誤解
*
「ガイウス!!」
「凄い音だったけど無事?!」
「おう、お前らか大丈夫に決まって………?!」
場所はかわり不毛の大地と化した地にて地面に突き刺さった誇りと誉れの宝矛のそばで座り込んでいたガイウスは心配するような声を上げる二人の友人、オルトラントとレイゼの声を聴きできる限り明るい様子で声の方向へと顔を向けるが、その時ガイウスは友人二人の以上に気が付く。
「えへへ♥えへへへ♥」
「………驚いた。あの王子が負けたのか。あんまり興味はないけど」
まずオルトラントは服自体もかなりボロボロというのはあるがそれ以前に彼の左腕には水色のメッシュが入ったピンク色の髪をした露出過多な少女、ローアが抱き着いており恍惚と発情した表情を浮かべ、自分の体を彼にこすりつけていた。それによく見ればオルトラントの右腕の服の部分はなんか湿っていた。
次にレイゼも服装はボロボロ気味であったが、彼女は強化魔法を使い、俵でも持ち上げるように色白白髪の少年、ナタクを俵のように担いでいた。ナタクの手にはオルトラントの魔力の流れを阻害するムカデ型の怪蟲が手錠のように巻き付いていた。ナタクは状況からノーブゥルが負けたことを察したようだが、本人が言う通り特に興味はないのか周りの木々へと目移りしていた。
友人達と一緒についてきた二人の姿を見比べた後、ガイウスはジト目になりながら二人を見る。
「…………一体どういう状況だ?なんでエロい雰囲気の女に抱き着かれてんだ?なんでイケメンを担いでんだ?というかそいつら服、見覚えがあると思ったらお前らを足止めしようとした連中と同じじゃねぇか!!なんで敵と行動してんだ!!」
「やっぱりそうなるよな……」
「………まぁいいわ軽く説明するけど……」
「初めましてお兄さん!!私ローア!!オルトラント君の公私を手伝うお嫁さん希望です♥」
「『黒と』……いやもう意味はないなこの名前も。……ナタク。レイゼさんに眠らされて縛られて捕虜になっている。よろしく」
レイゼが説明するよりも先にローアとナタクが誤解を受けそうな自己紹介を行った後、ガイウスは立ち上がり、二歩後ろへと下がった。その目は「ドン引き」という四文字が浮かんでいるようであった。
「ま、待てガイウス!!お前は誤解している!!」
「そうよ!!コイツはともかく私は誤解よ!!」
「いや誤解も何も!!なんだ!!俺が心を鬼にして弟をぶちのめしてる時に、何してんだよテメェらは!!
俺だって色々生活の方に爛れがねぇとは言わねぇがよぉ!!こんな非常事態に恋人ゲットするような非常識な真似はしねぇよ!!しかもどう見ても未成年!!」
「ちなみにあたしは16♥食べごろだよ♥♥」
「君は少し黙っていなさいッッッ!!!」
「15。………レイゼさん、立派なことを言ってたけど……体目当てだったの」
「違わな………いや!!違う違う、そんな顔しないで!!」
とそんな会話をしている最中、カタカタという音が響き始める。先ほどとは打って変わって瞬時に戦闘形態をとったガイウス達は音源の方へと向く。今この奇妙な音を発しているのはノーブゥルがふるっていた誇りと誉れの宝矛。王家が継承してきた生命の剣は小さく振動し続け地面から引き抜かれると空中を浮きどこかへと猛スピードで向かって行く。
「なぜコクケン様の継承思器が……なんていうのは無粋だな。
今矛が飛んで行った方向に………!!」
「ああ、ノーブゥル………あそこまでボコったのにまだ諦めてねぇのか……!!」
「生命魔法で回復するつもりね……!!今ならまだ宝矛に追いつける……!!私が!!」
レイゼはナタクを地面に降ろし、しゃがみ指を鳴らそうとしたその時であった。
ドドドドドドドドドッドォォォォォォォォーーーーーーー!!!!
『!!!!!』
凄まじい魔力を持った何かが木々を破壊しながら一直線に飛び出してきた。ガイウス達はその異様な魔力とスピードを察知しそれぞれ横っ飛びで回避する。今向かって向かってきた何かはガイウス達の存在など見えていないかのようにそのまま進み続け結果として見えなくなってしまった。
その何かの進行方向は誇りと誉れの宝矛が浮いて行った方向と奇しくも同じであった。
「なんだ……今の魔力は……人間、じゃねぇよな………?!」
「魔術兵とも質が違う……!!というか偶然じゃなければ……あれ、キャンプ方向から一直線で来たんじゃ……?!」
「………最悪のシナリオは考えた方がいいですね」
オルトラントは掌に魔方陣を生み出すとそこから手のひらサイズのミツバチのような丸っこい怪蟲を召喚するとそれを放り投げキャンプ方面へと向かわせるのであった。さらにそれと共にナタクの手足に巻き付いていた怪蟲を回収する。
「我々は今からあれを追います。………君たちはどこかに隠れていなさい。私としてもせっかく助けた命が消えるのは見たくありません」
「安心して頂戴。私はあなたの生きがいとなる女だもの。こんなところじゃ死なないわよ」
「オイ急ぐぞ!!」
ガイウスに急かされたオルトラントとレイゼはすでに先行した彼に追従するように正体不明の何かに向かって走っていくのであった。その後ろ姿を見ていたナタクは無意識の内に拳を握っていた。
今通り過ぎた謎の存在の魔力量は自分よりも多い。しかもガイウスはともかく他二人は自分達との戦闘のせいで魔力はかなり消費し体力も削られているはず、どう見ても勝てるとは思えなかった。
そんなことを考えている内に隣にいたローアは手を合わせ酸の化身魔法ヒュドラを発動させており背中に酸でできた4匹の蛇を顕現させていた。彼女の目は殺し屋としての鋭い視線に戻っていた。
「………あの人たちを助けに行くのか?………僕はともかく君は自由になったんだ。何とかして結界から抜けて自由になった方がいいんじゃないの?」
「……自由になったってそこにオルトラント君がいないんじゃ、意味がない。あの人はやっと出会えた、あたしの運命の人だから………!!あの人のためにこの命を使い潰せるなら、
これ以上の幸福はない♥アシッド・スケート!!」
ローアは足裏に弱酸を発生させ地面の摩擦抵抗を下げるとそのまま後方へと蛇に酸のブレスを放出させ、その推進力を使いオルトラント達の後を追うのであった。
ナタクは彼女の後姿をしばらく眺めていたが、突如小さく息を吐く。全身には彼の武器たる黒色の魔力が纏わり始めていた。
(どうせここを切り抜けても僕たちがやったことを考えれば死刑は免れない。この事実に恐怖も救いも抱いていない自分がいるのも間違いない。……でもそうだな、死ぬとしても)
「………生きがいを見つけてから死ねたら、少しはこの呪われた生を、惜しむことができるかな?」




