嘆願の声杖
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オルトラントに向かって発射される強酸ブレスは黒い結界内南東部で戦うレイゼ、『黒棘』にも確認できており、レイゼが繰り出す音の魔法による遠距離攻撃を黒い螺子棘で散らし崩しながら『黒棘』は嘆息を吐く。
「あっちのお兄さん……確かトルキシオン公の息子さんだっけ?もう終わりだね。『水酸』は気狂いだけど魔法戦能力は『隠し鞘』、『短剣長』とも肩を並べる強さ。あのお兄さんも多分後5分もしない内に撃ち落されて終わりじゃないかな?」
「だったら、5分以内にあなたを倒して私が彼の加勢に行けばいいだけのことよ!!
ソニック・バレッツ!!」
レイゼが天使の羽やヘイローのような装飾が付いたマイクスタンドのような杖についたマイク部分に向かって詠唱を言い放つと、それは拡声されると共に超振動する無数の空気弾を生成し、その全てを『黒棘』に向かって発射する。
『黒棘』の魔力の棘は危機と自分への感情に反応し魔力を高濃度の棘に変質させ空気弾をすべて弾いていくが。現在『黒棘』はノーダメージではあるが、絶え間ないその攻撃に彼は僅かに目を細め、この戦いにおいて初めて煩わしいと感じ始めるのであった。
その視線はレイゼと彼女が持つあの魔導具に集中していた。
(あの魔導具が現れてから魔法の出力が跳ね上がっている。それに加えほぼ息継ぎ無しで攻撃を繰り出している。厄介だな)
テルノーグ家秘伝、継承思器、嘆願の声杖。
大半の継承思器がその武具に刻まれた魔法を発動させるのに対し嘆願の声杖には固有の魔法が刻まれてはいない。その代わり「テルノーグ家の人間が扱う魔法出力を5倍、魔力効率を10倍」にするという効果を持っている。よってレイゼは今までの1/10の魔力量で今までの5倍の魔法攻撃を行うことができるという事である。
ゆえにこのような矢継ぎ早の攻撃をしているがレイゼはほとんど肉体に敵に疲弊はしていなかった。
(彼の魔力量は嘆願の声杖を持った私でやっと互角程度には高い。それでも戦って確信した、この子はさすがにシンシアほどの魔力量や魔力回復能力は持っていない!!必ず底が尽きる!!
ならば底が付くまでゴリ押すッッッ!!!)
(………このままじゃいつか魔力が底を尽きるかもしれない。初めてだな、そんなことになるなんて。とはいっても『水酸』があのお兄さんを倒す方が早いだろうからこの状態を維持すれば……、
いいん、だけどな……)
『黒棘』はゆっくりと足を前に踏み出しレイゼへと近づいてくる。彼自身が近づいてくるという今までになかった状況。それによりレイゼは僅かに焦燥を浮かべるも魔力を込め続け空気弾を発射し続ける。
発射される空気弾をすべて弾きつつ『黒棘』は話始める。
「………レイゼさん、僕はね。昔両親を殺した」
「ッッ……!!」
「優しい人たちだった。父も母も魔法が使えない僕にも熱心に訓練をしてくれたし、毎日僕が夜寝るまで伝記の読み聞かせをしてくれた。………本当に、優しい人たちだった。
でも死んだよ。二人とも僕の棘に貫かれてね。悲しかったよ、両親を殺してしまったこと、兄や姉からは罵詈雑言の嵐を受けたこと……何より、それらに対して自分が特に傷ついていなかったという事実に」
レイゼの無数の空気弾を棘で迎撃しつつどこか遠くを見るように黄昏、話を続ける『黒棘』。彼の何の感情の戻っていない瞳、雰囲気にわずかに気圧されつつレイゼは攻撃を続けながら毅然とした態度を取る。
「…………何を、言いたいのかしら?悪いけど私は早くあなたを倒して友人を助けないといけない。
あなたの不幸自慢聞く気は……」
「……何が言いたいか、ね。そうだね、何が言いたいかって言うと…………、
はい、隙」
ブゥンブゥンブゥン、グサッッ!!
突如三方向から伸びた魔力の黒い螺子棘がレイゼの背部、腹部、右大腿部に突き刺さり血を吹き出させる。棘はそのまま伸び彼女を貫いて彼女の体をバラバラにするかと思われたが、
「ぐ、あああああッッ!!」
パチンッッッ!!!
痛みと死の気配による恐怖を振り切り叫びと共に指を鳴らしたレイゼは高速移動魔法を発動。致命的な部分にまで伸び切る前の外し、退避するのであった。『黒棘』は逃げたレイゼを追うことはせずしゃがみ両手を地面に付ける。
「地中から浸透させた魔力から放った死角からの棘。普通なら死ぬだろうにすごいね。でももう終わりだ。
リジェクション・ソーンゾーン」
『黒棘』の掌を中心に黒い魔力は円状に広がり地面を侵食していき、彼の体も黒い魔力に取り込まれてしまう。わずかに露出している瞳は一点、レイゼが隠れてると思われる木へと注がれる。
「………言わなくても分かると思うけど、この黒い魔力に触れたら棘が襲い掛かる。範囲外からの攻撃も無駄だ。下からの突き上げ棘で十分散らせる。そしてこの状態の僕は魔力を地面を伝って循環させているだけ。だから魔力消費はゼロ。
何時間でもこの状態を維持できる」
「………!!」
「レイゼさんの弱点は根本的なパワー不足。おそらく最大火力は最初に出していた音速攻撃かな?そしてそれで僕の棘を突破できない時点で勝負は決まった。
さあ、どうするのかな?」
黒い魔力による地面の侵食は続いていき木々を破壊しレイゼへと迫ってくる。レイゼは悔しさのあまり歯噛みしつつ、無事な左足と嘆願の声杖を支え杖代わりにしてその場から離れていく。この間にも回復魔法で怪我を治そうとするが螺子に貫かれたような傷口に加え、彼の魔力がこべり付いているためか治癒が阻害されており最低減の止血にとどまっていた。
『黒棘』の言葉は全て合っている。レイゼは相手に何もさせる暇なく叩き潰す高速戦を重視している。それゆえにシンシアやルイス、ヨハンのような瞬間大規模火力魔法を持っていない。嘆願の声杖を使えれば広範囲高火力攻撃をすることはできるが、それでもレイゼの得意魔法が風系統に偏っていることもあり単体への火力は正直先ほど挙げた者達と比べれば一枚格が落ちると言わざる得なかった。
(………彼と私との魔法の相性は最悪とは思っていたけど、ここまでなんて……!!どうする今からでもラントと合流して酸の魔法使いから倒す?いやラントの切札の蟲を難なく殺せるような相手にこの怪我じゃ足手まといになるだけ!!
どうすれば………!!)
「…………情けないね。母様と同じ七聖徒のくせに」
「………なっ……?!!」
「七聖徒のことを知ってて驚いた?僕だって知ってるさ、穢れ無き白い修道服を着ることを許された教会最高幹部。………ただまぁあなたでも所属できているから母様の時と比べて今は大したことはないのかな?」
『黒棘』は攻撃を誘発させるためか、わざとらしく教会や七聖徒のことをコケにするが、それがレイゼの心を揺らすことはなかった。いま彼女の心を揺らしていたのは、かつて『黒棘』の母親は七聖徒に属していたという事実であった。
レイゼは知っている、この十数年、老齢以外で七聖徒から外れた女性修道士のことを。というよりも彼女が死んだからこそレイゼは七聖徒になれたのだ。知っていて当然である。
しかし、だが、でも。
(となると、彼の魔力の本当の特性は………!!)
「そうれじゃあね、ええっと………名前何だっけ。まぁいいか。
どうせ死んだらすぐ忘れるか」
踏めば触れれば最後、人を差し崩す死の棘生み出す黒き領土は、もう既にレイゼへと迫ってくる。
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「袖下の刃」に所属する暗殺者達の必殺の魔法、それらは勇者候補達へと迫ってきている。ただの一流魔法使いではどうすることもできない驚異であろう。だがしかし、彼らは候補とはいえ、勇者である。
勇者とは圧倒的逆境を打ち払っていく者のことである。
「やれやれ、この手は使いたくはなかったのですが………仕方がない……!!」
「終わりだと思ってるのかしら……私が満足するまでこのワンマンライブは終わらせない……!!」
「………少し人形遊びの手本を見せてやるよ、方言女」
「よぉーし!!まかせて!!」
「そろそろ、仕置きの時間だクソガキぃ!!!」
これより勇者の卵たちの反撃、開始。




