反撃~たとえ今日が最悪でも
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統一国4大組織の一つ、教会は最も幹部になることが容易とされている組織である。魔法連は家柄と実績両方がなければなることはできないし、騎士団、統一軍もその性質上一定以上の戦闘能力と指揮能力がなければ幹部になることはできない。しかしその点教会は神を信じる者であれば誰に対しても門を開くという教会理念に加え、そもそも神や教会に対しての貢献度を大切にしているため高い家柄、戦闘能力を持っていなくとも幹部になることができるのである。
また、話すは少し逸れるが教会への貢献度とは色々種類があるが、その中でも主に大きいのは教会に対する布施である。布施があれば両親がいない孤児の子供や浮浪者といった社会的弱者を多く救済することができるため、必然的に布施は重視されている、それ自体には問題はなかった。
だがそれが指し示す事実は、悪く言ってしまえば「金で教会での地位を買うことができる」ということである。
そしてレイゼは実際に金で教会最高幹部の座を手に入れた女性を一人知っている。 その人物はアザリア・モルハン。伯爵夫人であり約8年前まで七聖徒の第七席を務めていた人物であった。アザリアは魔法能力、事務能力、人格、どれを見ても七聖徒の器ではなかった。しかし夫が魔法連の中堅幹部であったこと、また亡き祖父が遺していたという地方繁華街の納税契約のおかげで多量の資金を持っておりそれを布施することにより七聖徒の権利を手に入れたのである。
当時使徒ノ防人の上級隊員で上から彼女の護衛とサポートをしていたレイゼは彼女のことを心の底から嫌っていた。レイゼ自身この時から神の存在を信じてはいなかったが、それでも神を信じる人々の気持ちは理解していたし、その純粋な思いには答えたいと思っていた。ただアザリアは神を信じていないのはもちろん教会の信徒達のことすら貧乏人と見下していた。それに加え侯爵令嬢であるレイゼを伯爵夫人でしかない自分が顎で使えていると言う事実がアザリアをはかどらせ、彼女に対して非道な嫌がらせをしていたのであった。
尊敬などできるはずはなく、後これが数週間でも続けば多分自分はアザリアを半殺しにしていただろう、レイゼは思っていた。
そんなある日、アザリアは講習会を開き、裕福な家柄の信徒達限定で講習会を開きわざとらしく泣きながらあることを話し始めた。
『私には今年7歳になる息子がいます。しかしいつまでたっても魔法を使えるようにもならず医師に診察してもらったところ……魔法出力不全症であることが分かりました。
神の祝福たる魔法が使えない、それはこの世界から見放されてしまったも同然!……ですが、私は息子を諦めたくありません!
どうかお願いします!!私息子、ナタクのように魔法が使えない方々を救うために、どうか!!皆様のお力をお貸しください!!!』
………この講習会から約5日後、アザリアと彼女の夫は屋敷で死体として発見された。体中を魔力で貫かれたような跡があり凄惨な光景であったと記録されている。また殺害場所は当時夫婦の第三子にして次男であるナタク・モルハンの自室で会ったが彼の姿はおらず生死不明となっている。容疑者も未だ見つかっていない。
なお七聖徒死亡による葬儀は国葬ではなく教会幹部のみで簡素に終わらせた。この時彼女の死を、喪失を心の奥底から惜しみ嘆き涙を流す者は一人もいなかった。
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(元々彼の魔力特性の説明には疑問があった。それに加えて彼の母親があのアザリアだとすれば……!)
「試してみる価値はあるわね……!!ねぇ君、終わりだと思ってるのかしら……悪いけれど私が満足するまでこのワンマンライブは終わらせない……!!ふっ!!」
木の後ろに隠れていたレイゼは意を決するように前に出てくるとそのまま左足に力を入れ、大きく跳躍する。しかしあの跳躍距離では対置を黒い魔力で浸食している『黒棘』のもとに行くには遠く足りない。このまま黒い大地を踏むことなるはずであったが空中に足場が出現するとレイゼはそこに着地する。だがたとえ黒い大地に触れていない空中であるとしても、ここは既に彼の領域、彼に感情を向けた存在に対して死の棘を突き刺す。そのはずであった。
しかし黒い魔力うごめく大地は、わずか1メートル宙にいるレイゼを穿つことはしなかった。
(………なんだ、何が、どうなって.........)
「やっぱり、この領域に意思はない、あらかじめこの魔力に条件付けされた行動、魔力に触れるかあなたの魔力特性の対象にならない限り棘は襲ってこない」
そう言うとレイゼは空気の足場をまっすぐ伸ばしその上を揺るぎなく歩いて行く。右足は負傷し歩くだけで痛みが襲われるはずであるが、その姿はファッションモデルがランウェイの上を歩くが如く堂々としていた。そうして20メートルほど動くと体に黒い魔力を纏いしゃがんでいる黒き領域の主、『黒棘』の近くに到着し、さらに黒い魔力にわずかに触れない程度の位置に空気でできたイスを生成するとその上に足を組んで座る。
この間『黒棘』は一切動かなかった。否動くことができなかった。自分の魔力が反応しない理由それはたった一つでしかない。
(僕に、一切の感情を抱いていない……。驚いた、「袖下の刃」以外でそんなことができる人がいるなんて………!)
「……でもそれで勝ったつもりかな?たとえ感情を無にできたとしても僕の魔力は僕の危機感情ともリンクしている。不意打ちならともかく、この状態の僕を倒すことは不可能だ」
「そうね私じゃあなたを倒すのは不可能。でもそれはあなたも同じでしょう?もし君が勝利を本当に確信しているなら、さっさとこの領域を解いて攻撃すればいいのにそれをしていない。
まぁそうよね。この距離なら私の方が早いもの」
『黒棘』は何も言うことができなかった。レイゼがどのような方法で感情を無にしているかはわからないが、もし本当に感情を無にしているのであれば『黒棘』は魔力を手動操作と危機感知反応のみで戦わなければならない。その二つは本来の感情感知と比べて出力も反応速度も大きく劣る。もし相手の接触で反応する今の領域を解けば確実に負けてしまうことは勝負勘の薄い『黒棘』にもわかってしまった。
「………でもいいのかな?僕はいつまでも待ってもいいけど、レイゼさんは時間が立てばたつほど『水酸』が来る可能性が高くなる。僕ら二人に勝てるとでも」
「あら、私の名前をちゃんと覚えててくれたのね。うれしいわ。まぁでもあなたの言葉に反論させてもらうなら、ラントはそう簡単には負けないわよ。あいつには大きな野望、いえ夢があるもの。もちろん私にもね。
あなたはどうかしら?何か夢、もしくは生きがいがある、ナタク君?」
『黒棘』は思わず目を見開く。ナタク、それは幼い頃に捨てた自分の本当の名前。それを目の前の人物との話でいきなり出てくるという状況に思わず感情が出てしまった。
「なんで………なんで僕の名前を知っている?!」
「ちょっと質問をしているのに質問で返さないで頂戴。一昔前なら額に指をぐりぐりィって押さえつけられても文句が言えないわよ?さぁ改めて答えて、あなたの夢は、生きがいはある?」
「…………ないよ。夢っていうのはあなたみたいな表で輝いている生活している人たちだけが抱いていい物だ。僕らみたいな殺し屋が持っていいものじゃない。それに、
…………できることなら僕は今すぐにでも死にたい。死んで、母様と父様に謝りたい……」
まぁ、自殺禁止の呪いが掛かってるから死ねないし外敵はこの棘が弾くけどね。そう吐き捨てる『黒棘』に対してレイゼは咄嗟に何かを言おうとしたが、抑えてゆっくりと深呼吸を行い話始める、自信満々の笑みと共に。
「………表で働くだの、輝いている人しか持てないだの戯言は無視するとして、夢とは確かに今すぐには抱けないかもしれないわね。でも生きがいは簡単よ。
だっているじゃない毎日の楽しみになれる生きがいがここに」
自分の胸に手を当てて堂々と宣言するレイゼの姿に『黒棘』は「は?」と完全に呆気にとられたように声を上げる。
「これは自慢だけど私は歌姫として活動し統一国で知らない人はほとんどいないスーパー美女。それらに加えて写真集を出せば初日で売り切れ、非公式の教会美女ランキングでは2位の聖女様に1.5倍近い差をつけて勝利。おまけに国立組織である教会の6番目の権力を持つ大幹部。後そうね、私の隠し撮りの写真が数億単位で闇オークションで取引されたこともあるわ、これに関しては大元含めて関係者全員潰したけれどね。それからそれから」
「ま、待って?!何の話だ?!」
「………だから言ってるじゃない。生きがいの話だって。ナタク君。もしあなたが自分に絶望して生きる意味を生きがいを見いだせないというのなら。
私を生きがいにしなさい」
「………っ!!」
「私は、たとえ勇者になれなくても、この世界全ての人間の希望になりたい。
たとえ今日が最悪だったとしても、レイゼ・テルノーグがいるから明日も足を踏ん張って生きたい。全ての人々に、そう思って欲しい。
そしてその全ての人々の中には、当然あなたも入っているわ。ナタク君」




