存在は誇りと誉れの宝矛を振り上げ立ち上っていた砂煙を消し飛ばす。それによってその姿がやっとあらわになる。
その人物は長い白金色の髪を後ろで簡素に結んだ青白い肌の女性の姿をし、その体にはビキニアーマーを装着しているなど情報のみを書き出せば扇情的ではあったが、彼女に劣情を抱く人間は少ないであろう。その理由は一つ
彼女の肩から普通の腕とは別にもう二本の腕が生え、合計4本腕を持つ怪物だったからである。
「我は屍人の王、リッチにして正義の魔将、アティ・ティスーユ。そして生前の名は、
………アティ・ラックリバー。誇りと誉れの宝矛を使うための資格は、これだけあれば十分か?」




