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反撃~狂蟲幻夢

注意。今回の話では性的表現が割と多めです。

ご了承ください。

 水色の髪に赤色の瞳が特徴的な男性の顔であった。その顔をみて、その顔が喋った台詞を聞いた瞬間、『水酸』は表情は一気に変わり先ほどの演技とは違う、正真正銘の全身から血の気が引いたように青ざめ一気に飛びのく。


「な、な、なんで!!なんで仮面の下にその顔がぁ?!!……っ!!」


 過呼吸気味になりながら『水酸』はじりじりと後ろに下がると今度は下に落ちていた半身がない大型犬サイズの蟲の死骸を見てしまう。その虫の死骸の頭部は桃色の髪と青色の瞳をした若い女性の顔に変わっており、さらに体はもう動かないはずなのに頭部だけは動き『水酸』の方を向くと嫉妬に狂ったような表情を浮かべ、憎々しぐ吐き捨てる。


【子供のくせに、あの人を寝取った……!!この、泥棒猫……!!】

「あ、あ、あああああっっっ?!!!」


 瞬間、『水酸』は発狂したように蟲の死骸に向かって背中にまだ顕現させていた蛇の強酸ブレスを吐き出し地面ごと抉り溶かし飛ばす。明らかに死体に対してオーバーキルすぎる強力な攻撃、その様子を見て起き上がったオルトラントはゆっくりと息を吐きつつ、攻撃に巻き込まれないよう遠ざかる。


(どうやら囚われたようですね。私の切札、

 インセクト・ホラーイル―ジョンに)


 インセクト・ホラーイル―ジョン。それはロケットパラサイトの推進尾の中にたまっているガスの臭いを嗅いだものに対し発動する幻覚魔法。その発動条件はガスの臭いを嗅いだ相手によってオルトラントが隠している彼の素顔をさらされること。かなり面倒と言わざるを得ない条件であるがこの条件を付与することにより本来5分程度しか維持できない幻覚効果時間を取り払い永続させることに成功した。

 そして肝心の幻覚の効果は、


 相手が自分以外の顔、頭部と認識できるもの全てを、相手の最も恐怖する存在に置き換える。


(魔法を使い続けるとその魔法属性が体に染みつき、それに似た特性を得ることは決して珍しいことじゃない。故に君の体が酸性になっていることは容易に予想できた。

 だがらこそ、この手を使った。)

「私の声は聞こえないでしょうがお嬢さん。最期にお教えしましょう。

 君は私よりもはるかに強い。でもそれだけで決まるほど戦いは甘くはない。戦いとは、

 相手の嫌がることを全身全霊でできる者が勝つのです。インセクト・フライチャフ!」


 オルトラントは右手を前に突き出すとそこから魔方陣を生み出し大量の蠅怪蟲を召喚し『水酸』を中心に輪のように彼女を囲む。元々これは魔力反応を乱す攪乱魔法でしかないが、現在恐怖の幻覚に支配されている『水酸』が受ければ、最恐最悪の必殺魔法へと変化する。


【ほら、もう一人のパパを慰めておくれ】

【ネイルなんかして、子供のくせに色気づいて……!!】

【ママと違ってローアはかわいくていいなぁ】

【旦那様の炎と土、私の風と水!!どっちの魔法も使えないなんて……!!】

【この下着なんてどうだい、ちょっと涼しいかもだけど似合っているよ?】

【あの人が私を見てくれなくなったのはローア!!あんたのせいよ!!!】

【………ローアがいてくれるなら、もうあの女はいらないかな?もう全然欲情できないし】

【あんたが死ねば、私はもう一度……一番になれる……!!!】







【愛してるよ、ローア。可愛い内はずぅぅぅと、愛してあげるからね】

【死になさい、ローア!!!死んで私達の愛の園を穢したことを償いなさい!!!】

「やだやだやだっっ………やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あまりの恐怖についに心が折れた『水酸』は自分の化身魔法を維持できず、尻もちを付いて座り込み頭を抱え泣き叫ぶ。大量の涙や鼻水を流し、さらに弛緩してしまったのか失禁もしてしまい、地面を自身の酸製体液で汚し穢し溶かしていく。蝿達の視界から彼女の様子を見ていたオルトラントであったが、それでもなお油断していないのか手元に大き目の魔方陣を出現させ自分の前方に両腕に竜の口が付いたような大型のカマキリ怪蟲を召喚し指を鳴らして命令する。


「………彼女の首を切断し、私の元に持ってきなさい。」

『▲▼▲ィ……』


 両手口怪蟲はゆっくりを歩を進め蝿の群れに囲まれている『水酸』の元へと歩いていく。彼女はもう戦闘不能であるがオルトラントは決して油断はしない。敗北の可能性がある以上決して不要に近づかない。


(……同情はしませんよ、お嬢さん。先に矛を振るってきたのはあなたなのだから。………ただこれ以上無意味に心身痛めつける趣味はありません。一撃で葬って……)

「ぱぱ、まま!!おねがいだからこないでぇ!!!」

「………?!」


 自身が恐怖を抱いている存在から受ける幻聴に対し悲痛に懇願するような『水酸』の声にオルトラントは思わず目を見開く。「袖下の刃」は極めて苛烈なトレーニングを行い心や体を壊して貴族王族のための兵隊を生み出しているという。だから『水酸』のトラウマはそのトレーニングでの出来事だと勝手にオルトラントは考えていた。

 しかし、今の彼女の叫びを聞く限り彼女が恐怖している存在とは。


(まさか……両親?)

「ぱぱ、もうローアにやさしくしないでぇ!!ローアのおまたやおしりにへんなのいれないでぇ!!びくんなるのやなの!!きもちわるいのぉ!!!

 ままごめんなさい!!パパのいうことはきかないから!!ちゃんとぱぱとままのまほうをつかえるようになるから!!いらないなんていわないで!!!」

「………ッッッ!!!」


 オルトラントは幻覚の内容を見ることはできない。実際に『水酸』の見ているものが両親なのか分からないし、仮に両親だとしてもそれが『水酸』に具体的に何をしたのかなど分かるはずもない。

 しかし、彼女の声を聴いた時、一つの光景が浮かび上がっていた。


『な、何なのよ、この醜い痣はぁぁ?!こんなの、こんなの私の息子じゃないッッッッッ!!!』


『…………お前のせいで私の妻が死んだ。我が四元素魔法も使えず、加えてその醜い悪魔の痣………。

 貴様というゴミを生んでしまったことが、我が妻の唯一の汚点だ』


『ごめんなさいお父様。必ず四属性魔法を使えるようになります。必ずお母様の無念に答えられるようにします。必ずお父様や兄様方の助けになって見せます。だから、

 …………僕を、見捨てないでください……!!』


 心の奥底にしまっていたその光景をオルトラントが思い出した時、既にカマキリ怪蟲は『水酸』の前に立っており口を思わせる捕食器官を掲げ彼女をかみちぎろうとしていている。『水酸』には両腕の捕食器官も彼女の両親の顔に見えてしまいそれに怯えてしまっているのか逃げることすらできない。


【大丈夫パパが愛してあげるからなぁ~】

【私の子供のくせに、子供のくせに!!!】

【【ローア(!!!)】】

「やだぁやだぁぁぁ!!!」


 そんな時だった。


 オルトラントの脚部が一瞬膨張したと思うと爆発的な脚力が発現し地面を蹴り抜いて一瞬で移動、蝿のリングを突き破り、そして手袋を裂くようにして鋭い甲殻に包まれた右腕の爪がカマキリ怪蟲に五閃の斬撃を与え、体をバラバラとする。『水酸』がその光景に動けなくなる中オルトラントは甲殻に包まれた手で指を鳴らす。瞬間さっきまで両親の顔に見えていた蝿達は元の蠅の顔に戻っており空中に現れた魔方陣の中に吸い込まれて姿を消した。

 幻覚が解除されたことによりオルトラントの顔も元の姿に戻っており、顔立ち自体は非常に整っていたものの顔の右半分に大口を開いた怪物に見えるような痣が浮かんでおり、左半分が美青年である分よりグロテスクな印象を与えていた。

 オルトラントは無意識に右半分の顔面を右手で隠しつつ、大きく顔を上げゆっくりと息を吐く。


(…………すまないレイゼ。多分僕らの負けだ。彼女はきっと僕を殺しもう一人に加勢するだろう。そうなったら君でも勝ち目はない。

 でも、どうしても彼女を放っておくことができなかったんだ)


 そんなことを考えている内に『水酸』が立ち上がったのを気配で判断する。まともに戦えば『水酸』相手の勝率は0。例えオルトラントの体がいくつか異形と化していたとしてもある。

 できれば一撃で殺してくれよ、などと思いながらオルトラントは覚悟を決めたように目をつぶると、次に受けた感触は、


 ムニッ


 女性特有の柔らかな感触であった。あまりに驚いたオルトラントは思わず首をまわし後ろを見ると、『水酸』は自分に抱き着いて泣いていたのであった。想像していた様子とはかけ離れた状況にオルトラントは動くことができなかった。


「ありがとう、ありがとう……!!あたしを、助けてくれて………!!パパとママ……あいつらを殺してくれて………!!」

「………君だってわかっているでしょう。あの幻覚を見せたのは私です。君にとっては憎悪の象徴では?」

「……だけど、オルトラント君は、私を助けてくれた」


 そう言った後水着のブラの内側から一枚の呪符を取り出すとそれを酸で溶かし破る。するとほんの一瞬結界が揺らぐ。


「今、あたし分の結界の維持術式を解除した。後は『黒棘』さえ止めれればこの結界は消える」

「………一応感謝はしておきましょう、お嬢さん。できればもう少し早く解除してほしかったですが。……お嬢さんはことが動くまでどこかに隠れていなさい。私は、友人を助けに行かなければならない」


 オルトラントはさっき彼女が放り投げた仮面がある場所へと向かおうとするが、それと共に『水酸』の力が強くなってしまう。流石にこれ以上は、とオルトラントが両腕を使って彼女の腕をはがして行こうとしたその時、彼女はグルンとポジションを変えオルトラントの前に立つと彼の顔を凝視する。

 先ほどまで涙を流していたせいか潤んでいた瞳に自分の醜い右顔面を見られたくないと思ったのかオルトラントは顔を逸らそうとするが、『水酸』は一言呟く。


「かっこよくて……綺麗な顔」

「……!!お世辞はやめてくれ!!母も父も醜い顔だと、罵倒したんだ!!かっこよくも綺麗でもない!!」

「母、父、罵倒……。そっか……だからあたしを……。そっか、そっかぁぁぁ………。

 これは、運命だったんだ」


 『水酸』はオルトラントの右腕をに体を絡ませ自分の股間部に彼の手の甲を当てる。そこは先ほどの失禁による湿り気とは別の温かな液体の感触があった。オルトラントはすぐさま彼女を腕から外そうとするが彼女の赤らめた恍惚とした表情と得物を見つけた蛇のような視線を受け、思わず固まってしまう。


「私があのクソどもの下に生まれたのも、「袖下の刃」に入ったのも、きっとオルトラント君に出会うための運命だったんだ……。

 ねぇ、オルトラント君……。私も付いて行っていい?」

「……何を、言って……」

「私がいれば『針』に言うことを聞かせられるし、『黒棘』とも戦いになれば戦力になるよ?ここを切り抜けられたら今回の依頼のことも全部話す。いらなくなったら捨ててもいい。あなたに捨ててもらえるなら、それだけであたしっっ………!!」


 自分の手の甲に温かな飛沫が当たりそれの正体を察して僅かに興奮している感情、普通に腕に絡みつく特級の地雷系少女に恐怖している感情、などと言ったものを必死に頭の隅に置きつつ、オルトラントは自分の理性的な部分で現状を再把握する。

 オルトラントはこの戦いで現在運用可能の怪蟲の半数を使い切った。それに加えとっておきの解析蜂(アナライビ―)は在庫切れ、デモリッシャーインセクトクラスの巨蟲も4体もいない。おそらく総戦闘能力は半分以下になっている。そんな状況で彼女が味方となってくれる状況は正直に言ってありがたい。それに今後のことを考えれば「袖下の刃」の構成員はできるだけ殺さず捕虜にして情報を聞き出すことは重要。加えて彼女の倒し方は分かった以上、万が一反抗されても瞬時に無力化できる。

 冷静な理性と様々な意味での警戒音を鳴らし続ける感情とを秤にかけた上でオルトラントは、諦めるように息を吐く。


「…………分かりました。私も今は戦力が必要です。ついてきてください。後のことはその後考えます。……ただし、万が一裏切ったら今度こそ容赦はしません。いいですね、()()()()?」

「!!ロ、ローアって……!!」

「……君の本当の名前でしょう?『水酸』なんていうのも味気ないですし、そう呼ばせてもらいますよ」

「……ッッ♥♥♥♥!!!分かった♥♥!!全力であなたのために働くからね♥♥♥♥!!!ラント君♥♥♥♥!!!」


 絶え間なく自分の手にかかるローアの愛情たっぷりの液体の感触を必死に無視しつつ、オルトラントはレイゼへの加勢に行くため、まずは自分の仮面を取りに行くのであった。

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