反撃~熱司の戦士 ヒュリオ・ペンギルス
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『白煙』の煙創世魔法、スモーク・ヒノム・ジェネシス。それは事実上相手をこの結界の中に引き込めばその時点で勝ちが確定する地獄の空間。
魔法を発動すれば瞬時に爆発する、超高熱、超毒性の煙が常時漂い相手の動きを制限。
さらに世界全てが煙でできているためか魔力で体を覆わなければ落ちてしまい、強制的に魔力の使用させる。
相手に短期決戦も持久戦も許さない、最強クラスの力である。
(唯一警戒するのはヨハンの奴が道連れ覚悟で広範囲殲滅魔法を使うこと。やつの本気の魔法ならこの空間ごと俺を吹き飛ばすことは十分可能。
だがそうしたなら俺だけこの空間から逃げればいい)
創世魔法によって生まれたこの空間は『白煙』がいなければその存在を長時間維持することはできず、5秒とかからず消滅してしまう。しかし逆に言えば5秒は存続できるため自爆された時点で逃げれば被害を受けるのはヨハン達だけになる。
流石にも魔力の消費量的にもう一度この魔法を発動させるのは難しいが、十分。
(死傷者が出た時点でコイツらの士気はぐっと落ちるはず。そうすれば後は俺の煙に隠れながら『紫呪』の呪詛と針達のごり押しで皆殺しにすればいい)
「さぁ、ガキ共!シンキングタイムは終了だ!!
答えな爆死か、斬殺か?!」
『白煙』の放った煙のチャクラムは風切り音を上げながら白い煙に包まれているヨハン達へと向かっていく。その刃が煙りごと彼らを切り裂こうとした、その時、
ガガガガガガガガッッガチィーーーーーン!!!
灼熱の赤煙世界は一瞬にして凍り付き始め、それとともに彼らを覆っていた白き煙は緑色の旋風に吹き飛ばされる。
それだけではない。あり得ない光景に一瞬怯んでしまった『白煙』の懐にいつの間にかハムナスの姿があり手に持っていた曲刀を、彼の左横っ腹目掛けて大きく振るう。それに瞬時に反応した白煙は左手に煙でできた刃を生み出しハムナスの曲刀を受け止め切り払おうとするが、風で揺らいでしまい押し負け始めてしまう。
『白煙』は舌打ちしつつ後ろへとバックジャンプをし距離を取る。
(なんだ、何が起こって……?!)
「……我々の回答を表明させていただくね?
アンタを倒して、この空間から全員出させてもらう」
煙が吹き飛ばされた位置には左目を緑色にしているヨハンがまっすぐ腕を伸ばして手を組んでおり、その前ではヒュリオが目をつぶり、片膝立ちで槍を掴んだ手を伸ばしていた。またヨハンの頭上には緑色のつむじ風に目が付いた存在がおり、その目は『白煙』を敵意を持った視線でにらんでいた。
魔力の流れ的に緑の旋風はヨハンが、冷気はヒュリオが生み出しているようであった。
「ウィリアム。アンタの煙は摂氏-10℃以下の状態では起爆性と発火性を失う。現在この空間の温度は-20℃を優に下回っているだろうね?
これならシルフィードでこの毒性の煙を浄化し吹き飛ばせる」
「………ありえねぇ。ここは創世魔法で作られた灼熱空間。氷魔法なんざまともに機能しないはず。なぜ………?!」
だがこの時、『白煙』は気がつく。この状況下でもなお自分が作り上げたこの灼熱世界を、真逆の極寒世界に変えることができる可能性がある魔法属性の存在を。あり得ない、と『白煙』の中の感情が訴えるが、それを無視して彼は断定する。
「……そのガキの魔法、氷魔法じゃない。熱魔法……先々代勇者が持っていた背反の魔法属性か……!!」
熱魔法。それは炎魔法や氷魔法の原点的な魔法であり、その名の通り万物の熱に干渉できる魔法である。さらに他の魔法には見られない特性を持っており、周りの熱を吸収し冷気として放出でき、その際ほとんど魔力を消費しない。
この魔法を持っていた約200年前の勇者、ヘイムは絶対の力を振るいほぼ一人で魔王軍を打ち払ったと言う伝説を作っていた。
しかしそれ以降、熱魔法を持つ魔法使いはおらず生命魔法同様ほぼ失伝扱いの魔法であったはずであるが。
「まさか、超希少な熱魔法をそんなガキが持ってるとはな……!!」
「私もキャンプでヒュリオ君の魔法を見て気づいたときは流石に驚いたよ。いや、世界は本当に広いね?……本人は自分をただの氷魔法使いと思ってたらしいがね。まぁそんなことは今はどうでもいいね?今大切なのは、
我々はアンタに今王手をかけているという事実さ」
「オラァ!!お喋りは厳禁だぁ!!」
「!!チィッッ!!」
意識がヒュリオ達に向いた瞬間、ハムナスは再び曲刀を振るい『白煙』を切り裂こうとし『白煙』はそれを自身の煙生み出した煙の刃で払おうとするが、ヨハンの生み出している風のせいで煙は揺蕩ってしまい形が安定せず出力が落ちてしまっているのか、ハムナスの曲刀を切り裂くことができない。
そのため『白煙』は煙の剣の刀身を滑らしハムナスの斬撃をいなすと彼の頭部目掛けて左回り蹴りを打ち込む。それによってハムナスは吹き飛ぶが右腕によるガードが間に合ったのか体勢を再び整え、向かってくる。
(防御が間に合ったとはいえすぐに戦線復帰するとは!!このガキ、自身の強化魔法だけじゃねぇ!!ヨハンから追加の強化魔法に防寒魔法をかけられてやがるのか!!)
「はっ!!ヨハンの小僧に下駄履かせてもらってるとはいえ!!中々根性があるじゃねぇかサクバのガキ!!」
「ガキガキうるせぇんだよ!!この煙ジジイ!!」
ハムナスは必死に自分を鼓舞するように声を上げながら曲刀を振るい果敢に攻め込んでいく。その様子を見ていたヨハンはわずかに顔に汗を流しながら息は吐く。シルフィードの浄化の風を使うための代償で彼はかなりの量の魔力を流し続けている。それこそあと5分もしないうちに彼の中の魔力は枯渇してしまうだろう。
(ヒュリオ君の魔法で焼き殺されることは避けれるが……このままでは私の魔力がなくなり毒殺されるのは目に見えている。勝つための方程式はある。しかしそれもハムナス君がウィリアム相手に絶対の隙を与えない限りは机上の論
頼むね、ハムナス君……!!)
「……ヒュリオ君。合図があったら説明通りに頼むね?」
「うんわかってるよ、おじちゃん!」
「ありがとう。でも私はまだおじちゃんじゃないからね??」
*
『白煙』が7歳の時、彼は既に「袖下の刃」に所属していた。彼の曾祖父は200年以上前にあった魔王軍との戦争によって武勲を立てたことで名誉男爵の地位を与えられた。しかしその武と魔法の才能は息子には引き継がれず、孫である『白煙』の父は祖父の遺した資産を浪費し続け自身の第1子である『白煙』が生まれた頃には既に家の家計は火の車になっていた。
普通ならば家を取り潰し、貴族としての地位を返納するが『白煙』の父は貴族としての生活を捨てることを嫌い、人として最悪の手段を取った。
それは息子である『白煙』を魔法連に売ったのである。
『白煙』は5歳での身体検査で煙属性魔法適正を持っていることが判明し、曾祖父の代から一応引き継がれていた火と風の魔法を持っていないことでいらない不要品とのことで『白煙』を売り払ったのである。
当時はちょうど再び魔王が顕現し暴れていたことで頭数を必要としていた魔法連は『白煙』を購入するがその時の値段は当時の貴族の一ヶ月分の収入にも満たない金額であったという。
『白煙』はこの事実を知ったとき心底全てを憎み怒ったが、「袖下の刃」での地獄のような生活で感情をすり減らし続けた『白煙』はもはや怒りや憎しみ、楽しみや悲しみと言った感情を持続させることが難しくなっていた。
実際彼が自分の人生をめちゃくちゃにした父を任務で指令通りにバラバラの肉塊にして殺した時に初めて出た言葉は、
そういや、最後に肉食ったのいつだっけ?だけだった。
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「………ただ俺は一応、「袖下の刃」の中間管理職だからな。最低限度の感情表現は身につけたが、やっぱあんまり持続しねぇんだよなぁ。所詮振りだからねぇ。
どう思うよ、ハムナス、だったか?」
「はぁはぁ……クソ、このジジイぃ……!!」
「人がガキ呼びをやめてやったのにお前はジジイ呼びかよ。一応おじさんまだ52だからなまだギリジジイじゃねぇぞ?コラァ」
戦闘開始から約2分、ハムナスは赤煙の地面に膝をつきボロボロの状態になっていた。隙を付けていた最初こそハムナスはいい勝負ができていたが、途中から『白煙』が強化魔法による近接戦に切り替えてからは一変、一瞬にして追い詰められてしまっていた。
「しっかし、お前さんがここまでボロ雑巾になっても助けないとは宮廷魔法使い殿はずいぶんと薄情じゃねぇか。ええ?」
「………ッッ!!」
「……おうおう睨むじゃねぇか。まぁでも怖くはねぇな、そんな疲労困憊な状態じゃな」
『白煙』を睨むヨハンの表情は明確に疲労がにじみ出ており口からは時折荒い呼吸が見え隠れしていた。精霊魔法による常時の風操作に加え他者への強化魔法の持続など魔力枯渇以前に相当な集中力や体力が必要である。むしろ今でもなお維持できていることが彼の非凡な才能の表れともいえる。
最もその才能も防戦一方では宝の持ち腐れ、脅威ではない。
(ハムナスとの実力差は見せつけ、ヨハンももう敵ではない。唯一脅威となりなねないのは、あのリベシアのガキ……ヒュリオとか言ったか?熱魔法は全容が見えない上、底が見えてない以上、ひっくり返される可能性はある。
ならばそこを潰せば、完全勝利だ)
「なぁヒュリオとか言ったか?状況が分かってんのか? このままじゃお前さん、死ぬぞ?」
「………っ」
『白煙』は今なお襲いかかって来るハムナスをあしらうように攻撃を加え続けながら、ヒュリオに向かって話しかける。最初ヨハンは話を聞くな、と言おうとしたがヒュリオから何かを感じ取ったのか口を紡ぐ。
当人、ヒュリオは目を開き『白煙』に視線を集中させる。
「俺は暗殺者だがいくら何でもお前さんみたいな子供を殺すのは流石に良心が傷つく。
………降参して熱魔法を解除しろ。そうすれば、お前だけは助けてやる」
「……………」
「言っとくが嘘じゃねぇ。なんならここで契約をしてもいい。当然ここでの行為に対して黙秘の呪いをかけさせてはもらうが、ちゃんとお前を故郷に帰してやる。
そいつらとお前は赤の他人だろ?自分の命は大切にしろ、親から習っただろ?」
『白煙』から放たれた口撃はヒュリオへと突き刺さる。こんな危機を生み出している彼が言うのはどの口案件であることは間違いない。しかしこのままでは死ぬこともヨハンとハムナスが半日も交流していない赤の他人であることも事実。
『白煙』の言うことを聞く、とまでは行かなくても揺らぎ魔法操作に支障が出るかと思われたが。
口撃を受けたはずのヒュリオの目には一切の迷いがなかった。
「……ならってない。ちちうえからいのちをだいじにしろだなんて、ならってない。
ぼくがならったのは、たたかいかたと、戦士のこころえだけ」
(………なんだ、このガキ、雰囲気が、いきなり変わった……?!)
「戦士はしゅくんのめいをまもること。戦士とはなかまのいのちをまもること。戦士とはたたかえぬものをまもること。そして、
いのちつきるそのときまであきらめず、戦士でありつづけることだ!!」




