反撃~アンコールソング
レイゼは『黒棘』に向かって真っすぐに手を伸ばし、『黒棘』自身も手を伸ばしかけたが、すぐに引っ込め再び地面に掌を叩きつける
「………そんな綺麗事、僕をせめてねじ伏せてから言えよ………!!!あなたの最大火力じゃたとえこの距離から攻撃しても僕の魔力の棘を砕くことはできない!!『水酸』も来ればこの膠着状態は途絶え僕が勝つ!!たとえ万が一あの仮面のお兄さんが来たとしても、僕の敵じゃない!!すぐに殺せる!!そうすればあなたの心だって揺れ動き感知対象になるだろう!!
僕を倒すことなんて、どのみちできないんだよぉ!!!」
「………確かにあなたは無敵よ。あなたの魔力出力を大きく上回る攻撃を繰り出すしか、あなたの攻撃を正面からの方法はない。多分それができるのはこの結界内ではシンシアと可能性としてヨハン様程度でしょうね。
だけどあなたを無力化することは、決して無理難題ではないわ」
レイゼはそう話しながら嘆願の声杖をバトンのように回転させ元の十字架の形状に戻すとスカートの中に戻してしまう。自分のメイン武器をあっさり戻してしまう行為に混乱してしまう『黒棘』であったが、
それを察していたかのように、レイゼは呟く。
「………私はレイゼ・テルノーグ。並ぶ者がない美人のお姉さんにして勇者候補にして最速最強のシスター。そして、
TPOも弁えてる世界一の美女よ。………このアンコールソングに、大きすぎるサウンドは余計だもの」
瞬間レイゼの体から音楽が響き始めるとそれを伴奏代わりに、彼女はある歌を歌言い始める。その歌とは、
*
眠れ 我が子よ 私の胸で
眠れ 我が子よ 目を閉じて
瞼が内には 楽園あり
今日の痛みを 忘れる場あり
夜はここで 遊びなさい
明日のために 遊びなさい
そうして楽園が 終わったら
再び 世界を歩きましょう
*
(………これは、確か、子守歌?なんでこんな………?!)
「………な、なんだ。ち、力が……入らない……?!」
子守歌を聴いていた『黒棘』の体には明確な変化が生じていた。強烈な倦怠感と眠気が彼を襲っており、それとともに黒い魔力の領域が揺らぎ始める。魔力のコントロールを維持できなくなるほど意識がおぼろげになっている。
「スリープ・サウンド。対象の睡眠を促す音の初等魔法。特に柔らかな歌とともに組み合わせて発動すればより効果が発揮される。とは言っても高ストレス下である実戦ではなんの役にも立たないわ
よほど相手が無防備じゃない限りはね」
「そんな、こ、と…………」
それが最後の言葉となり『黒棘』は完全に意識を暗転させその場で倒れてしまった。また発動者がいなくなったことで黒い魔力も霧散していき、後には木々が倒れ破壊された大地のみが残るのみであった。
黒い魔力が完全に消えたことを確認するとレイゼは空気の足場を崩し地面へと降り立ち小さく寝息を立てながら眠っている『黒棘』のそばに座る。
「………これは、私の独り言だけど……ナタク君。あなたの魔力の持つ本当の特性は全ての感情に反応する物ではない 悪意や害意のみに反応するものと思うわ」
これに関してはある程度確証があった。実際先ほどのレイゼには『黒棘』に対する一切の悪感情はなく、ただ彼を眠らせ落ち着かせることのみを考え実行移したのみであったがその状態では一切の攻撃を受けなかった。
それにもし『黒棘』の魔力の特性が本当に自身に向けられる感情全てに反応するならば、彼はそもそも団体行動など取れないし、多分発覚した時点で魔法連なら剣過ぎる上に再利用不可として殺処分しているはずである。
というかそういう理屈抜きにしも、レイゼは知ってしまっていた。………きっと彼を傷付けてしまうことだから、目の前ではいえなかったが。
「………あなたの母親はね。あなたのことを大勢のシスターの前で貶していた。哀れで救われなければならない自分、なんて言う腐った考えのための装飾品としか思ってなかった。きっとあなたは内心それに気がついていた。だからあなたは、涙を流さなかったのよ。
………ナタク君、あなたは異常者なんかじゃない。|神を信じていないシスター《本物の異常者》が言うのだから間違いないわ」
瞬間黒い結界が天井から砕け始め空は赤黒い異常な空間から、雲一つない星が輝く夜空が現れたのだった。すると声が聞こえてくる。
「レイゼ。どうやら君も勝てたようだね」
「………あなたもねラン……え?」
声の方へと振り向いたレイゼは思わず固まる。そこには声の主であるオルトラント、そして彼の腕にしがみつき恍惚とした、悪く言えば発情したような赤らめた表情をした少女、『水酸』改めローアの姿があった。
「………君の言いたいことは分かる。しかし今は緊急事態だ。後にしてくれないか?」
「そうね緊急事態よ。でもそんなの関係ないわ。 ねえ、あなた。これはどういう状況なのか手短に教えてくれないかしら?」
「えへへ♥、あたしはラント君のお嫁さんなのぉ♥♥♥ クソ親父とクソババアからあたしを助けてくれた王子様なのぉ♥♥♥
心も体も、もう切っても切り離せないのぉ♥♥♥♥ 」
そんな説明をしている間にも彼女はオルトラントの手を自分の股間へと引き寄せ、レイゼや眠っているとはいえ『黒棘』改めナタクの前で慰め始めていた。
そんな光景を前にレイゼは無表情となり強化魔法を発動しナタクを持ち上げると踵を返しガイウスが行ったと思われる方向へと歩いて行く。
「さぁ、早くガイウスを助けにいきましょう。オルトラント公爵子息」
「待ってくれレイゼ!!なぜ他人行儀に?!僕たちは友人だろう?!」
「私の友人にうら若い少女との羞恥プレイを目の前でさせるような人間はいないわ。用があれば私から話す。あなたからしゃべりかけないで、この変態仮面」
「き、君までミスト嬢のような暴言を……!!というか君も早く離れなさい!!」
オルトラントはローアから手を外しレイゼの後を追う。そのローアも「待ってぇ ラントくぅん♥♥♥ 」と発情しきった声を上げながら彼らの後を追うのであった。




