追憶~刃となった人形少女
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4年前、夜02時20分、名誉貴族アベノ男爵家邸宅。 ヒガシマでの勢力争いに負け数々のヒガシマの重要機密を材料に統一国に亡命、名誉貴族の地位を受けたアベノ家であるがその扱いはおおよそ貴族と呼べる物ではなかった。
将軍家200年以上将軍家に重宝され、権力争いに負けたと言っても完全に排斥されたわけでは無かった。にもかかわらず、一方的に将軍家を恨み、かつての故郷を滅ぼしかねない秘密をバラす。そのような不義理者のことを信じ受け入れるほど統一国は甘くなく情報を受け取った彼らはアベノ家に名誉男爵の地位と義理程度の報酬、統一国郊外にある適当な屋敷を与えただけであった。
当然アベノ家はそれに激怒。外面は納得したような態度をしていたが内心はクーデターのための準備に取りかかっていた。
そしてクーデター準備こそが統一国の狙い、たとえ統一国に完全な原因があったとしても相手がクーデターを起こそうとしたのなら、統一国は大義名分を得ることができる。
結果、統一国はベツレムを経由して魔法連に報告、「袖下の刃」を動かしてアベノ家を殲滅したのであった。
「ねぇ~『黒棘』『白煙』?これで全部~?」
「ぼくは魔法が使えないから分からない。多分全部じゃ無い?」
「………お前等やり過ぎやがって……あーあー、もう誰が誰だか分かりゃしねぇ」
夥しい数死体がまき散らされている邸宅にて少女と少年は適当な死体の上に座り雑談をしていた。
当時「袖下の刃」幹部候補『針長』、『水酸』と『黒棘』。二人ともまだ10代前半にもかかわらず殺害対象であったアベノ家当主とその家族、並びに護衛たる魔法使い達を皆殺しにしたのであった。
人を殺しても全く揺るがないほど壊れ狂ってしまった二人の子供に対しため息をつきながらたばこの煙を吐く『白煙』。彼らを『短剣』に昇格させるか、どうするか考えていたその時、『白煙』の煙魔法が何かを探知する。
(………?なんだ、地下に生命反応……?逃げた奴がいるのか?だが、これは……)
「……お前等、回収班を『隠し鞘』に用意させた。そいつらと一緒に撤退しろ」
「わかった~」
「……『白煙』はどうするの?」
「俺は……最後の確認をしとく。気にせず帰ってろ」
そう言って分かれた『白煙』は邸宅を探索し地下への扉を発見すると奥へ奥へと進んでいく。奥へ進んでいくたびに得体の知れない魔力を肌で感じ取れ、彼の中の警戒心が警鐘を鳴らし続けていたが、それを無視して『白煙』は前へと進んでいくそして地下の最奥部と思われる大きな部屋に到着した彼が見たものとは、
壁に貼り付けにされた一人の少女、と思われるものであった。
それは黒髪を5m近く伸ばし右上顔面部を除く顔面部と胴体全部を包帯で巻いていた胴体から伸びる四肢は木偶人形の様な球体関節の人工物であったまた咽頭部や腹部、股間部には大きめの管が取り付けられており、どうやら生命維持や清潔維持の用途を持っているようであった。
また彼女?の周りには大量の木偶人形が存在し、持っている武器を『白煙』へと向けていた。
そのおぞましい光景に修羅場をくぐってきた『白煙』ですら絶句してしまい、口にくわえていたたばこを落としてしまう。
「こりゃ、なんだ?」
「………お前か、父上や母上を殺した下手人は」
目の前にいた唯一露出している右目の鋭い視線を『白煙』へと向ける。それは負の感情が交ざり積み重なったようなおぞましさを持っていたが殺し屋である『白煙』にとっては日常的に受ける視線のためかむしろ日常を取り戻せたように安心した息を吐く。
「父上、母上……ってことはお前、あの連中の娘か?……確かアベノ家には第5子の娘がいたはず、名前は確か……サチヨ・アベノ、だったか?」
「……そうや。うちはアベノサチヨ。アベノ家を救う呪術師、そうなるはずやった」
「救う、ねぇ。この一族は名誉男爵の地位をもらったくせに恩を仇で返すが如くクーデターしようとした、言っちゃ悪いが屑共だぞ?救う価値なんかねぇだろ。
と言うかそれは、一番お前が言う台詞だろ。そんな体にされたお前が」
『白煙』からの言葉にわずかにサチヨは言葉を詰まさせるがすぐに敵意の目線を彼に向ける。それとともに木偶人形達も臨戦態勢を取る。
「……こんな体になったのはウチが女で、魔法が使えないせいや。父上、母上、アベノ家が悪いわけやない」
「……魔法が使えない?魔力はかなり持って様に見えるし、この人形共はお前の魔法で操ってんだろ?」
「これ以上お前に語ることなんかあらへん!!やれ!!」
サチヨの指示ででき人形達は一斉に飛び出すが、『白煙』はつまらなさそうに煙り魔法を発動し煙の剣を生成、あっさり木偶人形達を切り裂いていく。相手がアベノ家の生き残りであると分かった以上興味はあるが見逃すことはできない。そのためさっさと殺そうとするがその瞬間、彼の体に紫色の彼岸花の模様が浮かび彼の体に焼けた鉄の体を持つ棘蟲が表皮を動き回っているかのような激痛が生まれる。
そのせいで『白煙』は膝をつき痛みに耐えるかのように激しい呼吸を繰り返す。
「これは……ヒガシマ式の呪術か……?!」
「安倍流丑刻呪術・彼岸ノ誘イ。もうアンタは終わりや、このまま痛みに悶えて死ね」
(人形操作魔法と呪詛魔法の合わせ技……!!なんで連中はこいつを使わなかった使えば俺達を確実に全滅させることができたはず……!!いやそんなことは今どうでもいい!!)
「……おじさんはよぉ別に生に執着は持ってねぇが……唯一得意な魔法戦で負けるわけには行かねぇのよ!!
スモーク・リンカーネイション・デス!!」
『白煙』が叫ぶと彼の背後から白い煙が発生しそれがそのかなり広い最奥部の天井に届くほど巨大な死神の姿に形成されると、死神は煙でできた大鎌を振るい周りにいた人形達を薙ぎ斬っていく。人形一体を破壊するたびに痛みは加速度的に上昇していくが、その度に懐の回復の呪符を解放し回復していく。
煙の死神はサチヨに近づき彼女の体を掴むと乱暴に壁から引き剥がす。この時人形の四肢は壊れ、体に付いていた管も血をまき散らしながら外れてしまう。それによるサチヨの痛みのうめき声が響くが、もはや余裕の無い『白煙』は死神に命じ、彼女を地面に叩きつけさせる。
「おいクソガキ……さっさと俺の呪いを解け!!さもなくちゃこのまま地面のシミだぞ!!」
「誰が、解くかボケェ!!お前は両親の敵や!!ここでウチの命でお前を殺せるなら本望や!!死ね!!」
「……!!なんでそこまでこの家に尽くそうとする!!煙からの感触で分かる、テメェ手足がないだけじゃねぇな、左の目玉もねぇ!内蔵も生命維持ギリギリしかねえだろ!!その上こんな所に閉じ込められている!!
………襲撃される前、ここの家の連中が何をしてたか知ってるか決起会、要するに酒盛りをしてたんだぞ!!!
テメェが命をかける価値なんてあの家にはねぇんだよ!!」
「黙れ!!ウチにもうすぐ生まれるはずだった生きる価値を奪ったお前らが偉そうな口を叩くな!!」
化身魔法という圧倒的な暴力に命を握られているにもかかわらず、一切のぶれなく言い返すサチヨに思わず『白煙』の方がわずかに引いてしまう。それでもなおサチヨの怒りは収まらないのか彼女はヒートアップしながら続ける。
「ウチは魔力不全者やった!!魔法も使えなければ魔力もない、この世界の最底辺の存在!!でもそれでも、父上達はウチに役割をくれた!!
減算強化を応用した呪術でウチの両腕、両足、皮膚の半分、左目、子宮等の内蔵数種を対価にウチに大魔法使いクラスの魔力とアベノ家秘伝の傀儡魔法と呪詛魔法を与えてくれた!!
これでやっと・・・・・・ウチは、認めてもらえるはずだったんやぁ!!!」
「……!!」
涙混じりの怒号を上げるサチヨの言葉を聞き、『白煙』は思わず絶句してしまう。仮にもし『白煙』が彼女と同じ立場だったとしても絶対にそんなことはしないだろう。だったらまだワンチャンスかけて奴隷にでもなった方がまだマシである。
狂っている、ある意味で言えば『水酸』や『黒棘』も比較にならないほど目の前の少女はイカれてしまっていた。
(……少し考えれば自分が体よく利用されていることなんて分かるはず……!!役割、希望……おそらくそう考えることでわずかに正気を保ってたんだろうな……!!まずいなこりゃ俺は確実に死ぬし、多分このままじゃその程度じゃ済まなくなる……!!下手すればここら一帯が禁足地になる!!
別にこんな国滅べばいいってのが俺の正直な感想だが……!!まだあのガキ共は逃げてねぇだろうしなぁ・・・・・・!!仕方がねぇ、一か八か……!!)
「……おい、サチヨ!!契約だ!!俺の呪いを解け!!そうすれば、
お前の契約中の安全の保証と、今回のアベノ家討伐作戦命令を行った貴族に会えるようにしてやる!!」
「………っ?!!」「ここで俺たち数人だけを道連れにするなんて味気ねぇだろ?!どうせあのブタ貴族も裏じゃいろいろやってるってうわさだ!!少し調べてつつけば暗殺指令が出るはずだ!!どうする?!」
『白煙』の言葉を聞いたサチヨはわずかに黙りながらも『白煙』を睨み続ける。しかし同時に何かを納得させたように息を吐くと同時に『白煙』を襲っていた彼岸花の呪いが収まっていく。それを確認した『白煙』も契約に反しないように煙の死神を消し彼女を解放する。
「………分かった。アンタの口車に乗ったる。でもな、その貴族ぶち殺したら契約は終了や
お前もあのガキ二人もぶち殺したるからなぁ……!!ウチを生かしたこと、後悔させたる……!!」
「………はっ、そんときはそんとき考えるさ」
こうしてサチヨ・アベノ当時14歳は「袖下の刃」に入った。アベノ家の生き残りではなく、彼らががヒガシマで買った呪術実験用奴隷を『白煙』が有用性を見いだし保護した、と言う名目で。
彼女は体のハンデはあったもののめきめきと実力を伸ばし1年後には『針』として正式に加入。そして初任務としてアベノ家抹殺の命令を下し、自分は違法薬物を他地域に流し巨万の富を築いていた貴族を族滅させた。これにより契約は解除。サチヨと『白煙』、ならびに「袖下の刃」は敵に戻ったが、
その日以降も彼女は『針長』銘:『紫呪』のままであった。




